花の香りをかぐ

TEDの動画

人の行動に大きな影響を及ぼしている匂いの話(TED)

今週のTEDは、匂いに関するプレゼンです。

タイトルは、How to Control Emotion and Influence Behavior(感情をコントロールし、行動に影響を与える方法)。プレゼンターは、香水の専門家、Dawn Goldworm(ドーン・ゴールドワーム)さんです。

ドーンさんはセレブや企業のブランディングのために、いろいろな香りをデザインする仕事をしています。

私たちが想像する以上に、香りは人の行動に影響を与えているという内容です。



感情をコントロールし、行動に影響を与える方法

プレゼンは11分。日本語字幕はありませんが、英語字幕はあります。字幕なしがいい方は、プレイヤーで調節可能です。

動画のあとに抄訳を書きます。

ドーンさんはゆっくりしゃべっているし、英語もさほど難しくありません。

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

私たちが知らないうちに影響をうけるもの

私は、皆さんの感情をコントロールし、行動に影響を与えることができます。何も見せず、さわりもせず、一言もしゃべらずに。

人が思いもしないパワーを使って。

実際、このパワーが使われていることに、たいていの人は気づきません。自分が使っていることも。

子どもを産んだばかりの母親が、子宮から出た子どもを新しい環境に順応させるとき使う力です。ヒトラーが演説するとき、人心を掌握するのにも使いました。

このパワーとは、匂いです。





人間が一番最初に得る感覚は嗅覚

胎児はたった12週間で、嗅覚を得ます。妊娠の第一期をすぎると、母親が食べているものの匂いを感じます。匂いは、羊水を通って、胎児に伝わる唯一の感覚なのです。

このとき、食べ物の好みが生まれます。

生まれたあとの世界は匂いで満ちあふれています。10歳になるまでは、匂いは、人にとって、もっとも重要な感覚です。

この時期に開花するもう一つの感覚は、これを感覚と呼べるかどうかわかりませんが、感情です。

匂いと感情は強く結びついている

香りと感情は結びついて、私たちがこの世界を理解する手助けをします。

何か匂いをかぐと、それはダイレクトにある感情を引き起こします。この結びつきは永遠に続きます。匂いにかかわる記憶は、私たちの記憶の中で、もっとも大きな部分をしめ、強烈なのです。

私はこの結びつきを、セントエモーティコン(scent emoticons)と呼んでいます。匂いと感情の結びつきは、永遠に変わりません。

刈ったばかりの草の匂い、クリスマスツリーの匂い、おばあさんの家や、昔の恋人の匂い。ひとかぎしただけで、すぐに、別の時間や、場所に移動できます。

匂いをかいだだけで、その場の光景や音がよみがえり、その時どんな気持ちでいたのか思い出せるのです。だからこそ、私は嗅覚に魅了されています。

匂いのように、強く感情と結びつき、その時の気持ちを思い出させる感覚は他にはありません。

香りをうまく利用している母親、独裁者、そしてメーカー

お母さんの匂いがあれば安心な赤ちゃん

母親は赤ん坊と離れなければならないとき、子どもに自分の匂いのついたTシャツや毛布を与えます。すると子どもは、お母さんに抱かれていなくても安心感を得られます。

この年頃の子どもには、触覚(さわること)がもっとも大事だと考えられています。

ですが、生まれたばかりの子どもは、そこに母親の匂いがあれば、抱かれていなくても大丈夫なのです。

香りを利用したヒトラー

ヒトラーは、演説をする何時間か前に、部下に命じて、会場に香りをスプレーさせました。そうすることで、ステージにあがる前から独特のムードを作り出していたのです。

洗剤に香りをつけて成功したメーカー

香りがいかに人に影響を与えるのか知っているのは母親や独裁者だけではありません。

香りのパワーは、プロクター・アンド・ギャンブルが洗剤を売る方法を完全に変えました。

それまで何年も、洗剤の価値は、白いものをより白く、明るい色をより明るくすることにありました。そこが洗剤において重要なポイントだと、消費者の代表が答えていたからです。

そこで、さまざまなブランドが、汚れをとる機能を競っていました。

ブリーチを使ったり、酸素を使ったり、塩素を使ったりして。

ですが、1980年代に、プロクター・アンド・ギャンブルは新しいリサーチをしました。

ある人類学者に人々の家を訪れてもらい、皆がどんなふうに洗濯をしているのか見てもらったのです。

このリサーチでこんなことがわかりました。

洗濯が終わったあと、服を太陽の光にかざして、どんなにきれいになったかチェックした人など誰もいませんでした。どれだけ白くなったか、比べる人もいません。

洗濯が終わったあと、人が真っ先にするのは、鼻先にもっていき、匂いをかぐことだったのです。

1日の終わりに、服がどれだけきれいに見えるかはたいした問題ではなく、清潔な匂いがするかどうかのほうが重要なのです。

とはいえ、母親や、マーケティングをしている人、独裁者じゃなければ、匂いのことなんて、誰も気にしませんよね。

日常生活において、香りは充分活用されていないと思います。

香りは世界の見方を変える

香りは私たちの世界の見方を変える力があります。より楽しくしたり、エモーショナルにしたり、記憶しやすくできるのです。

デートをするとき、鏡に向かい、メイクや服装に気をつかうことはあっても、香りについて深く考える人はあまりいません。

記念日に出かけたり、結婚の申し込みをするとき、指輪や花束、贈り物を買い、場所を選び、やわらかい光のライトをつけ、ソフトな音楽をかけるでしょう。

このとき、部屋の香りが、自分の望む答えを引き出すかもしれないと考えるでしょうか?

光、音、花束、香り、すべてがうまく機能して、プロポーズにイエスという答えを得られるかもしれないのに。

香りをうまく混ぜ合わせると洗練された香りになる

現在、香りは確固たる場所をしめています。洗剤メーカーだけでなく、ほかの企業も、香りによる感情への影響を考えるべきでしょう。

ナイキストアが行った最近の研究によると、ブランドにふさわしい香りを使うと、顧客は、店舗での経験をよりよいものと感じ、売上もあがります。

私が話している香りは、日常にあるレモンやりんご、バニラの匂いではありません。洗練された形で提供された、洗練された香りのことです。

絵画を例にお話しましょう。

この子どもの絵に使われている色は、モネの作品と全く同じです。三原色を使っているだけですが、モネは、うまく混ぜ合わせ、全くあたらしいシーンを表現し、新しい感情を引き起こしています。

音楽も同じです。音階には7つの音しかないのに、チョップスティックスはベートーベンの交響曲とはずいぶん違って聞こえます。

音の数は同じですが、どんなふうにミックスするかで違いが生まれるのです。

香りも全く同じです。モネの絵やベートーベンの曲のようなものを香りで作ることができます。このような香りを作り出すことに、私は生涯を捧げています。

香りの好き嫌いは育った環境で決まる

香りの好き嫌いは、主観的なものではありません。文化や世代、生まれてから10年間の生活環境で決まります。

気分をよくしてくれる香り、心地よい香り、いやな匂いは、子どものときに学ぶのです。

赤ちゃん用品や日焼けどめ、床用洗剤、衣料の洗剤、おもちゃ、食べ物、こんなものの影響を受けます。

こうしたものは、場所や文化、世代によって違います。

1940年代より前に生まれたアメリカ人は、木の匂いと子どものころの思い出を結びつけています。おもちゃが木製だったからです。

それ以降に生まれたアメリカ人の子どものころの記憶は、プラスチックや粘土、クレヨンの匂いと結びついています。

匂いの好き嫌いの理由は説明できない

匂いの好き嫌いの理由を説明するのは、簡単ではありません。

嗅覚は脳の辺縁系がつかさどり、この部分は言語には全く関係がありません。

よって、香りについて、新鮮な匂い、花の匂い、強すぎるといった簡単な説明はできても、なぜその匂いが好きか嫌いかを説明することはとてもむずかしいのです。

ワインのエキスパートや香りのプロなど、香りについて詳しく描写できる人もいますが、その匂いを好きな理由、嫌いな理由を言うことはできません。

大脳辺縁系は言葉を操る能力はありませんが、感情を司っています。なぜその匂いが好きなのかは言えなくても、その匂いがどんな気持ちにさせるのかは説明できるのです。

香りを使って生活の質をあげることができる

皆さん、今どんな気持ちですか? 息を吸ってみてください。

身の回りのあらゆるところに匂いがあります。もし、この匂いをコントロールし、ツールとして使えるなら、私はこんな香りを作りたいと思います。

病気の人の気分をよくしたり、悲しんでいる人をより幸せにしたり、追放された人がより安全に感じたり、ひらめいたり、つながりを感じたり、愛されていると感じる香りです。

人は自分をよく見せる方法にはとても熱心です。けれども、香りこそが、人々の気分をよくするために、もっとも自然で、パワフルなものなのです。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

acclimate 人や物を新風土、環境などに鳴らす、順応させる

amniotic fluid 羊水

olfactory  匂いをかぐ、嗅覚の

elicit 引き出す、誘い出す

Chopsticks  チョップスティックス 両手の人差し指だけで弾ける曲。

limbic system 大脳辺縁系

ドーンさんの、「辺縁系は言語に関係ないから、人は匂いの好き嫌いを説明できないというところですが、

Our sense of smell lives in the part of the brain called the limbic system, and the limbic system has no capacity for language. So while we can describe a smell in simple terms, we can say it’s fresh, it’s floral, maybe it’s too strong, we have a very difficult time saying why we like it or we don’t.

こうなっています。

その後、辺縁系は言語には関係ないけれど、感情を感じる場所だから、その匂いのせいでどんな気持ちになるかは話すことができる、と言っています。

科学的にみると微妙な表現かもしれません。

匂いを感じる場所に、言葉を司る脳の部位がなくても、脳はコーディネートして動いているから、どこかにそういう機能があれば、話はできます。

彼女の言わんとしていることは、匂いの情報はほかの刺激とは違い、あまり情報処理をされず、ダイレクトに辺縁系に到達するので、その好き嫌いは理屈抜きである、ということだと思います。

ちなみに、言葉を司るのは言語中枢ですが、おもに話すことを司る運動性言語中枢は前頭葉に、言葉を理解することを司る感覚性言語中枢は側頭葉にあります。

大脳辺縁系は脳の奥の方にある領域です。奥のほうにあるのは、より古く、原始的、つまりより動物的な脳です。

脳の部位について、わかりやすく説明している動画があったので貼っておきますね。長さは5分1秒です(英語)。

temporal lobe は 側頭葉です。

匂いに関するほかの記事

私が香水やオーデコロンを使うのをやめた理由。その香料は本当に安全か?

家が臭いときチェックするといい場所はここ。意外な物が部屋の匂いの原因に。

湯シャンは臭いから迷惑だ、と思っている人に読んでほしい記事。

身の回りの匂いに意識を向けよう

匂いに関する動画を紹介したのは、べつに、「湯シャンで頭が臭い問題」に関する問い合わせが多いからではありません。

私たちは、知らないうちに、香りに行動をコントロールされている、この点に意識を向けたほうがいい、と思ったからです。

するとこんな問題を解決できます。

人工香料の問題

人工香料を使いすぎると、健康によくありません。

日本はそうでもないかもしれませんが、北米にはとても香り系の商品が多いです。

デオドラント(制汗剤)、オーデコロン、香水、センテッドキャンドル(香りのついているろうそく)、ルームフレッシュナー、シャンプーなどの各種洗浄剤など。

こういう商品、売れるからたくさん作られるわけです。

動画で洗剤の話が出てきましたが、衣料の汚れを取る洗剤はすでにごくふつうにあり、みんな持っています。そこで、香りで差をつけようとしているのです。

そのほとんどは人工香料で作った匂いです。いい香りがしていれば、洗濯物がきれいになっている、というわけではありません。

むしろ、使いすぎは、身体に悪いです。

以前、バスタオルがくさい問題で夫とバトルになった話を書いたと思います。夫は、タオルからきつい香料の匂いがぷんぷんしていれば、その服はきれいだ、つまり細菌が繁殖していない、と思っているようです。

しかし、そのいい匂いは、悪臭をマスキングしているだけかもしれないのです。

清潔な衣料品は、本来は特に何の匂いもしないんじゃないでしょうか。

物を買わされる問題

香りの影響に意識的になると、衝動買いを防ぐこともできます。

いい匂いのしているお店では長居をして、よけいな物を買ってしまうかもしれません。

スーパーマーケットでは、焼き立てのパンの匂いを入り口付近に匂わせて、消費者の購買意欲をあおっている、と言われます。

スーパーマーケットの戦略⇒節約したいなら知っておきたいスーパーマーケットの買わせる戦略10個

ドーンさんは、見た目やさわりごこち、音、香りをうまくブレンドして、快適な空間を作る仕事をしています。

自分の居場所が快適になるのはいいことですが、お店が快適になりすぎると、買い物しすぎてしまいますよね。

逆に、汚部屋に住んでいる人は、家にいたくないので外出が増え出費が増えます(これは本当のことです)。

消費者の脳の反応を研究し、販売戦略をねったり、市場を開発することをニューロマーケティングといいます。大企業はここに莫大な資金を投じています。

動物脳の反応は無意識に行われますが、そういう反応を自然にしてしまうんだ、と知っておくと、人間脳である脳の新しい部位を使って論理的な思考をし、無駄遣いせずにすみます。

食べ過ぎる問題

ある食べ物がおいしい、食べるとハッピーになる、という記憶も、その見た目や匂いと強く結びついています。

チョコレートの匂い、コーヒーの匂い、クッキーの匂い。

私は現在砂糖断ち中ですし、お菓子もほぼやめたし、パンもEzekiel bread(エゼキエルブレッド)しか食べません。

それでも、コーヒーの匂いや、焼き立てのトーストの匂いなどをかぐと、「あら、いい匂い。おいしそう」と感じます。

ですが、匂いは匂いだけを楽しむようにしています。

おいしそうな匂いがしているからといって、食べる必要はないのです。

以前、音の断捨離をおすすめしましたが、周囲の香りに関しても、注意を向けて、不用なものは捨てたほうが生活の質があがるでしょう。

音を捨てる話⇒年末年始のストレス解消に音の断捨離が効く

*****
母親のおなかにいるとき、胎児は母親の食べるものの匂いを感じているって、信じがたいですね。

ということは、変な匂いがすると、赤ちゃんは泣いたりするんでしょうか?

自分が赤ん坊のときの記憶はきれいさっぱりありません。昭和のにおいをかいでいたと思いますが。





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