「上質な場所」ってどこよ?

ドミニック・ローホー

片付け本というより哲学の本?ドミニック・ローホーの「シンプルに生きる」の感想

ドミニック・ローホーさんの「シンプルに生きる」の感想をお伝えします。

この本は、フランスで2005年に出た L’art de la simplicité – Simplifier sa vie, c’est l’enrichir (シンプル術、人生をシンプルにすることは豊かにすること)の翻訳。

ただし、前回の記事でも書きましたが、完訳ではなく抄訳です。



ローホーさんの主張:物がないからこそ暮しが豊かになる

本の1番最後に、山口 素堂(やまぐち そどう)の俳句がのっています。

宿の春 何もなきこそ 何もあれ

たまたま旅先でむかえた春の1日。旅先だから、家にあるものは持っていない。なんにもない。そこがかえっていいんだよ、という感じでしょうか。

先日紹介した Less is more(レス・イズ・モア)と同じ考え方ですね。
レスイズモアの意味とは⇒レス・イズ・モア(Less is more)の真の意味とは?何もない部屋に住むことがミニマリストの目的ではない

山口素堂(1642-1716)は江戸時代前期の俳人。30代なかばごろから、松尾芭蕉と親しくしていたそうです。甲州(山梨県)の出身と伝えられています。

お酒を作っている家に生まれましたが、20歳のとき家業を弟にたくし、江戸に漢学を学びに出ました。以来、江戸にとどまり、和歌、能、書道などもたしなみつつ、いんとん生活をしながら俳句を詠んでいたそうです(異説もあります)。

アメリカのミニマリスト、ピーター・ローレンスみたいな生活ですね。
ピーター・ローレンスも相当のインテリです⇒ミニマリストの部屋公開~最小限のモノで生活して40歳でリタイヤした男

目には青葉山ほととぎすはつ鰹

これも山口さんの俳句です。青葉でいっぱいの山を見つつ、ホーホケキョというほとどぎすの声を聞きつつ、初鰹を食べてるんですよ。初夏だな~うれしいね~、という俳句です。

不用品でいっぱいの部屋に住んでいたり、仕事で忙殺されていたり、寸暇を惜しんでスマホでツイターやフェイスブックのタイムラインを追っていたら、なかなかこういう幸せは味わえないですね。

ローホーさんが「シンプルに生きる」という本に書いていることは、「何もなきこそ 何もあれ」に集約されます。このメッセージに私も多いに共感しています。

ただ、この本、少しわかりにくいところがあります.



わかりにくいところその1:上質なものと簡素なもの

オリジナルの構成を大幅に変えて、部分的に訳しているせいか、ところどころ内容がわかりにくいです。出版社はわかりやすくしたつもりでしょうが矛盾があります。

「ベーシックで上質なものにこだわる」という章で、ローホーさんは、「上質なもの」を持つことをすすめています。

身の回りにはお気に入りのものを置きましょう、ほしいソファーが高くて買えないときに決して間に合わせのものを買ってはいけない、貯金をして買いなさい、と。

しかしその前のページの「美しく、機能的で、自分にぴったりなもの」では、こんなふうに書いています。

日本の高名な禅の師匠たちは、自分たちの諸道具を、特别なものでもなく、天然で凡庸なもののなかから選ぶといいます。彼らはそこに、いつもとはちがう形の美しさを見出していたのです。

本当の美しさは、わたしたちの身近にあります。

禅の師匠とは、禅宗のお坊さんで、諸道具は日用品のことだと思います。お坊さんの持ち物と聞いても、私は、袈裟や、その上に着ている前掛けみたいなのや、食事に使っているらしい応量器しか思いつきません。

応量器についてはこちらで説明しています⇒吉本由美の「一人暮し」術が、シンプルライフの参考書として威力を発揮した

「天然で凡庸なもの」って一体何でしょう?ナチュラルでごく平凡なものでしょうか?

よくわかりませんが、そういうものは、高価なソファーとは違うと思うのです。庭に転がっている丸太に座るほうが「天然で凡庸なもの」に近いのではないでしょうか?

この本を読む限り、モノ選びに関してローホーさんには2つの主張があります。

1.上質なものを選べ
2.簡素なものを選べ

表紙にも「変哲のないものに喜びをみつけ、味わう」とあります。変哲のないものとは、ごく平凡なものです。

高価なソファーは上質なもので、丸太は簡素なものです。「いったいどっちに座ればいいの?」と読みながら叫びそうになりました。

もしかしたら物のカテゴリーによって、時に上質なもの、時に簡素なものを選ぶのかもしれません。

☆この本がオリジナルの完訳でない点について、前回の記事に詳しく書いています⇒ドミニック・ローホー「シンプルに生きる」でフランス語とミニマリズムを同時に学ぶ

わかりにくいところその2:抽象概念としてのシンプルライフ

アマゾンを見ると、絶賛している声もありますが、最近のレビューには「内容がない」「ありきたり」「1冊物が増えただけ」といった声も見られます。

この本を読んで物足りなさを感じる人は、きっと「断捨離の方法」や「片付けの仕方」「物を減らすコツ」を求めているのかもしれません。

ローホーさんは、バッグの中には「口紅1本と身分証明書、そしてお札1枚」だけ入っていればいい、とか、3食食べる必要はなく、おなかがすいたら食べましょう、とかボディブラッシングをしましょう、といった具体的なアドバイスもしています。

ですが、基本的に「より少ない物を持てば、暮しはより豊かになります」いう考え方が書かれています。

しかもオリジナルがフランス語なので抽象名詞がいっぱいです。

抽象名詞とは目に見えないものの名前です。たとえば、愛、自由、憎しみ、喜び、絶望、嫉妬。

同じ抽象名詞でも、仕事、天候、経験、健康、病気、遅刻などは、ピンと来やすいです。その名詞が示すものが具体的に思い浮かびますから。

しかし、ローホーさんは、シンプルな生活を「美」や「調和」という言葉で表しています。

物を手放して「からだに感性を、心に刺激を与え、精神的に豊かに暮しましょう」とあります。

この文は「もっと感性豊かに、刺激的に、豊かな気持ちで暮しましょう」ということです。山口 素堂さんみたいに生きればいいのですね。

このように、たまに抽象名詞がそのまま抽象的に訳されているので、わかりにくいです。そのため「わからない⇒内容がとれなかった⇒内容がない」と思ってしまう人も多いのでしょう。

いっそこの本は実用書というより哲学書として読むと楽しいのではないでしょうか?

哲学というのは、答えのないことや、正解のないことを、自分の頭であーでもない、こーでもない、と考えることです。

「シンプルライフとはどういうものなんだろう?」

「物を減らすことが自分にどんな意味をもたらすのだろう?」

「ものに振り回されない生き方ってどういう生き方なんだろう」

テレビやスマホは消して、ローホーさんの本を読みながら、こんなことをじっくり考えるのがよいかと思います。

*******

前回の記事では、「オリジナルを読んでみる」と書きましたが、想像以上に難しく、25ページでとまっています。最後まで読めるのはいつのことになるやら。「翻訳本を買ったほうがいいかも」と思い始めています。





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