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作家のアン・ラモット(Anne Lamott)が人生についてユーモラスに語るTEDトークを紹介します。
タイトルは、12 truths I learned from life and writing (人生と執筆から学んだ12の真実)。
生きる勇気を与えてくれるトークです。
12の真実
収録は2017年の4月。トークの長さは15分。日本語の字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
◆トランスクリプションはこちら⇒Anne Lamott: 12 truths I learned from life and writing | TED Talk
◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ユーモアがあり、特に毒舌ですが、心が温かくなるスピーチです。
人生は期待と不安に満ちている
7歳の孫は、私の部屋のすぐ近くで寝ています。
朝になると「ねえ、今日は今までで一番いい日になるかもしれないよ」と言います。
でも別の日には、夜中に震える声で、「おばあちゃんはいつか病気になって死んじゃうの?」と聞きます。
このやりとりは私や多くの人の気持ちを代弁しています。私たちはみんな、期待と不安がないまぜになった中を生きています。
そこで私は、61歳の誕生日の数日前に「自分が確かに知っていること」をすべて書き出してみることにしました。
大衆文化の中には真実と呼べるものが本当に少ないので、確かなものを持っておくことが重要です。
たとえば、私はもう47歳ではありません。気持ちは47歳のままですが。
私たちの本質は、時間や空間を越えたところにあります。とはいえ、書類上は、私は1954年生まれです。
でも心の中にいる私は、時間の外側にいて、そこには年齢はありません。
これまで生きてきたすべての年齢を同時に持っているし、それは皆さんも同じです。
自分がもはや「中年の終わりぎわ」にいるのではないという事実を受け入れたとき、すごく解放されました。
だから、「自分が確かに真実だと感じていること」をすべて書き留めようと思ったのです。
いま、世の中には絶望している人、圧倒されている人がとても多いです。
そして私に「何が本当なんでしょう?」と尋ねてきます。
だから私が「ほぼ間違いない」と思うことを書いたリストが、途方に暮れている誰かにとって「使い方を教えるもの」になればいいと思います。
1. 真実はパラドックス(逆説)
最初で、そして最も確かなこと。それは すべての真実はパラドックスだということです。
人生は、計り知れないほど美しく尊い贈り物である一方で、肉体を持って生きる側にいる限り、とてつもなく難しいものです。
生まれつき繊細な人間にとっては、特に相性が悪いでしょう。
あまりに大変でおかしなことが多いので、ときどき「これ、誰かにだまされてるんじゃない?」と思うほどです。
この世界は、胸が苦しくなるような甘さと美しさ、絶望的な貧困、洪水、赤ちゃん、ニキビ、モーツァルト、こんなものがいっしょくたになって渦巻いています。
正直、理想的な仕組みとは思えません。
2. 電源を抜いて待て
ほとんどのものは、数分間電源を抜けば、また動き出します。皆さん自身もそうです。
3. 心の平安を保つのは自分の仕事
あなたの外側にあるものは、長期的にはあなたを助けてはくれません。臓器移植を待っているのでない限り。
心の平穏は、買えないし、努力で到達することもできないし、誰かと付き合うことで手に入るものでもない。
これは本当に残念な真実で、認めるのが嫌なくらいです。
平穏を得るのは、本人が内側でする仕事です。
世界で一番愛している人であっても、その人のために心の平和を整えてあげることはできません。
彼らには彼ら自身の道や答えがあります。
成人した子どもの人生の旅に、日焼け止めとリップクリームを持って並走してあげることはできません。
手を離すしかないのです。
手放さないほうが、むしろ失礼です。
それに、自分はたぶん他人の問題の答えを持っていません。
私たちの助けは、役に立たないどころか、しばしば有害です。
助けることは、コントロールしたいという気持ちの裏返しです。
だから、そんなに助けようとしなくていいんです。
善意や助けを、振りまかないでください。
4. みんな完璧じゃない
誰もがダメで、壊れていて、しがみつきたくて、怖がっています。
完璧に見える人でさえ、内側はあなたととてもよく似ています。
だから、自分の内側を他人の外側と比べてはいけません。
そんなことをしても、みじめになるだけです。
皆さんは誰も救えないし、直せないし、立ち直らせることもできません。
私が30年前に断酒できたのは、自分の生活や考え方が限界に達して、もう続けられない状態になったからです。
そこで私は、しらふの友人に助けを求め、より大きな力に身をゆだねました。
“God” の略語のひとつに Gift Of Desperation(絶望という贈り物) というものがあります。
ある友人は言いました。「最後のほうは、自分の基準を下げるスピードより早く、状態が悪化していた」と。
つまり、この場合のGodは、「もはや手持ちのアイデアが尽きた私」みたいな意味かもしれません。
直そうとしたり、救おうとしたり、なんとか助けようとすることはむなしい。でも、徹底したセルフケアは量子的で、自分から空気のように広がっていきます。
それは世界への大きな贈り物です。
「なんだか自己愛が強すぎるんじゃない?」と言う人がいても、モナリザのように微笑み、二人分のお茶をいれてあげればいいのです。
自分の、ちょっとおかしくて、自己中心的で、不機嫌で、面倒くさいところも含めて、それが帰る場所であり、世界平和はそこから始まります。
5. カカオ75%のチョコレートは食べ物ではない
ヘビを捕るためのエサか、ぐらつく椅子の脚の下にかませるものとして使うものです。
食べものとして扱われるべきではありません。
6. 初稿は常にひどい
皆さんが知っているすべての作家は、ひどい第一稿を書きます。
でも彼らは椅子に座り続けます。これが人生の秘密です。
皆さんと作家に決定的な違いがあるとしたら、作家が書くと決めて、書き続けることです。
自分との約束を守るために、名誉の負債として、毎日少しずつ物語を書き続けます。
兄が小学校4年生のとき、翌日提出の鳥についてのレポートにまったく手をつけていませんでした。
そこで父が、鳥の図鑑と紙と鉛筆、紙綴じの留め具を持ってきて言いました。
「一羽ずつやるんだ。まずペリカンについて読んで、自分の言葉で書けばいい。次はシジュウカラ、その次はガチョウと書いていく」
つまり、書くうえで最も大切な2つのことは、
一羽ずつ(bird by bird)やること、そして、ひどい第一稿を書くことです。
どこから始めればいいかわからないときは、覚えておいてください。
皆さんに起きたすべての出来事は自分のもの。皆さんが語っていいのです。
胸の奥でずっとひっかかっていた物語、記憶、ビジョン、歌、こうした皆さんの真実を書かずに人生が終わったら、きっとひどい後悔をするでしょう。
自分の声で、それを世に差し出す。
それこそ、皆さんが生まれてきた理由です。
7. 出版は問題を解決しない
出版や一時的な成功は、そこから回復しなければならないものです。
成功は人を救うのと同じくらい、人をこわします。
大きな痛みやダメージを与え、想像もしなかった形で自分を変えてしまうこともあります。
これまで出会った中で最も堕落し、悪意があった人たちは、大ベストセラーを出した男性作家たちでした。
でも、最初の真実である、「真実はパラドックス」に戻れば、出版されることや自分の物語が読まれ、聞かれることは、奇跡でもあります。
ただし、「出版すれば心の穴が埋まる」「満たされる」という幻想は手放してください。
出版は自分を癒やしてくれたり、穴を塞いだりはしてくれません。
でも、書くことは癒してくれます。
合唱やブルーグラスのバンドで歌うこともそうです。
コミュニティの壁画を描くこと、バードウォッチング、誰にも引き取られない老犬の世話をすることも人を癒やしてくれます。
8. 家族はやっかいなもの
家族はとてもやっかいな存在です。
どれほど大切で、どれほど素晴らしい存在であっても、やっぱり大変な存在です。
家族の集まりで、突然殺意や自殺願望を感じたら、私たち一人ひとりが生まれたこと自体が奇跡だという真実を思い出してください。
地球はゆるしを学ぶ学校です。
まず自分をゆるすことから始まります。
どうせなら食卓から始めればいいんです。楽な服装でできますから。
ウィリアム・ブレイクは「私たちは愛の光線に耐えることを学ぶためにここにいる(we are here to learn to endure the beams of love)と言いました。
家族はその光線の一部です。「もう逃げたい」と思っていたとしても。
でも、大丈夫。あなたならうまくやれます。
9. 食べ物について
ちょっとだけ、今よりよくしてみてください。
10. 慈悲は世界を癒やす
慈悲は、精神的な潤滑油で浮き輪のようなものです。
慈悲が不思議なのは、神がヘンリー・キッシンジャーも、ウラジーミル・プーチンも、そして私のことも、皆さんの新しい孫と同じように愛していることです。
信じられないかもしれませんが、そういうものです。
慈悲こそ、私たちを変え、癒し、世界を癒します。
慈悲を求める方法は簡単で、「助けて」と言うこと。そして心構えをすることです。
慈悲は、あなたがいるその場所であなたを見つけます。しかし、見つけた場所にあなたをそのまま置いてはおきません。
慈悲は「陽気なおばけキャスパー」の姿では現れません。
でも、電話が鳴ったり、手紙が届いたりして、まるで奇跡のように、自分を笑える力が戻ってきます。
笑いは炭酸のように弾ける聖なるものです。
何度も私たちに呼吸を取り戻させ、再び自分自身へと立ち返らせてくれます。
人生や互いへの信頼を与えてくれるのです。
忘れないでください、最後に打席に立つのはいつも慈悲です。
11.神は善
神とは、ただ善を意味するものです。そんなに怖いものではありません。
それは神聖さや、愛に満ちて命を吹き込む知性を指します。
神にふさわしい名前は「私ではないもの(Not me)」です。
エマーソンは、地球上で最も幸せな人は、自然から礼拝の教えを学ぶ人だと言いました。だから外に出て、空を見上げましょう。
私の牧師はこう言っていました。
「ミツバチは上を見ないので、フタのない瓶でも底に閉じ込められる、ずっとガラスにぶつかり続けている」と。
外へ出て、上を見ましょう。それが生きる秘訣です。
12. 死を恐れなくていい
生きてるのに絶対に必要な人が亡くなることは、本当に耐えがたいことです。
文化で何と言われていようと、それを乗り越える必要はありません。
乗り越えられるものではありません。
キリスト教では、死は住所を変えることだと考えることがあります。いずれにせよ、皆さんが心を閉ざさない限り、その人は皆さんの心の中で再び生き始めます。
「すべてにはひびがある。そこから光が入ってくる(There are cracks in everything, and that’s how the light gets in)」このレナード・コーエンの言葉のように、光があるから、亡くなった人を再び生きているように感じられます。
その人たちは、まったく場違いな瞬間にあなたを大笑いさせてくれます。
これはとても素晴らしいことです。
でもその不在は一生続く、深刻なホームシックです。
悲しむこと、時間と涙、そして友人が少しずつ自分を癒してくれます。
涙は、自分自身と、自分が歩く大地を洗い、祝福し、潤し、癒します。
神がモーセに最初に言った言葉は、「靴を脱ぎなさい」です。
そうは見えなくても、ここは聖なる土地だからです。
信じがたいことですが、これが私が知る一番の真実の一つです。
年齢を重ねると、死は誕生と同じくらい神聖だということがわかるようになります。
心配はいりません。
皆さんは大丈夫なので生き続けてください。
ほとんどの死は、穏やかで優しいものです。
必要とする限り、最高の人たちがそばにいてくれるでしょう。
自分は独りではありません。
周囲の人は、皆さんが向こう側に行くのを助けてくれます。
ラム・ダスが言ったように、結局のところ、私たちはみんな、互いを家まで送り届けている(When all is said and done, we’re really just all walking each other home)だけなのです。
人生に関するほかのプレゼン
死を前にして何を思うか? ある救急救命士による臨終の告白(TED)
成功と失敗、そして創り続ける力:エリザベス・ギルバート(TED)
成功すると幸せになるのではなく、幸せだから成功する~ショーン・エイカー(TED)
自分を救えるのは自分だけ
ラモットさんのトークからはいろいろな洞察が得られます。真実は逆説に満ちているとか、完璧な人はいないというのは、本当にその通りだと思います。
今回、私がコメントしたいのは、自分の心の平安を保つのは自分にしかできないということです。
誰かの優しさやアドバイスが追い風になることはあっても、最後の一歩を踏み出すのは自分です。
心を整えるのも、生き方を選び直すのも、誰かに代わってもらうことはできません。
これは、人に頼ってはいけないという意味ではありません。
支えてくれる人はありがたい存在ですし、助けを求める勇気も必要です。
でも、「だれかが私を変えてくれるはず」という期待を手放したとき、はじめて人生の主導権を握ることができます。
自分の声をしっかり聞いて、必要なら休息したり、速度を落としたりするのを自分に許すことは、ラモットさんの言う徹底的なセルフケアだと思います。
人生のどこかで行き詰まりを感じたら、自分が本当に感じていることに耳を傾けて、今できることから始めることが大切です。そうやって、自分自身の人生を生きてください。














































