対話する女性

TEDの動画

言語はどんなふうにして私たちの考えを形作るのか?(TED)

言葉に関するTED動画を紹介します。

タイトルは How language shapes the way we think (言語はどんなふうに私たちの考え方を形作るのか?)邦題は「言語はいかに我々の考えを形作るのか」。

プレゼンターは、認知科学者(cognitive scientist)の レラ・ボロディツキー(Lera Boroditsky)さんです。

人が話す言葉・言語が、その人の考え方にどんなふうに影響を与えているか、わかりやすい例をあげて語っています。誰もが言葉を使ってこの世界を認識しています。世界観を変えたい人、視野を広げたい人の参考になるプレゼンです。



言語はいかに我々の考えを形作るのか?:TEDの説明

There are about 7,000 languages spoken around the world — and they all have different sounds, vocabularies and structures.

But do they shape the way we think? Cognitive scientist Lera Boroditsky shares examples of language — from an Aboriginal community in Australia that uses cardinal directions instead of left and right to the multiple words for blue in Russian — that suggest the answer is a resounding yes.

“The beauty of linguistic diversity is that it reveals to us just how ingenious and how flexible the human mind is,” Boroditsky says. “Human minds have invented not one cognitive universe, but 7,000.”

世界にはおよそ7000の言語があります。みな、異なる音、語彙、構造を持っています。

言語は私達の思考を形作るのでしょうか? 

認知科学者のレラ・ボロディツキーは、いくつか言語の例をあげます。オーストラリアの先住民のあるコミュニティでは「左と右」のかわりに方位を使い、ロシア語では「青」を表現するのに複数の言葉を使います。

ということは、答えはイエスです。

ボロディツキーはこう語ります。「いろいろな言語があるのが素晴らしいのは、それが、人の心がいかに巧妙で柔軟性があるかを示しているからです。人の心は一つの考え方だけでなく、7000の考え方を生み出したのです」。

TEDWomen2017でのプレゼンなので、聴衆はすべて女性です。長さは14分13秒。日本語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Lera Boroditsky: How language shapes the way we think | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

言葉があるから知識を伝えられる

私は言葉を使って皆さんにお話します。人間の持つ魔法のような能力の一つですね。複雑な思考をお互いに交換できます。

いま私が行っているのは、口で音を作りだすこと。それが空気を振動させて、皆さんのもとに届きます。

この音を聞いた皆さんは、振動をある考えに変換します。

この能力があるから、自分の考えを場所と時を越えて、伝えることができるのです。

奇妙な考えを皆さんの心に吹き込むこともできます。「図書館で量子力学について考えながらワルツを踊っているクラゲを思い浮かべてください」と言えば、言葉を使って、こんなふうに考えてもらうこともできるわけです。





古くからある疑問:言葉は人の思考に影響を与えるのか?

世界ではおよそ7000の言語が話されています。すべて、音や語彙、構造が異なっています。

この事実は、「言語は私達の考え方を決めるのか?」という質問につながります。古くからある問いです。

神聖ローマ帝国の皇帝、シャルルマーニュは、「第2言語をもつことは、2つ目の魂を持つことである」と言いました。

一方、シェークスピアは、ジュリエットのセリフとしてこう語っています。「名前が何だというの? どんな名前で呼ぼうともバラは甘い香りがするわ」。

何千年も前からある議論ですが、最近まで、決着をつけるデータがありませんでした。最近、私の研究所をはじめ、世界中でこの問題についてリサーチしています。

答えを見つけるための科学的データが揃いつつあるのです。いくつか例をお伝えしますね。

左右のかわりに方位を使う先住民

オーストラリアの先住民の1つ、クウク・サアヨッレ族の言葉を見てみましょう。彼らは、ケープ・ヨークのもっとも西側のプーン・ブラーウに住んでいます。

クウク・サアヨッレ語では、「左」や「右」という言葉を使いません。

かわりに、方位を使います。北、南、東、西です。あらゆることにこの方位を使います。

「南西の足にアリがついてるよ」なんていうのです。挨拶(ハロー)も、クウク・サアヨッレ語では、「どちらの方に行くの?」という問いかけに、「北北東の方です。あなたは?」と言ったりするのです。

会う人ごとに、自分が向かっている方角を言うわけです。その結果、彼らはとても方角に強いです。

昔、人間の能力として考えられていた以上に。昔は、人間はくちばしやうろこに磁石がないから、ほかの動物より、方角に弱いとみなされていました。

けれども、言葉や文化のせいで、方角に強くなることもできるのです。使う言語によって、認知のちからに大きな違いができるということです。

言語によって時間の認識が変わる

時間の認識にも大きな違いがあります。

こちらは年齢の違う祖父の写真です。英語話者にこの写真を並べるように言うと、たいてい左から右に並べます。

年代の違う顔写真

文章を書く向きに関係があります。ヘブライ語やアラビア語の話者は、右から左に並べるかもしれません。

「左」と「右」という言葉を使わないクウク・サアヨッレ族はどうするでしょうか? 

ヒントを言いますね。南を向いているときは、左から右に並べます。北を向いているときは、右から左です。

東に向いているときは、向こうから手前です。つまり、東から西に並べるわけです。

彼らは身体を軸にしません。大地に合わせて時間の向きが決まるのです。

身体の向きが変われば、時間の向きが変わります。とても自己中心的です。自分の身体の向きが変わると、時間の進む方向が変わるのですから。

クウク・サアヨッレ族の時間の流れは見ている景色で決まるのです。時間に対する考え方が大きく違います。

数に関する考え方も変わる

別の例を見てみましょう。

ペンギンの親子

写真の中のぺンギンは何羽いますか? 皆さんは、1,2,3と数えていき、最後の番号である8がペンギンの数だと考えます。

子供の頃教わった方法です。数とその使い方を学びました。ちょっとした言語的スキルです。

言語によっては、このようには数えません。対応した数を表す言葉がないからです。「7」や「8]がない言語があります。

こうした言語を話す人々は、量を正確に把握するのが苦手です。

このペンギンと同じ数のアヒルを結びつけるように言うと、皆さんは数えてそうするでしょうが、そのような言語的スキルがない人たちはそうできないのです。

色の認識も変わる

言語によって色の認識が変わることもあります。

色を表す言葉がたくさんある言語もあれば、「薄い」「濃い」と少しの言葉で表す言語もあります。

英語なら、今、スクリーンに出ている色をすべて表すブルー(blue)という言葉がありますが、ロシア語では一つの言葉はなく、薄い青を「goluboy」、濃い青を「siniy」として区別します。

4種類の青

生涯にわたって、2つの色を区別するのです。これらの色を区別するテストをするとロシア語話者は、薄い青と濃い青をより早く判別できます。

色を見ているときの脳を調べると、薄い青から濃い青に変わるとき、この2つを別の言葉で区別している人は、カテゴリーが変わって驚いたかのような反応をします。

英語話者にはこのようなカテゴリーの切り替えや驚きは認められません。カテゴリーは変わっていないからです。

名詞の性別の違いの影響

言語には構造的に奇妙な点がいろいろあります。たとえば、文法上の性の区別です。

名詞に男女の性別の区別がついている言語がありますが、どちらの性別になるかは言語によって違います。

ドイツ語では「太陽」は女性名詞ですが、スペイン語では男性名詞です。月はその逆です。

こうした区別は人の考え方に影響を与えるでしょうか? ドイツ語話者は太陽を女性的なもの、月を男性的なものとしてみるのでしょうか?

実はそうなのです。ドイツ語話者とスペイン語話者に、このような橋を形容してもらいました。

「橋」はドイツ語では女性名詞、スペイン語では男性名詞です。ドイツ語話者は橋の説明をするとき、「美しい」とか「優雅」といった女性的な言葉を使う傾向があります。

スペイン語話者は、「力強い」「長い」といった男性的な言葉を使いがちです。

できごとの捉え方も変わる

言語によって、できごとを表す言い方も違います。

たとえば、こんなケース。

壺が落ちる写真

英語では「彼は壺をこわした」と言えますが、スペイン語では「壺が壊れた」と言うほうが普通です。

事故を表すとき、「誰がやった」とは言わないのです。英語では、「自分の腕を折った(I broke my arm)」と言うことさえあります。

多くの言語では、このような言い方は、狂った人が、自分で自分の腕を折ろうとして成功した場合に使います。事故なら別の言い方になります。

違う言語を使う人は、別のものに意識を向けるのです。同じ事故を英語話者とスペイン語話者に見せると、英語話者は誰がやったのかよく覚えている、と考えられます。

「彼が壺をこわした」という言い方をするからです。

スペイン語話者は、もしそれが事故なら、誰がやったのかはさほど記憶せず、それが事故だったことをよく覚えているでしょう。

意図について、より覚えているのです。

つまり、2人の人が同じ犯罪を目撃しても、違うことを記憶します。これは目撃者の証言や、責任、罰に影響があります。

英語話者に誰かが壺をこわしている場面を見せ、「壺がこわれた」とは言わず、「彼が壺をこわした」と言えば、自分の目でその場面を見ていても、こわしたことを非難し、責任を問う結果になりやすいでしょう。

論理的な思考も、言語の影響を受けるのです。

言葉が思考に与える影響はさまざま

言葉が思考に与える影響はさまざまです。

空間や時間の捉え方、数と数学への影響など。数えないなら、代数もできないので、この会場を設計したり、この講演を放映することもできないでしょう。

数字というちょっとした仕掛けが大きな認知の世界への足がかりになります。

色の例で見たような、言語には早い時期からの影響もあります。ごく単純で基本的な知覚的判断です。

日常的にいつも行っている判断にも、言葉が影響を与えています。言語には幅広い影響力があるのです。

文法的な性の違いは、ごささいなことに思えるかもしれませんが、すべての名詞にかかわっているので、名詞で表すあらゆるものの考え方に影響があります。

どこに重点を置くかにも影響があるとお伝えしました。責任、罰、目撃者の記憶に。日常生活で重要なことです。

言語の多様性の素晴らしさとは?

言語の多様性が素晴らしいのは、人の心がとても巧妙で柔軟性があるということを示しているからです。人間の心は、認知的な宇宙を一つではなく7000個生み出したのです。

世界で話されている言葉は7000ほどですが、もっと作ることもできますね。言葉は生きていて、必要に応じて、磨きをかけ、変えることができます。

悲しいことに、私たちはこの言語的多様性を失いつつあります。週に一つずつ言語が失われていて、今後100年間に、世界の言語の半分がなくなってしまうとみられています。

さらに悪いことは、人間の心や脳に関する情報のほとんどは、アメリカの英語話者の大学生に対する実験が素になっている、ということです。

ほとんどの人類が除外されていますね。

よって、人の心についてわかっていることは、実は、とても狭い世界の偏ったものなのです。科学はこの点を改善していかなければなりません。

異なる言語話者の思考の違いは、よその人がどんなふうに考えるかという話ではなく、皆さんがどんなふうに考えるのかという話です。

皆さんの使う言葉が、考え方にどんな影響を与えるのか?

「なぜ私はこんなふうに考えるのか?」「どうしたらもっと違った考え方ができるのか?」「自分はどんな考えを生み出したいのか?」

こんなことを自分に問いかける機会を与えてくれるのです。

//// 抄訳ここまで ////

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人は思い込みの強い生き物

言語によって物の見方や世界の切り取り方が違うとは、よく言われることです。

たとえば、現代日本語では虹は7色ですが、フランス語では5色、英語では一般的に6色(学術的には7色)。「虹」という呼び名も、日本語では、その語源は、天空にのぼったヘビであり、英語のレインボー(rainbow)は、雨の弓。

フランス語では、アーク・アン・シエル(arc-en-ciel)で、空にかかる弓です。

こういう違いを調べるとおもしろいのですが、言語の話をするために、この動画を紹介したわけではありません。

ボロディツキーさんが話していたように、自分の考え方のクセについて考えてもらいたいと思って選びました。

汚部屋に悩んでいる人は、そこにあるものがすべて大事な物に見えて、「捨てられない」と言ったり、自分の能力を自分で見限って、「私は片付けられない人」と言ったりします。

つまり思い込みが強いわけです。

こういう考え方は、ある一つの認識の枠内で起こっているだけであり、実際は、人間の脳は機能的には、最低でも7000種類の認識の仕方ができるのです。

ほかにもいろいろな可能性があるのに、「こうに決まっている」と決めつけて、自分を苦しめてしまうのは残念なことです。

ちょっと意識すれば、別の可能性に気づくことができるのに。

自分の使う言葉に意識を向けてみる

以前、言葉が思考を作ると書いたことがあります⇒断捨離中に言ってはいけない12のNGワード。言葉が思考を作り現実を変える。

実際、ふだんその人が口にしている言葉(特に口癖)が、その人の思考を限定してしまう面があるのです。

当ブログでは、読者のお便りや相談メールをたくさんシェアしています。

そういうのを読むと、「まあ、この人すごいネガティブ思考」「足りない部分にばかり目を向けている」「典型的なテイカー(奪う人)だわ」「人のせいにばかりしている」「言い訳だらけだ」と気づくことがあるでしょう。

これは、他人のことだからわかるのです。

意外と自分のことは自分で気づきません。昔からの思い込みの枠内で思考している(または、何も考えていない)からです。

「捨てられない」「片付かない」と悩んでいる人は、ふだん自分がどんな言葉を好んで使い、どんな物の言い方をし、どんなふうにロジックを組み立てているか考えてみてください。

そうすることで、自分の思い込みを見つけることができます。

あるのが当たり前だと思っていた物や、そうするのが当然だと思っていたことが、いまの自分の足かせになっているのかもしれません。

使う言葉を変えて、視野を広げれば、そうした思い込みも、あっさり手放せるのです。





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