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夏が近づいているので、「あと数キロやせたい」と思っている人も多いかもしれません。
久しぶりにダイエットに関するTEDトークを紹介します。
タイトルは、What is a healthy relationship with food?(食べものとの健全な関係とは?)
栄養士で著述家のリアノン・ランバート(Rhiannon Lambert)さんの講演です。
「ダイエットをしなきゃ」「もっと健康的に食べなきゃ」と思っている人なら、一度は感じたことがある、罪悪感や葛藤について語られています。
ランバートさんは、自身の経験をもとに、食べものを敵とみなさず、心と体をいたわる食べ方を提案しています。
食と健全な関係を築くヒントをくれる内容です。
食べものと健全な関係を築くには?
2018年3月に投稿された動画です。長さは12分半、動画のあとに抄訳を書きます。
誰もが食と関係を持っている
あなたは、食べものと健全な関係を築いていますか?
それって、実際にはどういう意味なんでしょうか?
これは、私のクリニックに来るクライアントが、よく私に尋ねる質問です。
今日は、あなたにもいくつか質問したいと思います。心の中でしっかり考えてみてください。
食事をする前に、カロリーを計算したことはありますか?
流行の食事法――ジュースクレンズや5:2ダイエット、アトキンス、置き換えダイエットなど――に従ったことは?
あるいは、朝体重計に乗って、それだけで一日中すっかり気が滅入ってしまう。
もっと野菜を食べて、バランスの取れた食事をしなきゃとわかっていても、週に3回は出前を頼んで、翌日も職場に同じランチを届けてもらったり。
多くの人が、気分を変えるために、何らかの形で食事をいじった経験があると私は確信しています。
私たちは皆、食べものと何らかの関係を持っています。
生きるために食べなきゃいけませんからね。
この関係は、人生を通じてずっと育まれてきたものです。
そしてこれは、私がクリニックでクライアントとよく話すテーマです。
私はこれを、「あなたのフードワールド(食の世界)」と呼んでいます。
これは、皆さんが食べものについて信じているすべてのこと、もしくは、「食の脚本(スクリプト)」のことです。
それは、今の自分と食との関係をつくるまでにたどってきた道のりです。
不健全な食との関係
私は17歳のとき、食べものと不健全な関係を作ってしまいました。
それは、一夜にして人生が変わったことがきっかけでした。
当時私は、地元のサブウェイで働いていました。
ところが、クラシックFMの「ヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤー」という賞を、ソプラノ歌手として、しかも正式な訓練を受けずに受賞したのです。
私は、若くして家を出て、ロンドンでまったく新しい人生を歩み始めました。
とてもワクワクしていました。
それは、ウィルトシャーの小さな故郷からは想像もできないような世界でした。
素晴らしいチャンスもありました。
有名なアーティストと共演する機会もあり、いつか自分もその1人になると信じていました。
でも、それはまったくの幻想でした。
歌手として活動していた3年間は、容赦のない過酷なものでした。
実は、私のキャリアは始まる前に終わってしまったのです。
レコード業界は、一夜にして変わることを追い求める世界で、そこに限界というものはありませんでした。
私は「成功するにはスリムでなければならない」「用意された美しいけど、体を締め付けるドレスに自分を合わせなければならない」と信じ込んでいました。
私は完璧主義なので、必死で努力しました。
地元のスーパーに行き、話題のヘルシー商品を買い込みました。
低カロリーのエナジーバーや、チョコ味風のミルクシェイクのような飲み物です。
それを摂っていれば健康になれると、本気で思っていました。
でも当然ですが、しばらくすると、私は栄養失調になり、力が全然でなくなりました。
絶望的な気持ちで、お医者さんに診てもらいました。
そのときのことは、今でもはっきり覚えています。
私は必死で答えを探していました。栄養不足だと言われると思っていたのに、処方されたのは抗うつ薬でした。
いま振り返っても、その年齢で、あんなにも早く薬を出されたことが信じられません。
人生のどん底でした。
栄養学を学んだ
そこで、歌の仕事はパートですることにし、栄養と健康を学ぶ3年制の学位のコースに入学しました。
これが文字どおり、私の命を救ってくれました。
自分でも信じられないのですが、私はその3年後、栄養と健康の学位を取るクラスを首席で卒業しました。
それまでは音楽に夢中で、科学なんて全然興味がなかったのに。
すぐに、ロンドンのハーレー・ストリートにあるクリニックで、栄養指導を始めました。
「ここを訪れるすべての人の助けになりたい」こんな大きな志を持っていました。
でもすぐに気づいたんです。
「人が何を食べるべきか」という話は、「その人が食べものに対してどう感じているか」と切り離せないということに。
栄養と心理は、常にかかわりあっていると実感しました。
この気づきがきっかけで、私はさらに修士号を2つ取得することにしました。
ひとつは肥満に関する学位、もうひとつは摂食障害に関する学位です。
頭の中にある声
誰もが、頭の中に「内なる声」があります。
多くの人にとって、その声が食べるものの選択に大きな影響を与えています。
その声は、あなたにあれこれ指示をします。
人によっては、とても大きな声で、「あなたは十分じゃない」「こうすべきだ」「ああすべきだ」と責め立てます。
その声のせいで、食べものの選び方が左右される人もいます。こうした声は、人をずっとそこに閉じ込めてしまいます。
そんな声に毎日支配されていたら、健康的な行動を習慣にできません。
大事なのは、その頭の中の声と「本当に自分がしたいこと」「本当にその日に楽しみたいこと」とを分けて考えることです。
たとえば、小さな変化でも、続ければ本当に大きな成果につながることがあります。
たとえば、植物性中心の食事がいいと言われています。
健康や活力を高めると、数多くの研究で証明されています。
でも、効果は体重計の数字のように数値化できません。
体重計の数字で、どうして健康状態が測れるでしょうか?
外見だけで、内側の感情や機能の状態がわかるでしょうか?
白黒決めつける思考をやめる
体重計に乗ることに気を取られていると、人生のすべてがその1つの数字に支配されてしまいます。
でも、ピザやケーキ、ドーナツだって楽しんでいいんです。
そのとき自分がどう感じるかをよく観察して、味わってみてください。
「すべてをほどほどにバランスよく」。
これが、本来の人生のあり方だと思います。
自分の体を尊重していれば、毎日いろいろな食べ物を楽しむことができるはずです。
少し準備をして、自分を信じることができれば、「好きなものを食べてもいい」と思える人のほうが、過食やドカ食いに陥りにくいと、研究でも示されています。
なぜなら、物事を白か黒かで極端に考えてしまう思考こそが、私たちを苦しめる原因だからです。
思い当たる方も多いのではないでしょうか?
たとえば─
─ ビスケットを1枚食べたから、もう全部食べちゃおう
─ 今週はずっと頑張ったから、週末は思いきり食べていいよね
こんなふうに考えてしまうこと、ありますよね。
でも、こうした思考が、私たちの生活を少し難しくしています。
私は、そうした「白か黒か」と決めてしまう思考を、グレーゾーン、つまり中間も考えることをおすすめしています。
たとえば──
「ビスケットを1枚食べたから全部」ではなく、「1枚か2枚食べよう、でもヨーグルトやフルーツと一緒にね」と考えてみる。
あるいは、「疲れてるけど走らなきゃ」ではなく、「今日は走らずに散歩だけにしよう」でもいいのです。
食べものを制限するとはまる負のサイクル
こうした変化は、本当に小さな健康習慣の改善です。体重計の数字には現れません。
ですが、「食べては制限すること」の繰り返しに陥ってしまうと、とても苦しいサイクルの中に閉じ込められてしまいます。
おそらく皆さんの中にも、心当たりのある方がいるのでは? あるいは、身近にそういう人がいるかもしれません。
たとえば、SNSで人気のインフルエンサーや有名人のダイエット法を真似しようとしたことはありませんか?
そういう方法はたいてい、「何を食べるか」よりも「何を食べないか(制限するか)」に注目します。
実際に、何かを食べないようにしようと決めたとたん、その食品のことばかり頭から離れなくなった経験はありませんか?
そして結局、それを食べてしまい、あとから罪悪感や恥の気持ちに襲われ、また制限を始める……。
このサイクルは、人を何年も、あるいは一生苦しめ続けることがあります。
ダイエットはうまくいかない
私が学んだ中で、最も大切なことは、人は皆、個性が違うように、体のしくみも違うということです。
自分に合うやり方は、友だちや子どもに合うとは限りません。
私たちは皆、遺伝的にも、生化学的にも、まったく異なる存在だからです。
だから、自分にとってうまくいくバランスを見つけなければなりません。
これからダイエットを始めようとしている方、またはすでに始めていて挫折しかけている方に、私は言いたいです。
私もかつては、途方に暮れ、混乱していました。
でも、こう断言できます。健康の秘密は、スーパーフードの袋の底やチアシードのパッケージの中にはありません。
また、流行りのダイエットを広めている人たちが決して言わないことがあります。
それは、本当の問題は、数日後・数週間後にどう感じるかではなく、数か月後・数年後にどう感じているかだということです。
なぜなら、ダイエットは機能しないから。
もし本当に機能しているなら、私たちはみんなもうとっくに成功しているはずでしょう?
心と体を健やかにする4つの原則
そこで私は、心と体を養うために、基本に立ち返るための、覚えやすい4つの原則を作りました。
私はこれを「4つのR」と呼んでいます。
1:Respect(リスペクト)=自分の体を敬うこと
自分の体のすばらしさに感謝し、大切にすれば、体もきっと応えてくれます。
大事なのはマインドセット(考え方)です。頭の中にあるネガティブな声ではなく、本当の自分の声に耳を傾けてください。
2:Refuel(リフューエル)=栄養を補うこと
食べものはエネルギーであり、燃料であり、すばらしい存在です。
運動する人だけのものではなく、毎日を過ごすすべての人のエネルギー源です。
一日を、どんな食べもので元気にスタートさせるか、考えてみてください。
3:Rehydrate(リハイドレート)=水分を補うこと
。
イギリス人の平均的な水分摂取量は、1日1杯の水という恐ろしい統計があります。
でも私たちの体の60%は水でできています。水分を摂ることは、基本的なことで、毎日元気に過ごすために不可欠なことです。
4:Recover(リカバー)=回復すること
ここで言う回復は、筋肉の修復だけでなく、ホルモンバランスや心、そして睡眠も含まれます。
睡眠は軽視されがちですが、本当に重要です。
食べることはポジティブなこと
私は、食べものに良い・悪いというレッテルを貼るべきではないと思っています。
すべての食べものは楽しむためにあります。
だから、皆さんにもお願いしたいのです。
かつての私のように、栄養について自分が知っていたと思っていたことをいったん手放して、基本に立ち返ってください。
信頼できる専門家からアドバイスを受け、検索エンジンに頼るのはやめましょう。
私たちが協力しあえば、ダイエット文化に立ち向かうことができます。
一人ひとりの違いを認め合い、新しいアプローチを選ぶことができます。
教育は、真の意味で人を力づけてくれます。
私は、食べることがポジティブなことになる未来を信じています。
食は、心と体の両方に、エネルギーと喜び、幸せをもたらしてくれます。
それこそが、食べものとの健全な関係です。
//// 抄訳ここまで ////
補足:ランバートさんの本です。
食に関するほかのプレゼン
結果的に太っている。なぜダイエットは成功しないのか?(TED)
ダイエットしないで健康になる方法(TED)~生活習慣を変えよう。
自分を大事にすることを忘れない
このトークが指摘しているように、食べることへの健全なアプローチは制限することではなく、バランスを取ることや自分を大切にすることです。
たぶん、多くの人は、このことを頭では理解していると思います。
でも、やせたいと思っているとき、人は、異様に体重計の数字を気にします。まるで、体重が減れば、人生がすべてうまくいくかのように。
もちろん、人生はそんなに単純ではありません。もし、今、あなたが体重計の数字に一喜一憂しているなら、ただちにやめることをおすすめします。
エネルギーと時間の無駄です。
私も、20半ばのとき、カロリーを取らないダイエットをして、すごくやせたことがあります。でも、また食べ始めたら、前より太りました。
しかも、極度の貧血になり、そのせいで求職先の健康診断で不合格。その後は、医者で痛い鉄剤注射を何本も打つはめに。
今思うと、本当に「筆子、バカすぎない?」と思うんですが、私のように基本的にまじめな人や、完璧主義的傾向のある人は、行き過ぎたダイエットをしてしまいがちです。
ダイエットがうまくいかなくなると、心の中にあるネガティブな声がますます大きくなる可能性もあります。
ランバートさんが、栄養失調に陥ったとき、医者がうつと診断したのは、あながち間違っていなかったかもしれません。
頭の中で、「やせなきゃだめ」「やせれば幸せになる」という声が聞こえたら、「本当にそうなの?」と反証してください。
食べものとの関係を見直すことは、自分自身の中にある声とうまくつきあうことだと思います。
ネガティブな声に対処する方法は、過去のTEDの記事にたくさんありますので、ぜひ参考にしてくださいね。