脳神経科学

TEDの動画

記憶と期待が世界の見え方を左右する(TED)

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同じ出来事なのに、人によって感じ方が違うのはなぜでしょうか?

そんな疑問に、脳科学で答えてくれる TEDトーク How memories shape your reality(記憶があなたの現実を形づくる方法)を紹介します。

スピーカーは、神経科学者、Aleena Garner(アリーナ・ガーナー)。

私たちの知覚は、いま感じていることだけでなく、過去の記憶と未来への期待によって形づくられるという内容です。

もっと前向きに生きたい人におすすめのトークです。

どんなふうに記憶が現実を形づくるか?

収録は2024年9月、長さは14分、動画のあとに抄訳を書きます。

◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

神経科学の知見を日常生活や教育、心の持ち方につなげた講演です。

内部モデルという言葉が出てきます。これは、外からの情報(目で見たこと、耳で聞いたこと、体で感じたこと)をもとに、脳が「たぶん世界はこうなっている」「次はこう動くだろう」と推測して作る枠組みです。思考や感覚を支えるベースであり、頭の中にある世界の設計図のようなものです。





考えていることが知覚に影響を与える

これから、ある男性の顔の絵をお見せします。黒髪で、広いあご、鼻が少し曲がっています。彼の表情を、皆さんはどう表現しますか?

次に、地面に座っている女性の絵をお見せします。彼女の視線は下に向いています。彼女は何を考えていると思いますか?

皆さんには、男性の女性の両方の顔が見えますか?

画像自体は変わっていないので、皆さんの目に入ってくる情報は変わっていません。変わったのは、皆さんの思考だけです。

思考は自分だけのものに見えて、他人の言葉にも左右されます。今の説明がその一例です。

目にするものが知覚に影響を与えるのと同じように、考えていることもまた、知覚に影響を与えます。

感覚と内部モデルがつくる世界

世界の見え方や受け取り方を左右しているものは何でしょう?

感覚でしょうか? つまり、見る・聞く・触れる・嗅ぐ・味わうといったことでしょうか?

それとも思考でしょうか? これは科学者が脳の内部モデルと呼ぶものですが。

実際は、両方です。今感じていることと、考えていること、この両方が私たちの経験を形づくります。

新しい経験が過去の体験と統合される

皆さんが経験するあらゆることは、目や耳といった感覚器官を通じて脳に入ってきます。

しかし、その感覚は、すでに心の中にあるもの、皆さんがすでに考えていることや信じていることと統合されます。

新しい経験は、過去の経験と入り交じりながら、脳の中で符号になっていくのです。

では、私たちの脳をつくっている神経回路は、感覚と思考、さらに脳の内部モデルを組み合わせているのでしょうか?

この答えがわかったとして、どうすればそこから神経回路の働きを利用し、私たちの経験をよりよいものにできるでしょうか?

この問いに答えるために、私たちは神経科学に注目しています。

私はアリーナ・ガーナー博士、神経科学者です。

ハーバード・メディカルスクールの教授でもあり、研究室では、神経回路がどのようにして感覚と脳の内部モデルを統合し、知覚を生み出し、外界を経験させているのか研究しています。

快適な家と不快な部屋の実験

人間の神経回路の働きを直接見ることはできません。でも、マウスなら、神経回路の働きを見ることができます。

マウスの場合、頭蓋骨の一部、つまり骨ですが、これをガラスに置き換えます。そして、マウスが学習し世界を経験しているときのニューロンの活動を実際に観察できます。

何年も前、私たちはマウスが特別な体験をしたときに活性化する特定のニューロン集団に目印をつける方法を開発しました。

マウスが小さなネズミサイズの家を探検したときに活性化したニューロンがわかるようにしたのです。

その家は居心地よく、壁は暖色です。

活性化したニューロンは「記憶痕跡(memory trace)」と呼んでいます。

記憶痕跡は、マウスや人間が体験した出来事をひとつひとつ記録しています。

マウスの場合、その記憶痕跡は探検した家を表していました。

マウスの記憶を操作してみる

次に、記憶痕(その記憶を担う神経回路)を人為的に再活性化させる方法を開発しました。

ただしそれは、新しい体験をさせている最中に行いました。

マウスに、やや不快な診療所を模した部屋を探検させました。

その部屋には寒色が使われ、床や壁の質感は硬く、軽い突き刺すような刺激もありました。

人間が少し嫌な病院を訪れたときに受ける感覚に似せました。

古い記憶が新しい学びを左右する

居心地のよい家の古い記憶を再活性化したとき、マウスが、新しい不快な空間を学ぶ過程で、両方の経験が融合し、ひとつの記憶痕跡に統合されました。

古い記憶を再活性化させながら学習をすると、物理的に以前の記憶痕跡に新しい学びや感覚が組み込まれたのです。

つまり、新しいことを学んでいるとき、その学習の最中に脳内で活性化しているすべての記憶が、その学びの一部になるということです。

皆さんが体験することは、今まさに起きていることだけでなく、過去に起きたことにも左右されるわけです。

この実験は、感覚・世界の捉え方・学習について、極めて重要なことを理解するきっかけになりました。

新しいことを学んでいるときに、脳内でネガティブな記憶が活性化していれば、その新しいことがどんなに素晴らしいものであっても、素晴らしいとは感じないかもしれません。平凡、あるいはむしろ悪く思えることすらあります。

これは、トラウマや心的外傷後ストレス障害(PTSD)のときに起きることです。

一方で、ポジティブな記憶が活性化しているときに新しいことを学べば、その新しいことがかなり嫌なものであっても、「それほど悪くない」「むしろよい」と感じる場合があります。これはレジリエンス(回復力)です。

つまり、私たちが世界をどのように知覚し経験するかは、現在の感覚だけでなく、記憶(過去の経験)によっても決まるのです。

未来予測が今を変える

未来に起こるかもしれない体験が、今の世界の知覚を変えることもあります。

経験は期待を生み出すからです。

あなたが「これから起きるだろう」と予測することが、いま世界をどう見るかに影響を与えます。

では、まだ起きていないのに「これから起きる」と期待していることと、今の感覚とを、脳の神経回路はどうやって統合しているのでしょうか?

この問いに答えるために、私たちはまずマウスを訓練し、仮想現実の中でビデオゲームをさせました。

マウスは球の形をしたトレッドミルの上に立ち、自分の動きでマウスサイズのiMac画面に表示されるビデオゲームを操作します。

実験では、マウスを仮想環境の中で探検させました。

その環境の中で、聴覚刺激と視覚刺激を順番に組み合わせて提示しました。これによりマウスは、特定の音が特定の視覚的な物体に対応していることを学びます。

たとえば、人間ならサイレンを聞いて救急車を見る、雷鳴を聞いて稲光を見るといったようなことです。

実験では、音は10.5キロヘルツのトーンで、視覚的な物体は三角形にしました。このゲームは、聴覚と視覚を関連づける学習体験でした。

音と映像の対応をマウスに学習させる

私たちは同時に、脳の視覚野という「見ることを可能にする部分」の神経活動を測定しました。

三角形を見せれば、マウスの視覚野は人間と同じように活動します。

では、マウスが音から三角形を予測することを学んだとき、視覚野の活動はどう変わるのでしょうか?

そして、予測なしに三角形が突然現れたときは、その活動は違うのでしょうか?

実験の結果、三角形が音に続いて予測どおりに現れたときと、音なしで突然現れたときとでは、視覚野での処理が異なることがわかりました。

予測された三角形に対しては神経活動が抑制され、逆に予測していないときに現れた三角形に対しては活動が増幅されたのです。

期待が感覚を変えたのです。

マウスの視覚野で神経の活動が抑えられるのは、マウスが自分の経験をもとに「仮想世界の予想図(内部モデル)」を作っているからです。マウスがその予想と実際の違いに気づかない限り、この予想図は修正されずにそのまま残ります。

仮想現実の中では、実験する側で、意図的に誤りを作り出せますが、実際にそうしました。

ゲームを変更し、ある音が間違った視覚的な物体と一緒に提示されるようにしたのです。

たとえば、サイレンを聞いたのに救急車ではなく自転車を見るとか、雷鳴を聞いたのに稲光ではなく列車を見る、といった具合です。

実験では、10.5キロヘルツの音のあとに三角形ではなく円が出現するようにしました。

すると、多くのマウスはこの誤りを検出し、脳が内部モデルを更新しました。そして音は三角形だけでなく円も予測するという新しい関係を学びました。

内部モデルを更新しないと起きること

ただ、一部のマウスは内部モデルを更新しませんでした。

彼らは学習に失敗し、周囲の世界が三角形と円を含むように変わっていても、音を聞くたびに三角形を予測し続けてしまったのです。

人間も内部モデルを持っています。周囲の世界を経験しながら、その内部モデルを更新して学習しています。

世界は常に変化しているので、もし内部モデルを更新せず、慣れ親しんだ同じレンズで世界を見続けると、変化を学ぶことも体験することもできません。

内部モデルは脳のOS

自分の脳がどんな内部モデルを使っているのか、みなさんは、意識していないかもしれませんね。

1980年代に、コンピュータOSの主流だったMS-DOSを思い浮かべてみてください。グラフィックはなく、コマンドラインだけでした。

一方で、Windows 11を考えてみると、カラーやウィジェット、ビデオ会議の機能まであります。

どちらのOSを使うかによって、体験はまったく異なりますよね。皆さんの脳が古いOSのまま更新されていなければ、体験は制限されてしまうのです。

あらゆる経験が感覚と思考の相互作用によって成り立っていること、そしてその経験が期待を生み出すことを理解していただけたなら嬉しいです。

要するに、私たちが知覚するものは過去・現在・未来のすべてに影響されています。もし自分の思考や期待を変えることができれば経験の仕方を変えられるのです。

記憶と期待を日常でどう活かすか

この知識を皆さんの生活に活かす方法を紹介します。

まずは記憶を選んでください。

私たちは物事を終えたあとに自分へごほうびを与えることがありますが、これを前もってやってみてはどうでしょう。

何か難しいことや気が進まないことをする前に、心地よい記憶を思い出すのです。

さらに、自分の感覚に注意を向け、思考や期待と区別しましょう。

瞑想をして、意図を持って期待を作るといいでしょう。

普段、自分がどんな期待を持っているかなんて意識していませんから。

人それぞれで違う現実

さらに、この知識を他の人のために使うこともできます。

皆さんの経験は、自分独自の「世界のバージョン」を作り出します。

つまり、現実の知覚は一人ひとり固有のものです。

そして誰もが、自分とは違う現実のバージョンを持っています。

私たちは他人の経験を直接得ることはできません。ですが、それが「自分とは違う」と意識することはできます。

それぞれで現実が違うと認めれば、人生にたくさんある重要な側面を見直して、改善する力を得られます。

たとえば、幼稚園から、教師や教授を育てる教育の現場に至る、あらゆる教育の場における学びもその一つです。

誰もがそれぞれ独自のレンズを通して学び、理解しているのだと考えることができます。

人は学び方は異なりますが、みな、学ぶことができるのです。

また、誰もが皆さんが伝えたいメッセージを理解できる可能性を持っています。

ただ、私たちはそれぞれ固有の内部モデルを持ち、独自の現実を生きているので、情報の伝え方やコミュニケーションを常に調整しなければなりません。これは大変に思えるかもしれません。

でも、もし私たちが停滞して、居心地がよい内部モデルに頼り続けていたら、自分の外の世界は意味を持たなくなるでしょう。

脳の仕組みを知って体験を変える

脳の仕組みについてどれだけ知っていても、その知識を活かさなければ意味がありません。

・何かをするとき、心の中で活性化する記憶を自分でコントロールできる

・これから起こることをどう期待するかで、知覚が変わる

この2つを知ることは、スーパーパワーを得ることです。

この能力を使わなければ、今までと同じことしか起きません。

見方を変えれば、見ているものそのものが変わります。

皆さんは常に、内部モデルを通して世界を体験しています。どんな内部モデルを使うかを決めるのは皆さん自身なのです。

///// 抄訳ここまで ////

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このトークでスピーカーが伝えたいことは、過去・現在・未来のすべてが私たちの現実を形づくっていて、思考と記憶を意識的に選べば体験そのものを変えられるということです。

印象的だったのは、いまの体験を形づくるのは感覚だけでなく、同時に活性化している記憶であるという部分でした。

たとえば何か新しいことを始めるとき、過去の失敗を思い出せば「またうまくいかないかも」と感じ、現実としては、ニュートラルな体験がネガティブなものになります。

逆に、「できた」「楽しかった」という前向きな記憶を呼び起こせば、同じ出来事がぐっとポジティブに感じられます。

つまり、意識して記憶を選べば、楽しいことが多い人生になります。

こうすることに、お金はかからないし、特別なスキルも必要ありません。

ネガティブ思考がくせになっていたら、そもそも、楽しい記憶が出てこないかもしれませんが、「自分で選べる」という視点で記憶をひもといてください。

「最近、ついてない」と感じているときこそ、明るい記憶に光を当てるといいでしょう。

どんな人の人生にもいいことと悪いことが起きています。楽しい体験をする元はすでに自分の中にあります。





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