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生産性をあげたい人、もっと脳を活用したい人の参考になるTEDトークを紹介します。
タイトルは、Flex your cortex — 7 secrets to turbocharge your brain 大脳皮質を動かす–脳を活性化する7つの秘訣。
認知神経科学者のSandra Bond Chapman, Ph.D. (サンドラ・ボンド・チャップマン教授)さんのトークです。
邦題は「脳を動かそう ― 脳の性能を上げる7つの秘密」
長いあいだ、脳の状態は変えることができないと考えられていましたが、近年の研究から、脳にいいことをすれば、脳の状態を変えることも、活性化することもできるとわかっています。
その方法を教えてくれるプレゼンです。
脳の性能をあげる
収録は2014年の6月、長さは12分30秒。日本語字幕あり。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
とても勇気づけられるプレゼンですね。
脳の研究を志した理由
幼いころ宇宙飛行士になりたいと思っていました。そんなある日、ブライアンに出会ったのです。
ブライアンは11歳。自閉症で、重度の知的障害という診断を受けていました。
彼は話すことができず、話された言葉を理解することもできませんでした。
ある日、テープレコーダーが壊れてしまい、どこに持ち込んでも直せないと言われました。
ところが、ブライアンに渡したら、完全に分解して、またたくまに組み立て直してくれたんです。
この能力は、彼が受けていた診断とは相容れません。
このとき思いました。宇宙や月世界旅行ほど、人は脳について知らないと。
脳の尽きることのない潜在能力を解き放つ仕事がしたいと思いました。
脳にいいこと・悪いことがわかってきた
脳の皮質を活用すれば、たくさんのことができます。
脳科学者として30年間、脳を理解しようとしてきました。
脳画像を見る技術のおかげで、ここ5年でたくさんのことがわかりました。
脳によくないものや、脳をより働かせることができるものがわかりつつあります。
しかし、科学的な発見を実生活に活かせるようになるまで、1世代か2世代ほどかかります。
そんなの受け入れられません。
私たちの脳のピークは、40歳前半だとされていますが、それは嫌ですよね。残りの人生を、衰えつつある脳と生きるなんて。
でも、そうある必要はないんです。
脳について学んでいるので、私はとても楽観的です。同時に、せっかちでもあります。私たちの脳は、もう1年たりとも待てません。
そこで、きょう、科学的に実証されている、脳を活性化する秘密を7つ紹介します。
いくつかの秘訣は、みなさんの常識とは違いますよ。
1.シングルタスク(Single-task)
脳は、1度に1つのことをするようデザインされています。ところが、ペースが早く、どんどん変化する社会では、みな、1度に5つぐらいのことをしようとします。
それは必要なことだし、そうするのは恩恵があると思っています。
これほど事実と違う見解はありません。
脳は労力を必要とする2つのことを同時にするようにはできていません。
ただ単に、1つのタスクから次のタスクにすばやく切り替えているだけです。そのとき、脳の中でも、一番頭のいい前頭葉の部分を使うことになります。
マルチタスクをすると、脳のシステムに負担がかかり、知的活動が低下し、ストレスホルモンが増えます。
シングルタスクをすれば、知的生産が大いに向上しますよ。
2.情報を抑制する(Inhibit information)
情報があふれかえっている現代は、指先1つで、たくさんの情報を得ることができます。
私たちは、20年前と比べると、200倍の情報にさらされています。
脳の中は情報でいっぱいなんです。
情報が多ければ多いほどいいと思うでしょう?
実は、もっとも高いパフォーマンスをする人たちは、一番物事を覚えている人たちではありません。
むしろ、何をブロックし、抑制し、排除ずべきかわかっている人たちです。
3.気をそらすものを取り除く(Detox Distraction)
「テクノロジーは脳にとっていいですか、悪いですか?」
よく聞かれる質問です。
答えは、「はい」です。
テクノロジーは、脳によくも悪くもありません。ただ、私たちがテクノロジーに自分たちをコントロールさせることがよくないのです。自分でテクノロジーを管理するのではなく。
スマホなしで、1分もいられません。今、会場に座って、アラームがなるたびに、スマホを見ている人もいるでしょう。
私たちは、テクノロジーのアラームの音に依存してしまっているのです。
リサーチから、人は、3分しか集中できないことがわかっています。
たった3分間で、レベルの高い思考などできませんよね。
今、大企業と、知的生産性をあげる方法を研究していますが、その秘訣は、気をそらすものをデトックスすることです。
4.ビッグアイデア思考(Big Idea Thinking)
これはとても重要です。ビッグアイデア思考は、脳の尽きることのない燃料です。
ビッグアイデア思考は、異なる領域にあるいろいろなアイデアを、すでに持っている知識と組み合わせて、次元の高い思考をすることです。
たとえば、情報を合成して。
自分が聞いた講演やニュースのエッセンスをどうやって引き出しますか?
合成しますか、それとも、解釈しますか?
読んでも内容を覚えていられない本が何冊もありますよね? それは本の伝えていることを解釈しないからです。
解釈するとはどういう意味か? 本質的な意味を知ることです。
この考え方は、コミュニケーションの質も変えます。
メールにどんなタイトルをつけていますか? 誰もが考えつく凡庸なタイトルではないでしょうか?
誰もが読みたくなるタイトルを思いつけるようになったらどうなるでしょう?
メッセージの内容もそうです。
自分の深いレベルでの思考が表れていない情報を羅列していませんか?
ビッグアイデア思考は、記憶、思考、学習を強力なものにします。
ビッグアイデア思考をしているとき、脳はより健康になります。血流が8~12%も増加するんです。神経細胞にとって、とてもいいことです。
さらに、中央実行系のネットワークで、神経を伝達する速度が、30%増加することもわかっています。
中央実行系は、計画をたてたり、論理的に考えたり、問題解決をしたりするのに重要な場所です。
ビッグアイデア思考は、体にとっての腕立て伏せや懸垂(けんすい)のようなものなのです。
5.調節する (calibrate)
次はバランスに関することです。
何にどれだけ労力をかけるか、調節してください。
1日の終わりになると、精神的にとても疲れて、「ああ、脳よ、明日はまたちゃんと動いてね」と思うことがよくあります。
私たちは、さっさとすべきことに時間をかけすぎる一方で、時間をかけるべきことに、十分、時間を取りません。
私が好きな言葉は、「ゾウの狩りをしているときは、ウサギを追いかけ回すことに精神的エネルギーを無駄に使うな」です。
ウサギはさっさと片付けて、ゾウ、つまり重要なことに時間をかけましょう。
脳のピークタイムにゾウについて考えてください。
その時間は、多くの人にとって、起きてから最初の2時間です。
6.革新(Innovation)
幼少期から老年期まで、脳はさまざまなインスピレーションを受けるようにできています。
毎日新しいものを生み出します。現状を嫌うのです。
決まりきったやり方をしていると、すぐに後退しますが、革新的なことを始めると、脳はエンジン全開になります。
大事な人たちとの会話もそうですよ。
たまに、退屈なことを言ったりしますよね。
「元気? 調子はどう?」「いいわよ、さようなら」
この会話を革新すればロマンスに火がつくかもしれません。
7.やる気(Motivation)
やる気は才能より重要です。
私たちを含めて多くの人にたくさん才能があるのに、そのポテンシャルをフルに引き出せていません。
その理由はやる気が足りないから。
「やる気ってわかりにくいですよね。スイッチを押せば、やりたくないことをやる気になった、というわけにはいきません」。
あなたは、こう言うかもしれませんね。
好きなことをやっていると、やる気になりやすいです。
これまで話してきたことをやっても、やる気が出ますよ。
やりたくないタスクについては、少し新しいことをしてみましょう。
内容を変えて、もっとおもしろくするにはどうすべきか考えてください。
こんなふうに脳を使えば、より、やる気が出ます。
やる気は、もっとも強力な神経伝達物質であるドーパミンを分泌させます。
ドーパミンがバランスよく出ていれば、より幸せで、学ぶ速度がアップします。
不可能に見えることを可能にする燃料がやる気なのです。
30年の経験から、今はまだやっていないたくさんのことを、脳はやれるとわかりました。
私の夢は、誰もが、自分の脳を、人生の一番前に持ってくることです。
皆さんは、世界でもっとも強力なエンジンのドライバーであり整備士なのだと自覚してください。
責任重大です。
きょうお話しした7つの秘訣を使って、脳を活性化させましょう。
脳の健康なくして、健康ではいられませんから。
//// 抄訳ここまで ////
補足
central executive network 中央実行系ネットワーク。ワーキングメモリの処理を制御できる中心的な部分
チャップマン教授の著書です。
チャップマン教授の別のプレゼンを、以前記事にしたことがあります⇒頭をよくするシンプルな5つの方法。脳を活性化して最大限に使うには?(TED)
脳に関するほかのプレゼン
脳の実行機能を高める方法(TED)~衝動買いを抑制したいあなたに。
脳の健康は人生を変える – 脳画像が教えてくれること:ダニエル・エイメン(TED)
頭をよくするシンプルな5つの方法。脳を活性化して最大限に使うには?(TED)
ほかにもたくさんあります。
上位の概念を引き出す
シングルタスクや情報を遮断する話は、過去記事でも何度か書いたので、今回がビッグアイデア思考について話します。
ビッグアイデア思考は、さまざまディテールを組み合わせて引き出すコンセプト、原則、理論です。
多くの場合、「これを1つの文章で説明すると何になるか?」という質問の問いがビッグアイデアになります。
そのためには、一歩さがって、現象をズームアウトして見る必要があります。
たとえば、断捨離とは何か? という質問があったとしましょう。
その答えは、ある人にとっては、ゴミ収集日に不用品を捨てることだし、ある人にとっては、望む人生を叶えるツールです。
もし、断捨離を、ただ単に不用品を捨てることだと思って実践していれば、それはあくまで捨てることにとどまりますが、望む人生をもたらすものという意識を持っていれば、捨てるだけではなく、買い物を控える、心のガラクタを捨てるといった選択肢も見えてきます。
ビッグアイデアはそれが存在する目的や、その行動をする目的とも言えます。
何か打開したい状況があるとき、ビッグアイデアを考えることが役立ちます。
特に人間関係(自分との関係も含めます)で役立つのではないでしょうか?
自分をビッグアイデアで表すとどうなるか? 家族や、自分の嫌いな人を、ビッグアイデアで定義するとどうなるか?
きのう、「父親との関係が変わった」という読者のメールを紹介しましたが、お父さんに対する見方が変わったから、関係が変わったのだと思います。
そのためにこの読者は、お父さんの表面的な行動だけでなく、まったく違うジャンルの情報、つまり実際に自分が断捨離をして得た情報も組み合わせて、お父さんという人間を解釈しました。
お父さんを、ただのタメコミアンと定義することもできるし、仕事でこんなことをめざしてがんばって来た人とも、子どもたちのいい父親とも定義できます。
ビッグアイデアを考えると、脳の血流の流れがよくなるとチャップマン教授は言っていますが、それは、より深い思考をするからだと思います。
細かい事象、それもいろいろなジャンルの事象を集めて、1つのコンセプトを引き出すためには、じっくり考える必要がありますから。
要するに、脳を活性化したかったら、何事についても、一段掘り下げて、上位の概念を考える習慣をつければいいのです。
ただ単に暗記するだけでなく、思考することが、脳を活性化します。
ビッグアイデア思考は人間にしかできないことなので、AIの台頭がめざましい今こそ、より求められる思考だと思います。