数字を分析する人

TEDの動画

もう充分ある、と考える経済(TED)

経済成長を優先する社会はもう終わった、というTEDの動画を紹介します。

タイトルは、The economics of enough(充分あるという経済)。プレゼンターは、経済学者の、ダン・オニール(Dan O’Neill)さんです。

GDPをのばすことにフォーカスする経済は限界にきている、これからは、経済成長ではなく、人の生活の向上をめざす経済にしていこう、という内容です。



充分ある、という経済、TEDの説明

Is economic growth always a good thing? Why are people in countries like the US and UK not happier or working fewer hours when GDP has tripled since 1950? Dan O’Neill’s thought-provoking talk exposes the pitfalls of economic growth and hints at alternative ways to measure progress.

経済成長はいつもよいことでしょうか? 1950年に比べてGDPが3倍になったのに、なぜ、アメリカや英国の人々は、さほど幸せでなく、働く時間も減っていないのでしょう?

ダン・オニールは、経済成長の落とし穴と、成長を測る別の方法を提案します。

収録は2014年の5月です。TEDXOxbridge(イギリスのオックスフォード・ケンブリッジ両大学)での講演。

動画の長さはおよそ13分。英語を含めて5ヶ国語の字幕があります。日本語字幕はありません。

プレゼンのあとに抄訳を書きます。

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

構成がはっきりしているわかりやすいプレゼンです。





『より多く』から『もう充分だ』への変換

なにかを見たり読んだりして、人生が変わる体験をしたことがあることがあります。

10年ほど前、私にも起きました。経済学のコースをとっていて、ある論文を読んだのです。

『GDPが上がっているのに、なぜメリカは落ちているのか?(If the GDP is up, why is America down?)」

その時は気づいていませんでしたが、私は、狂信的に、よりたくさんあること(more)を求めるのではなく、充分ある(enough)と思う旅を始めたのです。

その論文を読んだとき、経済成長を測るGDPという指標は、経済活動のよしあしを区別しない、とわかりました。

ビールを買っても、政府が教育に投資してもGDPがあがります。こうしたことはいいことです。

ですが、石油がもれて掃除しなければならないときも、誰かが家に押し込み、ノートパソコンを盗まれたあと、新しいパソコンやドアを買うときも、GDPはあがります。

戦争、犯罪、環境破壊、すべてGDPをあげます。

これを知ったとき、私はマトリックス(映画)で、赤い薬を飲んだ気になりました。

身の回りのことに、疑問も感じ始めました。

経済的成長は、豊かな国にとって本当にいいことなのか? 

その結果、別の経済を考えるにいたりました。

経済成長を疑うことは、過激に思えるかもしれませんが、そうすべき理由がいくつもあります。そのうち3つを紹介します。

経済成長すればいいとは思えない理由

1.環境の問題

数年前、人間が安心して住める地球上のシステムを測定したプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の研究がありmした。

エコシステムに応じて、8つの分野があり、そのうちの3つは、すでに限界を越えていると報告されています。

このチャートの赤い部分は、気候の変化、生物の多様性の喪失、窒素の循環にかかわる分野です。ほかの分野も限界に近づきつつつあります。

研究者たちは、1つか2つの限界を越えてしまうと、地球の状態が決定的に変わってしまう、と警告を発しています。

すでに3つ、越えているのです。

2.社会的要因

いまは、幸せや人生の満足度に関する統計がたくさんあります。アメリカや英国の数字を見ると、1950年に比べてGDPは3倍になったのに、人々は幸せになっていません。

ほかの国のデータを見れば、収入があがると幸福や人生の満足度もあがりますが、ある一定の次点までです。

基本的なニーズが満たされると、それを越えたお金があっても、そのぶん余分に幸せになるわけではないのです。

重要なのは、ほかのことが増えると幸福度があがることです。よい人間関係、健康、安全なコミュニティに住むこと、安定した仕事につくこと、テレビを見すぎないこと。

3.現実的な要因

経済成長は、人類の歴史の例外であり、標準(デフォルト)ではありません。これは過去1000年のデータですが、豊かな国で経済成長があった時期は、20年ぐらいしか続いていません。

第二次世界大戦の終わりから1970年代のはじめにかけてです。

この時期は、こうした国々で歴史上唯一、年に2%以上、GDPが伸びました。

スマホやフェイスブックの発明は、電気、車、下水といった歴史上の発明に比べると、そんなに影響はないようです。

経済成長ではなく、人々の生活の向上をめざす

それでは、どんな経済を志向したらいいのでしょうか? どうやったら経済成長せずに、生活の質(quality of life)をあげることができるのでしょう?

幸いなことに、すでに、世界中で、この問題に取り組んでいる人たちがいます。

ニュー・エコノミックス、持続可能な繁栄、半成長(degrowth)、定常経済(steady-state economy)など、呼び名はいろいろですが、

すべて、環境の限界の中で、リソースの使用を安定させ、GDPの成長ではなく、人々の生活の向上を目指します。

たった1つ何かを変えただけでは、これは実現しません。定常経済にするためには、たくさんの変革が必要です。

そのうちの3つをシェアします。仕事、平等、銀行のシステムにかかわることです。

定常経済にするためには?

1.働き方を変える

経済成長がないと、失業すると心配する人が多いでしょう。しかし、経済成長と職の数の関係は、人が思うほど、深くありません。

国によって違います。

アメリカでは、GDPが3%アップすると、失業率は1%下がります。フランスでは、GDPが3%あがると、失業率は0.5%下がります。日本ではこの2つは関係ありません。

経済成長と失業の関係性を断つことはできるのです。必要なのは適正な政策です。

そうした政策の1つに、労働時間の短縮があります。

現在、私たちは、技術の向上のおかげで、よりたくさんのものを生産し、消費しています

どういう意味が具体的に説明しますね。

私が工場に勤めているとしましょう。マグカップを1つ作るのに8時間かかります。私は、もっといい方法を思いつき、2倍の速さで作るようになりました。

すると、私は、早く家へ帰れるでしょうか?

違います。これまでの2倍の量のカップを作るから、販売促進の部署が、もっとたくさんのカップを買うように人々を説得しなければなりません。

「カップが1つじゃ、絶対足りませんよ」と言って。

そうしなければ、私の仕事がなくなるからです。

しかし、人を雇うためだけに、作るカップの数を増やし続けることはできません。プラネタリーバウンダリーがありますから。

私たちができることは、明らかです。技術の進歩という恩恵を、労働時間の短縮に使えばいいのです。

給料は同じまま、余暇を増やすのです。

2.収入の不平等をただす

経済成長は、しばしば、不平等問題に取り組まない言い訳に使われます。

「高波がくれば、すべてのボートが上に行ける、もし、運良く、ボートを持っていたら」というわけです。

元アメリカの連邦準備制度理事会 の議長だったヘンリー・ウォリックは、「経済成長は、収入の平等に替わるものだ(Growth is a substitute for equality of income)。成長がある限り希望がある。

それは、大きな収入格差を耐えられるものにしてくれる」と言いました。

もし、経済成長が、平等であることの代用なら、平等であることは、経済成長に替わるものですよね。こちらのほうが、環境にも社会にもずっとよい選択です。

トマス・ピケティ(フランスの経済学者)は、最近の著書で、資本主義社会においては、平等を推進するのは簡単ではない、と書いています。

実現するためには、政府の強力な介入が必要です。

たとえば、最低限の収入と最大限の収入の枠を決めてしまいます。最低限の収入は、最低賃金のことではありません。

最低限の収入の保障です。国民の権利として、すべての人が得られるようにします。

「そんなことしたら、みんな、働かずに家で、ソファに横になって、昼間からビールを飲みながらテレビを見るよ」なんていう人がいるかもしれませんね。

私はそうは思いません。

時間ができると、人々はおもしろいことをします。ガーデニング、語学、楽器の演奏、子供やお年寄りの世話、すべて、社会が求めていることです。

最近の研究によれば、イギリス人の74%が、最低限の収入を全員に保障する案に賛成しています。

収入に限界をもうけてしまうのは、意見が分かれるところでしょう。しかし、トップレベルのCEOが、収入が最低の人の250倍も稼いでいると知れば、そうしたほうがいいと思うのではないでしょうか?

もっと収入の平等性追求すべきです。

3.金融システムのリフォーム

現在の銀行のシステムには、余分なお金(reserve)がほんの少ししかありません。

お金がどこからやってくるか、考えたことがありますか?

たいていの人は、イングランド銀行か王立造幣局からお金が出てくると思っているでしょう。

しかし、この2つは、私たちのお金の3%しか作っていません。

ほとんどのお金は民間の銀行が貸付をするときに作られます。

私が銀行に行って、家を買うためにお金を借りたいといったとしましょう。

私はTEDに出ましたから、1000ポンド(現在のレートで13万4000円ぐらい)貸してあげよう、いや、1万ポンド、100万ポンド貸してあげよう、と銀行は考えます。

貸付するとき、銀行はそのぶんのお金を持っている、と皆さんは思うでしょう。銀行はこのお金を、何もないところから作ってもいいことになっています。パソコンに数字を打ち込むだけです。

世界的な恐慌が起きるのはこのせいです。

私は、ある時点で借りたお金を返す必要があります。借りた10万ポンドだけでなく、利息も払わなければなりません。

誰もがこれをします。ローンを組んで、元金と利息を返すので、時間がたつうちに、供給されるお金は増えていきます。

余分なお金はどこからきたのかというと、さらなる貸付からです。

それはあたかも、マスターカード(クレジットカード)の借金を、ビザカードで払うようなものです。

システムが機能するために、社会全体の借金はどんどん増えます。

これでは持ちこたえられません。

さらなる世界的な恐慌は避けたいなら、銀行が何もないところからお金を作るのを禁止すべきです。お金を作ることは、イングランド銀行のような信用のおける公的な機関に委ねます。

民間の銀行は、持っているお金だけを貸付できるようにします。

限られた資源の中で幸福を追求する

より多くを求める生き方から、もう充分だと考える生き方への旅の話もそろそろ終わりです。

最後に別の旅のお話をします。アポロ13号は、3回目の月面着陸になるはずでした。トム・ハンクス主演の映画を見た人もいるでしょう。

月に向かうとき、酸素タンクが爆発し機体が傷つきました。船長のジム・ラヴェルは、「ヒューストン、問題が起きた」と地球に連絡しました。

最大の問題は、酸素がなくなったことではありません。二酸化炭素が次第に増えていったことです。

私の好きなシーンは、ヒューストンの技術者たちが、宇宙船の中にあるはずの物を全部テーブルの上にぶちまけて、どうすべきか考える場面です。

時間は限られていたし、二酸化炭素が増えるのを止めるために使える物も限られていました。

私たちが直面している気候の変化の問題とよく似ています。

彼らは、わりに単純な物を使って、二酸化炭素をへらす方法を考えつき、飛行士たちは無事、地球に生還しました。

限界がある中で、創造性を発揮した物語です。

地球という名の宇宙船の資源は限られています。

現在、私たちは、それが、経済成長の助けになるか、生産性があがるかを目安に、意思決定をしています。地球上の人々のためになるかどうか、ということは考えずに。

経済成長は、ゴールに向かう単なる1つの方法にすぎないことを忘れています。それはゴールそのものではありません。

GDPに強くこだわるのをやめれば、健全な社会やエコシステムといった、本当に重要なことにフォーカスできます。

公正さに基づいた経済や、資源を賢く使う経済を想像してみてください。

変えていくために、行動することを想像してください。私たちは定常経済を作り出すことができます。

そのために、まずは、「もう充分だ」ということに気づかなければなりません。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

planetary boundaries   地球環境のキャパシティを示すもの。

ramp up   増やす

Minimum income   最低限保障される収入。

詳しくは、こちらのTEDをごらんください⇒貧困は人格の問題ではなく、現金がないだけの話:ルトガー・ブレグマン(TED)

経済とお金に関するほかのプレゼン

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目に見えないものを大事にする

GDPだけが豊かさをはかる指標ではない、利益だけを追求する時代はもう終わり、定常経済を追求しなければならない、とニールさんは言っています。

この社会では、お金で測れない価値があり、そういうものが人を幸せにします。だから、物やお金が増えても、あまり幸福感を感じられないのです。

幸福感を感じられないどころか、ストレスが増えて、心の病にかかる人が増えています。

なぜ、ストレスが増えるかというと、結局、物やお金のあるなしを他人と競争しているからだと思います。

物やお金に幸せを求めても、もともとそこにはないので見つかりません。すると、「あら、まだ足りないのかな?」と思ってしまい、さらに、物やお金を追求してしまいます。

これはかなり疲れる生き方です。

そっちの方向にいくのはちょっとやめて、目に見えないものを大事にする生活にシフトしてはどうでしょうか? そうすれば、もっと、楽だし、気持ちが充実します。

いまの、利益最優先の社会が、定常経済よりになるには、まだまだ時間がかかるでしょう。

この社会の仕組みのおかげで莫大な利益を得ている一部の人が手放さないと思うからです。

ですが、自分個人の生活で、「もっとたくさん」ではなく、「これで充分だ」と考える生活に変えることはできます。

とりあえず、家にたくさんある物は、「これで充分」と考えられるようになるといいですね。それと、「何がなんでも得したい」という気持ちを捨てると、もっと自由になれます。





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