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楽しい人生を送るインスピレーションを与えてくれるTEDの動画を紹介しています。今回は、女優のタンディ・ニュートン(Thandie Newton)さんの、Embracing otherness, embracing myself(他人を抱きしめること、自分を抱きしめること)。
embrace は「両腕に抱くこと、抱擁」です。やさしく腕の中に包み込む感じ。brace は「腕、上腕」のことです。同じ語源の言葉に、barcelet(ブレスレット)があります。
この意味が派生して、embrace には、「受け入れること、受諾」という意味もあります。邦題は「他者の受容と自己の受容」。
「他者の受容と自己の受容」のTEDの説明
Actor Thandie Newton tells the story of finding her “otherness” — first, as a child growing up in two distinct cultures, and then as an actor playing with many different selves. A warm, wise talk, fresh from stage at TEDGlobal 2011.
女優のタンディ・ニュートンは、子供のときは、全く異なる2つの文化の中で育ち、のちに役者になってさまざまな役を演じました。この経験から、彼女が自分の中に「他人」を見つけた話をします。
2011年のTEDグローバルで行われた、あたたかくて、思慮深いプレゼンです。
「他者の受容」と書くと、心理学の本みたいですが、プレゼンの内容は、タンディのパーソナルヒストリーです。おしまいのほうで、「世界とつながりましょう」とやや話が大きくなります。
タンディはなかなか自分を受け入れられなくて、つらい思いをしてきました。
しかし、それまでこだわってきた「自己」を手放すことで、本質的な自分とつながれたし、それが他人を受け入れることになる、と語っています。
動画の長さは14分。日本語字幕を貼ります。字幕なしや英語がいい方は、プレーヤーで調節できます。
動画のあとに、要約を書きますが、タンディはとてもすてきな声の持ち主なので、時間があれば、ぜひプレゼンを聞いてください。
☆トランスクリプトはこちら⇒Thandie Newton: Embracing otherness, embracing myself | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
生まれたときはみんな世界とつながっている
他者を受け入れることは、自己を受け入れること。私が、自分を受け入れるまでにいたった話をします。
人が生まれたときは、みんな世界の一部だと思っています。しかし、すぐに世界から切り離され、自分は分かれていると思い始めます。
自己というコンセプトが生まれるのです。
But the self is a projection based on other people’s projections. Is it who we really are? Or who we really want to be, or should be?
しかし、自己は、他の人の考え方にもとづく、1つの投影にすぎません。それは本当に私たち自身なのでしょうか?それとも、私たちがなりたいと思っている私たち、そうあるべきだと思っている私たちでしょうか?
私が世の中に提示しようとした私自身は、周囲から何度も拒絶されました。私は困惑し、恥ずかしいと思い、絶望しました。これはずいぶん長く続きました。
自己がこわされるときパターンがあることに気づいた
何度も自分の自己が打ちのめされる経験をするうちに、あるパターンがあることに気づきました。外の影響を受け、こわされても、必ずまた新しい自己が生まれました。
それはいつも違う自己でした。
そもそも私の自己は生きていたわけでもないのです。
私の父はコーンウォール出身の白人で、母はジンバブエ出身の黒人。私達が家族として存在することすら、周囲には受け入れがたいことでした。
そして、茶色い肌の赤ちゃんが生まれました。
5歳のとき自分が周囲から浮いていることに気づきました。修道女が運営する白人ばかりのカソリックの学校に通っていました。
私は黒人で、神様を信じていませんでした。
私は異質な存在だったのです。私の自己は、周囲とつながろうとしたけれどできませんでした。肌の色も、髪の色も経歴も「正しくない」私は、その社会では、存在しないも同じだったから。
私は少女である前に、他者であり、別の人間だったのです。
演劇とダンスで救われる
演劇とダンスを始めたことで別の世界が広がりました。
ダンスをしていると、いつも感じていた「自己である恐怖」は感じませんでした。文字通り、無我夢中になれました。
私はダンスがとても得意だったから、感情的な表現をすべてダンスに込めました。
ダンスを踊っていると、リアルの世界ではなれない自分になれたのです。
16歳になって、映画に出演する機会を得ました。演技をしているときは、とても、心が穏やかでした。
私の「壊れていた自己」が「別の自己」につながることができたのです。とても幸せでした。
壊れていない自己、ちゃんと機能している自己に出会った初めての体験でした。自分がコントロールして、命を吹き込んだ自己です。
ですが、撮影が終わると、もとの自分に戻りました。
人類学を学んで「人種」に対する考えを改めた
演技のキャリアは順調でした。でも、あいかわらず、自己の位置づけで悩んでいたので、大学で人類学を学びました。
フィリス・リー教授に、「人種をどう定義しますか?」と聞かれました。
私は「肌の色です」と答えました。
教授は「つまり、生物学、遺伝的要素?」と続け、私が間違っていると言いました。
遺伝的な違いなら、ケニア人の黒人とウガンダ人の黒人の違いのほうが、ケニア人の黒人とノルウエー人の白人の違いより大きいと。
なぜなら、すべての人のルーツはアフリカにあるから。
アフリカには、遺伝的な多様性が生まれる時間がより多くあった、と先生は言いました。
人種は生物学的事実や科学的事実には基づいていないのです。とはいえその一方で、確かに人種はあります。
私は自分の自己の定義に自信を失いました。
確かなのは、私達のルーツは、16万年前にアフリカに存在した、ミトコンドリア・イヴという女性だということ。
人種は、人間が恐怖や無知のせいで作りだした非論理的なコンセプトなのです。
とはいえ、これがわかっても私の低いセルフ・エスティームは改善されませんでした。「消えてしまいたい」という欲望は相変わらずとても強かったのです。
ケンブリッジ大学の修士号を獲得し、女優としても順調でしたが、私自身は壊れていました。過食症になり、セラピーを受けていました。
自己がすべてだと信じるのをやめたら世界が変わった
自分の自己が自分のすべてだと思っていたのでうまくいかなかったのです。
人は、自分の価値を支持する価値体系や物理的現実を作っています。セルフイメージを高めるための産業は大きな収益をあげています。
みんな、「自分の自己は生きている」と思ってしまうのです。
しかし、人の自己は、死という現実からのがれるために脳が作った、ある投影にすぎないのです。
自己に、究極的につながりを与えるものがあります。それは一体感(oneness)です。私たちの本質です。
自己はそれを創りだしたもの、つまり私たち自身とつながらなければ、私たちは、その自己が、真のものであるのか、そもそもそれが何なのか、苦しみながら考えることになります。
自己を失うとき、私たちは自分の本質とつながることができます。
演技をしたり、ダンスをしているとき、私は自分の本質に立ち戻り、「自己」は宙ぶらりんになります。この時、私はすべてのものとつながります。大地、空気、観客のエネルギーと。
私の感覚は研ぎ澄まされます。これは、小さな子供が持つ世界と一体になっている感覚と同じなのです。
自己は単なる投影だが、ある機能を持っている
自己を尊重しすぎることをやめ、させたいようにさせることにしました。もっと、自分らしく生きるように練習しました。
残虐で狂った人たちが、他人の欲をあおって、人の痛みや死を感じることから切り離そうとしています。
皆が、自己の中だけで暮らし、それが人生なんだと思うと、人生の質がさがってしまいます。
つながりのない状態でいると、地球やほかの命あるものと調和して暮らすことができません。
今、この世界にはさまざまな亀裂ができています。大量の油や血の流れこむ亀裂が。
私たちは、この地球やほかの生物とどうやって一緒に暮らしていこうか考えあぐねています。
ですが、私たちではなく、私たちの狂った自己が一緒に生きようとして、引き裂かれたままなのです。
皆、一緒に生きていきましょう。重い自己の下に入り、自分の本質を見つけることができれば、他の生命とつながることができます。
何もないことを恐れずに。
想像してみてください。必ず訪れる死をたたえ、だからこそ、生きていられる特権に感謝し、次に何がおこるのか、驚きとともに進めば、私たちはどんな存在になれるのか?
それは簡単な気づきから始まるのです。
—-抄訳ここまで—-
ミトコンドリア・イヴとは?
ミトコンドリアは、ほとんどの生物の細胞の中にある小器官。ミトコンドリアの持つDNAは、母親からしか受け継がれないので、人類のミトコンドリアをどんどん遡っていくと、1人の女性に行き着く、という考え方があります。
その最初の女性が、ミトコンドリア・イヴと呼ばれています。
今生きている人たちは、みんなミトコンドリア・イヴの遺伝子を受け継いでいるけれど、ミトコンドリア・イヴの時代には、ほかにも女性がいました。
今の人類にもっとも近い世代の祖先がミトコンドリア・イヴです。
いずれにしろ、この人は、アフリカのキリマンジャロのふもとにいたので、みんな、もとは、アフリカの人である、というわけです。
自己を失ったときに自分がわかる
このプレゼンの英語はそんなに難しくないのですが、英語特有の抽象名詞が多いので、そのあたりがピンと来ないかもしれません。
otherness 他者、他のもの。
他人もそうだし、自分以外の世界にあるすべてのものと考えられます。
私たちは、ほかのものとつながりを持たないとあまり楽しく生きられません。
そもそも、他者がいなければ自己もないので、絶対必要な存在です。
self 自己。
自分は誰であるのか、というコンセプトです。実はこれは、単なる他人や社会の考え方の投影であるから、そこまで重要視するべきではない、とタンディは言います。
タンディは、「そうあるべき自己」を持って、まわりとつながろうとしていたから、ずっとうまくいかなかったのです。
本当の自分(ハーフである自分)でいようとすると、まわりに受け入れられなかった環境があったので、ずっと苦しんできたのですね。
ですが、ダンスをして、無我の境地になれば、自己が邪魔をしないため、本当の自分でいられ、それがとても幸せだったのです。
本当の自分自身は自分が考えている「自己」ではなく、ふだんは自己に隠れている、essence 本質 にあるのです。
みんな、本当は良心的でやさしく、世界とつながりを持っている存在だと思います。社会的な圧力や、思い込みによって、そうではない人を演じているとしたら、それは自分の本質を生きていることにはなりません。
自分の本質を生きていないとき、人は例外なく不幸なのです。
oneness 同一性、一体となること。
自己と自分の本質がつながった状態でもあるし、自分が世界とつながっている状態でもあります。
awareness 気づき
「自己は単なる投影」だとか、「世間は人の欲をあおっているが、これはかえって、人のつながりを阻害している」といったことに気づくことです。
物事を改善するには、まず気づきが必要です。
nothingness 何もないこと、無、無意識
自己のことなどごちゃごちゃ考えず、素の自分でいること、とも考えられるし、死でもあるし、「よけいなものを持っていない自分」とも考えられます。
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今回、この動画を選んだのは、セルフエスティームについて記事を書いたからです⇒セルフエスティームを高めて自信を取り戻す10の方法
さらに、心が折れている人からメールが多いからです。
心が折れる理由はいろいろあるでしょうが、自分の本質をさらけだすのを怖れすぎている、というのも1つの理由ではないでしょうか?
自分が無我夢中で楽しめることをやれば、本来の自分に戻るヒントが得られます。
また、物質的なもので武装をすることをやめれば、素顔の自分に戻ることができそうです。
私にとっての nothingness は、よけいな物のない状態。あなたも、今度、物を買いそうになったら、その前に自分の本質やnothingnessについて考えてみてください。