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家族とのもめごとで悩んでいる人のために、コミュニケーションスキルを磨くTEDのプレゼンを紹介しています。
今回はクリント・スミス(Clint Smith)さんの The Danger of Silence (沈黙という危険)。邦題は「沈黙のもたらす危険」です。
沈黙のもたらす危険 TEDの説明
“We spend so much time listening to the things people are saying that we rarely pay attention to the things they don’t,” says poet and teacher Clint Smith. A short, powerful piece from the heart, about finding the courage to speak up against ignorance and injustice.
「私たちは人の話すことばかり聞いていて、語られていないことにはあまり注意を向けません」と詩人で教育者のクリント・スミスは言います。無知や不公平に対して声をあげる勇気をもたらす、短いけれど、心の底から届く力強いプレゼンです。
スミスさんは詩人ですが、slam poet (スラム・ポエト)です。スラムというのは、自作の詩を人前で朗読する競技会のこと。スラムをやる人はパフォーマンス・アーティストとも言えます。
プレゼンの後半1分40秒ぐらいから、彼は畳みかけるように語っていますが、スラムの詩人ならではの表現です。
リズムを重視した言葉選びをしているので、細かい意味は気にしなくてもよいと思います。
ちなみに日本語の説明では彼のことを「スラム出身の詩人」と書いてありますが、スラム違いです。
貧民窟のスラムはslumですが、slam poetry のスラムは slam であり、この2つの単語は、母音の発音が違います。slam は学校で「アとエの中間のア」と習う「ア」です。
slam はドアをばしゃーんと閉める音からきた単語。他動詞では、「ドアを叩きつける、物をどさっと置く」といった意味で、名詞ではそういうときに出る音を意味します。
プレゼンは4分18秒と短いし、日本語字幕もあるので、ぜひ、スミスさんのパフォーマンスを味わってください。動画のあとに抄訳を書きます。
☆トランスクリプトはこちら⇒Clint Smith: The danger of silence | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
沈黙がもたらすもの
キング牧師は1968年、公民権運動に関するスピーチでこう言いました。
“In the end, we will remember not the words of our enemies but the silence of our friends.”
最後に私たちが思い出すのは、敵の言葉ではなく友の沈黙です。
私は教師としてこの言葉を肝に銘じています。
沈黙の結果を私たちは毎日見ています。差別、暴力、大虐殺、戦争など。
沈黙を詩にする試み
教室では、生徒たちに、自分たちの生活にある沈黙を詩にするように言っています。それが何であるのか理解し、その沈黙に名前をつけます。沈黙は必ずしも恥ずべきことではありません。
教室で安心して生徒たちが、自分たちは沈黙しているということを発表できるように、4つのルールをもうけています。
1.批判精神をもって読む Read critically
2.意識的に書く Write Consciously
3.明確に話す Speak clearly
4.真実を語る Tell you truth
4つめのポイントについてよく考えています。自分の真実を話すことです。
生徒に本当のことを話すように言うなら、自分もそうすべきですから、そうできなかったときのことも正直に話すべきだと。
そこでこんな話をしました。
ある年のレントで話すことをやめてみた
ニューオーリンズのカトリックの家庭で育った私は、レント(四旬節)の時期に、人ができることでもっとも意味のあることは、何かをやめることだ、と教わりました。
神の尊厳を理解していることを示すために、ふだん享受しているものをあきらめるのです。
炭酸飲料、マクドナルド、フレンチポテト、フレンチキス、その他たくさんのものをやめました。
ある年、私は話すことをやめてみました。
私が犠牲にできるもっとも大切なものは自分の声だと思ったのです。ところが、私はこんなことをするずっと以前から、自分の声を出すことをやめていたと気づいたのです。
私が声を出さなかったとき
長い間、人々が聞きたいと思っていることを話していました。
人に何かを指示できるほど自分はえらくない、と思っていたのです。黙っているほうをしばしば選んでいました。自分が声を出さなくても、おさまるところにおさまるだろう考えていたのです。
ゲイのキリスト教徒が殴られていたとき、ポケットに手を突っ込んで下を向き、気づかないふりをして通り過ぎました。
何週間もロッカーを使うことができませんでした。ロッカーの鍵を見ると、自分の唇にかけたかんぬきを思い出したからです。
街角でホームレスが私を見た時、開かなかった唇にかけた鍵です。
彼にりんごをあげるより、アップルのガジェットのスクリーンを触るほうに気を取られていました。
資金集めのイベントで、ある女性がこう言いました。「先生はすばらしいです。貧乏で頭の悪い子供たちを教えるのはさぞかし大変でしょう」。私は唇をかみました。
子供たちの尊厳より、彼女のお金が必要だったからです。
私はもう沈黙しない
私たちは人の話すことはよく聞くのに、語られていないことにはめったに注意を向けません。
沈黙は恐怖から来ます。
自分は間違っていると感じます。はらわたがねじれ、舌を切り落とされるような感じです。胸からすべての空気が抜けてしまう気分です。
沈黙とはルワンダの大虐殺。沈黙とはハリケーン・カトリナ。沈黙は、遺体を入れる袋が足りないときに聞こえてくるもの。
沈黙は縄が首を締めたあとに聞こえるもの。沈黙は黒焦げ、鎖、特権、痛み。
戦いを選ぶ前に、戦いに選ばれてしまう。もう私は優柔不断なまま沈黙を選ぶことはしません。
かのキリスト教徒に、きみはライオンなのだと言います。勇敢で輝いている聖域にいるライオンです。ホームレスの男性にきょうはどんな日だったのかたずねます。人はみんな人間らしく扱ってほしいのだから。
あの女性に、私の生徒はソローのように先験論を語ることができるんだと言います。ドラマを1本見たぐらいで、生徒の何がわかるのか、と。
だから今年は、何かをやめるのではなく、舌の下にマイクを仕込んでいるかのように、毎日を生きていきます。
必要なものが声だけなら、ステージもいりません。
—- 抄訳ここまで —-
補足
Lent レント、四旬節
四旬節は復活祭の準備期間。キリストが復活できるように、人間も心の準備を整えます。「灰の水曜日」から復活祭前日までで、期間にして40日間。
敬虔なキリスト教徒にとっては祈りと節制の時期で、毎年この期間に、食事を質素にしたり、何かをやめたりします。
ソロー Henry David Thoreau ヘンリー・デイヴィッド・ソロー アメリカの思想家、随筆家
こちらで少しふれています⇒ミニマリストブームの背後にあるものとは?なぜ今ミニマリズムなのか。
soapbox 石けん箱;即席の街頭演説台、意見発表の場。
詩的表現がたくさんあるので、興味のある方は辞書をひきながら読み、音読してみてください。
簡単なものでは、 I was more concerned with touching the screen on my Apple than actually feeding him one.
ここは、アップル社のアップルと、ホームレスにあげるりんご(食べ物)をかけています。
その他のコミュニケーションスキルに関するプレゼン
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
自分は本当にコミュニケーションをしているのか?
先週、先々週と、聞くことの大切さを強調していた動画を紹介しましたので、今回は口を開くことの大切さをとくプレゼンを紹介しました。
自分の意見を言わなければならない、ということです。
家族が物をためこみすぎて迷惑だ、と思ったり、義理のお母さんが横暴だ、とストレスを感じるとき、そのことに対して、ちゃんと自分の気持ちを相手に伝えようとしているか、振り返ってください。
日本には「しゃべらないことは美徳である」と考える文化があります。
もちろん、言わないほうがいいこともあるし、しゃべっても気持ちが通じないときなんていくらでもあります。
しかし、こと断捨離に関する家族とのもめごとに関しては、自分の意向を言わなければ何も始まりません。
ミニマルライフを目指しているから、物をプレゼントしてほしくないときも、できるだけそう伝えるべきでしょう。別に私みたいにブログや本を書く必要はありませんが。
ふだんの生活で、「物はできるだけ増やさないようにしてるのよ。というのもね…」と話せばいいだけです。
男は背中で語るもの、とうい言葉があります。「背中で語る」とは、行動で自分の考えていることや価値観を伝える、という意味です。
断捨離では背中で語るのと、口で話すのと両方必要ではないでしょうか?
まずは自分のものを捨てることに集中します。ここは背中で語る部分です。それにプラスして、自分の意見を述べるのです。
スミスさんのプレゼンに
I spent so much of my life telling people the things they wanted to hear instead of the things they needed to
という文が出てきました。
相手にとって耳障りのいいことばかり話して、相手が聞くべきで言葉を語ってこなかった、という意味です。
自分の意見を言うと嫌われそう、波風たてたくない、否定されそう、と怖れてしまい声をあげないことがしばしばあります。
自分ががまんすればいいのだから、と。
私もどちらかというとこのタイプです。
そもそも相手にかかわりたくないから黙っているほうを選ぶ人もいるでしょう。
がまんするのも選択の1つですが、それだと状況は何一つ変わりません。
世界を変えたかったら、自分の脳内にある考えを口に出して(紙に書いてもいいですが)、周囲の人に伝えるしかないのです。
「私は自己主張が苦手だ」という人は、1ヶ月だけ何がなんでも自己主張する練習をする目標をたてるといいかもしれません。うまく自己主張できなくても、ふだん自分が、いかにしゃべらないほうに逃げているか気づきます。