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心配性を克服したい人の参考になるTEDの動画を紹介します。
心理学者のドーン・ヒューブナー(Dawn Huebner)さんの、Rethinking anxiety:Learning to face fear (不安について考え直すこと:恐怖と向き合うことを学ぶ)というプレゼンです。
「後悔するのが怖くて、物を捨てられない」というメールが多いので、選んでみました。
不安について考え直す
ヒューブナーさんは心理学者で、不安の強い子供と親の治療を専門としています。
このプレゼンでは、ヒューブナーさんの子供のこと、そして、ヒューブナーさん自身が不安を克服した体験が出てきます。
不安を手放す方法として、認知行動療法を使います。
動画は18分。日本語字幕はありませんので、詳しめに抄訳をつけますね。
☆TEDの説明はこちらです⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
不安が強すぎると世界が狭くなる
ちょっとした不安は悪いことじゃありません。感覚が研ぎ澄まされ、挑戦する準備ができますから。
けれども、たくさんの不安をかかえるのは問題です。身動きできなくなってしまいます。
何かに不安を感じるのは、そこに危険があるとみなすことです。本物の危険とは違います。
危険があると思って、闘ったり、逃げたり、固まってしまうのは、よくありません。痛みが伴うし、前に進めなくなるし、自分の世界が小さくなります。
息子はすごい怖がりだった
私は1987年に心理学者になり、数年後に子供を生みました。一人っ子です。
息子が小さかったとき、とても怖がりでした。
ディズニー映画にでてくる怖いキャラクターを怖れていたし、髪を切ることも、注射やとげ、ハチも怖れていました。
子供を安心させようとしましたが、うまくいきませんでした。そこで、息子が怖れていたものを、周囲から取り除きました。
映画に行くのをやめ、髪はそのままにして、花や森にも近づかないようにしたのです。
けれども、彼の恐怖はますますひどくなり、外に出かけようとするとパニックを起こしました。ハチに出会うかもしれないからです。
木でできているものは、さわりたがらないようになりました。
専門家の門を叩いてみたが
息子は歴史が好きだったので、10歳のとき、タイコンデロガ砦(とりで)に行くことにしました。
森の中にある砦です。
息子は長袖のシャツに長袖のズボン姿。靴をしっかり履いて、肌を露出しないようにしました。
木にさわることはないと息子を安心させ、実際息子もこのお出かけを楽しみにしていました。
当日はとてもよい天気で気温が30度の暑い日。砦の周りを歩き回ったあと、疲れたので、私と夫は木のベンチで休憩しました。
息子は木のベンチは怖くて座れません。ベンチに座っている私たちの膝の上でも怖いのです。
砦の床にも座れません。木の床だからです。壁も木だから、壁にもたれることもできません。
息子は汗びっしょりで立っていました。すっかり疲れきって。
恐怖に打ちのめされ。息子は立ったまま泣いていました。
この時まで、私たちは、息子の恐怖がこんなにひどいものだとは気づいていませんでした。
その後、私は息子をセラピストのところに連れていきました。
そのセラピストは、息子は先端がとがっているものが怖いのだから、これはエディプスコンプレックスだと言いました。
息子は、父親から母親を奪いたいと思っている、というわけです。
高名な心理学者の話を聞きながら、この人には息子を助けることはできないと確信しました。
そこで、自分で息子の恐怖を取り除くため、いろいろリサーチしました。そして、認知行動療法(cognitive behavioral therapy、CBT)に行き着いたのです。
認知療法の三角形
CBTでは、人は誰も心の中に三角形を持っていると考えます。
思考と感情と行動の三角形です。この3つは密接に関連しています。
思考が、感情に影響を与え、思考と感情が行動を起こし、行動した結果が、思考や信念に影響を与える、というように。
だから、問題のある感情、たとえば、恐怖を変えるには、それに関連のある思考や行動を変えればいいのです。
これは理にかなっているし、具体的に対処することもできます。息子の恐怖の元を避けるより、彼の行動に意識を向けるほうがいいわけです。
映画に行き、野外に行き、彼がどう対応するか見るべきなのです。
彼の行動が変われば、考え方も変わるし、感情も変わります。
CBTで息子の恐怖を取り去った
ハチの恐怖対策から始めることにし、外に行くようにしました。当時、息子は11歳。レゴが大好きで、いろいろな物を作っていました。
だから息子を買収しました。
「外に行きなさい。ハチに刺されたりしないから。もし刺されたら、10ドルあげるから」と息子に言ったのです。
ここで私は大きなミスを2つおかしました。
1つは、「ハチに刺されたりしない」と断定してしまったこと。「ハチに刺されることはたぶんないだろう」と言うべきでした。このほうが正確だし、有効なのです。
というのも、不安や恐怖を克服するのに大事なのは、やってみること(take a chance)。確かなことがわからなくて不安でも、とにかく行動することが大切です。
もう一つの失敗は、悪いことが起きたことに対して、ご褒美をあげようとしたことです。
息子が外に行ったことに対して、ご褒美をあげるべきだったのです。
息子が欲しがっていたレゴセットを買い、彼が外に行くたびに1つずつあげるべきでした。
彼の勇気をたたえるために。
今ならこうしたことが言えますが、当時は気づいていませんでした。私の夫も同じことをしました。
「外に行きなさい。もしハチに刺されたら、20ドル払う」と言ったのです。
だから息子は勇気を出して外に行き、実際にハチに刺されました。ハチに刺されたけれど、息子は意外と平気でした。
つまりこういうことです。
悪いことが起こるかもしれないと怖れる気持ちは、実際にそれが起こったとき感じる気持ちよりも、大きいのです。
息子は私たちから30ドルをせしめることができて喜んでいました。この方法は功を奏し、次第に息子の恐怖は消えていきました。
理想的な直し方とは言えませんが、息子は、先の尖ったものを怖れる恐怖も克服しました。フェンシングのレッスンを受けるほどまでに。
自分の不安にも気がついた
私はCBTの威力を感じ、これを効果的に使う方法を学びました。
そして、強い不安を持っている子供たちを治療し、そのやり方を本に書くことにしました。
最初の本、What to Do When You Worry Too Much(心配しすぎるときどうしたらいいのか)は、想像以上に売れ、次の本、そして次の本を書きました。
みんな子供に向けて書いた認知行動療法のやり方です。
その後、いろいろなところから、「講演をしませんか」と依頼を受けました。
けれども、私はいつも都合が悪かったのです。ほかの用事があったりして。私は、講演をしない言い訳をしながら、2年間断り続けました。
自分でもわかっていたのです。人前で話すのを怖れていたことを。
不安に関するベストセラーを書いた心理学者で、不安を克服する治療の専門家なのに、人前で話すのが不安だったのです。
自分が学んだスキルを試してみるチャンス、と思えればよかったのですが、実際はそうではありませんでした。
自分自身が不安で身動きできないのなら、なんとかしなければ、と思いました。
不安を克服する基本は不安の元に身をさらすこと
CBTを使って恐怖を克服する基本的な方法は、身をさらすこと(exposure エクスポージャー)です。
怖れていることに身をさらし、慣れていきます。
CBTのツールボックスを紹介しますね。
まずは身をさらすことです。
これはプールに飛び込むようなもの。最初は水が冷たいけど、水に入っているうちに平気になります。
水の温度は変わらないのに、自分はもう冷たいと思わないのです。
このテクニックの1つにflooding(フラッディング 氾濫)があります。
突然強い不安や恐怖に直面させることです。プールに飛び込むのと同じです。不安の元に向かわせて、とにかくなんとかさせます。
クモが怖いなら、クモが入っているジャーの中に手を突っ込みます。
細菌が怖いなら、小児科の待合室に行って、おもちゃをさわりまくり、その手で自分の顔をこすります。
この方法は効果があります。もし、できるなら、ですが。
ただフラッディングをやりたがる患者は少ないです。きついですからね。
もう1つ、もっとゆるやかに段階的に慣れていく方法もあります。
一歩一歩少しずつ慣れていきます。私が使ったのは、このステップバイステップメソッドです。
小さなことから少しずつハードルをあげていった
私は小さなことから始めました。
カンファレンスで手をあげることから始めて、グループミーティングで発言し、ごく少人数の人々の前で、短いスピーチをしました。
スピーチの内容を紙に書き、原稿を見ながら一語一句そのまましゃべりました。無理やり目をあげたりして。
こんなふうに、本当に少しずつ、ハードルをあげていきました。
大きなグループの前でしゃべり、原稿は見ないようにし、とうとうTEDでしゃべるまでに。
だから希望はあります。
私だけではありません。誰にでも不安を克服できるのです。
みんな、自分を傷つけるかもしれないと思うものに対して、尻込みしています。
これはいいことです。傷つけられるという予想が正しいのであれば。
けれども、私たちはリスクを測る能力をなくしています。怖いから、それは危険なんだ、と思うようになってしまいました。
実際は危険ではないのに。
間違った認識を正そう
CBTには、もう1つ別のツールがあります。
考え方の間違いを正す(Correct Thinking Mistakes)ことです。
考え方が間違っているのを認め、修正します。間違った考え方とは、間違った認識です。
間違った認識が不安を倍加させます。
よくある間違った認識を3つ紹介します。
1)起こるかもしれないと、思いすぎる
もし悪いことが起こりうるなら、起こるに違いない。まだ起きていないけど、絶対悪いことがが起こる、こんなふうに考えます。
2) 大げさに考える
もし悪いことが起こるなら、それはささいなことではない。とんでもなく恐ろしいことが起こるんだ、と考えます。
3) 自分の力を過小評価する
何か悪いことが起きたら、自分にはどうしようもできない、と考えます。
皆、こういう考え方をします。最悪の事態を想像し、失敗するに違いない、自分には解決できない、と。
ですが、自分の考えは考えにすぎないのです。
必ずしも有効で真実とは限りません。
間違った考えにしがみついていることはありません。横に押しやればいいし、もっといいのは修正することです。
そうすると、不安を外在化できます。これは3つめのツールです。
不安を外在化させる
心配や不安は有害な生き物だと考えてください。
この生き物の唯一の目的は、人を怖がらせること。
この動物の言うことに耳を傾けるたびに、エサをやっているのです。心配ごとにエサをやるたびに、それは強くなります。
けれども、心配を語る動物に従わず、言い返したり、対抗したり、正したりすれば、それは勝利です。
実は、私はCBTのツールを逆の順番に紹介しました。子供に対してどうやって使うか説明するために、3つを逆にしてみましょう。
1.心配を外在化
2.思考の誤りを修正
3.身をさらす
あなたは8歳の子供で、1人で2階に行けないとします。怖い人形や、幽霊がいるかもしれないし、とにかく怖いのです。
3つのツールを使ってこの恐怖を克服します。
まず、心配の外在化です。
怖いのは自分の心配が私に話しかけているから、聞かなければいいんだ、と考えます。
次に間違った認識を見つけます。
2階で何かが自分に襲いかかる可能性は限りなく低いです。これまで上の階に何度も行ってるけど、何も起こらなかった、と考えます。
3つめはプールの話です。とにかく行ってみます。いきなり2階に行ってもいいし、少しずつ階段を上ってもいいです。
ママに見ていてもらったり、上に行って、ドアにさわってすぐに戻ってきたり。
実際に向き合うことが重要です。
怖くなくなるのを待つんじゃありません。恐怖がどこかに行ってしまうのを待つのも違います。
恐ろしいと思っていることを、自分が怖いと思っているときに、実際にやるのです。
その恐怖は、間違っていたと知るために。
不安は外の工事の音のようなもの
不安は、自分に有用な情報を与えてはくれません。それに従う必要はないのです。
それは単なる感覚です。
感覚なので一時的なものです。誰でも、不安を克服することを学べます。不安を背景音のように扱ってください。
外でやってる工事の音みたいなものです。
聞こえてきますが、それに反応する必要はないし、その音が止まるまで、その場で固まっていることもないのです。
音はそのままにして、別のことに意識を向けてください。
深呼吸やマインドフルネスエクササイズや、気をそらす方法を使ってみるとうまくいきます。
こうした技術は怖れているものを避けるために使うのではなく、心と身体を落ち着けて、自分の中にある偽りの恐怖を静かにさせるために使います。
怖いからといって、危険の中にいるわけではない、ということに気づくために。
私たちは選択できます。
直感的に、恐怖に尻込みし、その場で固まるか、恐怖に向き合って、そちらへ歩いていくか。
不安は中国のフィンガートラップ(指ハブ)と似ています。指を抜こうと必死に引っ張ると、ますます抜けなくなります。
ですが、リラックスして、抵抗せず、指を中に入れていくと、ふいに自由になるのです。
/// 抄訳ここまで ///
心の不安を取り除くのに役立つTEDの動画
ケリー・マクゴニガルに学ぶストレスと友だちになる方法(TED)
2分で人生を変える方法「ボディランゲージが人を作る」(TED)
『必要なのは10分間の瞑想だけ』~物より心が大切です(TED)
静かにたたずむことが幸せにつながる~ピコ・アイヤー(TED)
幸せは自分の心の中にある、幸せをアウトソーシングしてはいけない(TED)
認知行動療法の説明はこちらです⇒認知行動療法(CBT)を使って片付けられない思考を手放す方法。 認知行動療法はある程度は自分でできるのでおすすめです。
ヒューブナーさんの本は6冊、ワークブックとして邦訳が出ています。
これは1冊目の「だいじょうぶ 自分でできる心配の追いはらい方ワークブック」です。
2冊めは「怒りの消火法」です。夫に読んでもらいたいです。
実際捨ててみると別に何ともない
ずいぶん前のことになりますが、「まだ使える物を捨ててしまったから、物にたたられて、いろいろ悪いことが起きています」というメールをもらったことがあります。
過去記事にあるはずですが、今さっとたどり着けません。
この方のメールを見たとき、「そんな馬鹿な」と思いました。
しかし、その後も、「捨てすぎてバチがあたったみたいです」とか、「断捨離には、後悔するというデメリットがありますから、気をつけなければなりません」といったお便りをしばしばいただきます。
このような人たちは、捨てることに強い恐怖を感じているのだと思います。理屈は関係なくとにかく圧倒的な恐怖なのです。
こうした恐怖のために、使っていない物をいつまでも捨てられないのなら、ぜひその恐怖を外在化してください。外在化とは、その心配は中にあるのではなく、外にあるのだと考えることです。
心配性の人の不安や心配は心の中の一等地を占めおり、もはやその人のアイデンティティとなっています。これを変えます。
動画では、心配や不安は外の工事の音だ、と言っていましたが、そのように考えることが外在化です。また心配を害獣と捉えるのも外在化です。それは自分以外のものであり、自分の外にあるのです。
ヒューブナーさんは害獣だと言っていましたが、私は、不安は毒々しい、人喰い花みたいなものだと思います。心配するたびに、この花は大きくなり、最後に人はこの花に食われてしまうのです。
心配ごとを紙に書いていくのも外在化です。自分の頭の中のもやもやを外に出すわけです。
不安を外在化すると、その心配や不安は妥当なものなのか検討できます。ほとんどの場合、単なる妄想であり、的はずれな心配です。
物が捨てられない時、人は損をすることを怖れています。実は捨てないほうがよっぽど損なのですが。
あとで必要になってお金を払うのが心配だ、という質問をもらったこともあります⇒あとで必要になったときに買うお金がもったいなくて捨てられない、という質問の回答。
なぜ、今の心配じゃなくて、後の心配をするのか不思議ですが、人間は皆、こういう取り越し苦労をします。そして不安になり、捨てないほうを選び、現在の生活の質が損なわれ、ますますストレスがたまり、不安の花はどんどん大きくなっていくのです。
「もったいなくて捨てられない」と、うじうじ悩んで汚部屋の片付けが進まない人は、思い切ってフラッディングを使ってみるといいかもしれません。
フラッディングはいきなり恐怖と直面する方法です。
「これはどうしても捨てられない」と思うものから捨てていくと、意外と何ともなくて、その後の片付けがサクサクと進むものです。
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何かが怖いということと、自分の身に危険が迫っていることとは、別物である、とヒューブナーさんは強調しています。その通りですね。
人間の行動の根源の1つは恐怖なので、不安や恐怖とうまくつきあうことができると、暮らしの質があがります。
やらねばならないことを先延ばしにしていたり、やたらと人の目が気になり、ノーと言えず、自分の好きなように生きられないのも、大元の理由は恐怖があるからです。
その恐怖の正体を探って外在化すれば、今より明るい毎日になります。