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スマホやインターネットによって、人々は、始終気が散っています。
スマホを使いつつも、よりよい時間をすごすことができる技術を開発しよう、というTEDのプレゼンを紹介します。
タイトルは、How better tech could protect us from distraction (いかによりよい技術が、気を散らすことから私たちを守ってくれるか)。
講演者はデザイナーの、トリスタン・ハリス(Tristan Harris)さん。ここでいうデザインは、オンライン上にあるシステムやサービスのデザイン・設計のことです。
邦題は、『注意散漫を防ぐより良い技術』。
気が散らないようにする技術を開発しよう:TEDの説明
How often does technology interrupt us from what we really mean to be doing?
At work and at play, we spend a startling amount of time distracted by pings and pop-ups — instead of helping us spend our time well, it often feels like our tech is stealing it away from us.
Design thinker Tristan Harris offers thoughtful new ideas for technology that creates more meaningful interaction.
He asks: “What does the future of technology look like when you’re designing for the deepest human values?”
テクノロジーのせいで、本当にやろうと思っていることを邪魔されることが多いです。
仕事でもプライベートでも、ポップアップや通知音は、驚くほどの時間、人の気をそぎます。よりよく時間を過ごすことを助けるかわりに。あたかも、技術が時間を盗んでいるかのようです。
デザイン・シンカーのトリスタン・ハリスは、もっと意味のある交流ができる技術を生み出すための考え方を伝えます。
「もっと深い人間の価値をもたらすことをめざして設計された技術の未来とはいったいどんなものか?」。こうハリスは問いかけます。
収録は2014年の12月。プレゼンの長さは15分です。日本語字幕もあります。動画のあとに簡単に抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Tristan Harris: How better tech could protect us from distraction | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
テクノロジーに時間を奪われている私たち
よい時間をすごすとはどういうことでしょうか?
私は、よい時間の過ごし方について考えることに、時間をたくさん使っています。たぶん、使いすぎているでしょう。
ですが、そうすべきだとも思います。このところ、私の時間は、少しずつ、どこかに行ってしまうようです。
テクノロジーのせいで、時間が失われている気がするのです。いろいろなものチェックするたびに。
メールの通知が画面に出てくると、たとえば、自分の写真に誰かがタグをつけましたよ、という通知が表示されると、気になってすぐにクリックしてしまいます。
どんな写真かな、と思ってしまいます。そこで、クリックしますが、写真を確認しただけではすまず、そのままそこで20分ぐらい使ってしまうのです。
一番ひどいのは、こうなることがわかっているのに、クリックしてしまうことです。
メールをチェックしたら、画面を下にプルダウン(再読み込み)して、またチェック、60秒後にまた再読み込みしたり。なぜ、私はこんなことをしてしまうのか?
スマホはスロットマシーン
アメリカ合衆国でもっともお金を生み出している産業が何か知っていますか?
映画とゲームセンターと野球を合わせたよりもっと稼いでいるものです。
スロットマシーンです。
コインのような、少額のお金を使ってするゲームがどうしてそんなにもうかるのか?
実は、私のスマホもスロットマシーンなのです。画面で何かをチェックするたびに、スロットをひいています。
「どんなメールが来ているのかな?」「次は何が出てくるかな?」
そう思って、いつまでも再読み込みを続けるのです。
私はデザイナーなので、スロットを引き続ける心理についてはよくわかっています。しかし、それを知っていても、そうしない選択はなく、私も餌食になってしまうのです。
オンとオフの間の選択
いま、私たちは、こうした技術にたいして、オール・オア・ナッシングの関係でいます。
オンかオフか。
つながっているとき(オン)は、いつも気が散っていて、つながっていないとき(オフ)は、「何か重要なことが起こっているんじゃないか」と心配しています(FOMO)。
気が散っているか、心配しているかのどちらかです。
技術を使っていても、時間の使い方を自分で決めることができる(選択できる)ようにしなければなりません。
そうするには、デザイナーの助けがいるのです。なぜなら、知っているだけでは、そうできないから。そうできる設計が必要なのです。
それはどんなものでしょうか?
仕事中にテキストが来ると気が散る
テキストメッセージのやりとりを例にとりましょう。
ここに2人の人がいます。左側は、ナンシー。ナンシーは、書類作成をしています。右側はジョン。ジョンは突然、「忘れるまえに、ナンシーに書類について聞いとかなきゃ」と思いつきます。
ジョンは、ナンシーにメッセージを送ります。すると仕事にフォーカスしていたナンシーの気が散ります。
私たちはいつもこんなことをやっているのです。左側と右側でお互いの注意を奪いあっているのですね。
すると重大な代償が伴います。もとの仕事にまた、注意をむけるには、平均23分かかるのです。
本来やっていた仕事と、別の仕事に、くるくると注意を切り替えているわけです。これは、グロリア・マーク教授と、マイクロソフトの研究からわかったことです。
こんなことをしていると、悪い習慣がついてしまうこともマーク教授の研究からわかりました。外的なものに邪魔されればされるほど、自分自身でも、気が散ってしまう(集中できない)のです。
私たちは、3分半に1回、気が散っています。
ではどうしたらいいのでしょうか?
気が散らないシステムとは?
ナンシーとジョンは、オール・オア・ナッシングの関係にいます。ナンシーは、オフラインにすることもできますが、そうすると、重要なことを取り逃がすかもしれないと心配になるでしょう。
この問題を解決できる設計があります。
ジョンが、「この書類をナンシーに送らなきゃ」と思ったとします。そのとき、ナンシーは、「いま、仕事中」と表示できるようにするのです。
「30分間集中したいです」と入力・表示できるようにします。そうすれば、彼女は集中できます。
ジョンは、ナンシーにメッセージを送れば、「メッセージしなければ」という思考を頭から出せます。だからメッセージを送ります。
そのメッセージが待ちの状態になるようにすれば、ナンシーはこのメッセージに邪魔されませんし、ジョンも、気がかりなことをやり終えるので、自分の仕事に集中できます。
このシステムがうまくいくためには、ナンシー自身が、何が一番大事なのか、わかっていなければなりません。
ジョンは、彼女の仕事の途中にメッセージを送ることはできますが、これまでのように、無意識に注意をそぎあうのではなく、意識的に、注意をそぐものを選ぶことができるのです。
このデザインのおかげで、ナンシーにもジョンにも新しい選択が生まれます。
人間にとって価値のある商品のデザイン
この設計では、選択肢を作るだけでなく、答えるべき質問も変えています。
「簡単にメッセージを送れるようにデザインしよう」というゴールではなく、もっと、人間にとって価値のあるゴール設定をしています。
つまり、「2人の人間の間で起こりうる、もっとも質の高いコミュニケーションをできるようにデザインしよう」というゴールです。
デザイナーは、本当にこんなことを気にしているでしょうか?
もっと深いところにある人間のゴールについて話し合っているでしょうか?
やっています。
1年ほどまえ、優秀な設計者たちとティク・ナット・ハンのミーティングを主催する手伝いをしました。
ティク・ナット・ハンは、マインドフルな瞑想について、世界で講演している僧です。
すばらしいミーティングでした。部屋の片側に、テック・ギークが集まり、もう片方に、茶色いローブをまとった、仏教のお坊さんたちがいました。
ミーティングで話し合ったのは、深いところにある人間の価値です。人間の真の価値をいかすために設計するデザインとはどんなものであるのか、話し合いました。
人間の大事にしたい価値とはどんなものなのか、もっとよく聞くべきである、という話題が中心になりました。
スペルチェックではなく、コンパッションチェックという機能を作ったほうがいいと、ティク・ナット・ハンは冗談を言いました。
人の気分を害する言葉がハイライトされる機能です。
サイト設計のゴールを変える
こうした話し合いは、デザインミーティング以外のところでも起きています。
私が好きなのは、カウチサーフィン(Couchsurfing)というサービスです。
カウチサーフィンは、宿泊したい場所を探している人と、そういう場所を無料で提供したい人を結びつけるサイトです。
すばらしいサービスですね。
このサイトの設計のゴールとは何でしょうか?
ゲストとホストを結びつけることですが、それだと、先にお話したテキストのやりとりのゴール(簡単にテキストを送ること)と同じです。
もっと、深いところにある、人間らしいゴールは何でしょう?
カウチサーフィンのゴールは、初対面の人々の間に、長続きするポジティブな体験と人間関係を生み出すことです。
サイトの成功を測定する
すばらしいのは、2007年に、どのぐらいこの目標が達成できているか、測定する方法を導入したことです。
どんな設計目標にも、どの程度、ゴールに近づいているか(成功しているか)測定する方法を取り入れるべきです。
カウチサーフィンの測定は、こんなふうにやります。
2人の人間が過ごした、何日間かをとりあげて、何時間一緒に過ごしたか計算します。そのあと、その体験がポジティブであったか、よい体験ができたか、それぞれに聞きます。
そして、ポジティブな時間から、サイトに費やした時間を引きます。
サイトを使った時間はコストと考えるのです。こうやって出した時間は、『正味の楽しい体験(net orchestrated conviviality)』、または『よい時間』です。
カウチサーフィンがなかったら、生み出されなかった時間です。
時間をうまく使えているか?
毎朝、職場にやってきて、自分がどれだけ、人々の生活にポジティブに貢献できたか、その成果が測定できると、やる気が出ると思いませんか?
自分が仕事をしなかったら決して生まれなかった成果が。
世界のすべてが、こんなふうにまわるところを想像できますか?
あなたが料理好きだとしましょう。
SNSを使うことによって得られた成功の度合いを、自分が料理の腕をふるった夜や、読んでよかったと思う料理の記事から、しょうもないと思った記事や、スクロールすることに費やした時間をひいて、測定できるとしたらどうでしょうか?
ビジネス(求人)のSNSサービスの成功の度合いを、やりとりされたメッセージの数で測るかわりに、人々がつきたいと思う仕事をオファーできた数で測るとしたらどうでしょうか?
そのサイトで費やした時間は引き算します。
出会い系のサービスは、人々が左右にスワイプした数を使って、成功しているかどうか調べますが、かわりに、本当に深い、ロマンチックで、満足できる関係をどれだけ作ることができたかどうかで調べられるとしたら?
こんなふうにして、自分の時間をよりよく使うことができるようになったらいいと思いませんか?
人々の生活に真に貢献するシステムを
こうするためには、新しいシステムが必要です。
現在、インターネットの経済は、というより、経済一般に言えることですが、それが成功しているかどうかは、そこで使った時間で測ります。
ユーザーが多ければ多いほど、より利用すれば利用するほど、人々がそこで時間を使えば使うほど、成功したと考えられています。
しかし、べつの分野でこの問題は解決できているのです。
オーガニックフードは、従来とは違う方法でその価値を測るべきだとわかっています。それは違う種類の食べ物ですから。
だから、値段だけを比較して価値を決めたりはしません。
Leedという、建築物が、環境にやさしいかどうか測る基準も、建築物のよしあしを測るのに、従来の建築物とは違う基準を使っています。
これと似たようなものをテクノロジーに取り入れてはどうでしょうか?
人々の生活に、ポジティブな貢献をする、という目的を設定するのです。
その価値を、これまでとは違う基準で測れば、そうできるのではないでしょうか? そういうサービス(商品)のために、アプリストアに、特別なスペースをもうけたり、こういう目的をもって設計された商品をブラウザで、優先的に紹介したり。
すばらしい世界になると思いませんか?
よい時間を生み出すサービスを作るには?
こういう世界はきょうから作ることができます。企業リーダーのみなさんが、やるべきことは、評価基準を変えることです。
人々の生活の役に立つ貢献をしたかどうかで、評価するのです。そして、これについて、正直に話し合いをします。
最初はうまくいかないかもしれませんが、とにかく話し合いを始めましょう。
デザイナーは、成功やよいデザインとは何か、再定義します。
デザイナーは、企業において、ほかの人より発言権があるので、人々のためにいい選択肢を作り出すことができます。
医学者が『ヒポクラテスの誓い』にある倫理をもとに、より価値のある仕事をするように、デザイナーも、同様のことができるのではないでしょうか?
そして、ユーザーの皆さんは、こうしたテクノロジーを求めてほしいのです。
難しいと思うかもしれませんが。でも、消費者が求めたから、マクドナルドはサラダを提供するようになったし、ウォールマートは、オーガニックフードを売るようになりました。
私たちは、新しいテクノロジーを求めるべきですし、そうすることができます。
そうすれば、使った時間だけを問題にする世界から、よく過ごせた時間を問題にする世界にシフトできるのです。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
pull down 多くのサービスやタイムラインでは、スマホの画面を下にひっぱると(意味、わかりますかね?)、画面が再読み込みされますが、その動作のことだと思います。
bulldoze 1.脅迫する、おどして~させる、強行する、無理に押し通す 2.ブルドーザーでならす
☆ジーニアス英和辞典によれば、19世紀のはじめ、言うことをきかない黒人を罰するのに、牛を打つむちを使ってたたいて、言うことをきかせたことからできたことばだそうです。
FOMO Fear of Missing Out 取り残される恐怖。詳しくはこちら⇒SNS依存に注意。FOMO(フォーモー:取り残される不安)を捨てる方法
tech geek テック・ギーク、テクノロジーおたく。
『おたく』というとネガティブな感じがするかもしれませんが、ギークは、ITに強い優秀な人たち、というニュアンスがあり、むしろあこがれを持たれる存在かもしれません。
abrasive しゃくにさわる、不愉快な、耳障りな
Leed certification 建築の、環境性を評価するシステム。その建築物が、いかにグリーンビルディング(サステナブルビルディング)であるのか、いかに環境に負荷をかけないのか、さまざまな指標を使って調べます。
Hippocratic Oath ヒポクラテスの誓い。医師の倫理や役割について、ギリシャの神に宣誓したもので、ヒポクラテス全集に入っています。
ヒポクラテスと弟子たちが書いたと考えられているこの宣誓は、現代の西洋医学でも、語り継がれています。
ティク・ナット・ハンの本は、たくさんありますが1冊だけリンクします。
キンドル版だと、Kindle Unlimitedを利用している方は読み放題で読めます(今のところは)。
デジタルがテーマのほかのプレゼン
なぜデジタル機器の画面を見て過ごしていると幸せから遠のくのか?(TED)
スマホやYouTubeがクセになってしまう行動様式を知り、悪習慣を改める(TED)
価値や目的について考える
ハリスさんのプレゼンは、人によっていろいろな気づきがあると思いますが、ここでは、価値と目的(ゴール)について考えることをお伝えします。
SNSやメッセージのやりとりをしているとき、自分がどんな価値を得ているのか、あるいは人に与えているのか、その行動の目的は何なのか、それは、自分の人生のゴールに通じるものなのか、考えてみるということです。
何も意識していないで、ただ、「暇だから」「退屈だから」と、サービスを利用していると、ずるずるとSNSやらをやってしまって、すごく時間を浪費してしまうのです。
しかも、そうすることで、だんだん集中できない脳になっていきます。
それを使用する適切なゴール設定をして、その目的の達成のために時間を使うと、もっとうまくSNSを使えるんじゃないでしょうか?
デザイナーたちが、ハリスさんの言うようなゴール(人々がより充実した時間を過ごせる商品にする)をふまえて、商品を開発するまでに、時間がかかると思います。
なにしろ、いまは、GNPをできるだけ増やすことが目標の世界ですから。
多くのデザイナーは、いかに長時間、このサービスを使ってもらうか、ユーザーの余暇(すきま時間)をうばいあっていると思います。
ですから、ユーザーのほうで、自衛するというか、意図をもって、賢く利用しないと、スマホが提供するサービスに貴重な時間を全部献上することになるでしょう。
人の命とは、時間ですから、その使い方について考えることは、よく生きるために、大事なことです。
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私、メールは、めったにチェックしないのですが、テキストは、入ってくるままにしています。
まあ、娘と夫しかテキストを送ってこないし、めったに来きませんが、入ってくると、やっぱり、注意をそがれますね。
娘と夫のテキストは、ただの世間話ではなく、「この質問に答えてほしい」「こういう用事をやってほしい」「私のかわりにこれを調べてほしい」というたぐいのものです。
なので、毎回、自分のやっていたことを中断して、調べ物などをし、質問に答えています。これをやっていると、あっというまに30分ぐらいたってしまうのです。
だから、私も、「いま、仕事中です」とか、「いまほかのことに集中してます」という看板が出せるなら、出したいですね。