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ストレスが多く、うつうつとしがちで、毎日が暗い人におすすめのTEDの動画を紹介します。
タイトルは、Feeling good(気分がよいこと)、プレゼンターは、認知行動療法の専門家、デビッド・D・バーンズ(David D. Burns)先生(1942年生)です。
feeling good というのは、この先生の書いた本のタイトルでもあります。この記事のタイトルは、翻訳本のタイトルをそのまま使いました。
「うつうつとしている人、大丈夫ですよ、認知行動療法というものがありますから」と教えてくれる動画です。
認知行動療法は、認知(自分の考え方)と行動を変えて症状を改善するごくシンプルな治療方法です。薬を使わないので副作用はありません。
本格的に病気じゃない人も、知っておくとよいセラピーです。
気分がいいこと:TEDの説明
Why do we sometimes fall into black holes of depression, anxiety and self-doubt? And can we change the way we feel?
なぜ私たちはときどき、うつや不安、自信喪失のブラックホールにはまってしまうのでしょうか? このように感じてしまうことを変えることができるでしょうか?
収録は2014年の6月、動画の長さは17分56秒。字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。
バーンズ先生は、プレゼンがすごくうまいとは言えません。最初のほうはややだるい展開です。ですが、最後には、「見てよかった」と思うでしょう。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
自分で自分を苦しめる人たち
うつや不安についてお話します。
人は時に、自信喪失したり、不安になったり、劣等感を感じたりして、自分はだめな人間だと、自分で自分のことをいじめてしまいます。
人が体験する苦痛のうちでも、最悪なものの1つですね。
私の患者にこんな人たちがいます。神に「ガンにしてください」と祈っている人たちです。そうすれば、自殺せずに、人間の尊厳を保ったまま死ねると思うからです。
私はペンシルベニア大学のメディカルスクールから、医師の道を歩き始め、ずっとうつ病について研究してきました。なぜ、人はうつになるのだろう、どうしたら治るのだろう、と考えててきたのです。
生物学的心理学者といっしょに、脳内物質について調べていました。うつ病や不安症は脳内物質のアンバランスにある、という説があるからです。
抗うつ薬はあまり効果がなかった
患者に抗うつ薬を処方して治療していました。
ただこの治療法には、2つ問題がありました。
まず、私たちのリサーチの結果では、脳内物質のアンバランスがうつ病や不安症を引き起こすと証明できなかったこと。
もう1つは、たくさんの患者に山のように薬を処方したのに、ほんの少しの患者しか、症状が改善しなかったことです。
ほとんどの患者は、何週間たっても、うつうつとしたままで、「死にたい、自分には何の価値もない」と訴え続けました。
「ほかにもっといい方法があるはずだ」、こう思いました。投薬にある種の心理療法をプラスすれば、患者がよくなるかもしれない、と思ったのです。
患者にもっと幸せを感じてもらいたかった。そこでいろいろな心理療法を試してみましたが、なかなかうまくいきませんでした。
はじめて認知療法のことを知る
ある日、同僚がこう言いました。
「この大学の研究者のアーロン・ベックが新しい療法を開発しているのを知ってるかい? 認知療法(Cognitive therapy コグニティブ・セラピー)って言うんだけど。わりとシンプルな理論なんだ。
これを、きみの患者に試してみたらどうだろう?」
認知(cognition コグニション)とは、「考え」のことです。認知療法は、3つの基本的な考え方がベースになっています。
1)思考が気分を作る
うつうつとしている時、人は、自分にネガティブなメッセージを送っています。自分で自分を責めています。何かとてつもなくひどいことが起こると自分に言っています。
この考え方はべつに新しいものではありません。
ギリシャの哲学者、エピクテトスは、2000年ほど前に、「人はできごとによって心が乱れるのではない、そのできごとに対する見方のせいで、動揺するのだ」と言いました。
人は、いつも、自分の解釈をとおして、ポジティブな気持ちやネガティブな気持ちになるのです。
エピクテトスよりも前、今から2500年前に、ブッダも同じことを言っています。
2)ネガティブな考えは現実的な考えではない
人がうつうつとしている時に感じるネガティブなこと、自分はだめだ、負け犬だ、自分はいったいどうしてしまったのか、こんな失敗をすべきではなかった、もっとちゃんとすべきだった、といった考えは、現実的なものではなりません。
ゆがんだ思考です。
うつや不安症の人に典型的な、10のゆがんだ考え方があります。たとえば、オール・オア・ナッシング的思考。成功しなければ、自分の人生は完全に失敗だ、と思ってしまい、その中間のグレーゾーンを見られない考え方です。
過度の一般化もそうです。ひとつのネガティブなできごとが、すべてを決めてしまうと考えることです。
3)トレーニングによって、人の考え方を変えられる
考え方を変えるよう、トレーニングすれば、その人の気分が変わる、という考え方です。
自分の患者にコグニティブセラピーを試してみた
はじめて認知療法のことを聞いたとき、「そんなのはデタラメだ、効果がない」と思いました。
私の患者がネガティブな思考を持っていたのは事実です。けれども、深刻な自殺願望をもつうつ病の患者を、ポジティブ・シンキングみたいなので、救えるわけはない、と思ったのです。
同僚は、「ベックのウイークリーセミナーに行って、自分のリサーチの一環として、重症患者の何人かに試してみたらどうだろう。そして、認知療法なんて効果がない、と証明してみたら?」と言いました。
それはいいアイデアだ、と思い、試してみることにしました。
この療法を試した最初の患者は、大学病院のICUから回ってきた自殺未遂をした女性、マーサでした。高齢のラトビアからの移民です。
彼女に新しいセラピーを試してもいいという承諾をもらい、彼女の症例をベック博士のセミナーに提出しました。
自殺願望のある人に、どうやって認知療法を使ったらいいのか彼に聞いたら、「思考が感情を作っているのだから、自殺したとき、その人が、自分自身に何と言っていたのか聞いてください」と言いました。
そこで、マーサに、自殺した瞬間、自分に何を言っていたのか聞くと、「私は、価値のない人間だと自分に言っていました。これまで何一つ、意味あることも、重要なことも成し遂げたことがないのですから」という答えでした。
次のセミナーで、この言葉を伝え、ベック博士の指示をあおぎました。
すると、「証拠を検証する(examine the evidence)」方法を使うように言われました。
自分が自分に言っていることは、本当なのかどうか証拠を調べるのです。マーサに、これまで成し遂げたことをリストアップするように言ってください、という指示でした。
そこでマーサに、「人生で成し遂げたことリスト」を作るように言ったら、「何も思いつきません」という返事。宿題として、家で書いてきてもらうことにしました。
翌週のセッションでは、私は宿題を出したことを忘れていたのですが、マーサのほうから、宿題をやってきたと言われ、これまで成し遂げたことが7~8つ書かれたリストを受け取りました。
マーサはこう語りました。
「私は、ドイツのナチから、自分の子供を救ったことを見過ごしていました。夫も親戚もみな、強制収容所で亡くなりましたが、なんとか子供を連れて、アメリカに来ました。
床拭きや、人の家の掃除をして、家族を養ってきました。今週、息子は一番の成績でハーバード大学のビジネススクールを卒業します」。
これは功績です。
「自分が5カ国をりゅうちょうにしゃべれることを忘れていました。料理もとても得意です」。
こんなふうに、マーサはいろいろと成し遂げていたのです。
「マーサ、こんなにいろいろやってきた人が、人生で意味あることは何も成し遂げていない、とは言えないですよね」
「先生、そうですね。どうしてそんなふうに思ってしまったのか、自分でもわかりません」。
この時のマーサは、前よりずっと気分がよくなっていました。
認知療法の研究をライフワークにすることに決めた
その後、私は、ほかの患者にも認知療法を試しました。いろいろなセラピーを試してもうまくいかず、50年以上うつに悩んでいた人や、これまで幸せだと感じたことなど一度もない、という人たちもいました。
このような人たちが、突然、喜びやセルフエスティームを感じるのを見て、「生涯をかけて、認知療法を追求しよう」と決めました。
脳内物質を研究するために、5年分の助成金をもらったところでしたが、このお金は返しました。認知療法は抗うつ薬より効果的だと証明するリサーチにとりかかりました。
その後、認知療法はもっとも研究された心理療法となりました。
ベック博士に、本を一緒に書かないかと言われましたが、私の仕事は、患者や一般大衆にむけて、気分がよくなるマニュアルを書くことだと思いました。
人生に役立つツールを提供したい、セッションの合間に、患者が自分で読んで治療に役立てられるツールを提供したい、と思ったのです。
そして、Feeling good(フィーリング・グッド)という本を書きました。
アラバマ大学の医者が、うつ病の患者を、もっとも早く、お金をかけずに治療する方法をリサーチしました。
深刻なうつ病の治療のために、アラバマ大学に来た人は、実際にセッションを受けるまで、4週間待ちでした。そのあいだに、「フィーリング・グッド」を読んでおいてください、と本を手渡された患者のうち69パーセントが、待っている4週間のあいだによくなった、という研究結果が報告されました。
この医者は、8回同じ実験をし、さまざまな年齢層の患者を調べましたが、すべて同じ結果になりました。
こうなることは予想できました。
本を出してから、5万通以上のメールや手紙をもらったからです。みな、本を読んでから人生が変わった、と書いていました。
いま、スタンフォード大学のグループが、この療法におけるさらに効果的なテクニックを研究しています。
自分が絶望的だったとき認知療法を試してみた
私は、技術者(テクニシャン)と治療する人(ヒーラー)は違うと考えています。違いの1つは、そのツールを実際に自分の人生に使えるかどうかです。ふだん人に言っていることを、自分にもあてはめて使えるかどうか。
医者は、自分自身も治すという考えを私は信じています。
私自身、大きな不安を感じることはあります。ここで講演をするように言われたときとか。絶望を感じたこともあります。息子が生まれたときです。
息子が生まれたとき、病院にいました。医者は、「健康な息子さんですが、1つ問題があります。息ができないのです」と言いました。
息子を見たら、真っ青でした。唇も指の爪も。息をしようしてもがいていました。息子は集中治療室に連れていかれました。
「ああ、とんでもないことになった」こう思いました。
夜の10時、帰宅しました。私は、心配と不安、恐怖におののいていました。この時、「いいか、できごとじゃない。思考が心を乱してしまうんだ」と自分に言いました。
「いや、そんなの嘘っぱちだ。これは本当のことなんだから」そう反応しましたが、これは私の患者がよく言うことです。
「自分の考えていることを書き出してみたらどうだろう、その中に、ゆがんだ思考がないか見てみよう」こう思って書き出してみました。
1つめの考え:私の息子は、脳に酸素が必要だ。息子は脳障害をおこす。
2つめの考え:息子が生きている間ずっと、医者につれて行くことになる。
このあと「下向きの矢印(downward arrow)」と呼ばれる作業をやりました。もし、これが本当なら、それは自分にとってどんな意味をなすのか考えることです。
3つめの考え:人は自分を軽蔑する、なぜなら知的障害をもつ息子がいるから。
書き出して、ゆがんだ思考がないか調べました。まず、息子が脳障害をもつかどうかは、わかりません。医者はそんなことは一言も言ってません。集中治療室に連れていくと言っただけです。
脳障害の息子がいると人が自分を軽蔑する、というのも馬鹿げた考えです。
その人をどんなふうに扱うか、愛情を示すか、心遣いや思いやりをもって接するか、こうしたことに対して、人々は反応するのですから。
突然、私の不安は消え、自分のことしか考えていなかったことに気づきました。息子は父親を必要としている、病院で苦しんでいる。
午前3時、病院に行き、息子に会いました。息子は、保育器の中で、息をするために、身体を震わせていました。相変わらず青く、とても悲しい光景でした。
息子にさわりたいと言ったら、手袋を渡されました。穴から保育器に手を入れました。
息子のひたいに手を置いて言いました。
「エリック、知っておいてくれ。私たちはおまえを愛している。パパもママもおまえを愛している。どんなときもおまえと一緒にいるよ」。
その後、私は少し気分がよくなり、帰宅し、穏やかな気持ちでいました。すると電話が鳴りました。集中治療室の看護婦からです。
「バーンズ先生、奇妙なことが起こりました。先生が治療室を出た瞬間に、エリックがもがくのをやめ、呼吸をし始めたのです。いまは、お母さんが抱いています」。
この話、今まで公の場でしたことがないのですが、エリックがここで話すように言ったんです。息子も一緒にリノ(この講演が行われた場所)まで来るのを条件に、話すことにしました。
みなさんにエリックを紹介したいですから。
[舞台にバーンズ先生の息子、エリックが登場します]
エリック「今、私が泣いていなかったら、私は父の息子じゃないですよね。父が伝えたいのはこういうことなんです。もうブルーな気持ちでいる必要はない、ということです。
誰もが幸せになれます。
父さんに言いたいのは、ここに招いてくれてとても光栄だということです。父さんのことを誇りに思います。このスピーチも、ライフワークも。
父さん、自分自身のことを信じてくれてありがとう。私も、自分を信じて生きていきます。ありがとう」。
[親子でがしっと抱き合います]
////抄訳ここまで////
単語の意味など
Aaron Beck アーロン・ベック
米国の精神科医。うつ病の認知療法(Cognith Therapy)の創始者。
Epictetus エピクテトス
ギリシャのストア派の哲学者。
schmooze おしゃべりをする、無駄話をする
smuggle こっそり持ち出す、隠す
distortion ゆがみ
self-esteem セルフエスティーム、自分が好きだと思う気持ち。詳しくはこちら⇒セルフエスティーム(自分を愛する気持ち)が高い人の12の特徴
incubator 未熟児用保育器
you don’t have to be blue any more 息ができなくて真っ青だったブルーと、気持ちがブルーになるブルーとをかけています。
バーンズ先生の本は翻訳が出ています。いくつかバージョンがありますが、一番新しく出た版を紹介します。
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ほかにもたくさん書いています。まとめからどうぞ⇒ストレスの原因や解消法を書いた記事のまとめ(その1)
自分の考えを書きだしてゆがんだ思考を見つける
この動画を紹介した理由は2つあります。汚部屋に悩む人から、やたらとネガティブなメールが届くから、というのが第1の理由。
もう1つの理由は、5日ぐらい前に、ある読者から、西日本の豪雨のせいで、メンタルがまいってしまい、過呼吸と手足の震えが出た、というメールをもらったことです。
この方のメールは引用不可なので引用しません。簡単にまとめると、自分は被災地に住んでいるが直接の被害はなかった。だけど、近所で浸水、土砂崩れ、通行止めその他大きな被害が出ている。
報道で川が増水する様子や、被害状況を見たり、サイレンの音を聞いたりしているうちに、事態を受け止めきれなくなって、過呼吸や手足の震えが出るようになった、ということでした。
被災地にいるのに、直接的な被害がなかった私はとても中途半端である、ともあり、気持ちのバランスを保つために、モーニングページを書いてみようかと思う、としめられていました。
メールにはかなり詳細に被害の様子が書かれていました。
大きな災害が起きたときに、心が動揺するのは誰でも同じです。私も東日本大震災が起きたときは、数日間ぼーっとしていました⇒東日本大震災のショックで断捨離がストップ:ミニマリストへの道(56)
けれども、過呼吸になったりはしませんでした。
この方は、たまたま今回の大雨がトリガー(引き金)になって、軽いパニック障害の症状めいたものが出たのですが、以前から、ちょっとしたことで感情を乱す思考のクセがあったのではないかと思います。
バーンズ先生が言うように、人の気持ちはできごとではなく、それに対する考え方で変わります。
最初のショックはしょうがないですが、そのあとは、考え方を変えていくべきです。自分の気持ちを書き出して、ゆがんだ思考を正すといいのではないでしょうか?
悩んでいるとき、人はみな、自分のことしか考えていません。視野が狭くなっているわけです。
客観的に考えてみると、まわりには応援してくれる人なんかもいて、思ったほど袋小路ではない、ということに気づきます。
被災地に住んでいるからといってしっかり被災しないとだめ、なんてすごい変な考え方ですよね?
大きな被害がなかった幸運に感謝して、いまの自分ができること、本当にしたいことをやっていくと、心の平安が得られるのではないでしょうか? 息子さんに話しかけたあとに、バーンズ先生が得たような心の平安です。