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最終更新日: 2019.12.23

仕事にやりがいをもたらすものとは? ダン・アリエリー(TED)

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仕事や家事のやる気が出ない人、そういう部下に手を焼いている人の参考になるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、What makes us feel good about our work?(何が仕事に対していい気分にさせるのか?)。邦題は、『仕事のやりがいとは何か?」

講演者は、行動経済学者の、ダン・アリエリー(Dan Ariely)さんです。



何がやりがいをもたらすのか? TEDの説明

What motivates us to work? Contrary to conventional wisdom, it isn’t just money. But it’s not exactly joy either. It seems that most of us thrive by making constant progress and feeling a sense of purpose. Behavioral economist Dan Ariely presents two eye-opening experiments that reveal our unexpected and nuanced attitudes toward meaning in our work.

仕事をやる気にさせるものは何でしょうか? 社会通念とは逆に、それはお金だけではありません。ですが、喜びそのものとも言えません。

常に進歩していると思えることと、目的意識があれば、やる気になるようです。

行動経済学者のダン・アリエリーは、2つの驚くべき実験について説明します。その実験から、仕事の意義に対する、私たちの予想外で微妙な態度がわかります。

動画の長さは20分26秒、収録は2012年10月。日本語字幕あります。動画のあとに抄訳を書きます

☆トランスクリプトはこちら⇒Dan Ariely: What makes us feel good about our work? | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

仕事をする気にさせるのはお金だけではない

きょうは労働と仕事に関する話をします。

人はお金さえもらえば、働くものだ、と考えがちですが、そうとも言えません。

山登りのプロセスはつらいことばかりだから、幸せになるためだけに登山をするなら、頂上についたとき、「もうこんなことは二度としない」と思うでしょう。

ところがまたしばらくすると、その人は山に登り始めます。

人は、頂上へ行き着くことを重要だと思っているし、戦うことやチャレンジすることも大事だと思っています。

ほかにも、仕事をする気にさせるものは、いろいろありそうです。

私がこのことを考え始めたのは、かつての教え子が訪ねてきたことがきっかけです。

彼は大銀行につとめ、吸収合併に関するプレゼン資料を、2週間かけて作りました。

パワーポイントを使って、情報、グラフ、表を盛り込むのに、毎晩遅くまで残業しました。締切の前日に上司に、この資料を送ったところ、「いいプレゼンだ。しかし、合併はキャンセルになったよ」と返信がありました。

彼はとても落ち込んだのです。

資料を作っていたときは、とてもハッピーだったのに、だれもその資料を見ないということが彼を落ち込ませました。

この話を聞いて、労働の成果を調べる研究をしようと思ったのです。

レゴでロボットを作る実験

まず、被験者にレゴでロボットを作ってもらう実験をしました。

意義のある状況

3ドルあげるから、このレゴでロボットを作ってくれますか、と聞くのです。

できあがったら、それをテーブルの下に置き、今度は2ドル70セントで、作ってくれませんか、と頼みます。

こうやって、30セントずつ安い値段を提示して、作ってもらいます。

あるところまでくると、被験者は、もう作りたくない、と言うので、その額を調べます。

これを私たちは、「意義のある状況」と呼んでいます。

人々にレゴを作ってもらい、できあがったら、テーブルの下に置き、実験が終わったら、レゴをばらして、次の被験者のために使う、と被験者に伝えてあります。

徒労の状況

もうひとつ状況を設定しました。「徒労の状況(Sisyphic condition)」です。

シシュフォスは、神々に罰せられ、岩を山頂まで転がすよう命じられましたが、頂上近くまで持っていくと、それは下に転がってしまうので、またやり直さなければなりません。

つまり、これは徒労です。

岩を転がしながら丘を上り下りして進むなら、シシュフォスも、多少の進歩を感じられたかもしれません。

監獄映画でも、看守が囚人に穴を掘らせ、終わったら、その穴を産めさせ、また穴を掘らせるといういじめがあります。

同じ作業を何度も何度も繰り返すのは、やる気を低下させることであるようです。

そこで、この状況を2つ目の実験で使いました。

被験者に3ドルでロゴを組み立ててもらい、次に、2ドル70で組み立ててもらっているあいだに、被験者の前で最初に作ってもらったロボットをばらすのです。

次に2ドル40セントで組み立ててくれるか、と頼んだとき、「イエス」という返事が返ってきたら、そのばらしたレゴを手渡して組み立ててもらいます。

つまり、被験者は同じレゴを使ってえんえんと同じことを繰り返すのです。

仕事に意義を見いだせればやる気がでる

実験の結果、意義のある状況にいる人は、11のロボット、徒労の状況の人は7つのロボットを組み立てました。

意義があると思えれば、人々はよりたくさんのロボットを組み立てます。

意義がある、といっても、ガンを根治するとか、橋をかけるといった、大きな意義ではありません。

ほんの少しのお金のために、レゴを組み立てるだけです。

しかも、みな、実験が終われば、レゴはばらされることを知っています。

ですが、こうした小さな意義でも、違いが生まれるのです。

仕事に意義を見出す効果は思ったより大きい

別のバージョンのレゴの実験も行いました。

被験者に、これまで放した状況を説明して、結果を予測してもらいました。

皆、意義ある状況のほうが、たくさんレゴを作ると予想しましたが、どれぐらいたくさん作るかは、はずれていました。

意義ある状況だと、1つだけよけいにロボットを作ると予想したのです。

意味があるほうが重要だと理解していても、それがどれぐらいインパクトを持つかは、理解していないのです。

徒労だと思うと好きな作業も続かない

もうひとつ考える要素があります。

レゴが大好きな人とそれほどでもない人がいます。

レゴで組み立てることが好きな人は、それだけで喜びを得られるので、より多くのレゴを作ると思うでしょう。

意義のある状況では、そのとおりのことが起こりました。

レゴに対する愛情と、作ったレゴの数は比例していました。

「徒労の状況」では、レゴが好きだろうが嫌いだろうが、違いはありませんでした。

作ったばかりのロボットを目の前でこわされると、レゴを組み立てる楽しみも、うばわれてしまうのです。

プロジェクトが頓挫したとき、やる気を失わないために

この実験のあと、シアトルにある大きなソフトウエアの会社で講演をしました。

大きな製品を作るプロジェクトを命じられた200名のエンジニアのグループに話をしました。

私が行く1週間前に、このプロジェクトが中止になったので、この200名はとても落ち込んでいました。

レゴの実験の話をすると、自分たちも同じ気分だといいました。

そして、プロジェクトがおじゃんになってから、以前より遅く出勤し、早く帰宅しているというのです。

「きみたちが、ここまで落ち込まないですむように、社長にできたことは何だろう? こう質問すると、いろいろなアイデアが出ました。

- 2年かけてこのプロジェクトを進めたプロセスを、社内でプレゼンする機会を与える

- そのグループの技術の一部を、ほかの部署でも使えるか考える機会を与える

- 次世代の試作品作らせ、それがどう動くか調べさせる

こうしたアイデアを実行するには、努力とモチベーションが必要です。この会社の社長は、意義の重要性を理解していなかったのでしょう。

意義の本質を過小評価していたら、社長は気にもせず、「あの時は、こういう指示を出したが、今度はこういう指示をだす。そして何もかもうまくいく」と言うでしょう。

ですが、もし意義の重要性に気づいていたら、人々がやっていることをもっと大事にすることに、時間、エネルギー、努力を費やすものです。

紙を使った実験

次の実験は紙を使います。ランダムな文字が並んだ紙を1枚手渡して、同じ文字が並んでいるものを探してもらいます。

1枚めを終わったら、2枚めをもう少し、少ない金額でやってくれるか頼みます。

これを以下の3つの状況でやってもらいました。

1.認めてもらう状況

被験者は紙に名前を書き、同じ文字が並んでいる紙を見つけたら、実験者に手渡す。

実験者はその紙を上から下まで目視して、「はい」と言って、横にある紙束にのせる

2.無視される状況

名前は書かず、同じ文字が並んでいる紙を見つけたら、実験者に手渡す。

実験者は、紙を受け取ったあと、何び確認もせず、横にある紙束にのせる。

3.シュレッダーにかけられる状況

被験者がタスクを終えて、実験者に渡したあと、実験者、受け取った紙をすぐにシュレッダーにかける

認めてもらえばやる気があがる

このグラフは、どの金額の段階で、人々がこのタスクをやめたか示しています。

確認してもらった人々は、15セントでやめました。シュレッダーにかけるグループは、その倍の30セントでやめました。

これはレゴの実験と同じです、仕事に費やした努力を目の前でふいにされたら、やる気がなくなります。

もうひとつ、指摘すべきポイントがあります。シュレッダーにかける場合、人々はずるをすることもできます。

お金をもらうためだけに適当に、量だけこなすかもしれません。

無視されるグループの結果は、シュレッダーのときと同じようになりました。

人々のやったことを無視するのは、シュレッダーにかけるのと同じぐらいやる気を失わせます。

同時に、その人の仕事をざっと見て、「はい」というだけで、その人のやる気が劇的にあがるのです。

つまり、人のモチベーションを高めるのはそんなに難しくない一方で、人のやる気をくじくのは、ものすごくたやすく、注意しないと、大きくやる気を失わせてしまいます。

ここまではネガティブなモチベーションと、それをなくす話をしましたが、次は、よいモチベーションの与え方です。

イケア効果

イケアでは、まあまあいい家具を売っていますが、組み立てるのが大変です。時間も努力も必要ですね。

組み立てるプロセスを私は楽しんでいるとは思いません。ところが、いったんできあがると、ほかの家具より、イケアの家具を気に入ります。

1940年代に、ケーキミックスが発売されました。

箱から粉を取り出し、水をいれてかき混ぜ、それをオーヴンで焼けば、ケーキができます。

でも人気がありませんでした。

あまりに簡単にケーキができるところに問題がありました。

簡単なので、そのケーキをお客さんに出したとき、「これ、私が作ったのよ」と言えないのです。

あたかも、買ってきたケーキのように、自分のケーキという気がしません。

そこでケーキミックスのメーカーは、粉から、卵と牛乳の成分を除きました。

今度は、自分で卵を割って、牛乳を測って入れて、かきまぜるので、「私のケーキ」と思えます。

人々に、より努力をさせることで、やっていることを好きにさせることができるのです。

この傾向を実験で調べてみました。

折り紙の実験

人々に折り紙の仕方を教えて、実際に折ってもらいました。みな、初心者で、不格好な作品ばかりです。

次に、「この折り紙は私たちのものです。作ったのはあなたたちですが。この作品をあなたたちに売るとしたら、いくらで買いますか?」と聞きました。

2つのグループで実験しました。折り紙を折った人たちと、見ていただけの人たちです。

作った人たちは、美しいと思い、見ていただけの人たちが払うといった額の5倍の額を支払うと言いました。

自分が作った折り紙に対して、「私はこの折り紙が大好きだけど、他の人は嫌いだろう」と思うか、「私はこの折り紙が大好きで、ほかの人も気に入るに違いない」と思うか?

実は、作った人は、見ていただけの人より、自分の作った作品を気に入って、しかも、ほかの人もそう思っていると考えたのです。

折り紙とイケア効果

折り紙の実験でイケア効果を調べました。

1.作業が簡単なグループ

先ほどと同じように折り紙をしてもらう。

2.作業が難しいグループ

紙の最初に書いてある基本的な折り方を見せずに折ってもらう。

客観的に見て、作り方を見ずに作った折り紙は、より不格好だし、より作るのが大変です。

作業が簡単なグループの結果は、先ほどと同じで、作った人は気に入りましたが、見ていただけの人はそれほどでもありません。

難しいやり方をしたグループはこの差が大きくなりました。

より多くの努力を注ぎ込んで作ったので、作った人は、それだけその作品を気に入ったのです。

見ていただけの人の評価はさらに下がりました。最初のバージョンより、不格好な折り紙だったからです。

子供が大事な理由

折り紙の実験は、わたしたちがどう物事を評価するか表しています。

子供のことを考えてください。

「あなたの子供をいくらで売りますか?」と聞いたら、これまでの思い出や、絆を思って、ものすごい高い額にするでしょう。

では、ちょっと違う方向から考えてみましょう。

あなたに子供がいなかったとして、ある日、公園で子供たちに会い、まるで自分の子供のように感じ、数時間一緒に遊びます。

帰ろうとしたら、子供たちの親に、「もし興味があるなら、あなたに子供を売りますけど」と言われたら、いくら支払いますか?

そんなに大きな額ではないでしょう。

つまり、自分自身の子供はとても価値があるのです。その子が誰であるか、という理由だけでなく、自分自身とのかかわりのせいで、そう感じられます。

これまで子供に費やした時間とつながりがのせいで、大事に思えるのです。

折り紙を作った人と同じように、自分たちが作り出したものを見ると、他の人とは見方が変わります。

アダム・スミスとカール・マルクス

最後にアダム・スミスとカール・マルクスの話をします。

アダム・スミスは効率性に関する重要なコンセプトを持っていました。

工場でピンを作るとき、12の工程があり、1人でその12の工程を行うと、生産性がとても低いが、ある人が、工程1、別の人が、工程2、と分業すると、生産性が劇的にあがると言っています。

これは産業革命と効率性のよい例です。

一方、カール・マルクスは、仕事から遠ざけられることが、人々が自分がやっている仕事とつながりを感じられるかどうかにおいてとてもインパクトがあると言っています。

1人で12の工程をやってピンを作れば、そのピンを大切に思えますが、1つの工程しかやっていたら、そんなに大事には思えません。

産業革命という観点から見ると、アダム・スミスは、カール・マルクスより正しかったと言えます。

しかし、現在、私たちは知識型経済の中にいます。

知識型経済において、効率性は意義より大事だと言えるでしょうか?

そうは思いません。

いまや、状況が変わり、人々は自分で、その仕事にどれだけの努力、意識、気配りを向け、どうやってつながるか、考えるようになりました。すると、突然、マルクスの言うことのほうが、大事に思えるのです。

働きがいを生むものを考え合わせる

労働について考えるとき、やる気と給料は同じだと考えがちですが、もっとほかの要素も考えなければなりません。

意義、創造、チャレンジ、所有権、アイデンティティ、誇りなどを。

もし私たちがそういう要素も考え合わせ、意義や誇り、モチベーションを生み出そうとし、職場や従業員に対して、どうやってやる気を起こさせるか考えれば、人々はより生産的で幸せになると思います。

////抄訳ここまで////

単語の説明など

Sisyphus  シシュフォス ギリシャ神話で神々の怒りを買い、山の頂上まで岩を転がす罰を科せられた王さま。頂上近くまで岩を転がすと、岩は自分の重みで、下に転がるので、また下におりて上に転がさなければなりません。

Sisyphean  苦労が果てしない、徒労の、という意味の形容詞。

IKEA effect  イケア効果:自分が手間ひまかけて作ったものの価値を過大評価すること。自分で作ると愛着が生まれ、自分だけでなく、他人にとっても価値があると思う。— この心理を知っておくと、断捨離するとき役立ちます。

knowledge economy  知識型経済;知的財産、ビジネスモデル、ブランドなど、形のない情報を基盤とする経済⇔生産型経済:設備や土地に投資して製品を作る経済

ダン・アリエリーの別のプレゼン⇒我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)

ダン・アリエリーの本はいくつか翻訳されていますが、入門編を紹介します。

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自分で意味を見いすことが重要

読者の方から、「家事や片付けをやっても達成感がない」という相談メールをいただき、後日、別の記事で回答を書く予定ですが、ひとつの答えとして今回のプレゼンを紹介しました。

主婦は、言ってみれば、個人事業主やフリーランスで働いている人であり、しかも、やった仕事に対して、給料は支払われません。そこで、自分で意義を見出す努力をすることが重要だと思います。

それさえできれば、達成感を得られます。

もちろん、夫や家族が、「わ~、きれいになったね。ママありがと」と、成果を確認し、「ごくろうさま、まま大好き!」と言って、ハグのひとつもしてくれれば、やる気があがるでしょう。

ですが、そんなこと、家族はふつう言いませんよね? 「やってあたりまえだろ」的な態度でいる人のほうが多いだろうし、そもそも、片付いていても、何も気づかないかもしれません。

逆にせっかく片付けた場所に、どうでもいい物を置いて、それこそ、プレゼンで言っていたシュレッダーにかけるような真似をする人もいるかもしれません。

そこで、外から認められなくても、自分で認める仕組みを作ることをおすすめします。

それは決して難しいことではありません。一番簡単なのは、「よりよい仕事」という成果につながる目標を、自分で設定することだと思います。

おにぎり屋さんで、バイトをしているとして、每日、いやいや、投げやりにおにぎりを握っていると、来る日も来る日もおにぎりをにぎるのに疲れると思います。

ですが、食べる人のことを思って、少しでも食べやすく、おいしく握ろうとしたり、店の売上に貢献できるような、おにぎりのにぎり方を試行錯誤したりすれば、目的意識が生まれるので、仕事に達成感を得られます。

このあたり、ちょっと考えてみてください。





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