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前向きに生活できるヒントになるTEDの動画を紹介します。
タイトルは Why the best hire might not have the perfect resume 「完璧な履歴書を持つ人間が最高の人材とは限らない理由」。邦題は、「最高の人材の履歴書が必ずしも理想的でない理由」です。
プレゼンターは、Regina Hartley(レジーナ・ハートリー)さん。ハートリーさんは、現在UPSの人事部重役。
UPSはUnited Parcel Service(ユナイテッド・パーセル・サービス)で、従業員が40万人以上いるアメリカの大きな貨物運送会社であり、国際貨物航空会社です。
ハートリーさんはここに25年以上お勤めとのこと。
タイトルを見ると、ビジネス系のプレゼンに思えますが、仕事は関係なく全員に見てもらいたいと思って選びました。
特に、子供のとき不幸だったから、今も汚部屋だとか、毒親から服を押し付けられて困っている人はぜひ見て下さい。逆境は実はチャンスであるのだ、ということがわかります。
「最高の人材の履歴書が必ずしも理想的でない理由」TEDの説明
Given the choice between a job candidate with a perfect resume and one who has fought through difficulty, human resources executive Regina Hartley always gives the “Scrapper” a chance.
As someone who grew up with adversity, Hartley knows that those who flourish in the darkest of spaces are empowered with the grit to persist in an ever-changing workplace.
“Choose the underestimated contender, whose secret weapons are passion and purpose,” she says. “Hire the Scrapper.”
完璧な履歴書をもつ候補者と困難をくぐり抜けてきた候補者のどちらを採用するか決める場面では、人事部の重役である、レジーナ・ハートリーはいつも、スクラッパー、(Scrapper 闘士)にチャンスを与えます。
自分自身、逆境の中で育ったハートリーは、困難を乗り越えてきた人間は、絶え間なく変化する職場で、辛抱強く、力を発揮していくことを知っています。
「過小評価されている方を選んでください。情熱と目的意識という秘密兵器を持っています。闘士を雇ってください」こうハートリーは言います。
scrapper は 「スクラップ(解体)する人」という意味ですが、口語で「喧嘩好きな人、プロボクサー」という意味もあります。いろいろな困難に打ちのめされながらも、立ち上がってきた人がスクラッパーです。
日本語の役では「闘士」となっています。これでもいいと思いますが、私はスクラッパーと訳します。好きなほうを使ってください。
動画は10分31秒。英語はわかりやすいし、ユーモアもあっておもしろいので、ぜひ見てください。難しい単語も出てきません。日本語字幕です。動画のあとに抄訳を書きます。
2015年、TED@UPSで行われたプレゼンです。
☆トランスクリプトはこちらから⇒Regina Hartley: Why the best hire might not have the perfect resume | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
シルバースプーンとスクラッパー
あなたの会社で人を雇うことになりました。履歴書を見ます。ある人は、アイビーリーグの出身で、成績もよく、素晴らしい推薦状がついています。すべてにおいて完璧です。
もう1人は、州立の学校出で、職歴がいっぱい。レジとか歌うウエイトレスのような仕事をしてきた人です。
けれども、2人とも募集しているポジションにつく条件を満たしています。
どちらを選びますか?
私と同僚は、この2種類の正反対の志願者に名前をつけています。
最初の人はシルバースプーン(the Silver Spoon 銀のスプーン)成功するために生まれてきたような人です。もう1人はスクラッパー(the Scrapper)、逆境と戦って、シルバースプーンと同じ場所まで到達した人です。
このように分けるのはポリティカリー・コレクトではないでしょう。少し説明させてください。
履歴書はその人の物語
履歴書はその人の物語です。長年の経験から、パッチワークのようなレジメを手にしたら、却下する前に、じっくり考えることにしています。
雑用のような仕事を転々としてきた人は、集中できず、気まぐれな人であるかもしれませんが、さまざまな困難と戦ってきた人かもしれません。
面接をすべきなのです。
私はシルバースプーンが嫌いというわけではありません。エリート大学をよい成績で卒業するには、努力が必要だし、たくさんの犠牲もあったはずです。
けれども、成功する道をひたすら走ってきた人は、困難に出会ったとき、どうやって切り抜けるのでしょうか?
以前、エリート大学出身の人を雇い、仕事の全体像を把握してもらうために、現場の肉体労働をさせたことがあります。彼はやめてしまいました。
一方、これまでの人生が失敗続きで、ようやく成功できた人は、どんな仕事をするでしょう?
スクラッパーも面接してください。私にはよくわかっています。私自身もスクラッパーでしたから。
トラウマが人を育てる
私が生まれる前、父は妄想型統合失調症と診断されました。父は、頭はよかったのに、1つの仕事を長く続けられませんでした。
私は5人兄妹の4番目。ニューヨークのブルックリンで、シングルマザーに育てられました。家も車も洗濯機もなく、子供のときの大部分、電話もなかったのです。
だから、ビジネスの成功とスクラッパーの関係を理解するのにとても興味がありました。
私の人生は全く違ったものになっていたのかもしれませんから。
ビジネスで成功した、リーダーたちに会ったり、経歴を読むうちに、彼らの共通点を見つけました。
多くが、子供のとき苦労をしているのです。
小さいとき、貧しかったり、育児放棄があったり、親に死に別れたり、障害があったり、アルコール中毒や暴力がありました。
こうしたトラウマは、機能障害を生み出すと考えられています。
しかし、リサーチによって思いがけない事実がわかりました。たとえ最悪な状況でも、人の成長や変化が起きるのです。
この現象を科学者は「Post Traumatic Growth (PTG 外傷後の成長)」と呼んでいます。
ある研究によると、極限状態にいた698人の子供たちのうち、3分の1は健康で生産性のある成功した人生を歩んでいます。
成功した起業家の興味深い共通点
この履歴書を見てください。
この人は、生まれてすぐ養子に出され、カレッジを卒業できず、職を転々としています。インドに1年滞在。おまけに、難読症(ディスレクシア)です。
あなたはこの人を雇いますか?
彼の名前はスティーブ・ジョブズです。
世界でも大変成功した起業家を調べると、驚くほどディスレクシアの人が多いのです。
アメリカの起業家のうち35%がディスレクシアです。
もっと驚くべきことは、こうしたPTGを体験した起業家たちは、学習障害はむしろ、自分たちにはメリットだったと捉えていることです。
ディスレクシアのおかげで、人の話をよく聞くようになったし、細部に注意を向けるようになったというのです。
彼らは、自分たちのトラウマや逆境を受け入れ、こうした体験があったからこそ、起業家として成功できる強さを得られたと考えています。
スクラッパーは目的意識を持っている
私の同僚の1人は、1966年の中国の文化大革命で、人生が大きく変わりました。
両親は田舎に連れ去られ、学校は閉校。当時13歳だった彼は16歳になって縫製工場の仕事を見つけるまで、1人で生き抜かなければなりませんでした。
彼は自分の運命に流されるのではなく、学業を続ける決意をしました。11年後、革命がおさまったあと、大学に入るために、3ヶ月働きながら猛勉強をして、大学に入学。
現在、彼は修士号を持ち、娘2人も、有名大学を卒業しています。
スクラッパーは、自分が100%コントロールできるのは自分自身だけだと知っています。状況が好ましくないとき、「もっとよい結果を生み出すために、自分は何ができるだろう」と考えます。
目的意識が強いから簡単にあきらめないのです。
ユーモアを持つことも、見方を変えるのに役立ちます。
人は1人では成功できない
逆境を乗り越えるのは1人ではできません。スクラッパーは道のりのどこかで、助けてくれる人に出会っています。
私もそうでした。大学を出て初めて職についたとき、車を持っていませんでした。だから、同僚の車に乗せてもらって通勤しました。
社長のアシスタントだったこの人は、いつも私を力づけてくれました。「過去を嘆くのではなく、未来を考えなさい」と言ってくれたのです。
その後もさまざまな人が、フィードバックやアドバイスをくれ、私を教え導いてくれました。
最後に大事なポイントをお伝えします。多様性にとみ、開放的なビジネスをする企業はスクラッパーを好み、業績をあげています。
最初の質問に戻りましょう。
シルバースプーンとスクラッパー。どちらを雇いますか?
過小評価されているほうを採るべきです。情熱と目的という秘密兵器を持っていますから。
スクラッパーを雇いましょう。
/// 抄訳ここまで ////
単語の補足
silver spoon 銀のスプーン、銀のスプーンは富の象徴でもあります。
born with a silver spoon in one’s mouth 直訳:銀のスプーンを口にくわえて生まれた。
この表現は、生まれつき金持ち、恵まれている、高貴な家柄の生まれ、という意味です。
銀のスプーンを使っている家に生まれた、ということは金持ちの家に生まれた、ということです。
dyslexia ディスレクシア 難読症
知能や知覚能力に問題はないのに、文字の読み書きが困難になる障害、読み書き障害。
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逆境は糧となる
どんな動画もその人の立場や興味、関心によっていろいろな見方ができます。
企業の人事を担当している人や、マネージメントをしている人は、この動画を見て、ストレートに、「もっと我が社も多様性を持たなきゃだめだなあ」とか、「もっとスクラッパーを雇わんといかんなあ」と思うかもしれません。
現在、職を探している人は、自分のレジメの書き方のヒントを得られるかもしれません。
私は、先にも書いたように、昔の不幸な体験が原因で買い物依存や汚部屋に悩んでいる人に見てもらいたいと考えています。
子供のときに貧乏で好きな物を買ってもらえなかったから、その埋め合わせで買い物が止まらないとか、親が横暴だったから、大人になった今も嫌いな服を押し付けられている、とメールに書いてくる人がいます。
実は、こういう不幸な体験があった人は、すごい武器を持っているわけです。
逆境が人を作る、とは昔からよく言われていたことですが、PTGの存在が、科学的に証明されてしまいました。
逆境から立ち上がる人は、スクラッパーなので、会社には勤めず、起業して成功するようです。
不幸を不幸のままにしておくか、自分を成長する糧にするかは自分次第なのです。
大変だとは思いますが、大変であればあるほど、大きく成長できるので、あきらめずにがんばってください。
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私はのほほんと育ったのでスクラッパーではありません。もちろんシルバースプーンでもありません。
私のようなその他大勢の普通の人にも、毎日、小さな困難はふりかかってきます。これらはすべて自分を成長させてくれるありがたいものだ、と思えると、もっと前向きに生きられますね。