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人がなぜ変化を嫌がるのか、そしてその抵抗をどう乗り越えればよいのか教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、The Key to Navigating Change With Confidence(自信を持って変化を乗り越える秘訣)
変化のスペシャリストとして、世界中の企業で組織改革や人材開発を支援している、Kristy Ellmer(カースティ・エルマー)さんのトークです。
ポジティブな変化:このトークのまとめ
この講演は、行動科学や脳科学の話があり、企業内のコミュニケーションを動機タイプごとに分けるという話は、実務経験がないとイメージしにくいかもしれません。
そこで、内容を簡単に要約しました。
・人は本能的に変化を嫌う(脳が不安・抵抗を感じるようにできている)
・変化を成功させるには人間を中心に据えることが重要
方法①:自分の「変化ストーリー(=Why)」を書く
方法②:認知負荷(能力×自信)を測って、個別に対応する
・人には異なるモチベーションがある(5つのタイプ):個人の達成/顧客/チーム/地域社会/お金
・成功する変化は、数字だけでなく意味を伴っている
・人間らしさを尊重すれば、変化の中に希望や成長を見いだせる
変化とうまく向き合う
収録は2024年9月、動画の長さは13分。英語字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
エルマーさんは、企業を相手に組織改革をサポートしているので、プレゼンが上手です。
英語もとても聞き取りやすいです。
リストラがいいことだとしたら?
私が24歳のとき、キャリアと人生の流れを大きく変える言葉を耳にしました。
当時、私はある航空会社に就職したばかりでしたが、その会社は倒産しました。
その会社は、何百万人もの人に「空を飛ぶ」という贈り物を届けてきた歴史ある企業でした。
けれども、会社を救うには、リストラを含む多くの厳しい決断が必要になることはわかっていました。
長年会社に尽くしてきた友人や同僚を手放すことを考えるのは、人々にとって非常につらいことでした。
私たちを支えるために、ある外部のコーチング会社が呼ばれました。
そこでファシリテーターが言った言葉を、私は今でも忘れられません。
彼はこう問いかけたのです。
「もし、リストラされたすべての人にとって、それが実はいいことだとしたら?」
私は衝撃を受けました。
リストラされることが、誰にとって良いことだというのでしょう?
私自身が給料を失ったら、家賃やたくさんの支払いをどうするか不安になると思いましたし、健康保険や食べ物など、生活の基本をどうまかなうか心配になるはずです。
そして、自分のキャリアや将来にどんな影響が出るのか?
では、どうしてリストラが誰かにとって「いいこと」になりうるのでしょうか?
そう思いながらも、私は少しだけ心を開いて、その後に語られた調査結果に耳を傾けました。
災い転じて福となる
彼は、これまでにリストラされた社員たちを長期的に追跡調査しており、その多くが、結果的には、災い転じて福となったケースだったと話してくれました。
人々は、長年惰性で続けていたキャリアから無理やり引き離されることになりました。
けれども、退職金や推薦状、人脈などの支援を受けながら、新しい挑戦に踏み出していったのです。
彼らは新しい職に就き、これまでになかったチャンスを得て、キャリアの流れが一気に加速しました。
中には、新たにビジネスを始めたり、スキルを学び直したり、大学に戻った人もいました。
その話を聞いたとき、私の中にひとつの信念が芽生えました。
変化はいつでもいいもの
それは、「変化はいつだっていいものだ」という考えです。
たとえ望んでいない形でやってきたとしても、好奇心と忍耐さえあれば、その中に必ずいいものを見つけられる。
そう信じるようになったのです。
それ以来、私の身に大きな変化が起きたときには、たとえそれがネガティブなものであったり、自分の意志とは関係なく起きたことであっても、時間をとって、こう自問するようにしています。
「もしかしたら、これは自分のために起きているのではないかしら?」と。
私はトランスフォーメーション(変革)を専門とするリーダーとして、世界中の大小さまざまな企業の変革と変化をサポートしてきました。
従業員体験の向上とともに、数十億ドル規模の価値を生み出すことに貢献してきました。
たとえば、あるグローバル製造業では、組織全体の再構築を手がけましたし、閉鎖寸前だった鉱山会社を、わずか3か月で黒字転換に導いた経験もあります。
また、COVID-19のパンデミックのときは、最も打撃を受けた業界のひとつである食料品業界の支援にも携わりました。
つまり、私は本当に多くの変化の現場を見てきたのです。
そして今、確信していることがあります。
それは、現代において唯一変わらないものは、「変化そのもの」だということです。
変化は、なくなりません。実際のところ、それはますます頻繁で困難になっています。
人間は変化を嫌う
私にとって幸運なのは、私は変化が好きだということです。
私は変化を自ら求めるタイプです。
でも、多くの人にとって、変化は嫌なものです。ほとんどの人は変化を嫌います。
私たちの脳は生物学的に変化を嫌うようにできています。
脳は、不確実さや脅威を避けるように設計されています。
何かに脅かされていると感じた瞬間、脳の扁桃体(アミグダラ)がストレスホルモン(コルチゾールとアドレナリン)を放出します。
これは、無意識かつ即座に起こる反応です。
たとえば、森の中を歩いていて、熊に出くわしたとします。
そのとき脳は、「怖い動物だ。逃げろ」といいます。
でも、それはストレスホルモンが言わせていることにすぎません。
冷静になって理性的な脳を使えば、本当に最善の行動は、動かずにじっとしていることだとわかります。
この化学反応(ストレスホルモンのカクテル)は、森で熊に出会ったときでも、会社のCEOが「合併します」と発表したときでも、同じように起きます。
どうして変化は失敗しやすいのか?
変化は、たいてい心地よく感じられません。これが、企業の変革の75%が失敗に終わる理由のひとつです。
みなさんが、最後に何らかの変化を経験したときを思い出してみてください。
その変化に対して、ワクワクしたり、前向きな姿勢で受け入れたりしたでしょうか? それとも、すぐに「これは失敗する」「こんなことうまくいくわけがない」と、否定的な反応をしていたでしょうか?
「変化なんて成功しない」「これは失敗に決まってる」と言う人もいれば、私がよく耳にするフレーズのひとつですが、「とにかくじっとしていれば、そのうち自然と消えてなくなる」と言う人もいます。
どんなに優れたチェンジ・マネジメント戦略を立てたとしても、関わっている人たちが意識的あるいは無意識的にその変化に抵抗しているなら、うまくいきません。それが人間の本能的な反応だからです。
つまり、チェンジ・マネジメントの本質は、人間が生まれつき持っている「変化を嫌う脳のプログラム」を乗り越え、知性を働かせて変化を前に進めていく手助けをすることなのです。
うまく変化するために
では、変化が絶え間なく起き続けるこの時代において、どうすれば人々が変化を嫌わずに受け入れ、場合によっては変化に対して、ワクワクできるでしょうか?
その答えは、変化を人間らしいものにすることです。
なぜなら、変化を動かしていくのは、最終的には人間だからです。
あらゆる変化や変革の局面で、人間的な要素を考慮することが不可欠です。
具体的にそれを実現する方法はいくつもありますが、ここでは私のお気に入りの2つを紹介します。
変化のストーリーを書く
ひとつ目は、変化しようとするとき、自分自身の変化のストーリーを書き出すことです。
チームメンバーにも同じことをしてもらいましょう。
これは、なぜ自分がこの変化に取り組もうとしているのか、そしてなぜ最後までやり遂げたいのか、その動機を明確にするための作業です。
この「なぜ(Why)」を知り、変化の過程で何度も思い出すことができれば、私たちが本来持っている変化を嫌う脳の働きを乗り越える助けになります。
ところが、ほとんどのリーダーは変化について考えたり、語ったりするとき、株主の価値の向上や株価、高額報酬、成功によるボーナスなど、数値の成功指標の話ばかりしてしまいます。
しかし、そうしたものは、多くの人にとって本当の動機にはなりません。
私は、BCG(ボストン コンサルティング グループ)にて行動科学ラボを設立し、人間の行動を突き動かす要因について深く研究してきました。
あなたを動かすのはどれ?
そこでわかったことですが、人々が変化に向かうときの主な動機は、以下の5つに分類できます。
1)個人的な達成(Personal Achievement)
2)顧客(Customers)
3)チーム(Teams)
4)コミュニティ(Community)
5)金銭的成果(Financial Outcomes)
これら5つのすべてに、私たちはある程度共感できますが、人それぞれ特に強く響くものがひとつだけあります。
あなた自身がどれに当てはまるのか、ぜひ考えてみてください。
個人的な達成が動機になっている人は、キャリアの節目となる出来事にやりがいを感じます。より大きな昇進、よりよい肩書き、選ばれた人しか参加できないような特別なプロジェクトに関わることが、何よりのモチベーションになるわけです。
顧客に動機づけられている人は、自分が提供する商品やサービスが現実の世界で使われているのを見るのが嬉しく、どうすればもっとよくできるかというフィードバックを得て、改善につなげることに意義を感じます。
チームがモチベーション源の人は、一緒に働く人たちをとても大切にしており、チームがどんな環境で協力し合っているかという点を重視します。
たとえ高額のボーナスを渡されたとしても、一緒に働く仲間が合わなければ、6ヶ月後には辞めてしまうかもしれません。一方で、そのチームが大好きならば、深夜2時でも一緒に働くことをいとわないでしょう。それが仲間に必要なことならば。
コミュニティに動機づけられている人にとっては、自分の時間やエネルギーを費やしている場が、世の中を少しでもよくすることになっていると感じられることが重要です。たとえば、がん啓発の取り組みや、就労支援プログラム、フードドライブなど、社会貢献活動に積極的な企業であることが欠かせません。
金銭的成果はとてもシンプルです。その変化によって、最終的にどれだけの収入や利益が見込めるのか、という点が判断基準になります。
これらの中で、あなたが最も強く共感したものはどれでしたか?
もし私が100人に「あなたを動かすものは何ですか?」と聞いて、この5つのカテゴリーを示したら、回答はほぼ均等に分かれるでしょう。
つまり、リーダーが金銭的成果や個人の達成といった一部の動機しか話題にしていないなら、全体の60%の人たちには響いておらず、変化への意欲もわいていないということになります。
そこで私は変化を進めるときは、関係者全員に自分自身の変化の物語を書いてもらい、さらに、成功指標も5つの観点すべてで語るようにしています。
鉱山会社のリーダーの話
実例として、ある鉱山会社で働いたときのことをお話します。
その会社のあるリーダーは、自分が極度の貧困の中で育った経験を話してくれました。
彼は、会社にどれほど多くの無駄や損失があるかを見て、愕然としたと言います。
彼が語ったのは、もしこの変革が成功すれば、会社は株主からさらなる投資を受けられるようになるだろう、ということでした。これは金銭的成果にあたります。
そしてその投資によって、新しい設備を導入することができ、生産性が向上し、それによって価格を低く抑えることが可能になります。これは顧客への価値提供です。
さらに、利益が改善すれば従業員の給与に投資できるようになります。これは個人的な達成につながります。
そして彼にとって最も重要だったのは、会社の貧困削減キャンペーンに、より多くの資金を投入できるようになるという点でした。これはコミュニティの観点です。
加えて、運営がうまくいっている会社なら、チームとして学びや成長の機会をより多く持てるようになるため、チームへの投資にもつながります。
彼がその話を終えたとき、彼は泣いていて、部屋にいた多くの人々も感動して泣いていました。
その瞬間、この変革は単なる金銭的成果を上げるための取り組みから、みんなのために最善の会社をつくるという使命へと変わったのです。
そして、皆が自分ごととして共感できる変革になりました。
自分の動機を再確認する意義
興味深いのは、一度その人が何に動機づけられているかがわかれば、プロセス全体を通して、その動機を繰り返し思い出させれば、変化への抵抗という生物的な本能に対抗することができる、という点です。
たとえば、メールのセグメント配信(受け取る相手を条件ごとにグループ分けして、それぞれに合った内容のメールを送ること)やAIによる自動化のおかげで、異なるタイプの人に対して異なる内容のコミュニケーションをするのは、今ではとても簡単になりました。
チームに動機づけられている人と、金銭的成果に動機づけられている人とでは、伝えるべき内容は異なります。
それぞれのタイプに響くメッセージを届ければ、効果的に動機づけを維持できます。
認知負荷を測定して対応を変える
動機づけが人によって違うのと同じように、どれだけのことをこなせるかも人によって違います。
これが、私の2つ目のヒントにつながります。
多くの組織では、変化を活動量マップ(アクティビティ・ヒートマップ)で管理し、すべての人が同じだけの業務をこなせる前提で動いています。
けれども現実には、あるチームメンバーは6つのタスクを与えられたとき、8つこなせる一方で、別のメンバーは家庭で離婚問題があり、3つが限界という場合もあります。
そこで、認知負荷(Cognitive Load、コグニティブ・ロード)を測定し、それに応じて調整することが必要です。
認知負荷は、2つの要素から構成されます。それは自信(Confidence)と能力(Capacity)です。
能力は、あるタスクをこなすために必要な時間・エネルギー・リソースが自分に備わっているかどうかということです。
自信は、そのタスクを自分がやり遂げられると信じているかどうか、という感覚を指します。
私たちは、非常にシンプルなアンケートを使って人々の状態を把握しています。
たとえば「ワクワクしている」「疲れている」「誇らしい」「不安だ」といった感情を自己評価してもらい、次に、認知負荷に関する質問をします。
能力に関する具体的な質問の例としては、「家庭と仕事、両方の役割をどの程度うまくこなせていますか?」というものがあります。
自信については、「難しい課題に直面したとき、それをやり遂げられるとどれくらい確信していますか?」という問いかけをします。
このような簡単なアンケートを5分ほどすると、チームメンバーの認知負荷をより正確に理解できるようになります。
小さな配慮が変化を支える
もし誰かがいい状態なら、新たなチャレンジの機会を与えて、成長を後押しすることができます。
逆に、今つらそうにしている人には、仕事量を減らしたり、その人に合わせた特別なサポートを提案することができます。
ここで、先ほど紹介した2つのヒントが組み合わさって活きてきます。
つまり、苦しんでいる人には、まず一度立ち止まって「なぜ自分は変化にワクワクしていたのか?」という原点を思い出してもらうのです。
もし自信を失っているようなら、信頼できるリーダーからの思いやりのある一言を添えて励ますことができます。
このように、小さく介入することを続ければ、人々が変化を乗り越え、変化への抵抗本能と戦う力を得られるのです。
正しく変化してこそうまくいく
変化には、いい面がたくさんあります。ただし、それを正しく行えばの話です。
変化を正しく行うためには、変化を導くのは、私たち人間であると認識することが重要です。
人間は、動機も不安も人生の背景もそれぞれ違っており、複雑で扱いにくい存在です。
変化を人間らしいものにすれば、それぞれがどうしてそうするのか理解し、認知負荷をうまくコントロールしながら変化に向き合えるようになります。
そうすれば、人々は「変化=悪いことだ」という思い込みと戦って、変化の中にあるポジティブな面、それは、仕事面だけでなく人生そのものにおけるポジティブさに気づけるようになるかもしれません。
なぜなら、すべての変化の中には、必ず何かしらのいいことが隠れているから。
あとは、それを見つければいいのです。
//// 抄訳ここまで ////
変化に関するほかのプレゼン
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変化も捨て活も感情と向き合うことから始まる
不用品を捨てることも、今の生活を変革することですから、エルマーさんが勧める変化への抵抗を乗り越える方法は、断捨離にも応用できます。
1. 変化ストーリーを書く⇒なぜ捨てたいのか具体的な言葉にする
なぜその変化(不用品を捨てること)を望んでいるのか、どんな暮らしを目指しているのか、理由や目的をあらかじめ明確にしておきましょう。
たとえば、「ものを減らして、掃除をラクにしたい」「使っていないのに持っているのが罪悪感だから」など。
迷ったときに「なぜ?」に立ち返ると、「もったいない」といった感情に流されずに判断できるようになります。
2.認知負荷を測る⇒いま自分が手放せるキャパシティと自信を確認する
能力(時間・体力・状況)と自信(やり遂げられると思える気持ち)を見極めて、調整します。
たとえば、今、どれだけの捨て作業ができそうなのか、考えながら作業を進めます。
疲れているときは1日1個でもOKです。
もし、「これを捨てて後悔しないだろうか?」と迷っているなら、捨てても大丈夫だと確信があるものから捨て始めるといいでしょう。
こうすると、無理をしないので継続しやすくなりますよ。
企業の変革も、個人的な片付けもうまくいかない理由のひとつは、感情とうまく付き合っていないことだと思います。
人間は本能的に変化を嫌うようにできていて、たとえ自分のためになるとわかっていても、未知の状況に向かうことに不安を感じます。
そこで、「捨てなきゃ」「片付けなきゃ」と自分を追い立てるのではなく、気持ちや状態を確認しながら捨て活をしてください。
そうすれば、もっとスムーズにものを手放せます。