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誰かにやる気を出してほしいとき、自分がやる気になりたいときの参考になるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、The Puzzle of Motivation(やる気の謎)、講演者は、作家でキャリア・アナリストのダン・ピンク(Dan Pink)さんです。
邦題は、『やる気に関する驚きの科学』。
やる気のなぞ:TEDの説明
Career analyst Dan Pink examines the puzzle of motivation, starting with a fact that social scientists know but most managers don’t: Traditional rewards aren’t always as effective as we think. Listen for illuminating stories — and maybe, a way forward.
キャリア・アナリストのダン・ピンクは、社会科学者は知っている事実なのに、ほとんどのマネージャーが知らないモチベーションの謎を検証します。伝統的な報酬は、私たちが思っているほど効果的ではありません。
示唆に富むスピーチを聞いてください。きっと前に進めるでしょう。
収録は2009年の7月、動画の長さは18分半。日本語字幕もあります。
☆トランスクリプトはこちら⇒Dan Pink: The puzzle of motivation | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ピンクさんは、たくさん冗談を言っていますが、抄訳には書きません。そちらは、動画で楽しんでください。
ビジネスのやり方にもの申す
告白します。
20年ほど前、若気の至りで、あまり自慢できないことをしてしまいました。
ロースクール(法律の学校)に進学してしまったのです。
成績はよくなく、どうにか卒業しましたが、法律の仕事はしたことがありません。
ですが、きょうは、妻の反対を押し切って、かつて学んだ法律のスキルを使うことにしました。
きょうはお話はしません。自分の主張を立証してみせます。
論理的に、ちゃんと証拠を示しながら、ビジネスのやり方を再考したいと思います。
ろうそくの問題
さて、陪審員の皆さん、こちらをごらんください。
これは、「ろうそくの問題」と呼ばれるものです。
1945年に、カール・ドゥンカーという心理学者が考案した実験です。彼は、いろいろな行動科学の実験で、「ろうそくの問題」を使いました。
皆さんを、部屋に招き入れ、ろうそく、画鋲、マッチを渡し、こう指示します。
「テーブルの上にろうが落ちないように、ろうそくを壁にくっつけてください」。
多くの人は、壁にろうそくを画鋲で止めようとしますが、うまくいきません。
マッチの火で、ろうそくを溶かし、壁にくっつけるアイデアを思いつく人もいますが、これもうまくいきません。
5~10分たつと、たいていの人は、解決法を見つけます。こうすればいいですね。
解決する鍵は、機能的固着(functional fixedness)を克服することです。
はじめに箱を見たとき、画鋲の入れ物だと思ってしまいますが、この箱の使い方を変えれば、ろうそくの台になります。
インセンティブの提示
次に、「ろうそくの問題」を使って、サム・グラックスバーグという科学者が行った実験を紹介します。
この実験から、インセンティブ(励みになるもの、報奨)のパワーがわかります。
参加者に彼はこう指示しました。
「どのぐらい早く解けるか、時間をはかります」。
あるグループには、「どのぐらいで解けるか、平均時間を知りたい」と言います。もう1つのグループには報酬を提示しました。
上位25%の人には5ドル、1番早く解決できた人には20ドルです。
ずいぶん前の話なので、数分の作業の結果、もらえるお金としては悪くない額です。
報酬を提示されたグループは、問題を解くのに、平均より3分半、よけいにかかりました。
変ですよね? 報酬があるというのに。
報酬が害になる
ビジネスの世界では、人々にたくさん働いてもらうために、ボーナスやコミッションなどの報酬を出しています。
しかし、この実験の結果は、反対でした。
鋭い思考や創造性をうながすために、インセンティブを出したのに、そうなりませんでした。
逆に、報酬がこうした思考を邪魔したのです。
興味深いのは、この実験の結果が例外ではないことです。
40年に渡って何度も実験が行われ、そのたびに同じ結果になりました。
「もしこれをしたら、あれがもらえる」という if-then という動機づけは、状況によっては、うまくいきます。
しかし、多くの作業では、うまくいかず、逆に害になることがあります。
これは、社会科学ではっきり実証されている発見です。
科学の発見とビジネスの現場の不一致
ここ数年、私は、動機づけの科学に注目してきました。
とくに、外的な動機づけと、内的な動機づけの関係について。
この2つは全然違います。
科学が解明したことと、ビジネスで行われていることは一致していません。
ビジネスでは、人に動機を与えようとするとき、たいてい外的な動機づけ、つまりアメとムチを使っています。
20世紀的な作業なら、この方法でうまくいきます。
しかし、21世紀的な作業では、機械的に報酬や罰を与える方法は、機能せず、害になることがあります。
グラックスバーグは、別の実験もしました。
「ろうそくの問題」を違った形で出したのです。
報酬があると問題が解けない理由
問題そのものは同じです。
「テーブルの上にろうが落ちないように、ろうそくを壁にくっつけてください」。
時間をはかり、早く解けた人には報酬を出すと言いました。
今回は、インセンティブを与えられたグループのほうが、ずっと早く解きました。
その理由は?
箱の中に画鋲が入っていなかったからです。
するとすごく簡単に解けるのです。
「もし~したら、~をします」と報酬を与える方法は、こうした作業には効果があります。
ルールが単純で、答えが明確な時なら。
報酬があると、やる人のフォーカスが狭くなり、集中できます。
視野を狭くして、目の前にあるゴールだけを見ればいいときは、うまくいきます。
しかし、本当のろうそくの問題を解くとき、そんな見方をすべきではありません。
すぐそこに答えがあるわけではないので、周囲を見渡さなければなりません。
報酬があると、視野が狭くなり、その結果、私たちの可能性が限定されてしまうのです。
人が直面しているのは答えのない問題
なぜこれが重要なのか?
西洋やアジアの多くの地域、北米やオーストラリアで、ホワイトワーカーは、答えがすぐそばにある仕事は、どんどんしなくなっています。
逆に、明確な答えのない仕事が増えています。
ルーティンやルールに従えばできる左脳的な仕事、たとえば、ある種の会計、財務分析、プログラミングは、簡単に外注や自動化ができます。
世界中に、低価格でサービスを提供してくれる人がいます。
重要になるのは、右脳的な、創造性や、思考力です。
ご自身の仕事を考えてみてください。
皆さんが直面している問題は、どちらの「ろうそくの問題」ですか?
ルールがはっきりしていて、答えが1つだけ、といった問題でしょうか?
違いますよね。
ルールはあいまいで、答えが存在するとしても、それは、びっくりするようなもので、明確ではありません。
ここにいる人全員が、自分バージョンの「ろうそくの問題」に取り組んでいます。
その問題が、どんな種類で、どんな分野のものであろうと、「~したら、~する」と報酬をあたえるやり方では、うまくいかないのです。
それなのに、ビジネスの現場では、「~したら、~する」方式を使っています。
これ、本当のことです。
証拠を見せましょう。
ダン・アリエリーの実験
現代の最高の経済学者の1人、ダン・アリエリーは、3人の同僚と共に、MITの学生を対象に実験を行いました。
学生たちにいろいろなゲームをしてもらいました。
クリエイティビティ、運動能力、集中力が必要なゲームです。
ゲームの成績に対して、3つの報酬を用意しました。
小さな報酬、中ぐらいの報酬、大きな報酬です。
機械的にできるタスクなら、報酬が大きいほど、皆のパフォーマンスが向上しました。
けれど、少しでも、認知スキルが必要なタスクは、大きな報酬があるほうが、パフォーマンスが落ちましたました。
文化的な違いがあるかもしれないと思った実験者たちは、インドのマドゥライでも、同じ実験をしました。
マドゥライは生活水準が低いため、北米ではたしたことのない報酬が、大きなものになります。
実験の条件は同じです。
中ぐらいの報酬を提示された人たちと、小さな報酬を提示された人たちの結果は、あまり変わりませんでした。
一番大きな報酬を提示された人たちの成績が最低でした。
「3回実験をし、9つのうち8つのタスクで、より高いインセンティブが、最低の成績を引き起こした」。
これは社会主義者の陰謀ではなく、アメリカの実験の結果なのです。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の研究
偉大な経済学者をたくさん送り出しているLSEの経済学者が、成果主義を導入した51の工場の事例を調べました。
その結果は、
「金銭的なインセンティブは、全体的なパフォーマンスにマイナスの影響を与え得る」
でした。
動機づけを変えるべき
科学の発見と、ビジネスでやっていることに、食い違いがあります。
私が心配なのは、あまりに多くの企業が、時代遅れで、検証されていない、科学よりも民間伝承に根ざした仮説に基づいて、才能や人材に関する方針を決めていることです。
今日の経済の窮地から抜け出すために、そして、21世紀的な答えのないタスクで、パフォーマンスをあげるために、間違ったことは、これ以上してはいけません。
人を、より甘いアメで誘いこんだり、より鋭いムチで脅すのはやめるべきです。
全く新しいアプローチが必要なのです。
内的な動機づけ
動機づけを研究している科学者たちが、新しいアプローチを示しています。
内的な動機づけに基づくアプローチです。
重要だから行う、好きだから行う、おもしろいから行う、何か重要なことの一部だから行う、こんなアプローチです。
ビジネスの新しいオペレーティングシステムは、3つの要素を軸にしています。
自主性(antonomy):人生の方向を自分で決めたい気持ち
熟達(mastery):大切だと思うことを上達させたい気持ち
目的 (purpose):自分自身より大きな何かのために役立つことをしたいという気持ち
きょうは、自主性についてのみお話ししますね。
自主性の重要性
20世紀にマネジメントという考えが生まれました。これは自然から生まれたものではありません。
木ではなく、テレビのようなもので、誰かが開発したのです。
つまり、それは、ずっと機能するわけではありません。
従うつもりなら、伝統的なマネジメントの考え方でうまくいきます。
しかし、参加したいときは、自主性のほうがうまく機能します。
ちょっと過激な自主性の例をあげましょう。
それほど多くはありませんが、面白いことが起きています。
自主性を重んじる職場
人々に適切に公平にお金を払ったら、それ以上は、お金については何もせず、自主的に働ける場をたっぷり提供する職場があります。
オーストラリアのソフトウエアの会社
たとえば Atiassian というオーストラリアのソフトウエアの会社。
この会社では年に何度か、エンジニアにこう指示します。
「これから24時間、何でも好きなことをやってください。いつもの仕事に関係ないことならば、何をしてもいいですよ」
エンジニアたちは、その時間を使って、コードを継ぎはぎしたり、巧妙なやり方を思いついたりします。
その日の終わり、全員が集まって、皆に、会社のために作ったものを見せます。
この日はFedExの日と呼ばれています。一晩で送り届けなければならないからです。
1日、自由に仕事できる日がなかったら、たくさんのソフトウエアの修正はできませんでした。
Googleも似たようなことをしています。
Googleのエンジニアは、仕事時間の20%は、なんでも好きなことをできます。
時間、タスク、チーム、技術、すべてを自主的に決められます。
Googleの新製品の半分近くが、この20%の時間から生まれています。たとえば、Gmail、Orkut、Googleニュースなどが。
もっと過激な例を紹介します。
ROWE
完全結果志向の職場環境(Results Only Work Environment、ROWE)と呼ばれるものがあります。
アメリカのコンサルタントが考案したもので、取り入れている会社が北米に10社ほどあります。
ROWEの会社では、決まった勤務時間はありません。
好きな時に出社します。会社にいなければならない時間もなく、まったく行かなくてもかまいません。
仕事さえすれば、いつ、どこで、どのようにやろうとかまわないのです。
こうした環境では、会議はオプションです。
するとどうなるか?
たいていの場合、生産性、雇用期間、社員の満足度があがり、離職率が下がります。
自主性が勝つ証拠
この話を聞いて、「いいかもしれないけど、そんなの夢のような話さ」と思うかもしれません。
違いますよ。だって証拠がありますから。
1990年代の半ばに、マイクロソフトは Encarta という百科事典を作り始めました。
適切なインセンティブを用意し、何千人というプロに、お金を払って記事を書いてもらいました。
報酬をたっぷりもらっているマネージャーが、全体を監督して、予算内、納期内にできあがるようにしました。
数年後、違う百科事典の制作がスタートしました。
マイクロソフトとは違うモデルです。
楽しいからやる(Do it for fun)というモデル。
報酬は全く支払われません。みな、好きだから、作ります。
10年前に経済学者に、百科事典を作るための2つのモデルのうち、どちらが勝つと思うかと聞いたら、Wikipediaのモデルが勝つと言う人は1人もいなかったはずです。
これは2つのアプローチの大きな戦いです。
内的な動機づけ(自主性、熟達、目的)VS アメとムチ。
どちらが勝つでしょうか?
もちろん内的な動機づけです。
まとめ
科学でわかったことと、ビジネスで行われていることには食い違いがあります。
科学でわかったこと:
1.ビジネスの世界で効果的だと思われている20世紀的な報酬は、限られた状況でしかうまくいかない。
2.「もし~したら、~する」と報酬を与えることは、創造性を損なうこともある
3.パフォーマンスをあげるのは、報酬と罰ではなく、目に見えない内にある意欲である。
自分のためにやる気持ち
大事だからやるという気持ち
もっとも重要なのは、すでに私たちはこのことを知っていることです。
科学はそれを確認しただけです。
科学の発見と、ビジネスの慣行の不一致を正し、21世紀的な動機づけの考え方を採用し、怠惰で危険な、アメとムチをやめれば、
私たちは、ビジネスを強化し、たくさんのロウソクの問題を解き、おろらく、世界を変えるでしょう。
・・・これで立証を終わります。
単語の意味など
incentive 励みになるもの、行動を引き起こす外界の動機づけ
London School of Economics and Political Science ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、LSE、 ロンドン大学のカレッジの1つで、人文科学、社会科学を教える世界でもトップクラスの大学。
ダン・アリエリーのプレゼン:
全部で3つ紹介していますが、仕事に関係のあるものをリンクします。
仕事にやりがいをもたらすものとは? ダン・アリエリー(TED)
ダン・ピンクさんの本です。
仕事に関するほかのプレゼン
言い訳を作り出してしまう私たち:あなたに夢の仕事ができない理由(TED)
ひどい会議から世界を(あるいは自分だけでも)救う方法(TED)
ウォーキング・ミーティングのススメ。健康にいいし仕事もはかどる(TED)
なぜ職場で仕事ができないのか?(TED)邪魔な物を排除するとうまくいく
仕事の失敗でいちいち落ち込まない方法。親切で、優しい成功哲学(TED)
内的動機づけを採用する
今回のプレゼンは、部下にやる気を出してもらいたい人、チームのリーダー、コーチ、子供に勉強してもらいたい親向けと言えます。
同時に、何かをなしとげたいのに、モチベーションがあがらない参考になります。
汚部屋や実家の片付けも、言ってみれば、自分自身の「ろうそくの問題」です。
単純なことをすれば解決できると思うかもしれません。
とにかく毎日、捨て続ければいいのだ、と。
ですが、不用品を捨てることがむずかしいのは、皆さんよくご存知でしょう。
どうしても、「もったいない」「あれば、そのうちお金になる」「まだきれいだし、そのうち使うかもしれないし」と考えて、捨てられません。
1000個捨てや、30日間、毎日捨てるチャレンジを始めても、捨てるのが難しくて、やる気をなくし、いつのまにか、捨てない生活や散らかる生活に逆戻りすることは多いですよね?
片付けがうまくいかないとき、外的な動機づけ(人が片付けた部屋を見てやる気を出す、片付け本を読んでその気になる、片付けコーチにほめてもらいたくてやる、など)だけに頼っていると、うまくいきません。
捨て活動がうまくいかないときは、自分がそうしたくてやっているのか、自分の人生のためにやっているのか、考えてください。
「誰かに片付けろと言われたから」とか、「片付けたほうがいいような気がするから」といった動機で始めるより、「私は、こんな生活にしたいから、不用品を捨てるのだ」という気持ちでいたほうが続きます。
物の捨て方も、自分なりのやり方やルールを考えて、試行錯誤しながら進めるほうが、楽しいし、はかどりますよ。
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報酬があると、報酬を得ることだけが目的になって、適当に仕事をして終わったことにしてしまう、なんて問題もありそうですね。
片付けの30日間チャレンジなども、続けることだけが目的になって、中身がおろそかになることもあるので、気をつけてください。