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人生がうまくいかず悩んでいる人を勇気づけてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、A Practical Guide to Taking Control of Your Life(あなたの人生を取り戻す実践的なガイド)。
元弁護士で、かつて世界トップの女性ポーカープレイヤーだったCate Hall(ケイト・ホール)さんの講演です。
ホールさんは、薬物依存を乗り越え、今は科学技術支援財団のCEOを務めています。
トークに、cultivate agency(エージェンシーを育てる)という言葉が出てきますが、これは、自分で人生を動かす力を育てるという意味です。
エージェンシーは、自分の意思で考え、選び、行動し、状況を変える力を指します。
いかに人生を立て直すか?
収録は2025年4月、動画の長さは8分39秒。英語ほかたくさんの言語の字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
どん底からの再生をリアルに話しているトークです。
絶望の中で生きていた
5年前の私は、自分の人生の囚人のように生きていました。薬物に完全に依存していて、どうにもならなかったのです。
毎朝起きるとまず薬を買いに行き、その後は一日中それを使って、意識がもうろうとしたまま夜、倒れるように眠る。
そんな生活を何か月も続けていました。
その頃の記憶はほとんど残っていません。
でも、ひとつだけ鮮明に覚えていることがあります。
それは、普通の人たちが普通のことをしているのを見て、すごくうらやましく、また悔しかったことです。
友人とランチをしている人を見ると、「どうしてそんなに自由でいられるんだろう」と信じられない気持ちでした。
他の人たちは、自分の意思で、どう午後を過ごすか決めていました。それが私には、まるで別世界のできごとのように思えたのです。
人生が再び動き出した
このトークは依存症の話ではありません。
けれど、今の私の人生がどれほど変わったのか伝えるために、当時の「閉じ込められていた自分」をわかってもらう必要があります。
今は依存症を完全に克服しました。
素晴らしい夫と結婚し、一緒にさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
現在は、革新的な科学と技術を支援する数十億ドル規模の財団のCEOを務めています。
私はどうやって、あの地獄のような場所から今の人生へたどり着いたのでしょうか?
何が変わったのか?
それは、頭がよくなったからでも、努力したからでもありません。
もっと根本的な変化がありました。
自分の人生を動かす力(personal agency パーソナル・エージェンシー)を身につけたのです。
エージェンシーとは?
私の考えるエージェンシーは、自分の持っている自由の幅(選択肢)を見つけ、それを使って行動できる力です。
人生という壁の中に隠れている見えないドアを探す力、と言ってもいいでしょう。
満ち足りた、意味のある人生を生きるためには、エージェンシーこそが、知性や努力よりもずっと重要だと私は考えます。
なぜなら、知性も努力も、間違った方向に使えばほとんど役に立たないし、今はそれらの多くを機械に任せられる時代だからです。
YコンビネータのCEO、ギャリー・タンの言葉を紹介します。
「今や知性は蛇口をひねれば出てくるようなものです。だから、エージェンシーがますます重要なんです。」
絶望がくれた贈り物
皮肉なことに、私から自由を奪った依存症が、エージェンシーを育てるきっかけを与えてくれました。
エージェンシーを育てる母となるものはいくつもありますが、そのひとつが絶望(desperation)なんです。
依存症の人たちは、これを「絶望という贈り物」と呼びます。
人生を変えるためなら何でもする覚悟、見知らぬ人の前で「私は薬物依存者です」と名乗る勇気、何か月も施設にこもる決意、お酒を飲んだら救急搬送されるような薬をあえて服用する勇気。
こうしたものが贈り物です。
私がリハビリ施設に入ったとき、まさに絶望の中にいました。
仕事も友人も失い、しばらく歩けないほど身体も壊していました。
退所後、半分崩れたような人生の中で、再出発することにしました。
でも、今振り返れば、それはむしろよかったのです。
失うものがないとき、人は自由になる
失うものが何もなかったから、怖いものもありませんでした。
そのおかげで、私は怖れずに、貪欲に動くようになりました。
私はどんな誘いにも「イエス」と言いました。
誰かが紹介してくれる人、与えてくれるチャンス、それがどんな結果につながるかわからなくても、全部受け入れました。
とにかく量をこなしました。
そうやって、後に一緒に仕事をする多くの仲間と出会いました。
また、プライドを捨てたおかげで、速く学べました。
脳にダメージが残り、理解できないことが多かった私は、わかったふりをやめて、こう言うようにしたのです。
「今の説明がよくわかりません。もう一度教えてもらえますか?」
以前なら、ただうなずいてごまかしていた場面です。
幸い、人々は説明することが好きです。
このやり方はウィンウィンでした。
人生を壊さなくても変われる
エージェンシーを身につけるために、わざわざ人生を壊して再構築する必要はありません。
何かに必死になる経験は助けになりますが、絶望にもいろいろな形があります。
たとえば、コロナ禍のとき、貧しい国がワクチンを保管できず苦しんでいるのを見て、仲間と一緒に常温で保存できるワクチンを開発する会社を立ち上げました。
切実な気持ちが原動力になり、史上最速の6か月以内で臨床試験へ進むことができました。
結婚した当初、夫との間に見えない壁を感じたときも、私はその絶望から逃げませんでした。人とのつながりを邪魔していた感情の障壁を取り除く方法を学びました。
エージェンシーは学ぶことができる
エージェンシーは、生まれつきの才能ではないと思います。
でも、多くの人は偶然、エージェンシーを学ぶきっかけを得ています。
それは、絶望のときもあれば、主体的に生きている人を間近に見る幸運のときもあります。
私は、エージェンシーは意識的に学べると思っています。
もっと多くの人が、身につけられるはずです。
主体的に生きる3つの方法
エージェンシーを養うために役立つことを3つ紹介します。
1.すべては学べると信じる
私が夫との関係を学んだように、楽観的になることも、好奇心を持つことも、努力すれば身につくスキルです。
「性格だから」と決めつけず、エージェンシーを学ぶ対象と考えれば、人は変われます。
2.拒絶を恐れない
私たちは生きている間ずっと、拒絶されることを避けようとします。
でも、成功しそうなことばかり狙っていたら、可能性を小さくしてしまいます。
たまには分不相応と思えることにも手を伸ばしてみましょう。
以前、私が就職活動をしていたとき、こう言ったことがあります。
「あなたのような組織を作りたいと思っているんです。あなたの組織を私に任せてもらえませんか?」
ちょっと妄想じみているかもしれません。
でもときには、妄想が現実を動かします。
3.正直なフィードバックを求める
誰にでも、自分では気づいていないブレーキがあります。
自分を後ろに引っ張っているものを知る一番の方法は、匿名で意見をもらう仕組みを作ることです。
私は自分のX(旧Twitter)のプロフィールに匿名のフィードバックを送ってもらえるボックスを設けています。
最初は怖かったのですが、今では人生を変える体験になりました。
具体的な指摘もありがたかったのですが、何より「もう隠していない」という感覚が自由をくれました。
隠れたドアは、自分の中にある
もし5年前の自分に会ってこう伝えても信じなかったでしょう。
「いずれ、何も隠す必要がない自由を手に入れて、好きなように午後を過ごし、心から幸せを感じられるようになるよ。」
でも、それがパーソナル・エージェンシーの力です。
どんなに動けないと感じていても、自分の内側にある隠れたドアを見つけることができれば、想像もつかないほどの自由を手に入れることができるのです。
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自分を偽らなくていい自由
どん底まで落ちてから、立ち直った人のトークを紹介しました。
ケイトの話で、特に印象に残ったのは、「隠す必要がないから自由になった」という言葉です。
彼女は依存症だったとき、恥と罪悪感の中で生きていました。
なぜ、ケイトが依存症になってしまったのか、その理由はわかりません。でも、以前のケイトの世間的には、とても華やかなキャリアから想像するに、自分の弱さを隠したり、他人の称賛を求めたりするところがあったのではないでしょうか?
こうした生き方は自己否定につながるので、孤独になりやすいし、称賛が得られないときの空虚感や不安を埋めるために、外的な刺激を求めやすくなります。
依存症を治療するプロセスで、ケイトは、過去を隠さず、ありのままの自分でいることを選びました。
もう自分を偽らなくていいから、心が解放されたのです。
ありのままの自分を人に見せることは難しいけれど、自分に対しても他人に対しても正直でいることが、結局、幸せにつながると思います。