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TEDの動画

最終更新日: 2018.03.24

実際の体験とその体験の記憶の幸福度は違う:ダニエル・カーネマン(TED)

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私はなんだか不幸だな、とすぐに暗くなってしまう人が明るい気分になれるかもしれないTED動画を紹介します。プレゼンターはアメリカの心理学者で行動経済学者であるダニエル・カーネマン博士です。

タイトルは The riddle of experience vs. memory(経験と記憶の謎)。



経験と記憶の謎、TEDの説明

Using examples from vacations to colonoscopies, Nobel laureate and founder of behavioral economics Daniel Kahneman reveals how our “experiencing selves” and our “remembering selves” perceive happiness differently.

This new insight has profound implications for economics, public policy — and our own self-awareness.

バケーションや大腸の内視鏡検査を例にあげながら、ノーベル賞受賞者で、行動経済学の創設者であるダニエル・カーネマンは、「体験する自分」と「記憶する自分」が、幸福に関して、ずいぶん違う考え方をすることを説明します。

この新しい洞察は、経済学や公共政策、自己認識を大きく変えるでしょう。

行動経済学は心理学と経済学を混ぜたようやつで、ふつうの人がどんなふうに意思決定し、どんなふうに行動するのか調べながら、経済現象を研究する学問です。

カーネマン博士は著名な学者ですが、このプレゼンでは心理学や経済学の難しい用語は出てきません。それでも情報量が多いので、疲れた頭で見てると、「あれ、何言ってるの?」と思うかもしれません。

プレゼンの主旨を一言でいうと、自分自身が幸福かどうかは、自分でもそんなに簡単にわからない、幸福はそんなに単純なものではない、ということです。

というのも、自分が幸福かどうか判断するときに、認知(外界のできごとを処理すること)のワナがあるからです。

収録は2010年の2月、動画は18分ぐらいです。日本語の字幕も出したいときは、プレーヤーの下の赤い吹き出しで選んでください(動画をさせないと吹き出しが出ません)。動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Daniel Kahneman: The riddle of experience vs. memory | TED Talk | TED.com

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

幸福について考えることはそんなに簡単ではない

近年誰もが幸福について語っています。本もいっぱい出ていますね。幸福に関する研究や人を幸福にするためのコーチングもたくさんあります。

ですが、認知のワナのせいで、人は幸福について明確に考えられないのです。

きょうは3つの認知のワナについてお話します。

1.複雑さを認めたくない気持ち
2.実際の体験とその記憶の混同
3.幻想にフォーカスしてしまうこと

「経験の自己」と「記憶の自己」

ある人が、すばらしいシンフォニーを聞き、感動していましたが、最後に、ひじょうに耳障りな音が聞こえました。

「この音のせいで、すべてが台無しになりました。最悪でした」と彼は言いました。

しかしこれは違います。

シンフォニーを台無しにしたのは最後の音ではなく、この人の体験の記憶です。20分は音楽を堪能していたのですから。彼は、最後の台無しになった場面だけを記憶したのです。

私たちは、自分のことも他人のことも、2つの自己を使って解釈しています。

体験する自分(経験の自己)と、その体験を記憶する自分(記憶の自己)です。

「経験の自己」は、今この瞬間を生きています。医者に「ここ、さわったら痛いですか?」と聞かれたときに答えるのが「経験の自己」です。

「記憶の自己」は、起きたことを判断し物語にします。医者に「最近調子はどうですか?」と聞かれたとき答えるのが「記憶の自己」です。

2つの自己は全く異なっているので、この2つを混同してしまうと、幸福について正しく考えることができません。





最後が痛いと、みんな痛かったという記憶が残る

「記憶の自己」はストーリーテラーです。体験からどんどん物語を作ります。

1990年代に行われた、大腸の内視鏡検査を受けた患者の痛みに関する研究を紹介します。当時はとても痛かったんです。

検査が早く終わった患者Aと長くかかった患者Bが感じている痛みの度合いを調べました。60秒ごとに痛みについて報告してもらったのです。

内視鏡検査の痛み

どちらがより多くの痛みを感じたか、という質問の答えは患者Bです。

しかし、「自分がどれぐらい痛みを感じたと考えているか?」という質問をしてみたら、患者Aのほうが、大きな痛みを感じた記憶をもっていました。

検査が終わったとき、患者Aは痛みのピークを迎えていたからです。

「経験の自己」を比べたら、Bのほうが痛みを感じているのに、「記憶の自己」を比べたら、Aのほうが痛みの記憶が強いのです。

物語の終わりが重要です。

1週間の休暇と2週間の休暇、どちらが楽しい?

「経験の自己」はつねに、体験をしていますが、ほとんど忘れてしまいます。心理的に「いま」と考えることができるのは3秒です。

そのほとんどが跡形もなく消え、「記憶の自己」に無視されます。

しかし、自分が体験していることは重要ですよね。けれども、「記憶の自己」が物語として残すのは、必ずしも、体験したことではありません。

「経験の自己」と「記憶の自己」は時間の捉え方がずいぶん違います。

「経験の自己」の観点からみると、2週間の休暇があり、1週目も2週目も同じくらい楽しかったのなら、2週間の休暇は、1週間の休暇の倍、楽しかったことになります。

ところが、「記憶の自己」は違います。「記憶の自己」にとっては、2週間の休暇も1週間の休暇もあまり変わりません。

なぜなら2週目には、何も新しい記憶が追加されないからです。物語を変えることができません。時間は物語にあまり影響を与えません。

「記憶の自己」が意思決定する

「記憶の自己」は記憶して物語を語るだけではありません。この自己こそが、意思決定をします。

大腸の内視鏡検査をしたことがある患者が、手術をする医者を選ぶとき、検査したときの記憶がましなほうの医者を選びます。

このとき、「経験の自己」は決定権がありません。私たちは、経験から次の行動を選んでいるのではなく、経験に対する記憶をもとに選んでいます。

将来のことを考えるときも、将来にどんな体験をするかは考えていません。将来、どんな物語になるか(どんな記憶を残すか)、という観点から考えています。

いつも「経験の自己」が優位に立っているのです。

ところが、人が、思い出にひたる時間はそんなにありませんよね。わたし自身の休暇の記憶にしても、3週間のとても素晴らしい休暇を体験したのに、それについて思い出したのは過去4年間で25分ぐらいです。

アルバムを開いて、600枚ほどの写真をみれば、もう1時間ぐらい思い出にひたれそうですが、それを入れても、「記憶の自己」の物語に費やす時間は1時間半ぐらいです。

実際の体験は3週間なのに、記憶について考える時間はこんなに少ないのです。

それなのに、なぜ私たちは体験したことより、記憶していることを重要視するのでしょうか?

ちょっと想像してみてください。次の休暇では、撮った写真は休暇の最後に全部だめになり、記憶に作用する薬を飲んで、何も覚えていないとします。

また同じ休暇を過ごしたいと思いますか?

もし、別の休暇がいいと思うなら、「経験の自己」と「記憶の自己」で対立します。

休暇を過ごす時間だけを考えれば、同じ休暇でもいいのです。しかし、記憶が残るかどうか、ということを考えると、別の休暇のほうがよくなります。

「経験の自己」と「記憶の自己」は幸せを違うふうに捉える

「経験の自己」と「記憶の自己」はそれぞれの幸せを持っています。この2つは大きく違います。

「経験の自己」はどのぐらい幸せなのだろう。「記憶の自己」はどのぐらい幸せなのだろう。こんなふうに考えることができるので、今、自分がどのぐらい幸せなのか考えるのはひじょうに複雑な作業なのです。

感情をどうやって測るのか?

いまは、「経験の自己」の幸福度をかなりの正確さで調べることができます。しかし、「記憶の自己」はできません。

「記憶の自己」の幸福度は、人がどのぐらい幸福に暮らしているのか、ではなく、人が、自分の人生についてどのぐらい満足しているのか、ということです。

この2つは違います。

2つを混同してしまうと、幸福に関する研究をあやまってしまうのです。

近年、この2つを分ける考え方は、かなり認められるようになり、2つの幸福度を別々に測ることも行われています。

ギャラップという世論調査会社が50万人以上の人に自分の人生や経験についてどう思っているのか聞きました。ほかにも似たようなリサーチがあります。

このように、最近は2つの自己の幸福を研究し始めています。

ポイントはこの2つはひじょうに違うということです。

ある人が、どのぐらい自分の人生に満足しているのか聞いても、その人が、どのぐらい幸せに日々を過ごしているのかはわからないのです。この逆も同じです。

この2つの幸せの相関関係はおよそ0.5です。多少の目安にはなるものの、はっきりしたことはわかりません。

幸福に寄与するものとは?

ある特定のものが人の幸福や満足に関係があるとわかっています。お金やゴールは重要なファクターです。

好きな人とともに時間を過ごすことも重要です。

だから、2つの自己の幸福を最大にしたいなら、全く違うことをすることになるでしょう。

申し上げたいのは、幸福は、well-being (ウエルビーイング)とは違うということです。

2つの自己は違うものに注目する

もう1つ、幸福について単純に考えられない理由をお伝えします。

私たちは、自分の人生について考えているときと、実際に日々暮らしているときとでは、同じことに注意を向けていません。

カリフォルニアに住んでいる人と、オハイオに住んでいる人を比べたとき、天候の違いに注目して、カリフォルニアに住むほうが幸せだと考えるものです。

しかし、天候は、「経験の自己」にとって対して重要ではないし、「記憶の自己」にとっても、そこまで重要ではありません。

「記憶の自己」が意思決定をして、より幸せになるために、カリフォルニアに引っ越しても、「経験の自己」はそんなに幸せになりません。これはわかっています。

ただ、引っ越した人々は、「いまは前より幸せだ」と考えます。自分の幸せについて考えるとき、オハイオのひどい天候を思い出し、正しい決断をしたと考えるのです。

ウェルビーイングについて、まともに考えることはとても難しいのです。

//// 抄訳ここまで ////

語彙の説明など

think straight まともに考える、理路整然と考える

well-being ウェルビーイングはよく「幸せ」と訳されますが、このプレゼンによれば、幸せとは違うものです。身体的、精神的、社会的に良好な状態としておきます。

客観的に見てすべてが良好な状態でも、幸せではなく、空虚な気持ちをかかえている人は確かにいます。

3つめの認知のワナ
カリフォルニアとオハイオの比較が3つめの認知のワナです。

ふだん、暮らしているときは(これは経験の自己)、前に住んでいた場所と比べていないのに、生活の満足度について考えたり、両者を比べるときは、カリフォルニアとオハイオの気候に注目してしまい、「カリフォルニアは気候がいいから、自分は幸せなはずだ」と考えるのです。

行動経済学や幸せに関するほかのプレゼン

我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)

私たちが幸せを感じる理由~制限がある方が幸せ?ダン・ギルバート(TED)

バリー・シュワルツに学ぶ『選択のパラドックス』(TED)~所持品をミニマムにすると生きやすくなる理由とは?

幸せになる秘訣は目の前のことに集中すること(TED)

自分の幸不幸を決めつけてはいけない

経験の自己、記憶の自己と書くと、抽象的でピンとこないと思います。

要は、今、何かをやっていることが楽しいと感じている自分と、あとになって、自分の体験を「楽しかった」と評価をしている自分は違うということです。体験と体験の記憶は違うのです。

シンフォニーのエピソードで語られていたように、体験しているときは楽しかったのに、あとになって「最悪だった」と感じることもあるわけです。

恋愛など感情に大きく支配されているときは、経験の自己が幸福を感じているのだと思います。

しかし、その恋愛が破局すると、苦い物語となり、「私は幸薄い女」という自己判断にいたり、その後も暗い日々を過ごしてしまう、ということがあるのではないでしょうか?

このように自分1人の中に、幸福(不幸も)を感じる人が2人いるので、両者をごっちゃにすると、わけがわからなくなり、悩みが深くなるのです。

「私は不幸だ」と感じていても、別の面から見たら、しっかり幸福なのかもしれません(逆もあります)。

メタ認知のすすめ

そもそも記憶はあてになりません。

体験している最中の自分の認知だって、主観に左右されています。その体験を物語に変えるときも、偏見が入ります。

「記憶はストーリーである」と言われていましたが、それは限りなくフィクションに近いのかもしれません。

他人の幸不幸はもちろんのこと、自分の幸不幸も簡単に決めてはいけないのです。

このように考えられると、幸せになるためのセミナーやコーチングセッションに高いお金を払うこともなくなります。

きのう、スピリチュアルなことにお金を使いすぎてしまうという質問に回答しました⇒スピリチュアルなことにお金を使ってしまい貯金ができない時の解決法。

相談者のたまさんからお礼のメールをもらいました。

実際にスピリチュアル費を計算してみたら、恐ろしいほどの金額だったそうです。しかし、それだけお金を使ったのに、まだ不安が消えていないそうです。

つまり、ご祈祷などの数々のスピリチュアルなワークはあまり効果的ではなかったのです。

たまさんのような人は、自分の考えていることについて客観的に考える行為(メタ認知)を生活に取り入れてください。カーネマン博士のプレゼンは、メタ認知強化に役立つと思います。





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