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今の自分に、未来の自分が求めていることはわからないと教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、You Don’t Actually Know What Your Future Self Wants (未来の自分が何を求めているかは実際にはわからない)。
ジャーナリストの Shankar Vedantam (シャンカール・ヴェダンタム)さんの講演です。
未来の自分が求めているもの:TEDの説明
You are constantly becoming a new person,” says journalist Shankar Vendantam. In a talk full of beautiful storytelling, he explains the profound impact of something he calls the “illusion of continuity” — the belief that our future selves will share the same views, perspectives and hopes as our current selves — and shows how we can more proactively craft the people we are to become.
「あなたは常に新しい人間になっています」。こう、ジャーナリストのシャンカール・ヴェダンタムは言います。
この美しい物語に満ちた講演で、彼は、「継続するという幻想」と呼ぶもの、つまり、未来の自分が今の自分と同じ価値観、視野、希望を持っていると信じることがどれほど大きな影響を与えるかを伝え、これからなるである自分自身について、より積極的に対応する方法を教えます。
動画の長さは14分。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
とても洞察に満ちた講演ですね。
12歳の私
12歳のときサッカーをしていて足を痛めました。でも、翌日、父が、サッカーに関する映画に連れていってくれる予定だったので、怪我のことは、両親に言いませんでした。
言えば、映画の代わりに医者に連れていかれると思ったからです。
翌朝、父は、言いました。
「すごくいい天気だよ。映画館まで歩いて行こう」。
映画館は1マイル先でした。
「おまえ、どうしてびっこをひいているんだ?」と父に聞かれたとき、靴の中に石が入ったから、と答えました。
映画は、とてもすばらしいものでした。映画が終わるころ、父に足のことを言いました。
父は私を医者に連れていき、それから3週間、私はギブスをはめることになりました。
こんな話をしたのは、その40年後、もう私はサッカーファンではなくなっていたからです。
今はフットボールのほうが好きです。
この事実を12歳の私が知ったら、理解できなかったでしょう。裏切りと感じるかもしれません。
22歳の私
誰でも、「人は、12歳の頃とは変わって当然、と言うかもしれません。
そこで、22歳のときの話をします。
22歳のとき、私はインド南部にいて、電気技師になったところでした。
その30年後に、自分がアメリカに住み、ジャーナリストになり、「隠された脳(Hidden Brain)」というポッドキャストのキャスターをやるとは夢にも思っていませんでした。
このポッドキャストの内容は、人間の行動や、心理学が人の行動に与える影響です。
私が大学を卒業したときは、ポッドキャストも、スマホもありませんでした。
だから、私は自分の未来を知らなかったというよりも、知ることなどできなかったのです。
未来の自分のことはわからない
誰もが、この3年間、COVID-19に翻弄されました。みな、3年前とはずいぶん変わりました。不安や孤立、物事の急激な変化が、生活や人生にどんなふうに影響するか、気づいたでしょう。
このできごとが、自分自身や、ものの見方をどんなふうに変えたか。
しかし、ここにパラドックスがあります。
過去を振り返ってみると、自分はずいぶん変わってしまったとはっきりわかります。
しかし、未来に目を向けると、自分は今と同じ人間だと思う傾向があるのです。
世界が変わるとは思うでしょう。AIや気候変動の影響で、世界はずいぶん変わるだろうと。
でも、未来の自分自身や考え方、物の見方、好みが変わることは想像できません。
この現象を私は、「継続するという幻想」と呼んでいます。
この幻想を感じる理由の1つは、過去を振り返るときは、昔の自分と今日の自分が、はっきり違うことがわかるからです。
未来を考えるときは、年をとって白髪が増えるだろうと思っても、自分が根本的に変わるとは思えないのです。
今とは価値感や考え方が変わり、違う人間になるとは思わず、自分に起こるかもしれない変化はきわめてあいまいに感じられます。
この幻想は、人生に大きな影響を与えます。単にサッカー選手になるか、ポッドキャスターになるかといった話ではなく、生死にかかわることにも影響を与えるのです。
ジョンとステファニー
ジョンとステファニー・リンカの話をしましょう。
数年前、「隠れた脳」で2人の話をとりあげました。
これは1971年、2人が結婚したときに撮影された写真です。2人は駆け落ちして、マサチューセッツの市役所で結婚しました。
ジョンは22歳、ステファニーは19歳でした。
結婚後、2人は、アメリカのいろいろな場所に行き、結局、ノースカロライナに落ち着きました。
ジョンは、高校のバスケットボールのコーチになり、ステファニーは看護師になりました。
田舎に住んでいたので、ステファニーは、よく患者の家に行って世話をしました。
多くの患者はとても重症で、末期の病気にかかっていて、ずいぶん生活の質(quality of life クオリティー・オブ・ライフ)が落ちていました。
患者の家から戻ると、ステファニーは、震えながら、ジョンに言ったものです。
「もし私が助からない病気にかかったら、お願いだから、私の苦しみを長引かせるようなことはしないでね。寿命が長くなるより、生活の質が保てるほうがいいもの。そんな病気になったら、迷わず銃で殺してね。銃で撃ってちょうだい」。
ジョンは、愛する元気な妻を見て、こう言ったでしょう。
「わかったよ、ステフ、そうするよ」。
それから数10年たち、ステファニーはALS(ルー・ゲーリッグ病、進行性の神経の病気)にかかりました。
医者は「もう助からない、治す方法がない」と言いました。
「そのうち、自分では息ができないときが来る」、と。
ステファニーは、残された人生をできるだけ楽しむことにし、友人や家族と過ごしました。
病気が進むと、ジョンとステファニーは、2人が大好きな美しい海岸に行きました。
そして、とうとうステファニーが、息ができない時が来ました。
看護婦が、「リンカさん、ヴェンチレーター(人口呼吸器)をつけますか?」と聞いたとき、ステファニーは、「はい」と答えました。
ジョンは驚きました。すでにこの会話は30年前にしていて、ヴェンチレーターをつけることは、ステファニーの望むことではないと思っていたからです。
昔と今のステファニーは違う人間
翌朝、ジョンはステファニーに聞きました。
「ステフ、ヴェンチレーターのことを聞かれたとき、つけてほしいと答えていたけど、それは本当にきみがやってほしいことなの?」
ステファニーの答えは、「イエス」でした。
もし、ステファニーが、30年前の自分の意向を書き記していて、意識がない状態で病院に担ぎ込まれたとしたら?
看護婦に、「奥さんはヴェンチレーターをつけてもらいたいと思っているでしょうか?」と聞かれたら、ジョンは、迷うことなく、「いえ、妻にはヴェンチレーターは不用です。妻はできるだけ快適な状態で、威厳を持ったまま死にたいと思っていますから」と答えたでしょう。
しかし、これは、法律的な問題を解決するだけです。倫理的な問題は解決しません。
倫理的な問題とは、39歳のステファニーには、59歳の自分が、死に至る病にかかり、呼吸に苦しんでいるとき、何を求めているかなんてわからなかったことです。
年をとったステファニーにとっても、若いときの自分は他人のようなものです。
他人が自分の生死にかかわる問題の決断をしようとしていたのです。
テセウスの船
長い間、哲学者たちは、「テセウスの船」と呼ばれるある思考実験について語ってきました。
偉大なテセウスは、怪物退治から戻ると、記念として船を港に停めておきました。
何十年もたつうちに、船はあちこち痛み、どこかが悪くなるたびに、板が取り替えられました。
最後には、テセウスの船のあらゆる部分は、新しい板に取り替えられたのです。
プラトンのような哲学者たちが、「もしテセウスの船のあらゆるパーツが新しくなったのなら、それは、いまだにテセウスの船であると言えるだろうか?」という問いかけをしました。
私や皆さんは、テセウスの船のようなものです。私たちの細胞は時間とともに新しいものに入れ替わっています。
10歳のときのあなたは、きょうのあなたとは違います。
生物学的には、違う人間なのです。
しかし、この変化は、心理的な部分では、もっと深い影響を及ぼします。
「船はただの板の集まりではないから、人の体も細胞の集まりではない」と考えることもできます。
船を船たらしめるのは、板の組織体(集まったもの)です。人の体も、細胞の組織体です。
その組織体をキープできているなら、たとえ、個々の板や細胞が入れ替わっても、船も人の体も前と同じだと言えます。
しかし、心理的なレベルでは、新しく重ねられた層は、前の層とは違うのです。
よく耳にする脳の可塑性(かそせい)がそれです。つまり、私たちは、コンスタントに新しい人間になっているのです。
未来の自分については何も約束できない
このことが、人生のいろいろな側面に大きな影響を及ぼします。
サッカー選手になりたかった12歳のシャンカールは幻想を持っていました。
ポッドキャスターである52歳のシャンカールは、82歳のシャンカールが、今と同じ人間のまま、いつか、美しい海岸に住みたいと思っています。
この3人は、みな同じ人間なのでしょうか?
哲学的な問いは置いておき、この問題が引き起こす現実的な課題の話をします。
私たちが他人と約束をするとき、たとえば、死が2人を分かつまでその人を愛すると約束するとき、私たちは、誰か他人が守らなければならない約束をしているのです。
未来の自分は、今の自分のものの見方や視野、希望を共有していないかもしれません。
30年後には違う人間になるのですから。
未来の自分がもつ「復讐したいという気持ち」は、今の自分のものとは違うかもしれません。
歴史はこの先も続く
人は、よりよい国を作りたいと思って法律を作ります。
数十年の歴史を持つ国には、作ったときには、理にかなっていた法律が、たくさんあります。
できたときは、啓蒙的だと思われていた法律も、今となっては時代遅れで、不合理だとさえ思えるものになることもあります。
これも、同じ問題から生じています。
つまり、私たちが、「自分は歴史の終わりを象徴している」と考えることです。
人は、未来がだいたい今と同じだと考えています。
未来の自分のためにできること
この邪悪な問題に対処するために、3つアドバイスをします。
なぜ邪悪な問題かというと、私たちは未来の自分が幸せでいられるように、今の生活の大半を、過ごしているからです。
立ち止まって、「20年後、30年後に、未来の自分が、振り返って、困惑したり、憤ったりすることはないだろうか? 未来の自分が、いったいなぜ、私がそんなものを欲しがると思ったんだ、とたずねるのではないだろうか?」とは考えません。
好奇心を持て
1つめのアドバイスは、30年後には自分は違う人間になっているという考えを受け入れることです。
私たちは、未来の自分の設計者(キュレーター)になるべきです。
友人や家族以外の人たちとも時間を過ごしてください。
ふだん、自分がやっている趣味や仕事以外の趣味や仕事に取り組んでください。
視野を広げるべきです。なぜなら、あなたは違う人間になるのですから。
どんな人間になるかは、自分で責任を持つべきです。
つまり、1つ目のアドバイスは、好奇心を持ち続けることです。
謙虚さを持て
次に、ソーシャルメディアや政治的な討論の場、ディナーパーティで話をするとき、自分とは意見が異なる人の中に、未来の自分がいるかもしれないことを心に留めておいてください。
確信を持って意見を言うとき、謙虚な気持ちも少しは持ちましょう。
これは個人レベルだけでなく、組織レベルでも言える話です。
ちょっと前に、ある会社の権威あるポジションに着いたばかりの女性と話をしました。
彼女は会社をよりよくするために、どんなふうに変えていくか、いろいろと理想的なアイデアがありました。
そして、私にこう聞いたのです。
「どうすれば、この先、誰も、私が行った変更を変えたいとは思わないような変化を起こせるでしょうか?」
人間は、歴史に対する自分の見方は、最終的なものであると信じてしまうのです。
そして、これは間違っています。
勇気を持て
3つ目のアドバイスです。
未来の自分は、今より弱く、もろくなっています。
これは本当です。それは物語の一部ですから。
同時に、それは、物語の一部にすぎません。
未来の自分は、今の自分にない能力や、強さ、知恵を持っています。
だから、チャンスが巡ってきて、ためらってしまうとき、たとえば、私が、「私は仕事をやめて自分のビジネスを始める能力がない」、「52歳で、楽器を習うなんて無理だ」「障害をもった子供の面倒を見るなんて私にはできない」と言ってしまうとき、
「今日の自分にはそういうことができる能力がないけれど、明日、そういう能力がないわけじゃない」と言うべきなのです。
だから、3つ目の助言は、勇気を持つことです。
まとめ
好奇心をもち、謙虚になって勇気を出せば、20年~30年あとに、未来の自分が過去を振り返ったとき、悔しがったり、憤ったりはしないでしょう。
その代わりに、こう言うはずです。
「ありがとう」と。
//// 抄訳ここまで ////
人は変わる・ほかのプレゼン
人は変わり続ける。未来の自分に対する心理:ダン・ギルバート(TED)
自分の能力を自分で見限ることの恐ろしさ、できると信じることの素晴らしさ(TED)
上手になりたいと思っていることをきっちり上達させる方法(TED)
ヴェダンタムさんの本です。
今の自分はいくらでも変わる
私たちは今日の自分や、今日の生活がずっと続くと無意識に思っているが、実は違う、生活も、自分も大きく変わる。未来の自分は、自分で作り上げていける、というプレゼンを紹介しました。
自分は変わるから、結婚式でする約束などは、非現実的というか不合理なわけです。
結婚したときにした約束を何十年も守り続けて、いつまでも2人仲良く暮らすのは、ある種のフェアリーテール(おとぎ話)です。
しかし、私たちは、そのおとぎ話を美しいと思い、価値をおいています。だから、自分の意に反して、無理に約束を守ろうとしてしまう人もいます。
今日の自分にとって、未来の自分は、他人のようなもの、という事実を受け入れると、断捨離もしやすくなります。
「これがあれば、いつか使うかもしれない」という物は、ほぼ、捨てることができるでしょう。未来の自分は変えることができるので、「こんな物がなくても大丈夫な自分」になっていればいいのです。
「やせたら着るつもりの服」もいりません。やせたときの自分は、今の自分とは、好みが変わっているからです。
さらに、未来の自分を幸せにすることにばかり一生懸命にならないので、今の生活をもっと大事にできます。
すると、今日の生活を不便にするものは、どんどん捨てることができるでしょう。
また、「私は片付けが苦手」とか、「家計管理がまったくできない」というのも、暫定的な判定にすぎません。工夫次第で、そういうことが得意な自分になれるのですから。
好奇心、謙虚さ、勇気を忘れないでください。