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「持たない暮し」の参考になるTEDのプレゼンを紹介します。今回は、『minimalism 〜30歳からはじめるミニマル・ライフ』という本の著者、ライアン・ニコディマスとジョシュア・フィールズ・ミルボーンのプレゼンです。
少ない物を持ち豊かに暮らすこと
この2人はアメリカの若きミニマリストです。
2人は小学校5年生からの友だち。共に20代にして年収10万ドル(2015/11/20の換算で約1200万円)稼いでいましたが、借金も多く幸せではありませんでした。
ところが、所持品を大幅に減らし、ミニマルライフを送るようになってから、乾いていた心が潤い、かえって生活が豊かになったのです。
そんな2人の心の旅路を語ってくれます。
プレゼンのタイトルは、A rich life with less stuff 少ない物で豊かな暮し
2014年1月に行われたTEDxWhitefishの1つ。日本語字幕はありませんので、抄訳を詳しめにつけました。
※TEDについてはこちらに詳しく書いています⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ずっとリッチになりたいと思っていた
僕はライアン・ニコディマス、こちらはジョシュア・フィールズ・ミルボーン。2人で、The Minimalists というサイトを運営しています。
きょうは、コミュニティの一部になるとはどういうことかお話しします。ですが、まず、僕がいかにしてリッチになったのかお伝えしたいと思います。
今から、1年後、2年後、5年後を想像してみてください。どんなふうになっているでしょうか?
より少ない人生を想像してみてください。より持ち物が少なく、ガラクタも少なく、ストレスも少なく、借金も少ない、暮しに不満も少なく、あんまり邪魔も入らない人生。
次はより多い人生を想像してください。より豊かな人生、時間もあり、意味のある人間関係を構築し、より成長して貢献できるような。
情熱的な人生、混沌とした世界に惑わされない人生。それは意識的に生きることです。完璧な人生ではないですが。
簡単に手に入る人生でもありませんが、シンプルな人生です。富とは関係ないところで「豊か(リッチ)」な人生です。
以前僕は「豊かであること」は年、5万ドル稼ぐことだと思っていました。20代のとき、企業の中で出世し、5万ドル(50 grand)に到達したものの、豊かな気分にはなりませんでした。
「年収7万5千ドルになれば、リッチだろうか、それとも9万ドル、10万ドル?」そんなふうに思いました。
あるいは、「物をたくさん持てばリッチなのかもしれないな」とか。
何が「リッチ」かわからないけど、「リッチ」になったときわかるだろう。そして幸せになれるんだ、そんなふうに思っていました。そこで、よりたくさん稼ぎ、消費して、アメリカンドリームを追求し、幸せになろうとしていたのです。
ところが、稼げば稼ぐほど、幸せから遠ざかりました。
お金で幸せを買おうとしていた
5年前、僕の人生は今とはまったく違っていました。驚くほどに。
欲しいものは何でも手に入れ、持つべきものもすべて持っていました。名のある企業で、肩書もよく、数百人の従業員を管理するキャリアを誇っていました。
年収は10万ドル。2年おきに高級車を買っていました。
大きな3ベッドルームのコンドミニアムに住んでいました。リビングルームも2つあって。
独身の男に2つもリビングルームがいる理由なんて、知るよしもなく。アメリカン・ドリームを生きていたのです。周囲の人は皆、僕は「成功した」と言ってくれました。
しかしそれは、表面的な幸せでした。外からは見えなかったでしょうが、すごく稼いでいたのにもかかわらず、借金もたくさんありました。
アメリカンドリームを追い求めるために、お金以上の代償も支払っていました。ストレスや不安、不満でいっぱいでした。成功者に見えたかもしれませんが、自分ではそう感じず、みじめな気持ちでした。
人生で大切な桃もわからなくなっていました。1つだけはっきりしていたのは、空虚だったことです。心の中にぼっかりと大きな穴があいていたのです。
僕はその穴を、他の人と同じことをして埋めました。物で埋めたのです。たくさんの物で。
新車を買い、家電を買い、高い服でクローゼットをいっぱいにし、家具を買って、内装にこって、最新のガジェットも買い、銀行に残高がなかったのに、ぜいたくな食事をして、豪華なバケーションに出かけました。クレジットカードを使って。
稼ぐより速く、お金を使っていたのです。「幸せ」を買おうとしていました。「いつか幸せになれるんじゃないか」と願って。自分はすぐそこまで来ていると思っていました。
空虚な気持ちは物では埋められなかった
けれど、物は空虚な気持ちを埋めてはくれませんでした。どんどん穴は大きくなっていったのです。というのも、自分で何が大切なのかわかっていなかったから。
さらに穴を物で埋め続け、借金がかさみました。自分を幸せにしてくれないものを買うために、必死で働いていたのです。こんな生活が数年続きました。
ひどい悪循環です。20代の後半、僕の人生は表面的には素晴らしかったものの、内実はひどいものでした。離婚し、健康も害し、八方塞がり。
大量に避けを飲み、麻薬や鎮痛剤の世話になり、週に60~70時間、時には80時間働き続けました。
その時になって初めて、人生で大切なものについて考えたのです。それまで健康や、人間関係や、自分が情熱をかたむけたいものについて、ろくに考えていませんでした。
最悪なのは、僕が完全に停滞していたこと。
明らかに、誰かのために、何かをしたということはなかったし、自分自身も成長せず、意義も目的も情熱もない人生でした。
誰かが僕に、「君はどんなことに情熱を持っているの?」と聞いたら、僕はヘッドライトを見つめる鹿のようにぼうぜんとしたでしょう。
「僕が何に情熱を持っているかだって?」わかるわけがありません。給料日から次の給料日へ綱渡りのような暮しをしていたのですから。
給料をもらうために、特に好きでもない物を買い集めるために、好きでもない仕事のために生きていたのです。
「生きていた」と言っても、実際は生きていたわけでもない。うつうつとしていました。
親友がミニマリズムで幸せになった
30歳になるころ、20年来の親友のジョシュが、みょうに幸せに見えたんです。それまでそんなことなかったのに、とても幸せそうに。理由がわかりませんでした。
20代のとき、僕たちは同じ会社で働き、同じように出世して行きました。彼も僕と同じようにみじめだったのです。
しかも当時、彼は、とてもつらい時を過ごしていたはずです。お母さんが亡くなったばかりで、同じ月に、離婚もしました。
幸せになるはずはないんです。僕より幸せになるなんてありえません。
そこでジョシュをランチにさそい、こう聞きました。「一体全体、どうして、おまえ、そんなに幸せなの?」と。
彼は20分にわたって僕に「ミニマリズム」とやらについて話しました。
彼は数ヶ月かかって、暮しをシンプルにしたと言うのです。ガラクタを捨てて、本当に大事なもののためにスペースを作ったと。
そして、似たようなことをした人々のコミュニティを紹介してくれました。
たとえばコリン・ライト(Coline Wright)、24歳のアントレプレナーで、所持品すべてを持って4ヶ月ごとに未知の国へ旅行する人。
それからジョシュア・ベッカー(Joshua Becker)。36歳の既婚者で2人の子持ち。郊外でフルタイムで働き、家も車も持っています。
それからコートニー・カーバー(Courtney Carver)。40歳の主婦でティーンエイジャーの娘がいてソルトレイクシティ在住。
そしてレオ・バボータ(Leo Babauta)。38歳の既婚者で6人の子持ちでサンフランシスコに住んでいます。
この人たちは、みんなずいぶん違った生活をしています。経歴も、家族構成も、仕事も違います。ですが少なくとも2つの共通点があるのです。
1つは、みんな意識的に意味のある暮しをしていたことです。.みんな情熱を持っていて、目的に向かって生きていました。
彼らは、僕が一緒に働いていた「リッチな同僚」の誰よりもリッチに見えました。
もう1つの共通点は、みんな「ミニマリズム」という生き方を取り入れて、意義のある人生を送っているということ。
そこで僕も、その場でミニマリストになることにしました。ジョシュに「よし、僕もミニマリストになる。で、何をすればいいんだ?」と聞きました。
所持品をすべて箱に詰め込むパッキング・パーティ
ジョシュは数ヶ月かかって物を捨てましたが、僕はもっと速くミニマリストになりたかったんです。そこで、僕たちは、「パッキングパーティ」を思いつきました。
まるで引っ越しするときみたいに、僕の所持品をすべて箱に詰めました。そして3週間、何かが必要になったときだけ、箱を開けて取り出しました。
ジョシュが手伝ってくれました。服、台所用品、タオル、テレビ、家電、フレームに入れた写真、絵画、バス用品、家具まで。すべてを箱に詰めました。9時間かかりました。
パッキングのあと、ジョシュといっしょにリビングルームに座りました。12フィート(約3メートル66センチ)の天井の半分まで積まれている段ボール箱を見つめながら。
コンドミニアムはからっぽになり、段ボール箱の匂いでいっぱい。過去10年かかって稼いだお金で買ったものは、みんな箱に入っていたのです。それぞれの箱にラベルをつけたので、物が必要になったとき、どの箱を開ければいいかわかっていました。
「リビングルーム」とか「雑多なものを入れる引き出し」「寝室のクローゼット」。こんなふうに書いておきました。21日間、本当に必要なものがあったときだけ、箱を開けました。
たとえば歯ブラシ、シーツ、実際に使う家具、台所用品、工具。自分の人生に価値を与えてくれるものだけを取り出しました。
3週間後、僕の所持品の80%は、箱に入ったままでした。僕を幸せにしてくれるはずのものは、実際は、そんなことはしてくれていなかったわけです。
箱に入ったままの物はすべて寄付したり売リ払いました。
ガラクタを全部排除したあと、リッチになったと思いました。いらないものを捨てて、大事なもののためのスペースを見つけたあとに、ようやく、自分はリッチなんだと感じたのです。
ブログを開設してミニマリズムを伝え、コミュニティに貢献
1ヶ月後、僕の考え方は180度変わりました。もしかしたら僕の体験がほかの人の役に立つんじゃないかと思ったのです。僕とジョシュの体験が。
そこで僕たちは、今は誰でもやってるけれど、ブログを開設しました。ブログのタイトルは、The Minimalists (ザ・ミニマリスツ)。3年前です。
素晴らしいことが起こりました。最初の月に52人の人がブログにアクセスしてくれました。52人なんて大きな数字ではありませんが、何十人かの人の心に僕たちの言葉が響いたってことです。
52人の読者が500人になり、500人が5000人になり、今は、年に200万人以上の人が、僕たちの文章を読んでくれています。
誰かの人生に価値を与えると、その人たちもまた、まわりの人にメッセージを伝えてくれることがわかりました。
「価値を与えること」
これって、人の基本的な本能です。僕たちが今日この場にいる理由もこれです。
数年前、ライアンと僕はオハイオからモンタナに引っ越しました。
モンタナにはコミュニティがあります。伝統的な意味での「金持ち」ではないけれど、違う意味でリッチな人たちの。
大勢の人たちが、他の人のために貢献しようとしています。「貢献すること」が真のコミュニティを作るのです。
そこで僕たちは、みなさんに、日々の暮しを見直してほしいのです。みなさんがどんなふうに時間を使っているのかということを。
メールチェックですか?フェイスブック?テレビを見ること?オンラインショッピングや、リアル店舗での買い物?
本当はいらない物を買うために、必死に働くことが幸せでしょうか?
物を持つことや、9時5時の仕事をすることが、本質的に悪いことだと言いたいのではありません。物は必要だし、生きていくのにお金も必要です。
ただ、そういうことを優先してしまうと、本当に大事なことを見失ってしまうのです。人生の目的を見失うのです。
だから、余分なものを捨てて、ガラクタをなくしてはどうでしょうか?そうすれば、残ったものにフォーカスできます。
健康とか、人間関係とか、成長、貢献すること、コミュニティに。
ありがとうございました。
・・・・抄訳ここまで・・・・
☆2人の別のTEDのプレゼンをこちらで紹介⇒捨てる生活が夢を叶える。ミニマリストに学ぶ手放す技術(TED)
☆2人が作ったドキュメンタリーはこちら⇒ミニマリズム(Minimalism)というドキュメンタリー映画の感想
年収1200万円でも不幸だった2人
プレゼンの内容は本に書いてあったこととほぼ同じです。本のレビューはこちら⇒『minimalism 〜30歳からはじめるミニマル・ライフ』の感想~50歳のおばさんにも使える方法
このプレゼンを聞くと、「年収1200万円でなんでそんなに不幸なの?」と思いませんか?
もし私にそんなに収入があれば、歯のインプラント代も払えるし、娘の大学の授業料も払えるから、どちらかというと今より幸せのほうに向かうのではないかと思います。
2人とも若くして会社でよい地位についているので、優秀で仕事をまじめにやる勤勉なタイプだと思います。借金を返すために、必死に働かざるを得なかったともいえますが。
2人が不幸だった理由は、あまりに外から押しつけられた「幸せの形」を追い求めようとしていたからでしょうね。自分で定義した幸せのために生きていなかったということです。自分の人生ではなく、メディアが理想とする実態のない人生を生きていたのです。
ところが、物を捨てたら、自分のしたいことが見えてきました。
その1つが、ブログを書いて、自分たちの話を伝えること。ブログで情報を発信して、自分たちの考えを広めることに情熱をそそぎ、それが本になり、この日、TEDのプレゼンまでしているのです。
素晴らしいですね。
コミュニティに貢献すること
このプレゼンはよくよく聞くと、ちょっと破綻しています。実は TEDxWhitefish のテーマの1つは「コミュニティ」でした。
ホワイトフィッシュはモンタナ州にある街です。このイベントには、モンタナの人々に、コミュニティにおける自分の役割を考えてみよう、というメッセージを伝える意図がありました。
よりよい人生を送り、コミュニティに貢献し、自分たちのあとに続く世代に、より素晴らしいものを手渡すにはどうしたらいいのか考えるイベントだったのです。
だから最初にライアンが「コミュニティに役割を持つことについて話をします」と言っています。
しかし、プレゼンのほとんどは、「金持ちだったけど不幸だった自分がいかにミニマリストになって豊かになったか」ということに費やされています。
途中でミニマリストのコミュニティの話をしたのは、テーマに合わせたからでしょうね。
名前があげられていた人たちはいずれもアメリカで有名なミニマリストばかりです。実際2人はいろいろなミニマリストと交流しています。
レオ・バブータについてはこちらに書いています⇒シンプルライフブログの第1人者、レオ・バボータに学ぶ、ガラクタをゼロにする方法
コートニー・カーバーはプロジェクト333を始めた人です。プロジェクト333はこちら⇒3ヶ月33アイテムでおしゃれを楽しむ方法~アメリカの女性ミニマリストに学ぶ、プロジェクト333
ライアンとジョシュアは年齢が近いせいか、とくにコリン・ライトと親しいようです。
最後にジョシュアがモンタナのコミュニティと貢献の話をします。ここがなんとなく、付け足しっぽく感じられるのは、ミニマリストになった話が長すぎるからです。
しかし、ミニマリズムを通じて、心の豊かさを手に入れた2人の話はとても真摯で、説得力があります。そのせいでしょうか。この動画は TEDxWhitefish のプレゼン動画の中ではもっとも人気があります。