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物を捨てにくい理由を行動経済学の観点から説明します。損失回避と授かり効果の心理です。
もともと人間には、物を失うのをすごく嫌う気持ち(損失回避)と、いったん何かを所有すると、その品物の評価を理由もなく高くしてしまう心理(授かり効果)があります。
ともに、行動経済学の理論で、ビジネスに応用されることが多いのですが、断捨離をするときや、暮しをシンプルにしたいときにも知っていると重宝する知識です。きょうはこの2つの理論についてお伝えします。
損失回避とは?
損失回避は英語では、Loss aversion と言います。loss(ロス)は損失、aversion (アヴァージョン)は嫌悪、反感。つまり、「損失を強く嫌う気持ち」です。
日本語では損失回避と訳されますが、loss aversion は厳密には、「損をすると、人はより痛手を感じること」をいいます。つまり、得をしたことより、損をしたことに対して、より感情的に過剰に反応してしまうのです。
例をあげますね。
英語圏では、heads or tails (ヘッズオアヘイルズ)と言って、コインを放り投げて手の甲で受け、表が出るか裏がでるかで賭けをすることがあります。
筆子がもし誰かに、「コインの表が出たら15万円あげるけど、裏が出たら、10万円筆子にちょうだい」と言ったら、相手はこの賭けをやろうとしません。
確率を考えたら、相手にとっては2万5千円得になる賭けなのですが。
また、うどん屋さんのウエイトレスのパートをしていて、店主から、来月から850円の時給を100円あげて950円にするよ、と聞くと、もちろんうれしいでしょうが、飛び上がって喜ぶような人は少ないと思います。
ところが、いったん950円になった時給を、店の経営がうまく行っていないから、50円さげて900円にするよ、と言われると、すごくショックを受けてしまうのです。前の850円よりは時給があがっているのにもかかわらず。
このように人は損をするのがすごくいやな生き物です。損失に恐怖を感じるのです。
さらに、損をしないために、リスクをとる傾向もあります。
次の2つの選択肢のうち、あなたはどちらをとるでしょうか?
A。必ず100万円もらえる。
B。コインを投げて表が出たら、200万円もらえるが、裏が出たら何ももらえない。
多くの人が必ず100万円が手に入るAを選びます。
今度は、あなたに200万円の借金があったとします。その場合次の2つのうちどちらを選ぶでしょうか?
A。無条件で借金が100万円減る。
B。コインを投げて表が出たら、借金はなくなる(200万円の支払いが免除)が、裏が出たら何も変わらない。
この場合、多くの人がBを選ぶそうです。Aのほうが、確実に半分借金が減るので、手堅い選択なのにもかかわらず、リスクの多いBを選ぶのです。
借金=損ですから、「借金を回避したい」気持ちのほうが強く働くのですね。
投資をしていて、損をしたとき、その損を埋めるために、さらなるギャンブルをしてしまい、かえって損が大きくなる、というのはありがちなことです。
人は、得をしたときより、損をしたときのほうが2.5倍、「損した感」が強いそうです。
これはプロスペクト理論と呼ばれます。このことからわかることは、「人が感じる価値の大きさは、金額とは比例しない」ということです。
さて、この損失回避の心理は、断捨離とどんな関係があるのでしょうか?
単純に、何かを捨てるとき「これを捨てると損する」と感じてしまって捨てられないのです。たとえ全然使っていないものだとしても。特に値段が高かったものを捨てるときは、恐怖に足をすくわれてしまいます。
そんなときは、冷静になって、「使わないものをいつまでも持っていることのほうが損なんだ」と自分に言い聞かせて捨てましょう。
関連⇒「値段が高かったから」といって捨てないとガラクタは増える一方~断捨離マインドを鍛える
授かり効果とは?
授かり効果は英語で Endowment Effect と言います。endowment (エンダウメント)は、寄付とか、基金という意味です。
この効果については、以前この記事でもふれました⇒人はなぜ物を集めたがるのか?~私はこうして収集癖を断捨離しました
授かり効果はマグカップとチョコレートバーの実験がよく知られています。
あるグループの半分の人にはマグカップをあげて、もう半分にはチョコレートをあげました。まったくランダムにグループを半分に分けたのです。
マグを持っている人には、「そのマグをいくらで売るか、相手の持っているチョコレートをいくらで買うか?」と聞き、チョコレートを持っている人には、「そのチョコレートをいくらで売るか?いくらでマグを買うか?」と聞いたのです。
すると、ほとんど人が、自分の持っているものを手放したがらず、相手の持っているものを買いたいとは言わなかったのです。
つまりマグをもらった人は、マグを手にした瞬間に自分がマグを持っている状態が普通のことだと感じてしまい、「このマグは素晴らしい、手放したくない」と思ってしまうのです。
最初から何ももらわなかったら、何も感じないでしょうが、いったんマグやチョコレートをもらってしまうと、それを無くすのがなんだかとてもくやしいのです。
あなたも似たような経験、あるのではないでしょうか?
もう1つ例をあげましょう。
バーゲン会場で、素敵なスカートを見つけて、手を伸ばしたら、向こうから誰か別の人もひっぱっています。そんなとき、あなたは、取られまいと必死になってそのスカートをひっぱりませんか?
まだ自分の物でもないのに、見つけただけで所有意識が働き、それを失いたくないのです。
この心理の裏には、もちろん損失を異常に恐れる気持ちがあります。
この心理を断捨離にどう応用したらいいのかというと、物を捨てるとき、その物をできるだけ客観的に見るとよいのです。
「自分の物」としては見ないということです。自分のものだと、評価があがってしまいますから。
たとえば、めったに着ないワンピースを捨てようとしています。その場合、「このワンピースが店に並んでいたら、今もやっぱり、お金を払って購入するだろうか?」と自問自答してみます。
「やっぱり買わないな」と思ったら、その洋服は捨てます。
■授かり効果についてもっと知りたい方は下記の記事もどうぞ。
授かり効果のせいで捨てられない物を捨てられるようになる考え方
なぜ人は、物に執着してしまうのか? 物と健全な関係を持つには?
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このように人はいったん何かを所有してしまうと、失うことに恐怖を覚え、たいへん捨てにくくなってしまいます。
もしあなたが、持たない暮しをめざしているのなら、捨てることも大事ですが、最初から、物を所有しないように心がけるほうがずっとうまく行きます。
最初から、安易に所有しないほうが、ずっと楽に、「持たない暮し」に近づけるのです。