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「目を閉じて、リンゴを思い浮かべてください」
そう言われたとき、いろいろなリンゴが思い浮かぶと思います。
赤いリンゴ、緑のリンゴ、うさぎリンゴ、リンゴの木……。
ところが、この世界には「何も見えない」という人がいます。
今回は、頭の中でイメージを思い浮かべることができない「アファンタジア」という特性を持つスピーカーが、心の多様性について語るTEDトークを紹介します。
タイトルは、Can You Picture Things in Your Mind? I Can’t(頭の中でものを思い浮かべられますか? 私はできません)。
スピーカーは、TEDの教育部門「TED-Ed」でパズルやアニメーションの脚本を手がける Alex Rosenthal(アレックス・ローゼンタール)さんです。
私たちは自分のものの見方や感じ方が当たり前だと思いがちです。
でも、同じ世界を見ていても、人それぞれ、心の中でまったく違う風景の中にいるかもしれません。
そんな気づきを与えてくれるトークです。
心の多様性を知る
収録は2025年11月、長さは約8分。英語字幕あり。動画はこちらです。
◆トランスクリプションはこちら⇒Alex Rosenthal: Can you picture things in your mind? I can't | TED Talk
◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
日本語字幕はありませんが、ローゼンタールさんのトークは発話、構成とも明確なので、自動翻訳機能を利用すれば、大意をつかむのには十分です。
以下に、私が重要だと思ったポイントを3つ紹介しますね。
1. 同じ言葉でも、頭に浮かぶものは人によって違う
ローゼンタールさんはトークの冒頭で、こんな場面を想像するよう聴衆に呼びかけます。
「ロケットがある惑星に不時着する。宇宙人がハッチに近づいてきてノックする。中から誰かがドアを開ける」
惑星は何色でしたか?
宇宙人はどんな姿をしていましたか?
ドアを開けたのは誰でしたか?
聴衆は、さまざまな場面を思い浮かべたことでしょう。
一方、ローゼンタールさんの答えは「何も見えない」でした。
彼はアファンタジア(Aphantasia)という特性を持っています。
これは、心の中で視覚的なイメージを思い描くことができない状態のことです。
人口の2〜4%がアファンタジアを持っているとされています。
反対に、非常に鮮明なイメージを思い浮かべられる人もいます(ハイパーファンタジア)。
ほとんどの人はその中間のどこかにいますが、体験の仕方は一人ひとり違います。
ローゼンタールさんは長い間、「想像してください」という言い回しは比喩的な表現であり、誰も実際には自分と同じように、頭の中で映像を見ていないと思っていたそうです。
自分がほかの人と違うと知ったときは、驚きと不安を感じたそうです。
2. 「普通」なんて存在しない
2015年に話題になったドレスの色論争を覚えていますか?
あるドレスの写真が「青と黒に見える」派と「白と金に見える」派に分かれ、世界中で議論になりました。
ローゼンタールさんは、この騒動がなぜあれほど人々を混乱させたのか、その理由をこう説明します。
同じものを見ているのに、まったく違う色が見えている。
その事実が、私たちの「現実は誰にとっても同じ」という前提を揺るがしたからだ、と。
アファンタジアも同じです。
私たちは自分の心の働き方が「普通」だと思いがちですが、実際には「真の普通」など存在しません。
ローゼンタールさんはこう語ります。
違いは逸脱ではない(Difference is not deviance)。
心の働き方はみな違っていて、それぞれが広大な星空の一部だと説明します。
3. 違いは欠陥ではなく、自分らしさ
ローゼンタールさんは、アファンタジアを「治すべき病気」ではなく、「脳の働き方の違い」としてとらえています。
彼は、視覚的なイメージを使う仕事(アニメーションやゲーム制作)をしています。
自分の特性を知ったとき、「間違った仕事を選んでしまったのでは?」と不安になったそうです。
でも今は、自分はまさにこの場所にいるべきだと感じています。
映像が浮かばない代わりに、彼は構造や骨組みを考えるのが得意です。
自分と違う脳を持つ人たちと協力することで、すばらしい作品が生まれると実感しています。
自分の心が周囲と違うと気づいたとき、最初は戸惑ったけれど、今ではそれが喜びの源になっている。
ローゼンタールさんはそう語り、トークを締めくくりました。
私たちは自分の世界しか知らない
このトークで一番印象に残ったのは、「私たちは自分の心しか参照点がない」という言葉でした。
私たちは、自分のものの感じ方や考え方が「普通」だと思って生きています。
でも実際には、隣にいる人の心の中では、まったく違うシーンが展開しているかもしれません。
1つ例をあげると、日本にはサマータイムがありませんが、カナダにはあり、春と秋に時計の針を1時間進めたり戻したりします。
時間が変わるせいで、私はたまに、日本の人とZoomをするとき遅刻したりすっぽかしたりします。
そんな失敗を娘に話したら、「どうして? iPhoneもパソコンも自動で時間が変わるじゃない」と言われました。
「日本は時間が変わらないんだよ」と言ったら、娘はびっくりしていました。
サマータイムがある国で生まれ育った娘は、日本にも当然そういうものがあると思っていたのです。
こんなふうに、自分の「当たり前」が、ほかの人にとってはそうではないことはいくらでもあるでしょう。
人と違うことは悩むことじゃない
このトークは、人と違うことに悩んでいる人に新しい視点を与えてくれます。
ローゼンタールさんは、5歳の娘さんの顔を、今この瞬間に思い浮かべることができないそうです。
このシーン、少し胸に来ました。
でも彼は、それを問題とは考えていません。
自分の脳の働き方の一部として受け入れています。
私たちは、みんなと同じように考え、行動して安心しようとします。
ほかの人と違う部分があると、「自分はおかしいのではないか」と不安になることもありますよね。
でも、ローゼンタールさんが言うように、「真の普通」はありません。
違いは逸脱ではなく、多様性です。
自分が人と違うと感じる部分は、欠点ではなく、自分らしさだと考えてみてはどうでしょうか。それはしばしば自分の強みになります。
お互いの違いを認める
このトークは、他者理解のヒントにもなります。
私たちは、相手も自分と同じルールで生きていると考えがちです。
「なんでそんなことがわからないの?」
「どうしてそういう発想になるの?」
そんなふうに、相手の行動が理解できずイライラすることがありますよね。
でも、相手の心の中は、自分とはまったく違う仕組みで動いている可能性があります。
「想像してごらん」と言われても、何も思い浮かばない人がいるように。
これを知っているだけで、他の人への接し方が変わると思います。
「この人は怠けている」「やる気がない」と決めつける前に、「もしかしたら、脳の働き方が私とは違うのかもしれない」と考えてみるといいでしょう。
そうすれば、無用な摩擦を減らせます。
まとめ:固定観念を手放す
最後に、このトークから学んだことをまとめます。
私たちは自分の心しか参照点がありません。
だから、自分のものの見方や感じ方が普通で当然だと思いがちです。
でも実際には、一人ひとりの心の中はそれぞれ違います。
その違いは、欠陥でも逸脱でもありません。
「普通」や「当たり前」という固定観念を手放すと、自分を責めなくてすみます。さらに、ほかの人への理解も深まります。
自分の心の特性を知り、それを自分らしさとして受け入れる。
これは、シンプルに自分らしく生きることにつながります。
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自分らしさについて考えたい人は以下のトークもごらんください。
自分をブスだと思うことがなぜ悪いのか? ありのままの自分を認めるために(TED)
女の子はピンクで、男の子はブルーと誰が決めたのか?(TED)
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アファンタジアのローゼンタールさんが、ビジュアルに関する仕事をしているのはとても興味深いですね。
絵が思い浮かぶ人だけがビジュアルを作れるわけではありません。
構造で考える人、言葉で考える人、手を動かしながら発見する人など、アートの仕事の仕方はアーティストの数だけあります。













































