スマホを見る少女

TEDの動画

希望を失った子どもたちを救う方法~SNS時代の教育のヒント(TED)

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情報との付き合い方を教えてくれるTEDトークを紹介します。

タイトルは、How to save our children from cynicism(子どもたちをシニシズムから救うには?)

高校や大学で教えている Dr. Graeme Mitchell(グレアム・ミッチェル博士)のトークです。

cynicism は冷笑、皮肉な態度、悲観的な考えです。

ここでは、日々、SNSに長時間触れている子どもたちが、何もしないうちから絶望し、無力になることを指しています。

子どもだけでなく、無力感にとらわれがちな大人にも役立つ内容です。未来に対して希望を失いがちな今、心を立て直すヒントが詰まっています。

希望を取り戻す

収録は2024年10月。動画の長さは10分。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。

◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

ミッチェルさんは学校の先生なので、わかりやすく、ききとりやすい英語を話しています。話し方にも前向きなエネルギーがあり、聞いていて元気になります。





情報の質が生き方に影響を与える

最近、私はシンプルだけれどワクワクするアイデアに夢中です。

このアイデアは、教育を変える力があります。

私たちの思考は、取り入れるものによって大きく左右されます。

少し立ち止まって考えてみてください。

日々交わす会話、読んだ本、旅の体験、SNSや動画。こうしたすべての情報の断片が、未来の私たちの思考を形作ります。

感謝祭に聞いたあのポッドキャスト、先週見たSNSの投稿、昨夜こっそり見たリアリティ番組。

すべてが、今日皆さんの頭に浮かんでいる思考に影響を与えているんです。

これを考えると、私はより良い情報の流れを選ぶことに夢中にならずにいられません。

なぜなら、情報の質が高い人ほど、より良い思考ができると信じているからです。

だからこの数字に愕然としました。

学生はSNSに長時間費やす

46,000時間。

これは、私の10年生(高校1年生)のクラスが昨年1年間にSNSに費やした合計の時間です。

46,000時間は、ロサンゼルスからニューヨークまで歩いて横断するのに十分な時間です。

それも1回や2回ではなく、34回も行けるほどの時間です。

でも、これは単なるショッキングな統計ではありません。

私はむしろ、生徒たちの世界を垣間見る窓だと感じています。

そこでクラス全員で協力して、自分たちのSNSのタイムラインの内容を調べることにしました。

そこには、かわいい子犬の動画や流行りのダンスなどが並んでいましたが、もっと目立ったのは、毎日のように彼らに押し寄せるストレスを引き起こす情報の洪水でした。

さらに、私たち全員が持っている、ちょっと風変わりな進化的特性があります。

それは、ネガティビティ・バイアス(否定性バイアス)です。

私たちの脳は、悪いニュースを強く記憶するようにできています。これは、祖先が危険を察知して生き延びるために役立った性質です。

つまり、ネガティブな情報に対して、私たちの脳はベルクロのように、あらゆる汚れをくっつけてしまいます。

でも、ポジティブな情報はまるでテフロン加工されたフライパンのように、ツルッと滑り落ちて、何も残りません。

生徒たちは世界をどう見ているか?

授業では、生徒たちは、グローバル・ソリューション研究所(Institute for Global Solutions)のプログラムに参加します。

これは、10代の若者たちが社会に良い影響を与える力を育むために作られた公立の教育プログラムです。

2013年にわずか23人の生徒による小さな実験として始まった取り組みですが、今では、毎年200人近い生徒たちが参加するプログラムです。

生徒がこのプログラムに参加するとき、最初に故ハンス・ロスリングが設計したテストを受けてもらいます。

このテストは、健康、貧困、環境問題などの重要な国際課題に対する理解度を測るものです。

その結果は、毎回驚くべきギャップを示します。

生徒たちは、「世界はもうめちゃくちゃだ」と思い込んでいるのです。

実際のデータがもっと明るい現実を示していても、そのことには気づいていません。

そして、これは生徒たちだけに限りません。

同じテストを教師仲間に出したところ、結果はさらに深刻です。

しかし、一番衝撃的だったのは大学院の学生たちです。

彼らはもっとも悲観的に世界を見ているという結果が出ました。

知識が増えるにつれて、希望が減っていく。それが、私たちが直面している問題の本質でした。

今さら何になるのか?

現実と認識にギャップがあるので、私たちは10年以上前にこのプログラムを立ち上げました。

始まりは、ある生徒の言葉です。

気候変動についての討論のあと、私のクラスの中でもとびきり聡明な15歳の生徒が立ち上がり、叫んだのです。

「いったい何の意味があるんですか? もう失敗したのに(What’s the point? We’re screwed).」

これは、ただのティーンエイジャーの愚痴ではありません。

翌日、私は、ホワイトボードの真ん中にその言葉を赤いマーカーで書きました。

「何の意味があるというのか?」(What’s the point?)

そしてクラス全体に問いかけました。

「みんなはどう思う?」

その後、45分間、生徒たちは思っていることを率直に意見を言い合いました。

すべてが落ち着いたとき、はっきりしたことがありました。

それは、彼らが無関心でも、怠けているわけでもないということです。

生徒たちは恐れていたんです。

この気づきは、私にとって大きな転換点になりました。

日々、暗く重いニュースにさらされているせいで、生徒たちは、この100年で達成された驚くべき進歩の数々をほとんど知らなかったのです。

私たちが向き合っていたのは、単なる知識の欠如ではありません。

もっと深刻な、希望の欠如(hope gap)という問題でした。

課題もあれば成果もある

確かに、今の10代には世界の課題と真剣に向き合うことが求められています。

しかし、それと同じくらい大切なのは、私たちが過去にどんな勝利を収めてきたのか学ぶことです。

過去の成果を知らなければ、私たちが今日までどれだけ進んできたか実感できません。

子どもたちの目に映っているのは、ただただ果てしなく高く見える山だけです。

生徒たちに、私たちがまだ登山の入口にいるわけではなく、すでにかなり登ってきていることを知ってほしいのです。

たしかに、世界には今も課題があります。

けれど実際には、多くの人が思っている以上に、私たちの世界は良くなっています。

人々は以前より長く、健康に、豊かに生きるようになりました。

安全性も高まり、幸福度も上がり、教育へのアクセスも改善されました。

しかもそれは欧米だけでなく、世界中で起きている変化です。

そこで、私たちのプログラムでは、あえてここ数世代で達成された偉業や前進に、意識的に焦点を当てることにしました。

この20年で変わったこと

ここで皆さんにひとつ質問をします。

20年前、あなたは何をしていましたか?

私はというと、当時はクルーズ船で働いていて、髪にはメッシュを入れ、眉には流行りのピアスをしていました。

この20年、今の12年生たち(高校3年生)がおむつから卒業式までを迎えるあいだに、世界は大きく変わりました。

たとえば、5歳まで生き延びる子どもの割合は、ほぼ2倍になり、極度の貧困は半分に減りました。

遺伝学、再生可能エネルギー、人工知能などの分野では、ほんの数年前には想像もできなかったような大きな進歩が次々と生まれています。

これらはまさに、人類の粘り強さがもたらした勝利です。

本来なら、こうした成果こそが毎日ニュースの見出しになるべきなのに、実際にはほとんど取り上げられず、忘れ去られています。

なぜならそこには、クリックさせるような衝撃がないからです。

生徒たち自身が「よいもの」に目を向けるスキルを身につけなければ、彼らはあの46,000時間分のセンセーショナルな情報の海に溺れてしまうのです。

教師の役割

教師として、これまで私は、生徒たちが成長し、学び、視野を広げていくための道具(ツール)を与えることを期待されてきました。

でも、最近はそれだけにとどまらず、もっと大きな役割を担っていると感じています。

それは、希望を届けることです。

たとえ希望が遠いものに思えても、自分自身の力で希望を見出せるように導くことです。

こうした思いから、私たちはカリキュラムを根本的に見直しました。

現在は、授業時間の半分を、前進と可能性に焦点を当てるようにしています。

これは、現実を美化したり、耳障りの良いことだけを教えたりするためではありません。

むしろ事実にしっかり向き合いながら、課題と成果の両方をバランスよく学ぶことを目指しています。

私たちのゴールは、絶望的にもならず、楽観的にもなりすぎず、その中間にあるちょうどいい地点を見つけることです。

そこから、生徒たちの中に行動する意欲の火を灯すことです。

希望も感じられるようになった

うれしいことに、この取り組みはうまくいっています。

まるでリセットボタンを押したかのように、生徒たちの視点にバランスの取れた楽観主義が入っていきました。

その結果、次々と変化をもたらすすばらしいプロジェクトがコミュニティに生まれています。

今、私たちは、消費するものが、恐れにも、希望にもつながる時代に生きています。

私は、「2匹のオオカミ」の寓話を思い出しました。

ある老人が孫にこう話します。

「私の心の中では、2匹のオオカミが激しく争っている。1匹は、悪で、欲深く、恐れに満ちている。

もう1匹は、善良で、平和的で、誠実だ。この2匹は、お前の中でも、そしてみんなの中でも戦っているんだ。」

しばらく考えて孫が尋ねます。

「おじいちゃん、どっちのオオカミが勝つの?」

老人は答えます。

「それは、お前が、どちらにエサを与えるかで決まるんだ。」

私たちは「正しいオオカミ」にエサを与えることに集中しなければなりません。

日々、情報を取り入れるとき、真実と前向きさを優先する時が来ています。

事実を出発点にする

SNSの内容や頭の中に浮かぶ思考も、問題点だけでなく、進歩にも意識を向けましょう。

希望のギャップを埋める旅に、一緒に出かけましょう。

ひそかに成功が進む世界ではなく、進歩の音が、堂々と響く世界を一緒に作っていきましょう。

恐れではなく、事実を出発点にすれば、私たちは、若い学び手たちが、意義と信念を持って行動する力を引き出すことができます。

この取り組みが教えてくれた最大のことは、

・意図的になること

・良質なインプットを選ぶこと

・どちらのオオカミにエサを与えているか意識すること

こうしたことが、生徒たちの世界の見え方を根本から変える力を持っているということです。

まだ始まったばかりです。

///// 抄訳ここまで ////

希望やSNSに関するほかのプレゼン

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選ぶ情報によって心の声が変わる

このトークに出てくる「2匹のオオカミ」の寓話、とても印象的ですね。

私たちの中にいる「恐れのオオカミ」と「希望のオオカミ」。どちらが勝つかは、自分がどちらにエサを与えるかで決まるというたとえに、深くうなずきました。

SNSやニュースでネガティブな話題ばかりを見ていると、気づかないうちに、「恐れのオオカミ」にばかり意識を向けてしまいます。

そして、恐怖や不安から日々の決断をするようになります。

これは、決して健全なことではありません。というのも、トークでも言っているように、人類には勝利や成果もあったし、自分自身の生活でも、いいことはたくさん起きているからです。

ネガティブな考えに傾きすぎているなら、情報の選び方を少し変えれば、もっと現実に即したものの見方になります。

私自身、ミニマリズムを実践する中で、ものだけでなく情報も選ぶようにしています。

自分がどんな言葉や考え方を受け取っているか、そして、それが自分の思考にどんな影響を与えているか、一度考えてみてください。

情報との付き合い方を変えると思考の質も変わります。

希望を見る視点は養うことができます。今日も私は、「希望のオオカミ」にエサをあげるつもりです。





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