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最終更新日: 2021.09.12

私たちの仕事に対する考え方は間違っている:バリー・シュワルツ(TED)

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現在している仕事が嫌いなあなたにおすすめのTEDトークを紹介します。

タイトルは、The way we think about work is broken(私たちの仕事に対する考え方はこわれている)。

講演者は、著名な社会心理学者のBarry Schwartz(バリー・シュワルツ)さんです。

邦題は、『我々の仕事の考え方は間違っている』。



仕事に対する考え方:TEDの説明

What makes work satisfying? Apart from a paycheck, there are intangible values that, Barry Schwartz suggests, our current way of thinking about work simply ignores. It’s time to stop thinking of workers as cogs on a wheel.

何が仕事を満足できるものにするのでしょうか? 給料以外にも目に見えない価値があるのに、現在の私たちの仕事に対する考え方が、それをないものにしているとバリュー・シュワルツは言います。

労働者を歯車の1つと考えるのをやめるときが来ています。

収録は2014年の3月、長さは8分、日本語の字幕もあります。動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプションはこちら⇒Barry Schwartz: The way we think about work is broken | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

シュワルツさんの英語はわかりやすいほうだと思います。





なぜ働くのか?

今日は、仕事に関する話をします。

私が問いて、答えたい疑問は、「なぜ、働くのか?」です。

なぜ、みな、冒険から冒険へ飛び回る人生を生きる代わりに、毎朝、いやいや起きて仕事に行くのでしょうか?

もちろん、生活費を稼ぐ必要がありますが、それが、「なぜ働くのか?」という質問の答えである人は、ここにはいないでしょう。

ここにいる人たちにとって、仕事は、チャレンジングで、夢中になれ、刺激的で意味のあるものです。

幸運なら、それは重要でさえあるでしょう。

お金をもらえなければ働かないとしても、それが、仕事をする理由ではありません。

一般的に、物質的な報酬は、仕事をする理由としては、よくないものだと人は考えています。

誰かに、「お金のために働いている」というのは、うまい描写とは言えません。

なぜ単調で無意味な仕事をするのか?

これは自明のことなのに、なぜ、圧倒的多数の人は、毎朝、やっとの思いで起きて、仕事に行くのでしょうか?

なぜ、大多数の人が、単調で無意味で、魂がすり減るような仕事をしているのでしょう?

なぜ、資本主義の発展とともに、仕事からもたらされるはずの非物質的な満足が失われるような生産形態が生み出されてしまったのでしょうか?

このような仕事を、工場、コールセンター、梱包倉庫などでしている人は、お金のためにしています。

なぜでしょう?

その答えはテクノロジーにあります。

アイデア・テクノロジー

技術や自動化が、人間の仕事を奪うという話ではありませんよ。

私がお話ししているのは、生活の中にたくさんあって、皆がTEDに聞きにくるのとはべつの種類のテクノロジーです。

物のテクノロジーではないのです。それも重要ではありますが。

私が話しているのは、アイデアのテクノロジーです。

これを私は、アイデア・テクノロジー(idea technology, IT)と読んでいます。

科学はアイデアも生み出す

科学は物だけではなく、アイデアも生み出します。

物事を理解する方法も生み出すのです。

社会科学において生みだされる物事の理解の方法は、私たち自身を理解する方法です。

これは、私たちの考え方、望むこと、行動に大きな影響を与えます。

貧困が神の意志だと思うなら、人は祈ります。

貧困が自分の無能の結果だと思うなら、人は絶望します。

貧困が圧政の結果だと思うなら、人は、反乱を起こします。

貧困に対する反応が、あきらめになるか、革命になるかは、人が、貧困の原因を何だと思っているかによって決まります。

これが、人間を形作るアイデアの果たす役割です。

そして、これこそが、アイデア・テクノロジーが、科学のもたらすテクノロジーの中で、もっとも重要であろう理由です。

物のテクノロジーとアイデア・テクノロジーの違い

アイデア・テクノロジーには、物のテクノロジーとは違うところがあります。

物のテクノロジーでは、だめなものはすぐに消えます。

まずいテクノロジーは消えていきます。

ですが、アイデアの場合、人間に関するあやまったアイデアは、それを正しいと信じる人がいる限りなくなりません。

そのアイデアが正しいと信じる人たちが、その間違ったアイデアにそった生活様式や組織を作るからです。

アダム・スミスの見解が作った組織

産業革命により、工場組織が生まれたのが、その例です。

このシステムでは、仕事から、賃金以外のものは、何も得られません。

産業革命の父の1人であるアダム・スミスが、人間は本質的にとてもなまけもので、それを、なにか価値のあるものにしない限り、人は何もしないと確信していたからです。

その価値とは、報奨金や報酬を与えることです。

人が何かをする唯一の理由は、報酬があるからだと考えました。

この人間に対する誤った見方に基づいて、人間は工場のシステムを作ったのです。

いったんこのシステムが作られると、アダム・スミスの見方に即したシステムの中で働くしかなくなりました。

これは、間違ったアイデアが、それを正しいものとする環境を作り出してしまう1つの例です。

流れ作業が人を愚か者にする

「もう、よいヘルプ(働き手)を得ることはできない」と言い方は、本当ではありません。

人々に、屈辱的で退屈な仕事を与えているから、「もう、よいヘルプを得ることはできない」、が本当です。

おもしろいことに、大量生産と分業というすごい発明をしたアダム・スミスは、これがわかっていました。

彼は言いました。「流れ作業でする生産工程(assembly line)で働く者は、一般に、人間として可能なかぎり、愚かな者になります」。

彼が、「なります」と言っていることに注意してください。

アダム・スミスが、意図していたのかどうかはわかりませんが、このようなシステム(職場)が、そのシステムの要求に合う人間を作り出し、私たちが当然だと思っている、仕事の満足を得る機会を奪うのです。

人間は未完成の動物

自然科学では、私たちが、宇宙に関して素晴らしい理論を紡ぎ出すとき、宇宙はその理論にはまったく関係ないことがよくわかっています。

私たちが宇宙をどう考えようと、宇宙そのものは、変わりません。

しかし、人間に関する理論については注意が必要です。人間が何であるのか説明し、それを理解する助けとなるために作られた理論が、人間の性質を変えてしまいます。

優れた文化人類学者であるクリフォード・ギアツが、何年も前にこう言いました。

「人間は未完成の動物である」と。

彼が意味しているのは、人間の性質は、その人間が住む社会の産物であるということです。

人間の性質は、私たちにとっての人間の性質であり、それは発見されるものではなく作られるものなのです。

人々が暮らし、働く組織をデザインすることによって、私たちは人間の性質をデザインしているのです。

だから、みなさんが組織を運営するとき、聞いてほしいことがあるのです。

どんな人間の性質をデザインしようとしているのか? と。

//// 抄訳ここまで ////

働き方に関する理解・補足

このプレゼンをもとにしたバリー・シュワルツの著書です。

バリー・シュワルツのプレゼンは、過去に2本、紹介しています。

バリー・シュワルツに学ぶ『選択のパラドックス』(TED)~所持品をミニマムにすると生きやすくなる理由とは?

人生において運が果たす役割とは?:バリー・シュワルツ(TED)

仕事に関するほかのプレゼン

仕事にやりがいをもたらすものとは? ダン・アリエリー(TED)

機械に奪われる仕事ーそして残る仕事(TED)

複雑な仕事環境をシンプルにする6つのルール(TED)

オフタイムに、うだうだと仕事のことを考えるのをやめる方法(TED)

仕事の失敗でいちいち落ち込まない方法。親切で、優しい成功哲学(TED)

なぜ職場で仕事ができないのか?(TED)邪魔な物を排除するとうまくいく

人間に対する見方が人間を変える

この講演の内容を一文でまとめると、

産業革命のころに定義された、人間に対する見方(人間の理解の仕方)が、現代人の働き方に多大なる影響を与えている、なぜなら、人は社会の求めに応じて、そのあり方を変えるから、

となるでしょう。

引力や電気、光、細菌などを発見して、理論体系にまとめても、対象そのものは、何も変化しません。

しかし、人間に関する理論(仮説、アイデア)を唱えて、その理論に沿った社会組織作ると、その理論に合致する人間になってしまうのです。

確かにそうかもしれません。

日本では、過労死するほど働く人がいますが、こういう会社では、「人間は休息を取らなくても、働き続けることができる」という人間に関する誤った見方によって、経営されています。

経営している人たちや、この企業で働いている人たちが、この点を自覚しているかどうかは別にして。

気持ちの上では、この見方に即した働き方をすることができますが、そもそも、物理的に不可能なので、病気になったり、死んでしまったりする従業員が出るのです。

しかも、誤った考え方であっても、それを信じて、正しいと思っている人(または、何の疑問も持たない人)が、その考え方に基づいた組織を作り、運営し続ける限り、間違ったアイデアが、もっと望ましいアイデアに駆逐されることもありません。

ものの理解の仕方はとても重要なのです。

バリー・シュワルツは、職場のあり方について語っていますが、家庭のあり方についても、人間に対する理解の仕方は重要です。

特に、子育てをするときなど。

このブログの主旨に沿った話をすれば、「物がたくさんあったほうが人間は幸せなのだ」というアイデアに基づいて、暮らしをデザインしていると、本当の幸せを得ることができません。

このアイデアが間違っていても、そう信じる人がいて、それをベースに組織や制度を作っていると、この考え方はなくなりません。

そこで、個人的に、もっと人間らしい幸せを得られそうなアイデアの可能性をさぐり、そのアイデアに基づいて生活をデザインしたほうがいいと思います。





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