戦略を練る人。

TEDの動画

行動を変えるには、自分をうまく仕向けることが必要(TED)

行動を変えたい、新しい生活習慣を身につけたいと思う人の参考になるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、How to trick yourself into good behavior (よい行動をするように自分を仕向ける方法)です。

講演者は、行動科学の専門家、ボブ・ニース(Bob Nease)さんです。

そうするつもりはあるのに、なぜか、現実は違うことをしてしまう。それには理由があるんだよ、こうすればいいんだよ、というプレゼンです。



よい行動をするよう仕向けるには? TEDの説明

By now, we all know that people make lousy decisions and behave badly.

We eat the cake, wait until the last minute to do our taxes, and generally work against our own self-interest no matter how much we want to succeed.

So…what can we do to fight it? Behavioral scientist Bob Nease shares some tricks to align our good intentions with our actions.

人はみな、まずい決断をして、まずい行動をするものです。

ケーキを食べてしまうし、ギリギリにならないと確定申告の準備を始めないし、たいてい、自分の意図とは違うことをしてしまいます。どんなに望む行動をしたいとがんばっても。

では、どうしたらいいのでしょうか? 行動科学者のボブ・ニースは、自分のよい意図と、行動を一致させる方法をシェアします。

収録は2011年の11月です。長さは11分46秒です。字幕はありません。動画のあとに抄訳を書きます。

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

そうしたいと思うのにそう行動できない

行動を変えることについてお話します。

大切なことだと皆、わかっていますね。行動を変えるのは、とても難しいということも。

そうできない理由は、そうしたいという気持ちがないからではないのです。

そうしたい気持ちは十分です。ただ、実行に移せないのです。





オデュッセウスとカーダシアンの戦略

幸いなことに、有名人から学ぶことができます。ホーマーの叙事詩のヒーロー、オデュッセウスと、アメリカのキム・カーダシアン(有名なセレブ)です。

オデュッセウスとセイレーン

オデュッセウスとセイレーンの歌のことはみなさんご存知ですよね。

セイレーンは恐ろしい生き物です。すばらしい歌声をきかせますが、歌で船員たちを引き寄せ、船を難破させ、船員を殺します。

この誘惑を前にしたとき、オデュッセウスは、自身の意志の力に頼ったでしょうか?

違います。

オデュッセウスは、自分の意志だけではセイレーンにあがらえないとわかっていました。彼は、船員たちに、自分をマストにしばりつけ、耳にろうを入れ、そのまま進むように命じました。

その結果、セイレーンの歌声を聞きながらも、無事でいられました。

キム・カーダシアンのダイエット

キム・カーダシアンは、ダイエットに成功するためには、意志の力だけでは不十分だとわかっていました。そこで、オデュッセウスと似た戦略を使いました。

ライアン・シークレスト(アメリカの人気司会者)によれば、カーダシアンは、夕食に、なんでも食べたいものをオーダーしました。

それがハンバーガーにフライドポテトだったとしましょう。

彼女は、ハンバーガーをすぐに食べてしまい、ポテトに移りました。

しかし、もうこれ以上食べてはいけない、という時点で、ウインドウクリーナーのボトルを取り出し、残っているポテトにスプレーするのです。

信じられませんよね。

食べ物にクリーナーをスプレーして、毒にしてしまうなんて、気違いじみた行為です。

ですが、オデュッセウスもカーダシアンも、行動を変える方法をよく知っていた、と言えます。

自分の意志だけでは、行動を変えることはできないとわかっていたのです。誘惑に負けることを知っていたのです。

自分の意図どおりに行動するには、状況を変えるべきだとわかっていました。

意図と行動の不一致

つまり、よくない行為は、悪い意図から生まれた悪い行為ではなく、よい意図があったのに、そのとおりに行動できない結果なのです。

言い換えれば、自分の意図と、行動はなかなか一致しないのです。

同僚にうんざりしたときのことや、配偶者とけんかしたときのことを思い出してください。自分の行動に腹がたったときのことでもいいです。

そのときの自分の行動は、悪いことをしようという意図があって、そうしたのでしょうか? それとももっと本能的な反応だったのでしょうか?

なぜ、私たちは、自分でそうすべきだと思っていることをできないのでしょうか?

その答えは、統計の中にあります。

無意識と顕在意識の大きな差

脳の無意識の部分では、1秒に1億ビットの情報を処理しています。これは、ニューヨーク・タイムズの平日版にのっているデータと同じ量です。

脳内では、毎秒、ニューヨーク・タイムズと同じ量の情報を扱っているのです。

一方、顕在意識の部分、つまり、私たちが「心(mind)」と考えている部分では、50ビットの情報しか処理していません。

たった、50なのです。

無意識の部分が処理できる情報が、カップ1杯の砂糖だとしたら、顕在意識の部分が処理できる情報は、そのうちの1粒か2粒です。

脳は昔の環境に合わせて動いている

顕在意識の部分のデータ処理能力をあげる方法はないだろうか、と考える人もいるかもしれません。

数独やクロスワードパズルをやったり、胎児にクラシック音楽をきかせたりすれば、脳のパワーをあげることができる、と言われています。

そうかもしれません。

ですが、私たちの脳は、ずいぶん遠い昔、カロリー(食べ物)があまりない、危険がいっぱいの環境に適応しながらできました。

脳は、そういう環境に合わせて、すばやく、努力しなくても作動するようになっていきました。

何百万年もの進化を経てできたものが私たちの脳なのです。

50ビットという限界を受け入れる

ですから、私たちが何かをすることで、脳の動き方を変えるのは、とても難しく、ほとんど不可能とも言えるのです。

つまり、50の処理能力でなんとかしなければなりません。

データ処理能力をもっとあげようとするのではなく、日常生活で、50という限界を、受け入れたほうがいいのです。

もし、行動を向上させたいと思ったら、脳をだまして、そう仕向ける必要があります。

そうするために、いくつか、テクニック(mind hack)があります。

やりたい行動をするのを簡単にして

自分の意図する行動をたやすくできるようにします。できれば、自動的にできるようになるまで。

歯磨きを考えてみましょう。

誰でも、歯磨きすべきだとわかっています。実は、人類は数千年前から歯磨きしたほうがいいとわかっていました。

しかし、20世紀になって、ペプソデント(アメリカの歯磨き粉)が登場してから、みな、歯磨きをするようになりました。

どうしてか?

歯磨き粉の秘密

ペプソデントの中には、秘密の原料が入っていたのです。

ミントです。

ペプソデントを使って歯を磨くと、口の中に清涼感がひろがり、心地よい刺激があり、きれいになった気がします。

虫歯を予防するのは、気分がいいことをする副作用にすぎません。

効果的な避妊法

避妊具も同じ戦略を使っています。

長期的に効果があり、もとに戻すことができるもの、たとえばIUDや装着できるホルモンは、ほかの方法に比べて、少なくとも20倍は効果的です。

なぜか?

いったん、装着してしまえば、自動的に避妊できるからです。

もちろん、私たちは、意図する行動を自動的にすることはできません。そこで、ふたつめのテクニックです。

意図しない行動をするハードルをあげる

やるべきではない、と思う行動をするのをできるだけ難しくします。

私たちは、食事の問題をかかえています。食べすぎているし、よくない物を食べていますね。

脳が発達していたときは、それで理にかなっていました。

食べ物がろくになかった環境においては、食べられるときに、できるだけたくさん食べておいたほうがよかったのです。

しかし、時代は変わりました。

職場にはキャンディがあるし、家に変えれば、夕食のテーブルにマッシュポテトがあります。

この問題を解決するのは、思ったより簡単です。

誘惑を遠ざける

誘惑に満ちたものを、視界の外や、手に取れない場所に置くだけで、望む結果を得られます。

デスクの上にある透明の容器に入ったキャンディを、6フィート(およそ1メートル83センチ)先に置くだけで、食べるキャンディは、50%以上減ります。

マッシュポテトをテーブルからカウンターに移動させるだけで、食べる分が19%減ります。

ペットスマートチャリティーズの戦略

まちがった選択をしようとする人々を止める方法として、私が一番気に入っているのは、ペットスマートチャリティーズのやり方です。

ペットスマートチャリティーズは、ホームレスのペットを助けることを目的としている非営利団体です。

この団体は、「なぜ、寄付することが重要なのか?」といった情報を人々に浴びせかけたりはしません。

かわりに、意識的には50ビットの情報しか処理できない人々の脳に対して、「寄付しない」と「寄付する」のどちらかを選択させようとします。

「寄付しない」を選ぶと、少しばかり恥ずかしくなる仕組みが用意されています。

ペットスマートのレジをすませようとすると、スクリーンに質問が表示されます。

「ホームレスのペットを助けるために、寄付したいですか?」という質問の下に、それぞれ寄付する額が書かれたボタンが並んでいます。

1ドル、2ドル、5ドル、10ドル、というように。

その下に、ものすごく大きな文字で、「いいえ、しません(No Thanks)」があり、このボタンを押したら、列のうしろにいる人、全員に見えるようになっているのです。

よって、人々は寄付します。

2007年から2011年の不況の時期、国中のチャリティへの寄付額が、平均、3%落ちました。しかし、同じ時期、ペットスマートチャリティーズへの寄付金の額は、80%以上あがっています。

以上の2つの戦略はとても効果的です。

50ビットという限界を持つ私たちが、よい意図から生じる行動をする助けをしてくれます。

タオルを何回も使ってもらうには?

多くのホテルでは、一度使ったタオルをまた使いたかったら、ラックにかけるようにお客に指示しています。

新しいタオルが欲しかったら、使ったタオルを床に投げるようになっています。

いい考えに思えますが、間違った選択をするために、重力を使う(ただ、放り投げる)のは簡単すぎます。

新しいタオルをリクエストする方法をもっと難しくしたほうがいいです。

使用済みのタオルは、バスルームの外にある、ふたつきの入れ物にいれることにしたほうがいいでしょう。

意図と行動には常にギャップがある

重要なのは、50ビットの限界のせいで、人の意図と行動は、常にギャップがつきまとう、ということです。

人はしばしば、このギャップに気づいていません。

特に自分と意見が違う人に対しては。

よくない行動をした人は、最初からそういう意図があったのだ、と考えがちです。そうではありませんね。

自分もそうできないのですから、他の人だってできません。

筋の通った考えや善意があったのに、悪い行動をしてしまうことがある、ということをもっと理解すべきです。

難しい練習ですが、そう考えることができれば、大きなものを得られます。

生きるのに、行動は不可欠です。

私たちの限界を受け入れて、よい意図を、よい行動につなげるストラテジーを使いましょう。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

日常よくつかうカジュアル表現の多い、親しみやすいプレゼンだと思います。

gobs of たくさんの

grit  根性、気骨

polish off  (仕事、食事などを)さっさと片付ける、すばやく平らげる

be onto something   いいところに気づいて、~に感づいて

poky  だらだらした、みすぼらしい

measly  取るに足りない、わずかな

througput   一定時間あたりのデータ処理能力、スループット

part and parcel  本質的な部分、かなめ、重要なもの

hack  ちょっとしたテクニック

break a sweat  汗をかく⇒努力する

ボブ・ニースさんの著書、The Power of Fifty Bits: The New Science of Turning Good Intentions into Positive Results (50ビットのパワー:よい意図をポジティブな結果に結びつける新しい科学)です。

行動を変えるのに参考になるほかのプレゼン

大々的に変えようとしないこと。小さな習慣から始めよう(TED)

悪い習慣を断ち切る簡単な方法(TED)マインドフルネストレーニングのすすめ。

スマホやYouTubeがクセになってしまう行動様式を知り、悪習慣を改める(TED)

習慣のループを知れば、どんな習慣も変えることができる(TED)

なぜ人は嫌なことを後回しにしてしまうのか?(TED)

自分の意志のちからに頼るのはやめる

片付けようと思っているのに、片付けられないとか、お金を使いすぎないようにしようと思っているのに、買ってしまう、という方からメールをいただくことがあります。

私も、子供に怒鳴るのをやめよう、と決めたのに、けっきょく怒鳴ってしまい、娘の寝顔を見ながら、心の中であやまったり、日記の中であやまる、ということがよくありました。

そのころは、50ビットの脳の限界なんて知らなかったので、自分の本気度が足りないのだ、と思ったり、母親失格なんじゃないの、と自己嫌悪に陥ったりしました。

でも、違うんです。

無意識で動いている部分が圧倒的に大きいから、意図と行動にギャップが生じるのです。

このギャップをできるだけ少なくして、よい意図をよい行動につなげる方法を教えてくれているのが、ニースさんの講演です。

やり方は、

1)望ましい行動をするのをできるだけ簡単にする

毎朝ウォーキングをしたいなら、枕元にウエアを出しておき、靴も玄関にスタンバイさせてから眠る

毎朝ラジオ講座を聞いて勉強したいなら、勉強に必要なもの(テキストや筆記具)をすべて、机の上にスタンバイさせて眠る

野菜をたくさん食べたいなら、たくさん買って、キッチンの目のつくところにおいたり、すぐに食べられるように、小さく切って冷蔵庫にスタンバイさせる

物を減らしたいなら、寄付品を入れる箱や袋をクローゼットの中に用意しておく

2)望ましくない行動をするのをできるだけ難しくする。

買いすぎをやめたいなら、クレジットカードを手放すか、どこかにしまいこんで、できるだけ買い物のハードルをあげる。

SNSの見すぎを改めたいなら、スマホからアプリを削除する。

甘い物を食べるのを控えたいなら、そもそも買わない。

ダラダラとYouTubeを見るのをやめたいなら、YouTubeへのアクセスをブロックする(いちいちパスワードを入れないと、入れないようにするとか)。

こんなことをします。

こうしたストラテジーは、このブログでも書いているし、自分でもいろいろ工夫している人が多いと思います。

ただ、そういう工夫をするときに、50ビットの限界を受け入れているかどうかで、効果が違います。

少しでも、自分の意志のちからに頼ろうとすると失敗します。

この春から、新しい習慣を取り入れたい人は、意志のちからに頼るのは、100%やめたほうがいいかもしれません。

そして、自分なりに、戦略をねってください。

成功を祈ります。

*****

ニースさんが、最後に語っていた、「ほかの人の悪い行動を、悪い意図と結びつけてはいけない」という話、とても重要ですね。

それでなくても、人は自分の都合のいいように物ごとを解釈しがちです。

悪い行動をしたからといって、「困ったやつだ、だめなやつだ」と決めつけず、その意図を推し量る心の余裕を持ちたいと思います。





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