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なぜ自己啓発本は人生を変えないのか?(後編)~「理想の自分」を追いかけた先にあったもの

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先週、 Why self help will not change your life(なぜ自己啓発はあなたの人生を変えないのか?)というTEDトークと、前編の抄訳をお届けしました。

イギリス人ジャーナリスト、Marianne Power(マリアンヌ・パワー)さんが、1年間で7冊の自己啓発本を実践するチャレンジに挑んだ体験を語るトークです。

前編では、最初の4冊にしたがって彼女がやってみた「毎日怖いことをする」「願いを宇宙にオーダーする」「毎日誰かに断られる」「火の上を歩く」など、かなり強烈な体験が出てきました。

最初は順調に思えたこのプロジェクトも、やがてマリアンヌさん自身を追い詰めていきます。

後半では、さらに3冊読んで、マリアンヌさんが得た気づきが語られます。



なぜ自己啓発本は人生を変えないのか?

収録は2019年11月、動画の長さは16分20秒。

☆TEDの記事の説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

☆前編はこちら⇒(リンクはあとで入れます)

後半は8分16秒あたりから最後まで。

とてもユーモアがあり、誠実な語り口のトークです。

自己啓発に大金を投じた

その頃の私は、仕事をするべきなのに、「私はお金を引き寄せる磁石です」なんてマントラを唱えながら、近所をぐるぐる歩いているような状態でした。

しかも、自己暗示の合間には、自己啓発本やセミナーに何百ドル、いや、もしかしたら何千ドルもつぎ込んでいたんです。

実際、ラスベガスでの最新の調査によれば、自己啓発産業の市場規模は110億ドル以上です。

この業界の仕組みはこうです。

1冊の本で満足する人なんていない。読んだら次、そしてまた次。1回のセミナーでは終わらず、次のコースへ、さらに上の講座へ。

私も、完全にのめり込んでいました。

その頃にはもう、自分の常識の声は聞こえなくなっていたし、友人や家族の言葉にも耳を貸せなくなっていました。

親しい友人が「ちょっと極端すぎるんじゃない?」と心配してくれたときも、「ネガティブなこと言わないで」と彼女を責めてしまいました。

私は止まりませんでした。

イタリアのリトリートに行けば、怒鳴りながら悟りが開けるかもと期待して、クレジットカードで予約しました。ある夜はウイスキーを飲みながら、守護天使と会話する方法の本を読んでいました。

4冊目:The 7 Habits of Highly Effective People(7つの習慣)

そしてある日、私は自分の葬式を計画しようとしました。

これは『7つの習慣』という本に出てくるワークです。

この本では、自分の葬式で、家族や友人にどういう言葉をかけてもらいたいか想像して、自分にとって本当に大切なことを明確にし、人生の目的を見つけるワークが紹介されています。

でもそのときの私は、あまりにも疲れ切っていて、頭の中がぐちゃぐちゃだったんです。

昼ごはんに何を食べたいかもわからないのに、人生の目的なんてわかるはずがありません。

このワークが、逆効果になってしまいました。

「こんな問いにちゃんと答えられない私は、ダメな人間なんじゃないか」と感じてしまったんです。

自己改善チャレンジを始めてから10カ月。「もっと成長して、自信あふれる私になっているはず」と思っていたのに、実際には、かつてないほど自分がダメに思えました。

理想では仏陀とビヨンセの融合体みたいな存在になっていたかったけれど、現実はただの混乱した人間でした。

自己啓発の2つの問題点

自己啓発に対して、よく言われる批判が2つあります。

1つめは、人生がもっと素晴らしくあるべきだという非現実的な理想を作ってしまうこと。

2つめは、自分のことばかり考える自己中心的な状態に陥ってしまうこと。

私もこの2つ目の状態に陥っていました。

自己啓発に真剣に取り組めば取り組むほど、私は自分の欠点にばかり目がいくようになりました。

「もっと幸せになりたい」と願えば願うほど、幸せから遠ざかっていきました。

自分を見つめれば見つめるほど、自分が嫌いになっていきました。

実は、ずっと昔から、私の心の中には「厳しい声」がありました。

「お前はダメだ」「何をやっても不十分」「周りはみんなうまくやっているのに、お前だけが取り残されている」。こんな声です。

自己啓発プロジェクトを始めたきっかけも、おそらくこの声をなんとかしたかったからです。

でも皮肉なことに、その声はこの挑戦を続けているうちにますます大きく、強くなっていったのです。

先ほどお話しした自分の葬式を想像するワークをしたときは、私のことをよく言ってくれる人なんて、誰一人いないとしか思えませんでした。

完璧になりたいという願いは、いつしか私を壊しかけていたのです。

5冊目:The Power of Now(ザ・パワー・オブ・ナウ)

いまこの瞬間に戻る――思考の声から自由になるために

そんなとき、あるセラピストが『The Power of Now(いま、この瞬間を生きる)』を読むことをすすめてくれました。

著者はエックハルト・トールです。

この本に出会ったことが、私にとって転機になりました。

トールはこう言っています:

「道を歩いていて、ひとりごとを言っている人を見ると、変な人だなと思うかもしれません。でも実は、私たちはみんな、常に頭の中で自分と会話しているんです」

その「声」は、たいていとても厳しいものです。

「なんであんなこと言っちゃったんだろう」「どうしてあんな行動をしたんだろう」10年前の失敗を繰り返し思い出したり、明日のことや、5年後のことを不安に思ったり。

トールはそれを毎日かけているレコードのようなものだと表現しています。

私には、そのたとえがとてもよくわかりました。

彼はこうも言います:

「この声は、私たちを唯一リアルなもの、つまり、今この瞬間から引き離します。でも、平和や安心感が得られるのは、今しかありません」

彼の提案は、とてもシンプルなものでした。何かに悩んでいるとき、自分に問いかけてみるんです。

「今この瞬間に、本当に問題はあるの?」

たいていの場合、答えは「ない」です。

彼はこう続けます:

「人生で本当に困難な状況に直面したとき、私たちは意外なほど冷静にうまく対処しているものです。だったら、そのほかの平和な日々を、まだ来ていない困難の予行演習で無駄にする必要はないんです」

この本を読んで、私はまるで心の薬をもらったような気持ちになりました。

最後の1冊:Daring Greatly(邦題:本当の勇気は「弱さ」を認めること

そして、最後に読んだ1冊が、私にもうひとつ大きな気づきを与えてくれました。

それは、自分だけが十分じゃないと感じているわけじゃないということでした。

その本のタイトルは、『Daring Greatly(邦題:本当の勇気は「弱さ」を認めること』。

著者はブレネー・ブラウン。TEDトークで有名な研究者です。

ブレネーはこう言います:

「いま私たちは、十分ではないという感覚に覆われた時代を生きている」

自分はお金持ちじゃない、美人じゃない、痩せてない、成功していない、いい親じゃない、何かが足りない。とにかく不十分な気持ちに支配されているのです。

その感覚に突き動かされ、私たちは必死になります。

「ジムに通って腹筋を割れば、もっとよく思えるかも」

「あと5キロ痩せれば、自信が持てるはず」

「もっと働いて昇進すれば、幸せになれるかも」

でも、それではどこにもたどり着かないと、ブレネーは言います。

なぜなら、私たちが気づかないうちに追い求めているのは「完璧」だから。

彼女ははっきりと言います:

「人間は、そもそも完璧にできていない」

たとえInstagramではキラキラして見えたとしても、完璧な人なんて、どこにもいない。

そして、ブレネーは提案します。

完璧を目指すのではなく、つながりを求めようと。

恐れや不安、迷いといった普段、誰にも言えずに胸の内にしまっていることを、正直に語り合える関係こそが、私たちに必要なのだと。

私自身、そうした気持ちをほとんど誰にも言わずに生きてきた人間でした。

だから、彼女の言葉は胸に深く染みたのです。

自分を変えるより、自分を受け入れること

1年間の自己啓発チャレンジで、私の人生は変わったのか?

最初に望んでいたような変化は、正直、起きませんでした。

毎朝5時に起きて瞑想するようにはならなかったし、車は持っていないので今でもバス通勤だし、もちろん、完璧な人間にもなれていません。

それでも、本当にたくさんのことを学びました。

中でもいちばん大きな学びは、「自分を変える必要なんてなかった」ということ。

私に必要だったのは、ありのままの自分を受け入れることでした。

欠点も、ぐちゃぐちゃな部分も、すべてひっくるめて。

今私は、昔の自分のように自己啓発本を読みあさっている人がいたら、こう伝えたいんです。

「あなたは、もうそのままで十分大丈夫だよ」って。

私は今でも自己啓発が好きだし、読むこともあります。自己啓発本の中にはたしかに知恵があります。

昔から人は、人生をどう生きるかヒントを求めてきました。

哲学がそうだったし、村の長老もそうだったし、宗教の一部もそうです。他の人の知恵や導きは、きっとこれからも大事です。

それでも、「自分はこのままでいい」と思えることこそが、いちばんの強さなんです。

もしあなたが、毎朝目を覚まして、「ちゃんとした人間でいよう」と思って、一日を始めているなら、それだけで、もう十分立派なんです。

私の親友は、こう言ってくれました。

「飛行機から飛び降りたり、火の上を歩いたりしなくても、もともと人に愛されてるってことに気づいてほしいだけなのよ」

でもそのときの私は、彼女の言葉を信じられませんでした。

私の目には、自分のダメなところしか見えていなかったからです。

「壊れている」と感じていたし、「直さなきゃ」と思い込んでいました。

でも今はわかります。

私は壊れてなんていなかった。

直す必要なんて、最初からなかった。

そして、あなたにも必要ありません。

補足

マリアンヌさんのトークに出てきた、ブレネー・ブラウンのトークです⇒不安な心(ヴァルネラビリティ)に秘められたパワー:ブレネー・ブラウン(TED)

今回トークに出てきた本を紹介します。

変わる必要はない

2週にわたってご紹介したマリアンヌさんのTEDトーク、いかがでしたか?

私自身は、そこまで自己啓発本を読むほうではないし、「自分を変えよう」と頑張ってきたタイプでもありません。

どちらかというと、今の自分をそこそこ肯定しながらやってきたと思います。

とはいえ、若い頃は痩せたいと思って、無理なダイエットに挑戦したこともありますから、「このままの自分じゃダメ」という感覚は、私にも人並みにあったのでしょう。

ただ当時は、今ほど自己啓発がブームではありませんでした。

SNSもなかったので、他人と自分を比べる機会も少なく、「こんな自分ではだめ」「変わらなきゃ」とあおられることも、今ほどはなかったのです。

最近、自己啓発や自分磨きがブームになっているのは、ソーシャルメディアの影響が大きいと思います。

キラキラした投稿に囲まれて、「今のままじゃ足りない」と思いこみ、「もっと変わらなきゃ」と焦る気持ちが強くなる。そんな人が増えているのかもしれません。

でも、マリアンヌさんがいろいろな本を実践した末にたどり着いたのは、今ここにいる自分を受け入れるという、じつにシンプルな結論でした。

自分を受け入れること。

それこそが、本当の自己成長につながります。





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