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認知心理学者のダニエル・ゴールドステイン(Daniel Goldstein)さんのTEDのプレゼンを紹介します。若いうちから老後のために貯金できるヒントが得られます。
タイトルは The battle between your present and future self(現在の自分と未来の自分との戦い)。
『現在の自分と未来の自分との戦い』TEDの説明
Every day, we make decisions that have good or bad consequences for our future selves. (Can I skip flossing just this one time?) Daniel Goldstein makes tools that help us imagine ourselves over time, so that we make smart choices for Future Us.
毎日、私たちは、将来の自分にとって、よい結果、悪い結果をもたらす決断をしています。(きょうだけ、フロスをかけるのをさぼってもいいかな?)
ダニエル・ゴールドステインは、将来の自分を想像する助けになるツールを作りました。このツールを使えば、将来にそなえて、賢い選択をすることができます。
今の自分は今の楽しみを優先して貯金をしたくない。しかし、将来の自分は、今貯金をしておいてほしい。内なる「2人の自分」の利害が衝突して戦うとき、たいてい未来の自分が負けます。
だから、多くの人は貯金をすることができないのです。
なぜ、いつも未来の自分が負けるのか、では未来の自分に負けないためにどうしたらいいのか?
ダニエルは共同研究者と開発した未来の自分に負けないツールを紹介しています。
動画の長さは16分。日本語字幕です。字幕なしや英語字幕等を出したいときは、プレーヤーで調節できます。長さは16分ほど。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Daniel Goldstein: The battle between your present and future self | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
オデュッセウスが使ったコミットメントデバイス
オデュッセウスのエピソードは、みなさん、ご存知ですよね?
トロイア戦争から戻るとき、オデュッセウスはセイレーンの歌を聞きたかったので、船員にはろうで耳栓をし、自分をマストに縛りつけるように命じました。
彼女の歌を聞いた人は、次々と海に飛び込み、死んでしまいます。
オデュッセウスは、危険を承知で、自分をマストにしばりつけて航海したのです。
彼はリハーサルをしたんじゃないでしょうか?
「自分が何を言っても、絶対縄をほどいてはならぬ」と船員に命じ、そのあと、迫真の演技で、「ほどいてくれ、自由にしてくれ」と懇願。うっかり、ほどいてしまった船員を叱り飛ばすというリハーサルを一晩中やったことでしょう。
オデュッセウスが、自分自身をマストに縛り付けたことは、心理学の用語では、コミットメントデバイス(commitment device 自分が自分自身との約束を守ることを強制する道具)と呼びます。
コミットメントデバイスは、自分が冷静なときにする決断で、自分を見失っているときに、馬鹿なことをしないように防ぐことができるものです。
今の自分に、未来の自分が負けてしまう理由
人はみな、2人の自分がいます。1人は、現在の自分。オデュッセウスで言えば、セイレーンの歌を聞きたい自分です。
もう1人の自分は未来の自分です。老後はイタカ島で、后のペネロペと悠々自適の暮らしがしたい、それが将来の自分。
今現在の楽しみをがまんしたり、長期的に何かを求めていくことは、人間にとって、もっともつらいことです。
自制心はなかなか持てるものではありません。
たいていのことは物理的には充分可能です。体重を減らすことも、もっと運動をすることも。
難しいのは誘惑に打ち勝つことです。
そもそも、自制心を持つのは難しい上に、もう一つ問題があります。というのも、現在の自分と未来の自分との戦いは平等ではないからです。
現在の自分は今ここにいて、何をするか決めることができます。ドーナツを口に運ぶのは簡単です。
ところが、未来の自分はそばにいません。ひじょうに弱々しい存在です。
だから、現在の自分が、将来の自分の夢など、簡単に打ち砕いてしまうのです。そこで、コミットメントデバイスが必要です。
たとえば、クレジットカードを金庫にしまう、ジャンクフードを家に持ち込まない、など。
自分を律するのに苦労した
昔、コミットメントデバイスという考え方を知らなかったとき、自分でも似たようなことをしていました。
コロンビア大学で博士号取得の論文を書くのに苦労していたとき、毎日5ページ書くことを自らに課しました。
できなければ、5ドル失うようにしました。
コミットメントデバイスを使ってみると、細かいところに、悪魔がひそんでいるのがわかります。
5ドルを手放すことはそんなに簡単ではありません。
燃やすのは違法。寄付するか、妻にあげることにしました。でも、これは変です。書かないことは悪いこと、寄付することはよいことです。
これでは、書かないことが正当化されてしまう。
では、5ドルをナチスにあげればいいのか?これは書く書かないを超えた、圧倒的な悪です。
結局、私は地下鉄の中に5ドルを入れた封筒を置くことにしました。良い人が拾うこともあれば、悪い人が拾うこともあったでしょう。
いずれにしろ、あまりいいやり方ではなかったですね。
コミットメントデバイスの問題点
私はコミットメントデバイスを使うのが好きですが、問題が2つあります。
1つ目の問題は、コミットメントデバイスを使うたびに、「自分は自制心がないんだ」と思い出してしまうこと。
常に、自分はセルフコントロールできないやつなんだ、というリマインダーを受け取るわけです。
コミットメントデバイスがない時、いとも簡単に誘惑に負けます。自分には自制心がなく、自分を誘惑から守るものが何もないのですから。
自制心とは筋肉のようなもの。鍛えれば鍛えるほど強くなります。
2つ目の問題は、私たちは、いつでも自分をごまかすことができる、ということです。
「今日は5ページも書けない。だって、TEDのスピーチがあるし、インタビューが5本あるし、カクテルパーティに行くから、酔っ払うから書けないよ」なんて。
自制したいのに、ズルもしたい。最後には自分を責めることになります。
なぜ今貯金できないのか?
私が、コミットメントデバイスを使わずに、未来の自分とうまくつきあう方法を研究し始めて、すでに10年たちました。
特に、今の自分と未来の経済状況との関係について興味を持っています。
これはタイムリーなトピックです。
今の自分は貯金はせず、消費したい。未来の自分は、今の自分に貯金をしてもらいたい。
1950年代から、貯蓄率は減少しています。リタイア後に充分な貯蓄がない人が増えています。ベビーブーマーの3人に2人が、老後の金銭準備ができていないという予測が出ています。
デレク=パーフィットという哲学者はこう言ってます。 “We might neglect our future selves because of some failure of belief or imagination.”「想像することがうまくできないので、将来の自分を無視してしまう」。
つまり、私たちは、自分が年を取ることを信じていない、うまく想像できないのです。
もちろん誰でも人が老いることを知っています。しかし、自分が信じている一方で信じていないなんてこと、ほかにもたくさんありますよね。
パソコンを使って未来をシミュレーションするツール
そこで、私は共同研究者とともに、パソコンを使って、皆が、将来のことをもっとリアルに想像するサポートをしています。
いくつかツールを紹介しますね。
1.ディストリビューション・ビルダー(数字を見せるもの)
起こりうる未来を100個にわけた分布表。
(筆子注:今1つ仕組みがよくわかりませんが、望む未来をいろいろとシミュレーションできるツールのようです)。
これを使うことによって、今日する貯蓄や投資が、未来に直結していることがよくわかります。
2.ディストリビューション・ビルダー(画像を見せるもの)
将来何が買えるか、どんなところに住めるのか住宅の写真を見ることができる分布表です。
3.行動のタイムマシーン( behavioral time machine)
将来、お金がないと、どんな表情になるのか見ることができるツールです。今、貯金をしないと、若い時分は不愉快な顔をし、将来の自分が笑顔になったりします。
今日の決断が、未来の豊かな生活を決めます。みんな、このことを忘れがちですが。
このツールは、老後の生活だけでなく、喫煙や日焼けのしすぎの結果をバーチャルに体験することもできます。
このようなツールはスマホのアプリとしても利用できます。皆さんの現在と、未来の幸せを祈って、このプレゼンを終わります。
—– 抄訳ここまで —–
貯金には自制心が必要
このプレゼンを聞いてもっとも印象に残ったのは、コミットメントデバイスの話です。
目標を達成するために、自分を強制させるものは、自分にとってメリットにもなるし、デメリットにもなるのですね。
上手なコミットメントデバイスを考えるのはなかなかむずかしそうです。しかし、ダニエルが言うように、コミットメントデバイスは持っておいたほうがいいと思います。
自分を規制するものがなかったら、人間はどこまでも楽なほうに流れてしまいます。貯金には自制心が必要なのです。
自制心が人生を決める話はこちら⇒人生で成功したいなら自制心を持て~マシュマロ・テストに学ぶ成功法則(TED)
ある程度、自分は自分を律することができない、意志の力はあてにならない、ということを前提にしたほうが、物ごとを達成しやすいのではないでしょうか?
たとえば、マシュマロテストをクリアした子供たちは、マシュマロから目をそむけるという作戦を使いました。マシュマロを見つめてしまってはだめなのです。
貯金という目標を達成するときも、自分なりのコミットメントデバイスを導入するべきでしょう。あとは、やりながら、フレキシブルに調整すればいいですね。
毎朝15分断捨離する、というのもいいコミットメントデバイスになります。不用品が減れば、思考がクリアになりますから。世の中の雑音にわずらわされず、自分の未来だけをしっかり見据えることができます。
目標達成のために、いろいろ工夫するのを楽しめれば、コミットメントデバイスによって、罪の意識ばかりが募ることもありません。
* * * *
「自分では信じているのに、信じていないことはたくさんある」というのはまさにその通りですね。
これは、事実としては知っている、だけど、心の底では、腑に落ちていない状態だと思います。自分が年をとることが、自分ごととして考えられていないということですね。
あるいは、自分のこととして考えたくない状態です。
実際、私も若いころは、自分が年をとるなんて、全く想像できませんでした。年老いた人を見ても、それはすべて人ごとだったのです。
ですが、さすがに、50代も半ばを過ぎると、老後はずっとリアルになってきましたよ。
ダニエルが紹介したようなツールは、これからもっと増えるかもしれません。アプリで自分の年老いた顔なんてみたくありませんが、きびしい現実を、今、受け入れる決断をしなければ、将来の幸せはないのです。