自転車と少女

TEDの動画

お金を使わずに1年暮らしてわかったこと:キャロライン・ホーグランド(TED)

より自分らしく生きる参考になるTED動画を紹介しています。今週は、環境心理学者のキャロライン・ホーグランド(Carolien Hoogland )さんの、My year of living without money(お金を使わずに暮らした私の1年)を紹介します。

特に「買い物が止まらない」「お金がなくて先行き不安」と思っている人に見ていただきたくて選びました。



「お金を使わずに暮らした私の1年」のバックグラウンド

子供のころから、自然や環境に興味があったホーグランドさん。2009年の暮に、「来年1年お金を使わない」という実験をすることを決め、実践に移します。

多少の例外はあったものの、ホーグランドさんは1年間、本当にお金を使わずに暮らしました。どんなふうに暮らしていたのか、その体験からどんな学びを得たのか、語っています。

動画は16分50秒。場所はオランダ、ロッテルダムにあるエラスムス大学。

収録は2014年です。独立イベントのせいか、日本語字幕がないので、動画のあとにポイントをおさえて和訳します。ホーグランドさんはオランダ人のせいか、そんなにむずかしい単語は使っていません。

※TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

小さなときから地球を救いたいと思っていたけれど…

子供のときから地球を救いたいと思っていたので、コメディアンにもなりたい気持ちもあったけれど、環境を守る勉強をするために大学に進学しました。

その後10年、修士号をとり、授業に出て、本を読み、博士号をとり、環境心理学者になり、リサーチをいくつかこなし、パソコンの前で送る日々。

「私、地球を助けるために何もやってないじゃん」

そんなふうに思いました。

お金を使わず暮らそうと思ったきっかけ

2009年の1月、世界的な不況のため優秀な人々がどんどん失業していました。アムステルダムの北部の農場のクラスに参加していたとき、参加者の1人が、

「ねえねえ、考えてみて。みんなが失業して、ただ単に生きるってのはどうかしら?」

と言いました。

その時、思ったんです。

「うん、うん、うん。いいね。私、それやりたい」と。

朝起きて、出かけて、自分のやりたいことをやる、楽しいと思うことだけをやる、そして社会が私を支えてくれる、そんなことができたらいいな、と考えました。

実は、ずっと前からそうしたいと思っていたのです。

翌日、自分への約束をしたためました。

「私はやるわよ。仕事なしで生きてやる」。いろいろなアイデアがわいていきました。この人にはこんな仕事をして、あの人にはこんなことをしてあげて、というように。

家に戻って、彼氏にこの話をしました。彼は、「ふん、たいした考えだ。ぜいたくだな。1年、貯金だけで暮らすなんて」という反応。

「違うわ。これ、お金の問題じゃないのよ。お金があろうとなかろうとできることよ。私はお金なしで暮らしてみせる。証明するわよ」、こうして私の挑戦は始まりました。

綿密な計画をたてた

彼が意味するのは、サバティカル、でも私が意味するのはクレイジーな考え。2009年の中頃になっても、まだ気持ちは変わりませんでした。

そのあいだに、7つの物々交換の取引(barter deals バーターディール、お金の替わりに物やサービスを提供して物やサービスを得る)をアレンジし、食べ物と住む所、ダンスのクラス、職場を確保しました。2010年の1年間、私はまったく収入を受け取らなかったのです。

私は冒険が好きなんです。でも、きっちりした性格でもあります。どんなプロジェクトを始める前も綿密な計画をたてます。それが成功の鍵です。

そこで、ライティングの得意な友達の助けを借りながら、自分のプロジェクトを説明した手紙を書き、物々交換を頼めそうなところに送りました。その後フォローアップの電話をして、興味があるかどうか聞いてみました。

驚いたことにほとんどの人が協力してくれたのです。





バーターディールでサバイバル

ガスや電力会社も、私が環境に配慮した商品(グリーンプロダクト)をマーケティングする助けをする替わりに、1年間、ガスと電気を提供する、と言ってくれたのです。

地元のオーガニックストアでは、毎週土曜日の朝、コーヒースタンドを出す約束をとりつけました。これはずっとやりたいと思っていたことなので、実現してうれしかった。

1つだけ例外があります。保険会社にも話をもちかけましたが、却下されました。当時3歳の息子がいたので、自分や息子の健康にリスクがあることをしたくなかったので、保険料だけは支払いを続けました。

最後に手紙を送ったのはタンゴの学校です。食べ物と住むところだけでは不十分です。ダンスもしたかった。そこでダンススクールに話をもちかけたら、「やってもらうことは、あとで考えるから、好きなときに来てね」と言ってもらえました。

2009年の大晦日に、新聞が私の投書をとりあげてくれたので幸せでした。「2009年の不況のさなか、あなたのキャリアのチャンスは何ですか?」という質問に、「1年お金を使わずに過ごすこと」を提案したのです。

その日の午後、恋人に長々としたテキストメッセージを送りました。1年は送ることができないのですから。

大晦日の夜中に、財布を新聞紙で包んで、ガムテープでぐるぐる巻きにしました。そして2010年になりました。

お金を使わないってどんな感じ?

当初は、どこにも行くことができなくて仲間はずれになって孤独になるだろう、と思っていました。

ところが、人の仕事やプロジェクトをたくさん手伝ったおかげで、ふだんよりずっと人とかかわることができました。

レストランには行けないから、毎週木曜日に、料理をして友達を招きました。毎週、違う友達が飲み物を携えてやってきました。キッチンはサロンみたいになって、みんなと飲んだり話したりできたのです。

何か必要なものがあったら、友達にメールで頼みました。息子の自転車とか。

タンゴスクールのために、生徒集めをしたので、いろいろな所で、いろいろな人と知り合うきっかけになりました。

仕事のスペースはクリエイティブハブの中に持てました。そこで、 Money As Debtという金融システムに関するドキュメンタリーを見てショックを受けました。

私はそれまで、そんなお金のシステムがあるなんて知らなかったし、自分がその中で暮らしていたことに愕然としました。

きっと皆さんもそうだと思います。

とは言え、お金のシステムに批判的だったから、この実験を始めたわけではありません。もっと自分の好きな仕事をしたいと思って始めました。

やむおえずお金を使ったこともあった

その年の中頃、ベルリンに住む友達に招かれしばらく住むことになりました。ただ、そこではロッテルダムのように、バーターディールをすることができませんでした。

オーガニックフードの店に行き、自分のやっていることを説明したら、食べ物を分けてもらえました。そのとき、すごく不安になり、疎外感を味わいました。

友人に頼りっぱなしも嫌でした。2日間、じっくり考え、これ以上できないと思い、ATMに行き、お金をおろして、友人にアイスクリームをごちそうしました。

オランダに戻ってからは、もとのお金を使わない生活に戻りました。

意外なことに周囲の人は実験に好意的だった

この実験を始めてすぐの頃は、人に実験のことを話すのを避けていました。「狂ってる」「変人だ」と思われるに決まっているから。

ですが、少しずつ、仕事を手伝っている友人たちに、自分のやっていることを話しているうちに、みんな、とても興味を持ってくれているのがわかりました。

みんな私がやっていることに、興味津々でした。お金がなくても生きていけるんだ、そんな方法があるんだ、と喜んでいるようでした。

そこで私も次第に自分の取り組みを人に話すことに抵抗がなくなり、自信を持って、幸せな気持ちで、みなに自分の考えや体験を話すようになりました。

2010年の終わりに、この実験を思いついた場所である農場に戻り、ヨガとタンゴでお祝いをしました。

翌日、息子が財布の包みからガムテープをはずすのを手伝ってくれて、またお金を使う生活に戻りました。

大切なのは人間関係のネットワーク

最初はすぐく妙な気分でした。あまりお金を使いたくなかったんです。バーターディールが懐かしかったのです。

そっちに慣れていたし、物事に感謝するようになっていました。友達や他の人がいるから、自分があるんだとよくわかったのです。

友達は私の実験を「人間関係のネットワーク(economy of relationships)」と呼びましたが、まさしく、そのネットワークのおかげで、安心感や感謝の気持ちが得られました。

それから3年たち、私は、自分のビジネスを立ち上げて生計を立てています。お金を使わずに暮らした1年が、このビジネスに結びつきました。

お金を使わなかった年、私は、気まぐれな買い物も、外でコーヒーやケーキを食べることも、旅行することも、ショッピングを楽しむことも、香水を選ぶこともしませんでした。

でもそのおかげで、自分が欲しいものを得ることができたのです。今は、地球を救うための仕事をしています。

好きなことを続ければ幸せに

バーターディールでしのいでいたとき、たくさんの人とより強いネットワークを作ることができました。それが今の仕事につながっていて、私は、より大きな自信を得ることができました。

今は自分がやりたいことも、やりたくないことも、自分ができることも、できないこともよくわかっているからです。

自分のキャリアとか、この先仕事がどうなるかなんて心配しなくなりました。自分がおもしろいと感じることをやっていけば、なんとかなるとわかったから。

皆さんに、私のしたことを真似しろとは言いません。でも、1週間でも1ヶ月でも1年でも、自分が本当にしたいことをしたり、好きな人たちと仕事をしてほしいのです。

そうすれば、得難い教訓を得て、成長できると思います。

仕事やお金の心配をせず生きることは、ほかの人のためにもなるんです。

最後に、マンフレッド・マックス=ニーフ(Manfred Max Neef )の言葉を贈ります。

The economy is there to serve the people and not the other way around.(経済は人のためにあるものであり、その逆ではない)。

自分が好きなことをやると、新しい経済を作りだせます。新しいことを生み出し、人のために経済が回る世の中を作ることができるのです。

—- 抄訳ここまで ——

注釈

Money As Debt(負債としてのお金)。銀行が何もないところから負債を作り出しているシステムを説明しているアニメ。オリジナルも、日本語字幕つきのもYouTubeにあります。

邦題は、「お金ができる仕組み。銀行の詐欺システム」です。

Manfred Max Neef マンフレッド・マックス=ニーフ(1932生)チリの経済学者。

たぶん伝統的な経済学では、人間の無限の欲望にあわせて、物をたくさん作ればいい、という考え方をしていると思います。

バッグが欲しがるからバッグを、洋服をほしがるから洋服を、とにかくたくさん作って与えておけば、人は幸せだ、という考え方です。

しかし、マックス=ニーフは、人のニーズはそんなものではない、と言っています。

彼によると、人間の基本的なニーズは、

subsistence 生存
protection 保護
affection 愛情
understanding 理解
participation 参加
leisure 暇な時間
creation 創造
identity アイデンティティ
freedom 自由

この9つのみ。これは文明の進化度には関係ないとのこと。

言われてみるとそうなのです。この9つのどれかが足りないから、物に頼ってしまうのではないか、と最近の私は考えています。

バッグも服もiPhoneもマックブックエアもアイデンティティというニーズを満たしたり、社会への参加や、人からの愛情を得たくて手にするものだと思います。

本当に必要なのは物じゃないのです。

☆こちらの記事では、半永久的にお金を使うのをやめたダニエロ・スエロさんを紹介⇒不用品の処分にかかる費用がもったなくて捨てられない問題をどうするか?

自分の好きなことをやることが幸せにつながる

ホーグランドさんの動画を見て、どう感じたでしょうか?

「彼女はロッテルダムにネットワークがあったからできたこと」と思う人が多いと思います。

しかし、それは逆に言うと、お金ばかりに頼っていると、人と人とのつながりがどんどん損なわれることを意味します。

今、全体的に人間関係が希薄になっていて、孤独を感じている人が多い社会です。これはお金と物に頼りすぎているゆえのことだと思います。

1年間、お金を使わないなんて私にはできないことですが、せめて、買わない挑戦はできるのではないでしょうか?

買わない挑戦の始め方⇒誰でもできる『買わない挑戦』の始め方。自分ルールで楽しく実践。

買い物が止まらない、洋服を買うのが止まらない、コスメのことばかり考えてしまうというメールを少なからずいただくのですが、それは代償行為なのです。

マックス=ニーフの言う、基本的なニーズが満たされているかどうか考えてみてください。

過度の買い物をやめてみると、9つのニーズ、すべてがより満たされると思います。

お金がそんなに必要なくなるから、自由や暇な時間はできるし、するとより創造的になるし、家族と過ごす時間も増えるから愛情豊かな生活になるし、他人に対する理解も深まるし、いろいろな集まりに参加する余裕でもできます。

自分にとって何が大事なのかわかるからアイデンティティも確立してきます。

生存や保護が脅かされると思うかもしれませんが、みんなが、買い物に血道を上げるのをやめれば、ストレスが少ない、より安心して暮らせる社会になるし、仕事の取り合いもなくなるのです。

これが彼の言う、人のために機能する経済ではないでしょうか?





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