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新年度を迎えて、「今年こそ変わりたい」「もっと前向きに生きたい」と思っている人も多いでしょう。
そんなとき、つい手に取ってしまうのが自己啓発本です。
私自身、若い時は何冊か自己啓発本を読みました。買っただけで積読本になった本もあります。
まあ毎週TEDトークを紹介しているくらいですから自分や人生をより良くすることには興味があります。
でも自己啓発本が自分のためにならない時も多いんです。
今回ご紹介するのは、そんな「自己啓発あるある」に本気で向き合った女性のTEDトークです。タイトルは Why self help will not change your life(なぜ自己啓発はあなたの人生を変えないのか?)
イギリス人のジャーナリスト、Marianne Power(マリアンヌ・パワー)さんは、自己啓発本の愛読者でしたが、1年間で7冊の自己啓発本を選び、それぞれに書かれているアドバイスを忠実に実践するという実験を始めたのです。
飛行機から飛び降りたり、スタンドアップコメディに挑戦したり、まさに“人生を変えるチャレンジ”の連続。
最初は順調に見えた彼女のプロジェクトでしたが、やがて予想もしなかった方向へ進んでいきます。
このトークは、エピソードが豊富で情報量が多いので、前後編に分けて紹介します。
今回は【前編】として、彼女が実際に試した7冊のうち、前半の4冊について語る部分を中心にお届けしますね。
なぜ自己啓発本は人生を変えないのか?
収録は2019年11月、動画の長さは16分20秒。
☆TEDの記事の説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
とてもユーモラスなプレゼンです。前編では8分15秒あたりまで訳します。
自己啓発本を読む人生
数年前、私の人生はこんな感じでした(スライドの写真を見せて説明)。でも本当は、こういう人生を送りたかったし、できれば週末はこんなふうに過ごしたかったんです。
そこで私は考えました。「この理想の人生にたどり着くには、自己啓発本を読めばいいんじゃないか?」と。
みなさんの中にも自己啓発本を読む人っていますよね? 一方で、「あんなの役に立たない」と思っている人もいるかもしれません。
私は昔からずっと読んでいました。でも友達にはよくからかわれていました。『道は開ける』を3回も読んだのに誰よりも心配性だったから。
紙の上では、私は「いい人生」を送っていました。フリーランスのジャーナリストとしての仕事があり、家族や友人もいて、健康にも恵まれていた。でも心の中では、迷子になっていました。
36歳になった頃、周囲の友達はみんな、結婚して、子どもができて、家を買って、と人生を進めているのに、私はずっと同じところに立ち止まっているような気がしていたのです。
しょっちゅう落ち込んでいて、借金もあって、いつもひとり。正直言って、私は「自己啓発本なんて役に立たない」ということを身をもって証明しているような人間でした。
やってみなければ変わらないと思った
でも私はこう思っていたんです。「もし、書かれていることを本気で実践すれば、人生は本当に変わるんじゃないか」って。
というのも、それまで私は、自己啓発本に書かれていることを一度もちゃんとやったことがなかったからです。
読んではいました。
たとえば、「朝5時に起きて瞑想すれば、人生が劇的に良くなる」とか、「もっとポジティブに考えるべき」なんて書いてあると、そうなった自分を想像してワクワクしていたんです。
でも結局、本を読み終えるとまたワインを飲みながらNetflixを見るだけ。現実の生活はまったく変わりませんでした。
そんなある日、二日酔いの日曜日に、ふと思いついたんです。
1年間かけて、本を“読む”だけじゃなく、“やってみよう”と。
つまりこうです。1カ月に1冊ずつ自己啓発本を選んで、その本に書かれていることを、すべて、忠実に実践してみる。
本当に自分の人生は変わるのか? それを自分の身で確かめてみようと思ったのです。
1冊目:Feel the Fear and Do It Anyway(恐れを感じても行動せよ)
🔹怖いことを毎日1つやってみたら?――人生で初めて飛び込んだ挑戦
最初に選んだのは、『Feel the Fear and Do It Anyway(恐れを感じても行動せよ)』という本でした。
ルールはシンプルです。充実した人生を送りたいなら、毎日ひとつは怖いことをしろ。
私は真面目にこのルールを実践しました。
飛行機から飛び降りました。
スタンドアップ・コメディに挑戦し、ヌードモデルにもなりました。
さらには、「死ぬより怖い」と言われる人前で話すことにも挑戦したのです。
この1カ月で、人生で一番多くの「怖いこと」をしました。
スタンドアップもプレゼンも、意外とちゃんとできました。
それで気づいたんです。「自分って、思っていたよりずっといろんなことができるんだ」と。
小さな「怖いこと」を乗り越えるのも意外と気持ちいいという発見もありました。
たとえば、縦列駐車や銀行の明細を開くことなど、いつも先延ばしにしていたことをやるだけで、心がすっと軽くなりました。
私のプロジェクトは、最高のスタートを切ったと思いました。
2冊目:The Secret(ザ・シークレット)
🔹「願えば叶う」を信じてみた――10万ポンドの小切手と高級車の試乗
次に手に取ったのは、あの有名な『The Secret(ザ・シークレット)』です。
ご存じの方も多いかもしれません。
この本は、「人生で欲しいものは、信じればすべて手に入る」というメッセージを強く打ち出しています。
核にあるのは、引き寄せの法則です。
つまり、「あなたが日々何を考えているか」が、現実を作っているわけです。
たとえば、請求書ばかり気にしていると、ますます請求書が届くけれど、「小切手がどんどん届く!」とイメージしていれば、お金が入ってくるという理屈です。
実際、ザ・シークレットの公式サイトでは、空白の小切手のテンプレートが配布されています。
この小切手に自分で金額を書き込み、宇宙にお願いするのです。
私はさっそく印刷して、「10万ポンドください、宇宙さま」と書き込みました。
それが現実になるのを待つ間に、次のステップに進みました。高級車選びです。
本にはこう書かれていました。
「夢の車があるなら、試乗しなさい。高級レザーの感触や、ハンドルを握る自分を五感でイメージするのです」
というわけで、私は高級車のショールームに行き、素敵なクラシック・メルセデスを試乗させてもらいました。
帰りはいつも通りバスで帰宅しました。
3冊目:Rejection Therapy(リジェクション・セラピー)
🔹毎日断られることに挑戦――恐れの正体と、小さなふれあい
この頃になると、家族が私の行動をちょっと心配しはじめました。
「ポジティブ思考ってこういうことだよ」とアイルランド人の母に説明したら、「つまり、自分をごまかすってこと?」と言われました(アイルランド訛りで真似したら母に怒られました)。
妹にはこう言われました。「お姉ちゃん、頭を開きすぎて脳みそが落ちるんじゃない?」
そこで私は、少し現実に戻るために、リジェクション・セラピーというものに挑戦しました。
これは、かなり過激な自己啓発のゲームです。
ルールはこうです。毎日、誰かに断られる(拒絶される)体験をすること。
これはとてもキツいです。
でも、このセラピーではこう考えています。
私たちは皆、「拒絶されること」への恐れを抱えて生きている。その恐れがあるせいで、本当は欲しいものに手を伸ばせなかったり、大事なことに挑戦できなかったりする。
だったらいっそ、断られることを日常化して慣れてしまえばいい。そうすれば、その恐れを乗り越えられるようになる。
拒絶に慣れる練習
毎日「断られる」ことを続けていくうちに、少しずつ気づいたことがありました。
拒絶って、もちろん全然楽しくはないけれど、思ったほど致命的なものじゃないんです。
そして、ときどきですが、「絶対にノーと言われるだろうな」と思った相手が、意外にもイエスと言ってくれることもあります。
とはいえ、最初はほんとうに辛かったです。
私はまず、街で見知らぬ人にニコッと笑って「こんにちは」と言う小さなチャレンジから始めました。
でもここはロンドン。そんなことをしたら 逮捕されるかもしれません。
冷たい無表情で通り過ぎる人たちを見て、想像以上に心がズーンと重くなりました。
彼らのことは知らないし、私を知らないのもわかっている。
それでも、あんなふうに無視されると、拒絶された感じがして傷つくんです。
拒絶がこたえるわけ
なぜかというと、私たち人間は、集団からの承認にとても敏感にできているから。
私たちの祖先が生きていた洞窟時代には、集団の中で認められなければ、生き延びることができませんでした。
その名残で、現代でもちょっとした拒絶たとえば、メールの返事が来ないだけでも——心がチクリと傷みます。
ティーンエイジャーとの交流
それでも私は、このチャレンジを続けました。
ある日、ロンドンの中心部にあるバスケットボールのコートの前を通りかかったとき、何人かのティーンエイジャーがゲームをしているのを見かけました。
私はバスケなんて一度もやったことがなかったけれど、思いきって声をかけてみたんです。
「一緒に混ぜてもらってもいい?」って。
もちろん、「は? 無理」と冷たくあしらわれると思っていました。
でも、そうではありませんでした。
彼らは私にシュートの打ち方を20分かけて丁寧に教えてくれました。
その後、私が「実は今、リジェクション・チャレンジをしていてね」と話すと、彼らも、「女の子に話しかけて振られた後、友達のところに戻るときの気まずさ」について語ってくれました。
まさか、15歳の男の子とナンパ術について語り合う日が来るなんて思ってもみませんでした。
でも、このちょっとした会話がとても温かくて、忘れられない時間になったんです。
仕事でも挑戦してみる
そのうちに私は、「プロとしての拒絶」にも挑戦してみようと思いました。
私はフリーランスのジャーナリストとして、これまで主に「マスカラ」や「ストッキング」の記事を書いて生活してきました。
だから、いちばん突飛で、断られるに違いないことを考えました。
そこで思いついたのが、全国紙にコラムニストとして売り込むことです。
うまくいくはずないと思いつつ、いくつかの新聞社にメールを送り、反応を待ちました。
でも、まさかの返信があったんです。
今では、アイルランドの新聞に毎週、自分のコラムを載せてもらっています。
紙面のスペースはマッチ箱サイズくらいの小さなものだけれど、それでも立派に私の場所です。
4冊目:Tony Robbins(トニー・ロビンス)のセミナー体験
🔹火の上を歩いて、現実に戻る――“ピーク・ステート”の代償は?
いろいろうまくいってるし、ここはひとつ「火遊び」でもしてみようかしら。そう思った私は、トニー・ロビンズのイベントに参加しました。
ご存じの方もいるかもしれませんが、トニー・ロビンズのセミナーは、数千人が集まる巨大イベントです。
そこで彼は、参加者を「ピーク・ステート」という、「何でもできる気がする状態」に一気に引き上げます。
その後、燃えている炭の上を走ります。
実際に私もやりました。素足で、火の道を歩きました。
その週末はもう最高でした。
「自分はなんでもできる!」「火の上も歩ける!」「水の上だっていけるかも!」「いや、もしかして空も飛べる?」
そんな気分でした。
でも、3日後にはスーパーでクレジットカードが使えなくなりました。
もともとひどかった私の家計は、自己啓発でさらに悪化していたのです。
・・・続きは後編で紹介します。
夢中になると失うものもある
マリアンヌさんのチャレンジは、読んでいてとても面白いものばかりです。
飛行機から飛び降りたり、ヌードモデルをしたり、火の上を歩いたり。
普段だったら絶対にやらないことを、自己啓発本の言う通りに実践していく姿は、驚きの連続でした。
行動してみたら、意外とできる自分に気づいたり、思わぬ人たちとコミュニケーションが取れたり、よかったこともたくさんあったようです。
でもお金が一気になくなってしまいました。
自己啓発本にある極端なアドバイスを、そのまま忠実に実践できるマリアンヌさんは、とても素直で、まじめな人なのだと思います。
でもその真面目さが、かえって自分を苦しめることがよくあります。
自己啓発の沼にはまってしまったマリアンヌさんが1年が終わった後に何を学んだのか、続きは後編でお届けしますね。
今回プレゼンに出てきた自己啓発本
道は開ける 文庫版
- D・カーネギー,香山 晶
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- 発売日2016/01/20
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「リジェクション・セラピー」は、カナダ人のジェイソン・コームリー氏が2010年に考案したものです。書籍ではなく、もともとはカード形式の実践ゲームとして販売されていました。翻訳書は出ていません。