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コンフォートゾーン(居心地のいい世界)から出なければ人は成長しない、という主旨のTEDの動画を紹介します。
タイトルは、Why comfort will ruin your life(なぜ快適さがあなたの人生をだめにするのか?)。日本語のタイトルは、「快適さが人をダメにするのはなぜか」。
プレゼンターは、実業家の Bill Eckstrom(ビル・エクストロム)さんです。
快適さが人生をだめにする:TEDの説明
After documenting and researching over 50,000 coaching interactions in the workplace, Bill Eckstrom shares life-altering, personal and professional development ideas through the introduction of the “Growth Rings.”
The rings illustrate how dangerous it can be to remain in a state of comfort and how being in discomfort is the only way to sustain growth.
You’ll be amazed at the world-changing outcomes discomfort can have on your life and the lives of others.
職場における5万人以上のコーチングの事例を研究したビル・エクストロムは、「成長の輪」というコンセプトを通じて、人生を変えてしまう個人的、かつ職業上の発展をもたらす考え方を紹介します。
成長の輪を見ると、快適さの中にとどまっているのがいかに危険であり、不快な状況になることこそが、成長する唯一の道だとわかります。
不快な状態がどんなふうに自分やほかの人の人生を変えるのかがわかってびっくりすることでしょう。
動画は12分34秒。日本語字幕があります。英語がいい方はプレイヤーで調節できます。動画のあとに抄訳を書きます。
失業が自分の人生を変えた
私の人生はうまくいっていました。
高給取りのエグゼクティブで、ボーナスやらなんやら福利厚生の手当もたっぷりありました。
2008年の1月7日の月曜日の3時、社長に呼ばれました。社長と打ち合わせするのはべつに珍しいことではなかったのですが、この日の打ち合わせはいつもより短かいものでした。
クビを言い渡されました。
打ちのめされた私は、自宅のベッドで3時間、からだを丸めていました。すっかり自信を喪失したのです。
いまになって思うと、この事件は私にとって、ものすごく不愉快なできごとでしたが、この不快な状況、つまり、それまでの秩序ある世界から旅立ったことが、私の人生を決定的によい方に変えたのです。
快適な世界にいるとだめになる
いいですか。快適な状態の中にいると、あなたはだめになるのです。不快な状態こそが、成長する唯一の道です。
もちろん、あの日、誰かが、「クビになってよかったね。だって、しっかり成長できるからね」なんて私に言ったら、その人をなぐっていたと思いますけどね。
ですが、ほどなくして、私は、新しい人生を切り開く気になりました。
その後、数年かけて、私の新しいチームと、友達であるネブラスカ大学の教授といっしょに、不快な状態と成長の関係を表すことができました。
私たちはこれを「成長の輪(Growth Rings グロウス・リングス)と呼んでいます。
成長の輪とは?
成長の輪は、人を成長させたり、逆に成長を阻害したりする環境を表しています。
職場から何からすべてにあてはまります。金魚鉢も。
金魚鉢のサイズが、その金魚の環境を決めます。金魚鉢の中にいる限り、とても安全ですが、制限もありますよね。
もし、もっと過酷な環境、たとえば、小さな池に放たれれば、金魚は大きく成長できるかもしれません。ほかの魚に食べられる危険もありますが。
この金魚が皆さんなのです。皆さんが働いている環境や生きて活動している場所が、皆さんの成長を決めます。
人が成長しない場所
成長の輪の最初の輪は、Stagnation(停滞、スタグネーション)です。
活発な動きがなく、ろくに成長しない環境です。たくさんの手順や許可を得なければならない場所で、創造性を発揮できず、独立した考えや行動もありません。
我が国の州や連邦政府の環境がこれです。
停滞の逆の状態はカオス(大混乱、無秩序)です。カオスにおいても、成長や目覚ましい活動はありません。
カオスは、内的・外的できごとや条件のせいで起きます。
会社が合併されたり、自然災害がおきたり、9-11のようなできごとのあとにみられます。
まったく予想もコントロールもできない状態です。
快適さのワナ
停滞のつぎの輪は、もっとも望ましい環境である「秩序ある状態(Order オーダー)」です。
自分のやっていることや、起きていることがわかっていて、予想された結果がもたらされる場所です。
しかし、「秩序」における快適さが、この環境をとても危険なものにします。
というのも、ずっと同じことをやっていたり、同じ考え方をしていると、成長が止まってしまうのです。
これはどんな生き物にもあてはまります。
たとえば、うちの犬。アスペン(犬の名前)が、平日も週末も、快適さばかり求めていたら、セラピー犬になって、人々とふれあうことはなかったでしょう。
ですから、「秩序」がみなさんの思考や行動を止めてしまう前に、先ほども言いましたが、「成長は不愉快な状態のときにしか起きない」ということを思い出してください。
もし、不快な状態がなかったら、私はいまこのステージに立っていませんでしたからね。9年前に秩序ある世界が壊れたからこそ、いま私はここにいます。
もちろん、TEDに出るために、わざとクビになれ、なんて言っているわけではありませんよ。
複雑性とは?
不愉快な状態になったときは、複雑性(Complexity コンプレクシティ)の輪に入っています。
秩序が変わった状態です。秩序が変わると、どんな結果になるのか予想できません。予想できないから、人は不安や不快を覚えるのです。
この不快さに対する本能的な反応は、単に「いやだなあ」ではなく、「絶対いやだ、やめて!」という強いものです。
この不快さに意識をむければ、強くなれます。そして、適切な場面では、「秩序」よりも「複雑性」を選ぶべきなのです。
わざわざ不愉快な状態になれ、というのは奇妙に聞こえるでしょうし、ふつう人はそんなことはしません。
けれども、この居心地の悪さを大事にしたほうがいいのです。この状態にいるときにしか、成長できませんからね。
成長できる3つのきっかけ
人生には、成長を促す「複雑性」に入ることができるきっかけが3つあります。
1.外部からの強制
私がクビになったとき、「複雑性」の中に入るしかありませんでした。
このような時、その人がどれぐらい成長できるかは、そのできごとに対する反応で決まります。
私はずっと怒ったままでいることもできたし、クビになったことを何かの言い訳にすることもできました。
ですが、私は、自分は人に使われるより、自分の会社を作るほうが向いているとわかり、思い切って自分の事業を起こしました。
2.誰かのサポートによって
両親、先生、コーチ、上司のおかげで、成長できるケースです。
自分だけだと、意識的にしろ、無意識的にしろ、人は、ラクで居心地のいい状態にとどまろうとします。
だから、誰かに背中を押してもらって、複雑性の中に入って、成長するのです。
私の一番下の娘は、高校時代、テニスを熱心にやっていました。娘のコーチは、「成長の輪」を知っていました。
あるとき、コーチに電話して、娘が徹底的に「複雑性」の中に突き落とされてからどのぐらいになるのか、聞いたことがあります。
コーチは、「きのうかな。コートの中で泣いていたからね」と答えました。
これを聞いて、「それは確かに複雑性の中に入った」と思いましたね。娘はものすごく強くて、決して泣いたりしない子なんです。
こんなとき、娘を不快にさせているものを取り除き、ハッピーな状態にしたい、と思うものです。
が、それをしてしまうと、娘は「複雑性」から「秩序」に戻ってしまうので、せっかくの成長のチャンスを奪ってしまいます。
コーチは、「でもね、彼女を複雑性に追いやるまで、先月より今月のほうがずっと苦労したよ」と言いました。
居心地の悪さが娘を成長させたのです。
3.自分で自分をプッシュする
タフな職場や環境にいなくても、停滞にとどまってしまいそうなときも、自分で自分を「複雑性」の輪に押しやることができます。
1955年3月2日、アラバマ州のモンゴメリー。 黒人の女子高生が市バスで、後ろにある黒人専用の座席に座っていました。
だんだん混んできたので、彼女は白人に席をゆずらなければなりませんでした。
このとき、モンゴメリーには「秩序」があったのです。
ですが、15歳のクローデット・コルヴィンは、学校で黒人の歴史を学んだところで、これまでのやり方にうんざりしていました。
だから、この日、彼女は、モンゴメリーの秩序を無視して、席を立ちませんでした。
その結果、アメリカや、法律の世界が複雑性の中に入ったのです。
ローザ・パークスより9ヶ月前に、15歳の少女が同じことをして、手錠をかけられ、バスから引きずりおろされ、刑務所に連れていかれました。
初めに席を立たなかったのはコルヴィンで、彼女は最高裁までいった裁判の法廷に、証人として立っています。
人種問題を論じるためにコルヴィンの話を持ち出したのではありません。秩序ある環境の例としてあげたのです。
彼女が秩序を乱したので、人々やコミュニティ、法廷は、複雑性という居心地の悪い状態に入りました。
誰かが秩序を乱すと同じように大きなインパクトがあります。
セリーヌ・ジョンズ教授は、最近の本で、この考え方をうまく書いています。
常に「秩序」という扉は、雑然とした状況を隠してしまう。
その世界は、何とかして外に出ようとし、人生は人が思ったようにはできていないことを私たちに教えてくれるものだ。
私たちは、乱れた世界を体験するべきだ。それ以外の方法では学ぶことができないのだから。
ですから、皆さんが恐れるべきことは、「秩序」なのです。
秩序を乱した人々、キリストやガリレオ、クローデット・コルヴィンやアスペン(犬です)のトレーナーを思い浮かべてください。
私たちは、秩序をこわして、複雑性を持ち込んだ人々や、事件を恐れるべきではありません。
居心地の悪さを積極的に受け入れれば、自分自身だけでなく、この世界も成長するのです。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味
be on a roll 好調で、うまくいって
epiphany 神の出現;(真理の)突然の出現、直感的把握、ひらめき
minutia 取るにたりない細かい点
visceral 直感的な、本能的な
成長したい人向けのほかのプレゼン
スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式のスピーチからミニマリストが学んだこと
言い訳を作り出してしまう私たち:あなたに夢の仕事ができない理由(TED)
人生を台無しにしたいならこれをやれ~夢をダメにする5つの方法(TED)
自分の能力を自分で見限ることの恐ろしさ、できると信じることの素晴らしさ(TED)
逆境はチャンス。最高の人材の履歴書が必ずしも理想的でない理由(TED)
居心地の悪い状態にあえて飛び込む
このプレゼントを取り上げたのは、「物がたくさんないと安心できないから、やたらと買い置きやストック品をためこんでいる人がいる、そのせいで家が物だらけなのだ」ということに気づいたからです。
この記事を書いたときに⇒ペットがいるから家が片付かない問題の解決法、次はコンフォートゾーンの動画を取り上げようと思いました。
過去には、お気に入りの商品が買えなくなったときのためにストックしている、というお便りをいただいたこともあります。こちらで紹介⇒買えなくなるのが怖くて買いだめする人へ。ストック癖を治す5つの方法。
新品のタオルや化粧品を押入れにためこんでいる人も同じ心理かもしれません。
地震にあったときや、いつも買っている商品が廃番になったときは、秩序から複雑性に入った瞬間です。大きな地震だと、カオスに入ってしまいますが。
災害や製造停止は複雑性に入るきっかけの1番ですね。
動画に出てきたセリーヌ・ジョンズ教授の言葉は、いまいちわかりにくいのですが、the wilderness とは、このような、人間には予期できない、さまざまなできごとのことだと思います。
どんなに事前に一生懸命考えたり、研究したり、準備したとしても、予想外のできごとが、あちこちで、予想もしなかったタイミングでばんばん起きるのが人生なのです。
生きている限り、これは逃れられないことです。
「こうなったらどうしよう。そうなったときも、何とかいまの秩序を保ちたい、だからとにかく買いだめしよう」という発想は捨てたほうがいいです。
どんなに、コントロールしようと思ってもできないのですから。
先のことをコントロールしようと思って、いまの生活が損なわれていたり、不安と心配で胸がいっぱいになっていたら尚さらですね。
それに、複雑性に入ったときは、当人の受け取り方と行動次第で、大きく成長できます。
地震をきっかけに、シンプルライフにした、という人も多いです。
ふだん勇気がなくて、コンフォートゾーンから出られない人には、願ってもみないチャンスかもしれません。
そう考えれば、もう、たくさん買いだめしたいとか、ストックで押入れや洗面所を埋め尽くしたいなんて、思わないんじゃないですか?
「それでも、やっぱり買ってしまう」という人は、少しずつコンフォートゾーンから出る練習をするといいですね。
10個買いだめしていたものを半分にする、次はその1/4にする、そして様子をみる、なんてどうでしょうか?
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安全圏にいると、安全ではあるが、なんの変化もないので、成長も進化もない、停滞する、というのはどんなことにも言えます。
私はあまり自分をプッシュしてこなかったので、この程度なんだな、とプレゼンを聞いてしみじみ思いました。
英語がへたなのも、ネイティブと話して間違える恥ずかしさや気まずさに負けて、できるだけ話さないようにしてきた結果です。
誰のせいでもない、自分のせいなのです。