スマホで写真を撮る人。

TEDの動画

「デジタルの今」をいかに生きるべきか?(TED)

スマホやインターネットとの付き合い方の参考になるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、Life in the “digital now”(「デジタルの今」における人生)。講演者は作家のアブハ・デウェザール(Abha Dawesar)さん。

Dawesarの読み方がわからないので、日本語版のTEDに書いてあった名前を使いました。

邦題は、「デジタルの今」を生きる

「デジタルの今」とは、テクノロジーによってもたらされる細かく分断された瞬間で、本来、人間が感じることができる「今」とは違います。

気の散ることが多い現代、どう行きていくか、というのがテーマです。



デジタルの今を生きる、TEDの説明

One year ago, Abha Dawesar was living in blacked-out Manhattan post-Sandy, scrounging for power to connect. As a novelist, she was struck by this metaphor: Have our lives now become fixated on the drive to digitally connect, while we miss out on what’s real?

1年前、アブハ・デウェザールは、サンディ(ハリケーン)に見舞われ、停電したマンハッタンに住み、つながるための電源を探していました。

作家として、彼女はこんな比喩思いつきました。いまの私たちの生活は、デジタルでつながりたいという欲求にとらわれすぎていて、リアルなことを見逃してしまうのではないか?

収録は2013年の6月、動画の長さは12分。日本語字幕あり。

☆トランスクリプションはこちら⇒Abha Dawesar: Life in the "digital now" | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

デウェザールさんは、作家のせいか、詩的な表現が多く、同じことをさまざまな表現で言い換えています。それこそが、このプレゼンの魅力ですが、抄訳では、わかりやすさを優先します。





ハリケーンのあと気づいたこと

ハリケーン・サンディが上陸したとき、私はニューヨークにいました。街の半分は停電していて、私の家もそうでした。

おびえた愛犬をかかえて階段を上り下りし、水の入った重いボトルを毎日7階の自分の部屋まで運んでいました。口に懐中電灯をくわえて。

近所の店には、懐中電灯も電池もパンもありませんでした。シャワーをあびるために、40ブロック先のスポーツジムまで歩きました。

ですが、こういうことは、私の最優先事項ではなかったのです。延長コードと充電器と複数のデバイスを持って、カフェに一番乗りすることのほうが重要でした。

パン屋やお菓子屋さんでも、充電できるところはないか探しました。

私だけではありません。雨の中、人々はマディソンと5番街の間で、傘をさして立ちながら、街のコンセントから携帯電話の充電をしていました。

人間の技術より、自然のほうがずっと強大なのだと思い知らされたばかりなのに、みな、つながろうと必死だったのです。

災害は、何が大事で、何がそうじゃないか教えてくれます。ハリケーンのせいで、デバイスやそれをつかってつながることは、食べ物や住まいと同じくらい重要なことなのだとわかりました。

抽象的なデジタルの世界は、私たちのアイデンティティの一部になったのです。それがどういう意味なのか、これからお話しします。

人生とは物語

私は作家で、自己(self、セルフ)に興味があります。自己とフィクションには共通点が多いからです。

両方とも物語であり、解釈です。人は、物語がなくても生きられます。階段をかけのぼれば、息がきれる、という具合に。

しかし、自分が生きていると感じることは、より抽象的で、間接的なものです。私たちの人生という物語は、直接的な体験から成っていますが、脚色されています。

小説は各シーンの連なりですが、人生という物語には、一連の流れも必要です。それは何ヶ月も何年もかかります。

人生は章のような小さなエピソードの集まりですが、物語とは章だけではありません。本全体です。

傷心や喜び、勝利や失意だけでなく、そうした体験があるから、または、ないからこそ、私たちはこの世界に自分の居場所を見つけ、自分の物語や、自分自身を変えるのです。

したがって、私たちの物語には2つの時間軸が必要です。生涯という長い時間と、何かを体験しているこの瞬間です。自分というものを知るには、長い時間の流れと、瞬間、瞬間の体験が必要なのです。

私たちの感情や心の状態は時間として、あらわされます。過去に対する後悔や懐かしさ、未来に対する希望や恐れというように。

テクノロジーが時間の流れを変えた

技術の進歩が時間の流れを変えたと思います。自分自身の物語、つまり、生きる長さそのものは、伸びています。しかし、その瞬間瞬間は、小さくなりました。

手にしている道具のおかげで、どこまでも、小さく断片化されたのです。小さなその瞬間に、たくさん集めた情報を、脳は処理できません。

私たちが知覚できることと、測定できることのギャップは広がる一方です。科学技術があれば、ピコ秒(1兆分の1秒)に情報を処理できますが、私たちは、そんな短い時間の体験を自分のものとして感じることはできないのです。

人間は、太陽、月、季節といった自然のリズムで生きています。だからこそ、自分自身が何者であるのか知るために、過去、現在、未来という長い時間の流れが必要なのです。

時間の流れがなければ、原因と結果を知ることができます。それは、物理的な世界の話だけではなく、私たち自身の意図や動機の話でもあります。

もし時間の流れが変わってしまったらどうなるのでしょう? 時間がゆがんでしまったら?

散り散りになった時間

いまや、時間のベクトルは四方八方に散って、結局はどこも指していないと感じている人がたくさんいます。

デジタルの世界では、時間は自然の世界と同じようには流れないからです。

インターネットは場所だけでなく時間もちぢめました。遠くのできごとを、いまここで感じることができます。

インドのニュースを、自分のスマホで見ることができます。ニューヨークにいようとニューデリーにいようと。それだけではありません。

昔の仕事、去年のディナーの予約、昔の友だちが、いまの友だちと同じ平面にのっています。インターネットはどんどんアーカイブするからです。それは過去をゆがめます。

過去、現在、未来の区別がなくなってしまうのです。こことあそこの違いもありません。

私たちは、この瞬間にあらゆる場所にいるのです。その瞬間を、わたしは「デジタルの今(the digital now)」と呼ぶことにします。

デジタルの今は、本当の今じゃない

「デジタルの今」において、どうやって優先順位をつけることができるのでしょうか? 

「デジタルの今」は、現在ではありません。それは、いつも、数秒先です。すでにトレンドになっていることや、べつのタイムゾーンのニュースがツイターで流れてきます。

それは、足に痛みを感じている今ではなく、パンをかじった瞬間でもなく、時間を忘れて読書に没頭した3時間でもないのです。

デジタルの今は、感覚的にも、心理的にもリアルに感じられません。デジタルの今が、フォーカスしているのは、私たちの気をあらゆる方向にそらすことです。

デジタルの世界では、つねに、今やっていることをやめて、よそへ行き、べつのことをすることを促されます。

この作家のインタビューを読んでいるんですか? 彼の本を買ってはどうですか? それについてツイートしてください。シェアしてください、いいねしてください。この本と似た本を見つけてください。この本を読んでいるほかの人を見つけてください。

旅行をすると自由な気分になれますが、常に旅行していたら、休息のない流刑者のようなものです。選択は自由のあかしですが、選択のためだけに選択していたら、逆に不自由です。

本当の今と競うデジタルの今

「デジタルの今」は、本当の現在と違うだけでなく、本当の今と、競い合っています。誰もその場にいないのです。

それは、とても便利なことであり、恐ろしいことです。真夜中に外国語の本も、パリのマカロンも買えるし、友人にビデオメッセージを残すこともできます。相手とは違うリズムやペースで行っているのに、相手の現実に入り込んでいるという幻想を持ちます。

ハリケーンは、こうした幻想はこわれるのだと教えてくれました。電気も水道もある人と、ない人がいました。すぐにもとの生活に戻れた人と、何ヶ月も、そうできない人がいました。

テクノロジーは、自分が持っているものは相手も持っているという幻想を生み、それを現実にしました。インドでは、トイレより携帯電話を持っている人のほうが多いと言われます。

すでに世界で大きくなっている、インフラの欠如と、通信技術の広がりのギャップが何らかのかたちで埋められなければ、デジタルの世界と現実世界の間に破裂が起きます。

デジタルとリアルの体験は違う

私たちのように、すでにデジタルの世界の中にどっぷりつかっている人にとって問題なのは、デジタルとリアルという2つの時間の流れの中で、どう生きるかです。

気が散る一方の世界のなかで、どうやって生きればいいのでしょうか?

若者は、こうした問題に自然に対処できると思うかもしれません。その可能性はあります。でも、自分の子供時代のことを思い出すのです。

祖父と世界の都市の復習をしたときのことを。ブダとペストはドナウ川で分けられ、ウィーンにはスペインの乗馬学校がありました。

今の子供は、こうした情報をインターネットをつかって簡単に引き出せます。でも、それは祖父といっしょに勉強した体験とは違うでしょう。

後に、私はウィーンの乗馬学校を訪れたのですが、そのとき、祖父がすぐそばにいるように感じられました。

毎晩、祖父は私を肩車して、テラスで、木星、土星、おおくま座を教えてくれました。ここで、おおくま座を見ると、子供のころの感覚や祖父の頭につかまってバランスを取ろうとしていた自分を思い出し、子供になった気分になるのです。

祖父との思い出には、たくさんの情報や知識、事実がまつわりついていますが、それ以上のことを思い出します。

過去のアーカイブが今を希薄にする

時間を変えてしまう技術のせいで、私たちの心の奥底にあるものが変わってしまいます。

過去のできごとをアーカイブできるから、そのうちのいくつかは、なかなか忘れられず、逆に、この瞬間のことを覚えていられなくなります。

それをつかみたいと思っても、シャボン玉のように消えてしまうのです。

すべてをアーカイブして、保管できると私たちは思っていますが、時間はデータではありません。時間は保管できないのです。

いま、この瞬間にいることが、どんなことなのか誰でも知っています。それは楽器を弾いているときや、ずっとよく知っている人の瞳の中をのぞきこんでいるときかもしれません。

こうした瞬間、私たちの自己は完全なものとなります。長い時間の流れを生きている自分と、その瞬間を体験している自分が一緒になるのです。現在が、過去と未来を結びつける瞬間です。

祖母といるとき、このことにはじめて気づきました。縄跳びができるようになりたいと言ったら、祖母は古い縄を見つけて、サリーをたくしあげ、縄跳びをしました。

料理を学びたいと言ったら、祖母は、1ヶ月、台所で、私に包丁を使う練習をさせました。

祖母は、何ごとも時間がかかるのだと教えてくれました。時間にさからってはいけないと。それは過ぎ去るから、「今という時間」に、しっかり意識を向けるべきなのです。

もっとゆっくり生きよう

注意を向けること、それが時間です(Attention is time)。昔、ヨガの先生が、愛するとは、意識を向けることだと言いました。祖母も、愛情と注意を向けることは同じだと教えてくれたのです。

デジタルの世界は、時間を組み替えています。それは、私たちが私たち自身になることを危うくしています。愛の流れを脅かしています。

ですが、黙って見ていることはありません。他の道を選べばいいのです。

これまで、テクノロジーが、創造をもたらすところを何度も見てきました。人生や生活の中で、技術に時間を断片化させるのではなく、時間の流れを修復させる生き方をすればいいのです。

もっとゆっくり、時間の流れに耳を傾けることができます。時間を取り戻せるのです。

//// 抄訳ここまで ////

スマホや時間に関するプレゼン

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時間がないんじゃなくてやる気がないだけ。大事なことに時間を使う方法(TED)

スマホに主導権を握らせない

このブログを読んでいる人の大半がスマホ(または携帯)からアクセスしています。

ここ1週間のデータで言えば、パソコンからのアクセスは全体の13%、タブレットが11%、残り76%がモバイルからです。

私のブログの読者の年齢は高めだと思いますから、若者むけのブログやサイトだと、もっとモバイル率があがるでしょう。

スマホのおかげで、みなさんにブログを読んでいただけている、とも言えます。

通勤電車の中で読んでいる人も、たくさんいるようです。

そのようにとても便利なスマホですが、付き合い方を間違えると、人生をあやまる、と最近私は本気で思っています。

スマホを持っていると、どうでもいいことに時間を費やしすぎてしまうのです。

その理由はいろいろあれど、デウェザールさんのいうように、心理的に時間の断片化がどんどん進んでしまうのも、大きな要因でしょう。

自分の中で、時間が断片化され、早く動いているら、1日に何度もメールやメッセージ、各種タイムラインをチェックしてしまうのです。

半日、または1日ぐらい待てばいいのに、待てないのです。いますぐチェックしないと気がすまない体(脳)になっています。

しかし、そのたびに、いちいち気が散っていることを忘れるべきではないでしょう。

細かいどうでもいいことを、まめに、たくさん積み重ねたところで、人生は自分の思った方向には進みません。

「何か違う方向にいってる」と思うなら、いま一度、スマホやインターネット、SNSとの付き合い方を見直してみてください。

*****

以前、私もFacebookを利用していましたが、自分の性格に合わないと思ったのでやめました。

Facebookでいやだと思うことはたくさんありましたが、「同級生を探しましょう」とか、いろいろなことを「サジェスト」されるのがひじょうに不愉快でした。

「うるさいねえ、ほっといてよ」と心の中で言っていたものです。

サジェスト機能は便利ですが(最近は、メールを書いていると、単語や文章を先回りして教えてくれるSmart Composeという機能があります)、よけいなサジェストのおかげで、最初の自分の意図とは、どんどんそれた行動をしてしまいがちなので、気をつけたいです。





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