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いろいろなことを考えすぎて、気持ちがやすまらない人に見ていただきたいTEDトークを紹介します。
タイトルは、Do You Talk to Yourself? Here’s How to Harness Your Inner Voice(自分に話しかけることはありますか? 内なる声を活かす方法を紹介します)。
心理学者の、Ethan Kross (イーサン・クロス)さんの講演です。
内なる声は、頭の中で自分に話しかけている言葉です。
この声が感情や行動に与える影響を説明し、ネガティブな思考のループ(chatter チャター)を乗り越える方法がわかります。
インナーボイスとうまく付き合う
収録は2024年9月、動画の長さは13分。英語ほか7カ国語の字幕あり。動画のあとに抄訳を掲載します。
◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
とても聞き取りやすい英語です。
自分との会話こそ、最も大切な対話
今日は、毎日みなさんがしている中で、一番重要な会話、つまり自分自身との会話についてお話しします。
私はイーサン・クロス。ミシガン大学で、感情と自己コントロール研究所を運営しています。
この25年間、私は人がどうやって感情をコントロールするのか研究してきました。
そして分かったのは、頭の中の声――インナーボイス(inner voice 内なる声)の扱い方が鍵になるということです。
インナーボイスとは?
「科学者なのに、頭の中の声なんて曖昧なものを語るの?」と思った方がいるかもしれませんね。でもその瞬間、あなたは自分の中で自分と会話していますよ。つまりインナーボイスを使っています。
これはごく普通のことです。大多数の人は、頭の中に声を持っています。
私たちは起きている時間の3分の1から2分の1の時間を、その瞬間に集中せずに過ごしています。
他のことを考えていますが、このとき自分に語りかけ、その言葉に耳を傾けているんです。
科学で言うインナーボイスは、声を出さずに、言葉を使って自分の経験や人生を考える能力を指します。
これは人間が持つ、特別な能力です。
インナーボイスの役割:覚える・準備する・励ます
インナーボイスは、日常でさまざまな役割を果たしています。
◆記憶を保持
スーパーに行って15秒で買い物リストを忘れてしまったとき、「リンゴ、チーズ、胃薬…」と頭の中で繰り返しますよね。これも内なる声です。
◆未来のシミュレーションや準備
大事なプレゼンや面接の前、頭の中でセリフをリハーサルします。
◆自分を励ます
私もこのステージに上がる直前、心の中で言いました。「大丈夫、深呼吸して。45分話せば終わるさ。」
◆世界と自分を理解する
困難に直面すると、自分に意識を向けて、状況を理解しようとします。
このとき、インナーボイスは、自分という物語をつくり、アイデンティティを形づくる役割を果たします。
インナーボイスの暴走
とても役立つインナーボイスですが、問題があります。
一番必要なときに限って、うまく働かなくなることがあるんです。
問題を解決できず、同じ思考が堂々巡りします。「どうしよう」「あのときの私は…」と後悔や不安を繰り返します。
「私ってダメだ」と自分を責め続けます。
この状態を私は、インナーボイスの暗い側面、チャター(頭の中で続くネガティブな声)と呼んでいます。
チャターの3つの悪影響
チャターは生活の3つの分野で深刻な悪影響を及ぼします。
思考力と集中力を奪う
本を読んでいて、文字を目で追ったはずなのに、終わってみたら何も覚えていない。そんな経験があるなら、チャターのせいです。
チャターは注意力を奪い、やるべきことに集中できなくさせます。
人間関係を損なう
チャターがあると、人はその思いを誰かに聞いてほしくなります。何度も同じ話を繰り返し、本当に自分を心配してくれる人を疲れさせ、遠ざけてしまうことがあります。
健康をむしばむ
チャターはストレス反応を長引かせ、炎症や血管への負担を引き起こします。心疾患・慢性炎症・がんのリスクなどに関係すると考えられています。
声を消そうとしてはいけない
チャターの問題を語ると、多くの人が私にこう聞きます。
「この声をどうやって消せばいいですか?」
でも、これは正しい問いではありません。
なぜなら、インナーボイスは本来すばらしい道具だからです。消すのではなく、使いこなすべきです。
これは科学が取り組んできたテーマです
私たちは今、チャターをうまく使う具体的なツールを持っています。ここでは、特に効果のある3つを紹介しますね。
第三者に話すように自分に語りかける
まず最初に紹介したいのは「Language(言葉)」です。言葉の使い方を少し変えるだけで、ネガティブな声を、少し客観的に見られるようになります
パキスタンのマララ・ユスフザイさんが、自身の命を狙うタリバンについて語った場面を例に説明します。
彼女は最初、「私はタリバンに殺されるかもしれない」と一人称で自分に語っていたのですが、状況の核心に至った瞬間、こう変わりました。
「マララ、あなたならどうする?」
「靴で殴るわ」
「でもそれをしたら、自分もタリバンと同じになってしまう」
つまり、自分の名前や 「あなた」という言葉を使って、他人に対するように自分に話しかけたのです。
これは、「距離を置いた自己対話(distanced self-talk)」で、とても役立ちます。
私たちは、人の悩みには賢くアドバイスできるのに、自分にはうまくできませんから。これは、ソロモンのパラドックスと呼ばれる現象です。
自分の名前や「あなた」という言葉を使うと視点が変わります。
まるで他人に助言しているかのように、自分自身と向き合えるようになります。すると、問題をより賢く、冷静に乗り越えられるのです。
ものの見方を広げてくれる人に聞いてもらう
人に話を聞いてもらうのは大事ですが、ただ愚痴を聞いてもらうだけでは、チャターは減りません。
「話してスッキリしたけど、結局何も変わっていない」という経験は誰にでもあるでしょう。
本当に役に立つ聞き手は、感情を受け止めてくれ、その上で視野を広げてくれる人です。
聞いて、アドバイスをくれる人。そんな人に、話をしましょう。
畏敬(いけい)を感じる体験をする
3つ目の方法は、畏敬の感情(Awe)を体験することです。
科学者たちが、退役軍人や救急隊員がユタ州のグリーン川を川下りする様子を調べました。
川下りのあと、PTSDやストレスの状態は全体的に下がっていました。
ストレスを下げていた一番の要因は、Awe の度合いです。
Aweとは、言葉を失うようなほど大きなものにふれたときに持つ感情です。
たとえば、とても美しい夕焼けや、宇宙の広さを実感した瞬間など。
そんなとき、人は自分の存在を小さく感じ、頭の中にあるネガティブな声も小さくなります。
自分との対話力を磨くべき
私たちの祖先は、感情を抑えるために頭蓋骨に穴を開けるような行為までしてきました。
1940年代には、フロント・ロボトミー(前頭葉切除)が治療としてノーベル賞を受けたこともあります。
今はそんな方法に頼らなくてもいい時代です。
科学に基づいた、安全で効果的な方法が揃っています。
それを実生活でうまく使うことが重要です。
他人とのコミュニケーションを学ぶのと同じくらいの力を、自分自身との対話のしかたを学ぶことにも注がなければなりません。
感情との付き合い方がわかるほかのプレゼン
自分の気持ちをそのまま受け入れる勇気のパワーとその素晴らしさ(TED)
不安な心(ヴァルネラビリティ)に秘められたパワー:ブレネー・ブラウン(TED)
自分とうまくコミュニケーションを取る
ネガティブな声が自分の中で響いていたら、無理に消そうとするより、うまく付き合おうとすることが重要です。
不安や自分を否定する声に対して、「静かになってほしい」「この声を止めたい」と思うことがあるかもしれません。
けれど、内なる声は悪者ではなく、本来は私たちを助けてくれるものです。
・次にすることをシミュレーションする
・自分を励ます
・出来事を振り返って意味づけをする
・自分という物語をつくる
こうした心の働きはすべて、内側の声があるからできることです。
問題は、声の存在ではなく、声に左右されることだと思います。
声を消そうとするのではなく、距離のとり方や使い方を学ぶことが大切です。
「黙らせる」から「どう味方にするか」へ視点を変えるといいでしょう。
私たちは、自分の声と一生付き合っていきます。インナーボイスとの関係をよくすることが、よりよい人生につながります。












































