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秋は体を動かすのに向いた季節です。そこで今回は、運動がいかに脳にいい影響を与えるか説明しているTEDトークを紹介します。
タイトルは、Neurofitness: Exercising the Brain(ニューロフィットネス:脳を鍛えること)
体育の先生のJuan Pablo Barea(フアン・パブロ・バレア)さんによるプレゼンです。
ニューロフィットネス
収録は2025年5月、若者向けのTEDX、動画の長さは14分30秒。動画のあとに抄訳を書きます。
◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
運動は脳にいい影響があるので、今日から運動を始めよう、というシンプルな内容のプレゼンです。
運動は脳にポジティブな効果がある
今日、すぐにできることで、記憶力や集中力といった認知機能を高め、さらに約3時間続く気分の向上効果をもたらすものがあるとしたら、どうしますか?
継続すればアルツハイマー病や認知症、うつ病の予防にもなるとしたら。
試してみたいですよね。
今日は、運動が脳に与えるポジティブな影響についてお話しします。
私はこれをニューロフィットネス(Neurofitness)と呼んでいます。
運動の効果に気づいたわけ
どうやって運動と脳の関係に気づいたかお話しします。
10歳の少年を想像してください。
彼は、短い人生の間に5つの学校を転々とし、3か国に住みました。
その結果、勉強がうまくいかず、集中も苦手。10分以上集中するのがとても難しかったのです。
自信もなく、学ぶ気になれず、成績は低迷していました。
「自分は学業では負け犬だ」と思い込んでいました。
そんなある日、体育の先生がいつも教室の隅でうつむいている彼に気づきました。
その先生は「この子に時間をかけてみよう」と決め、個別にトレーニングを教え始めました。
少年に運動能力を伸ばすための基礎的な動きを練習させ、他の生徒がやっている競技に参加できるようサポートしたのです。
繰り返し練習するうちに、その生徒は自信を取り戻し、競技にも積極的に参加するようになりました。
体を動かした結果、心も変わり、成績も向上しました。
落ちこぼれだった彼は、やがてクラスの上位の成績になりました。
彼は心に誓いました。「自分も大人になったら、他の子どもたちに同じような変化を与えられる教師になろう」と。
この少年は私自身です。
私は、体育の教師になり、生徒にポジティブな影響を与えたいと願っていました。
そして、人の身体について学ぶうちに、運動と脳の深い関係に強い興味を持つようになりました。
神経科学が教えること
脳の働きを保つためには、バランスの取れた食事、水分補給、十分な睡眠が欠かせません。
これらは基本的なことですが、実は、今日皆さんの脳に最もよい影響を与えるのは運動なんです。
これは私個人の意見ではなく、著名な神経科学者たちの研究に裏付けられています。
たとえば、神経科学者のウェンディ・スズキ博士。
博士は、運動は今日できる最も変革的な脳への投資だと言っています。
彼女の専門は海馬(hippocampus)です。これは、長期記憶を司り、学習にも深く関わる領域です。
また、脳研究センターのマックス・ズンダー博士は、神経新生(neurogenesis)を研究しています。脳が新しい神経細胞をつくるプロセスです。
博士は、新しい神経細胞は運動をしたときに増えると指摘しています。
博士は、運動しないラットと、回し車や障害物などで活動的に過ごすラットを比較しました。
その結果、運動したラットの脳には、新しい神経細胞(赤く染色されたニューロン)が2倍から3倍も多く生成されました。
運動によって生まれた新しい脳細胞や、より強く大きな神経は、知能の発達と深く関わっています。
運動の短期的な効果
さて、教師の仕事で大切なのは、なぜそうなるのかを説明することです。
運動によって短期的に起こる変化は、心拍数の上昇、筋肉の収縮、血流と酸素の供給の増加です。
その結果、脳内でBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、神経新生が促進されます。
さらに、エンドルフィン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質も増えて、集中力、気分、幸福感が高まります。
これらの効果はおよそ3時間ほど持続すると言われています。
長期的に見た脳の変化
運動を継続すると、長期的には脳の構造そのものが変化します。
とくに、長期記憶を司る海馬がより発達し、密度の高い脳構造へと変わっていきます。
海馬は、記憶や学習に欠かせないもので、アルツハイマー病や認知症が最初にダメージを与える部分です。
海馬がよく発達している人ほど、アルツハイマーなどの脳の病気から守られやすいと言えます。
さらに、前頭前皮質(prefrontal cortex)も運動によって厚みを増します。
運動をしていない人と比べると、前頭前皮質の厚さは最大で12倍も違うという研究結果があります。
前頭前皮質は、パソコンのRAMにあたります。
RAMは情報を一時的に置いて、すぐに取り出せるようにし、処理をスムーズにします。
RAMが多ければ、読み込みに時間がかからないように、運動習慣のある人は脳の処理スピードも速くなります。
また、前頭前皮質は計画すること、感情のコントロール、判断力など、人間らしい高度な思考を支える中枢です。
一方で、海馬はハードドライブのようなもので、長期記憶を保存する領域です。
このふたつがともに活性化すれば、学習する力が高まり、神経疾患にも強い脳が作られるのです。
自分自身が運動することが重要
体育の教師は、生徒の脳を最適な状態にするためにサポートをしています。
しかし、生徒が脳というストレージに何を入れるかは、生徒自身の努力にかかっています。
運動によって脳の土台を整えても、それを使って知識や経験を蓄積するのは生徒自身です。
本人の努力や継続が必要ですが、運動を取り入れると学びが格段にラクになります。
脳を木だと考えてみる
脳の構造は、木にたとえるとわかりやすいです。
ニューロン(神経細胞)はまるで木のように、枝(樹状突起 じゅじょうとっき)と根(軸索 じくさく)を伸ばしながらお互いにつながって、情報をやり取りしています。
私たちが体を動かすたびに、その木が成長し、根から枝へと養分が行き渡り、つながりが増えていきます。
つながりが増えると:
・情報へのアクセスが速くなる
・記憶が定着しやすくなる
・気分が安定する
こんな効果が得られます。
つまり、運動は脳という森に光を灯す行為です。
映画『アバター』に登場する魂の木(Tree of Souls)を思い出してください。
体を動かすと、皆さんの脳の中でも、あの木のように、枝と枝が光り輝き、つながり合います。
きらめきながら情報を伝え合う。これが、活発に動く脳の姿です。
だから、身体活動は欠かせません。
最低限必要な運動は?
脳と運動の話をすると、運動習慣のない人や、忙しいから運動する時間がない人からこう質問されます。
「先生、すごくいい話でした。でも、最低限どのくらい運動すれば効果が出るんですか?」
実はトライアスロン選手になる必要も、マラソンを完走する必要もありません。
研究によると、脳に良い効果が出る最低ラインは次の通りです。
・週150分程度の運動(=1日20分前後)
・中程度の強度(最大心拍数の60〜75%)
・複雑な動作で灰白質を育てる
有酸素運動でも筋トレでもかまいません。
駅に向かう道で、少し早歩きをして心拍数を上げるだけでも効果的です。
呼吸が少し速くなり、会話をするのが少し難しくなる程度のペースです。息が苦しくなるほどがんばる必要はありません。
さらに効果的なのは、複雑な動きを学んで繰り返すことです。
ダンスや武術、楽器の演奏など、体を使って複雑な動きを学び、繰り返すと、脳の灰白質が増えます。
動作を覚えて繰り返すプロセスで、神経細胞の枝がどんどん伸び、神経同士のつながりが強化されます。
その結果、思考のスピードや記憶力、運動能力が総合的に高まります。
どんな目標にも運動でより近づける
運動を通じて脳を鍛えることは、人生を変えることです。
体を動かせば、よく眠れ、前向きになれます。
すると、他人にも優しくなり、自分自身も大切にできるようになるのです。
世界をよくしたいなら、まず自分から始めましょう。
1日20分の運動は、ウェルビーイング(幸福感)を高めるための最低限の投資です。
どんな目標があるときも、運動が役に立ちます。
人間関係をよくする、成績を上げる、仕事で昇進する、世界を変える。
こんな目標があるとき、運動が助けになります。ぜひ、始めてください。
◆補足
樹状突起 じゅじょうとっき 神経細胞の枝のような部分で、他の細胞からの信号を受け取ります。
軸索 じくさく 神経細胞の根のような部分で、信号を他の細胞へ伝えます。
運動や脳に関するほかのプレゼン
脳の働きをよくする7つの秘訣(TED)~知的生産性をあげたいあなたへ。
「1日1万歩」は本当に必要か? 科学が示す健康との関係(TED)
運動は人生全体を底上げする
運動をすると、脳にいい効果があると伝えるプレゼンを紹介しました。
このトークは高校生向けなので、学習効果に重点が置かれていますが、運動は人生をよくする力があります。
私自身は、学生時代からスポーツは苦手で、やりたくもなく、年に1度の持久走大会は大嫌いでした。
学校を卒業してからは運動とは無縁でした。
でも、ものを減らしていたとき、フライレディの月間目標に運動があったので、散歩を始めました。
すっきり片付いた家にするための12の習慣~フライレディに学ぶ
最初は気ままにそのへんを散歩し、50歳になってからは、毎朝スロージョギングをするようにしました。
50歳の私がスロージョギングを始めたらみるみる健康に~そのメリットとは?
もともと病弱ではありませんでしたが、スロージョギングを始めたら、明らかに風邪をひきにくくなりました。
免疫力が上がったのだと思います。
私の娘は、今、貧血がひどく、日常生活で支障が出ています。娘を見ていると、体が健康であることは、すべての土台だと感じます。
そんな土台を作るために、運動はとても効果的なのです。
プレゼンで言っていたように、すごくたくさん運動する必要はありません。
1日20分なら、誰でも時間を取れるでしょう。
全く運動をしていないなら、今と未来をよりよくするために、ぜひ運動を日常生活に取り入れてみてください。
すぐに効果を感じると思います。