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テキスト・メッセージが言語を殺す、なんてね(TED)

言葉に興味のある人、自分の思い込みを正したい人の参考になるTEDの動画を紹介します。

タイトルは、Texting is killing language, JK!!!(テキストのやりとりが言葉を殺す、な~んちゃって)。プレゼンターは言語学者の、ジョン・マクウォーター(John McWhorter)さんです。

邦題は、テキスト・メッセージが言語を殺す(なんてね!)。JKは、Just kiddingのことで、冗談だよ、という意味です。



テキストメッセージが言語を殺す、なんてね:TEDの説明

Does texting mean the death of good writing skills? John McWhorter posits that there’s much more to texting — linguistically, culturally — than it seems, and it’s all good news.

テキストのやりとりは、ちゃんと書くスキルの死を意味するのでしょうか? ジョン・マクウォーターは、テキストのやりとりには、みかけよりもずっと、言語的にも、文化的にも、深いものがあり、それはよいニュースなのだ、と語ります。

posit は、~を断定する、仮定するという意味の動詞で、哲学や論理の世界でよく使われる言葉です。

収録は2013年の2月、動画の長さは13分43秒。日本語字幕あり。字幕があるので、抄訳は軽めにします。

★トランスクリプトはこちら⇒John McWhorter: Txtng is killing language. JK!!! | TED Talk

★TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

テキストのやりとりは書く能力を衰えさせる?

テキストのやりとりは災いの元だとよく言われます。

読み書きの能力が衰えてしまう、それはアメリカの若者だけでなく、世界的に起こっている、というのです。

これは違います。そのとおりだと思いがちですが。

別の見方をするために、つまり、テキストのやりとりはすばらしいもので、新しい様式が生まれつつあると理解するためには、一歩下がって、言語とはなんであるのか、その本質を考えてみる必要があります。

そうすれば、テキストのやりとりは、書くことではないとわかるのです。





言語は話すものとして生まれた

言語は15万年前、少なくとも8万年前から存在しています。それは話すものとして誕生しました。

人間には遺伝的に話す能力があったと思われます。言葉はおもに話すためのものなのです。

書くことが生まれたのは、ずっとあとです。いつ生まれたかには諸説ありますが、もし人類の歴史が24時間だとすると、書くことが生まれたのは、午後11時7分ごろだと言われています。

書くことが誕生したのは、ずいぶん最近のこと、というわけです。

まず話し言葉があり、次に書き言葉が生まれました。もちろん、書くことにもメリットはあります。

話す言葉と書く言葉の違い

ものを書くことは、意識を傾けるプロセスです。振り返ることができますからね。書くときには、話すこと以上のことができます。

エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を考えてみてください。

「この交戦は12時間以上続き、ペルシャ人は少しずつ後退し、混乱した逃走を始めた。中でも恥ずべき行いは、主な隊長たちとスレナス自身によって行われた」

美しい描写ですが、こんな話し方をする人はいません。

再現に興味がない限り。ふだん、こんなふうには話しませんよね。

日常の会話は、ずいぶん違います。言語学者によれば、人は、7~10語で話します。

話し言葉は、自由で、電報のようであり、振り返らないところが書き言葉とずいぶん違います。

ふだん書かれた言葉を見ることが多いから、言語とは、書き言葉だと思いがちですが、実際は、言語は話すものです。この2つは違うものです。

昔の演説は書き言葉ふうだった

歴史が進むにつれて、話し言葉と書き言葉はごく自然にまざっていきました。

昔、演説をするときは、書いているかのように、話したものです。

古い映画で見るような話し方です。これは、日常の会話ではありません。フォーマルで、ギボンが使ったような長い文章を用いました。

書くように話したわけです。

最近、映画の公開のせいでリンカーンがよく話題になります。彼のゲティスバーグ演説は、あのイベントでのメインの出し物ではなく、その前に、エドワード・エヴェレットが、2時間、退屈な演説をしています。

書いているかのように話す彼のスピーチを聴衆は立って聞きましたが、それはごく普通のことでした。

書くように話すことができるなら、話すように書きたいと思うものです。ただ昔は、物理的にそうできませんでした。話し言葉を書き取るのがむずかしかったのです。

速記でもしない限り無理だし、伝えられることも限定されます。

タイプライターやパソコンのキーボードでも難しかった。話すペースに合わせてタイプすることはできますが、そのメッセージをすぐに受け取る相手が必要です。

そうしたメッセージを手元で受け取れるものがあれば、話すように書くことができるのです。

それが、テキストのやりとりです。

テキストは話すように書いているもの

テキストの構造はとてもゆるく、大文字や句読点なんて気にしません。話すときも、こんなことは関係ありませんよね。

テキストをやりとりするとき、書く行為をしますが、実際は、指で話している(fingered speech)のです。

いま、話すように書くことができるわけです。

これはとても興味深いことなのに、人はある種の衰退だと思いがちです。

構造やルールがいい加減だし、人々がかつて黒板を使って学んだことが反映されていないから、何かが間違っている、と思うのです。

ごく自然な感覚です。

けれども、実際に起きているのは、複雑なことが生まれつつある(emergent complexity)、ということです。

指で話す、新しい言語、新しい構造が生まれているのです。

この点を理解するには、その新しいものがどのように生まれているのか、よく見なければなりません。

LOLの使い方の変遷

たとえば、LOLを見てみましょう。テキストでよく使われる表現です。

LOLはLaughing out loud (大笑い、爆笑)のことで、古いテキストではそういう意味で使われています。

ですが、いま、実際にテキストのやりとりをしているか、テキストのやりとりがどんなふうに変化しているか気づいているのなら、もはや、LOLは大笑いという意味では使われないとわかるでしょう。

もっと微妙な言葉に変わっています。

これは20歳ぐらいの女性のテキストのやりとりです。

“I love the font you’re using, btw.” 「そのフォント、いいね」。

Julie: “lol thanks gmail is being slow right now” ジュリー「lol ありがと。なんかGメールが重い」。

ここは笑うところではありません。ミスタイプでしょうか?

次にスーザンは、”lol, I know,” 「lol、ホントだ」と答えています。困った事態を話しているのに笑うなんて。

ジュリーは”I just sent you an email.” 「いま、メール送ったよ」と言い、スーザンは、”lol, I see it.” 「lol うん、届いた」、と答えています。

もしLOLが大笑いという意味なら、2人はとても奇妙な人々です。

ジュリーは、”So what’s up?” 「で、最近、どう?」と聞き、スーザンは、”lol, I have to write a 10 page paper.”「lol レポートを10ページ書かないとだめなの」と答えています。

べつにおもしろがってはいません。

lol は共感や同意を示す言葉なのです。言語学者はこうした言葉を、語用論的小辞(pragmatic particles)と呼びます。

どんな話し言葉にもある言葉です。

日本語では、文の最後に「~ね」とつけるし、黒人の若者は、”yo”とよく言います。

すでにいろいろ研究されている言葉です。LOLは次第に、語用論的小辞になっているのです。

これが、生身の人間の言葉の使い方です。

スラッシュの独自の使い方

スラッシュ(/)も同じです。従来どおり、スラッシュを言葉を分けるために使うこともできますが、若者のテキストメッセージでは、違った意味で使われます。

話題を変えるときに使うのです。

サリーが、 “So I need to find people to chill with” 「一緒に遊びに行く人を見つけなきゃ」と言い、ジェーソンが、”Haha so you’re going by yourself? Why?”「ハハ、一人で行くんだ、どうして?」

このHahaも興味深い表現ですが、今回は、とりあげません。

Sally: “For this summer program at NYU.” サリー「ニューヨークのサマープログラムの間はね」。

Jake: “Haha. Slash I’m watching this video with suns players trying to shoot with one eye.” ジェーク「ハハ、スラッシュ、いま、サンズの選手が片目でシュートしてるビデオ見てるんだ」。

このスラッシュは興味深いです。ジェークが何を言ってるのか、よくわかりませんが、話題を変えたことはわかります。

ささいなことに思えるかもしれませんが、実際の会話を考えてみてください。会話をしていて、話題を変えたいとき、そうする方法はたくさんあります。

唐突に変えるのではなく、膝をたたいて、物言いたげに遠くの方を見たり、「ふ~ん、考えさせられるね」と言ったりして、話題を変えます。

テキストメッセージではそうできないので、話題を変える方法が生まれたのです。

どんな話し言葉にも、言語学者が、情報開始標識(new information marker)と呼ぶ言葉があります。

テキストでは、スラッシュが新情報標識なのです。

いつの時代も若者の言葉の使い方を嘆く人がいた

このように新しい表現様式がどんどん生まれているのに、何かが違う、と考えてしまうものです。

そこには、決まった構造がないし、ウォール・ストリート・ジャーナルの言葉みたいに洗練されてもいません。

ですが、1956年、テキストがなかった時代に、ある人が言っていた言葉を見てください。

「たくさんの人が、アルファベットや九九を知らず、文法にそって書くことができない」。

1917年にも、コネティカットの学校の先生が似たようなことを言っています。

「この国の大学では、どこでも、新入生はおかしなつづりをし、句読点もちゃんと打てない」。

1871年、ハーバード大学の学長は、大学で学ぶ準備ができている学生でも、「つづりのミス、ライティングにおける間違いや、稚拙さがある」と言っています。

1841年にも、学校の舎監が、生徒は文章の書き方をおろそかにしている、と嘆いています。

紀元前63年でもそうです。この男性は、人々のラテン語の話し方がおかしいと思っています。しかし、そのラテン語は後にフランス語になりました。

つまり、いつの時代でも、書く能力の衰退を心配する人はいて、それでも、地球はずっと回っているのです。

いまの若者は二通りの書き方ができる

テキストのやりとりは、若者が生み出しつつある、まったく新しい書き言葉です。彼らは、ふつうに書くスキルもあるから、2つのことができるというわけです。

バイリンガルは知的活動によい影響がある、とたくさんのリサーチ結果が出ています。複数の方言を使うことができる人も同じです。

これはまた、書くことにもあてはまるのです。

つまり、テキストのやりとりは、現代の若者が無意識に2つの方法をうまく使い分けている証拠であり、彼らは、言葉のレパートリーを増やしているのです。

ごくシンプルなことです。

もし、1973年の人が、1993年の大学寮の掲示板を見たら、多少の言葉の違いはあるにせよ、何が書いてあるか理解できるでしょう。

しかし、そんなに昔でもない、1993年の人間が、現代の20歳の人が書いたテキストを見ると、半分ぐらい意味がわからないと思います。

いまの若者のあいだで、まったく新しい言葉が生まれているからです。

もし、私が未来に行けるなら、もし、2033年に行けるなら、テレビドラマの結末について聞いたあとは、その時代の16歳の女子が書いたテキストを見てみたいです。

いまの時代より言語がどんなふうに発達しているのか、知りたいですから。できれば、その紙を持ち帰り、現在、目の前で起こりつつある言語の奇跡を皆さんと調べたいものです。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

scourge  災難、苦しみ、むち

substrate  基質(酵素の作用で活性化する物質)

dissertation  学術論文

wistfully  物言いたげに、物憂げに、物欲しそうに

sheaf   束

言葉に関するTEDの動画

言語はどんなふうにして私たちの考えを形作るのか?(TED)

あなたの言葉がお金をためる能力に影響を与えている?(TED)

赤ちゃんは語学の天才。でもどうやってマスターするのか?(TED)

抵抗を感じたら、自分の思い込みを知るチャンス

マクウォーターさんの話は、自分の思い込みから抜け出すための示唆を与えてくれます。

いつの時代にも、若者が言葉の使い方を知らないと嘆いたり、新しくでてきたツールのせいで、人々がものを書けなくなってしまうと心配する人はいました。

人間は、新しいものに魅了される一方で、未知のもの、よく知らないものには、恐れをいだき、否定的な態度をとりがちなのです。

先日、月、定額を払って、ブランドバッグを借りられるシステムは、人を怠け者にしてしまう、というメールを、Kさんからいただきました⇒シェアリングエコノミーがシンプルライフにもたらすもの(前編)

これも新しいものに対して感じる、「ちょっと違うんじゃないの?」という反応の1つではないでしょうか?(違っているかもしれませんが)

そのように感じたときは、自分の価値観を洗い出すよい機会です。

自分では、ロジカルな思考を重ねたうえで、否定的になっていると思っっていても、実は、新しいものに対する、自動的な反応であることが多いからです。

私は、Kさんのメールの以下の箇所に、本人の価値観がよく表れていると思いました。

月定額で○○を簡単に手に入れる時代は、物を大切にしない、一生懸命はたらいて稼いで、それでやっと手に入れた○○という時代の終焉のような気がします—(中略)—-つまり、怠け者を作る日本社会・・・・のような

もしかしたら、Kさんには、

●貧乏人は怠け者

●物を所有することが物を大切にすること

●一生懸命働いて、物を買うことはいいこと

こんな価値観があるのかもしれないのです。

その価値観がいいとか、悪いとか、正しいとか間違っているとかはどうでもよくて、そういう、自分の価値観に気づくことが重要だと思います。

そして、その価値観をこれからも持ち続けるべきか、少し違う価値観を取り入れたほうがいいのではないか、と検討するのです。

というのも、もし、今の生活に不満があり、変えたいと思うなら、これまでとは違ったことをする必要があり、そうするためには、これまでとは違った考え方や価値観をもたなければならないからです。

自分の価値観のせいで、自分で勝手にハードルをあげて苦しむことも多いですしね。

新しいことに抵抗を感じることは日常よくあります。

仕事のやり方でも家事のやり方でも、自分のふだんのやり方とは違うようにやれ、と言われると、誰だって抵抗を覚えるでしょう。

なじんだ世界にいる方が心地いいし、人は誰でも自分のやり方がベストだと思っていますから。

ですが、違うもの、異質なものを前にして、ちょっと違和感や抵抗を感じたときこそ、そう思わせる自分の価値観(思い込み)を知り、よりよい方向に軌道修正するチャンスなのです。





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