赤ちゃん

TEDの動画

赤ちゃんは語学の天才。でもどうやってマスターするのか?(TED)

今週のTEDは語学がテーマです。

タイトルは The linguistic genius of babies(赤ん坊の言語にかかわる非凡な才能)。邦題は「赤ちゃんは語学の天才」。

プレゼンターはパトリシア・クール(Patricia Kuhl)博士。

クールさんは、言語と聴覚科学(Speech and Hearing Sciences)の研究者で、ワシントン大学の学習と脳科学研究所(Institute for Learning & Brain Sciences)の共同ディレクター(co-director)です。



赤ちゃんは語学の天才:TEDの説明

Patricia Kuhl shares astonishing findings about how babies learn one language over another — by listening to the humans around them and “taking statistics” on the sounds they need to know.

Clever lab experiments (and brain scans) show how 6-month-old babies use sophisticated reasoning to understand their world.

パトリシア・クールは赤ん坊がほかの言語に優先して1つの言語を学ぶことについてびっくりするような発見をシェアします。

赤ちゃんは、自分の周囲にいる人の話す言葉を聞き、自分が知る必要のある言葉の「統計をとっている」のです。

研究所での実験と脳科学により、生後6ヶ月の赤ちゃんが、世界を高度に理解しているさまがわかります。

大人に比べると子どもは外国語を身につけるのが得意です。これは誰でも知っていることですね。

ですが、それはなぜなのでしょうか? 赤ちゃんはどんなふうに言葉を覚えていくのでしょうか?

この点について脳科学の研究結果を用いて説明しているプレゼンです。

内容はさほど難しくなく、赤ちゃんの映像に心がなごみます。

子どもに外国語を身につけさせたい親や、自分自身が語学を学びたい人の参考になるでしょう。

収録は2010年。プレゼンの長さは10分。日本語字幕があります。字幕なしや英語、その他の言語の字幕がよい方はプレイヤーで調節できます。

動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Patricia Kuhl: The linguistic genius of babies | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

言語の習得には臨界期がある

きょうは赤ちゃんの脳内でどんなことが起こっているのかお話します。

最新の脳科学のツールのおかげで、赤ちゃんの頭の中ではすごいことが起こっているとわかりました。

これはインドのお母さんの写真です。このお母さんはコロ語を話しています。最近発見された言語で、800人が話しています。

このお母さんは、自分たちの言葉を守るには、赤ん坊に話しかけなければならないと知っています。

なぜ、大人ではだめなのでしょうか? 

脳に関係があります。

言語の習得には臨界期(critical period)があるのです。

このグラフを見てください。

音を習得する年齢

横軸は年齢、グラフの中の線は第二言語を習得する能力を表しています。

7歳までの赤ん坊や子どもは天才的ですが、その後、少しつづ能力が低下します。思春期になると圏外です。

この学習曲線に異議を唱える科学者はいません。世界中の研究所で、なぜこうなるのか調べています。





赤ちゃんはどんな言語の音でも聞き分けられる

私の研究所では、発達における一番最初の臨界期を調べています。赤ん坊が自分の言語で使われている音を学ぶ時期です。

音がどんなふうに習得されるのか調べることで、言語のほかの要素、あるいは社会性や感情、認知の発達における臨界期のモデルを見つけられるのではないか、と考えています。

こんな実験をして、世界中で、その地域の言語の音を、赤ん坊がどんなふうに習得しているのか調べています。

親の膝の上に赤ん坊をのせ、「アー」から「イー」のように音が変わったら、赤ん坊が頭の向きを変えるように、トレーニングします。

うまくタイミングがあったら、横にある黒い箱が光り、箱からパンダの人形が出てきて太鼓をたたきます。6ヶ月の赤ん坊はこのタスクをとても喜んでやりますよ。

この実験から何がわかったか?

世界中の赤ちゃんは、世界市民(citizens of the world)と言えます。すべての言語の音を区別できるのです。

どの国でどんな言語を使って実験しても同じです。これはすごいことですね。大人はそんなことはできませんから。

大人は、文化に縛られた聞き手(culture-bound listeners)です。大人は母語の音を聞き分けることはできても、外国語の音は区別できません。

問題は、いつ世界市民から文化に縛られた聞き手に変わるのか、ということです。

その答えは、1歳になる前です。

赤ちゃんは音の統計をとっている

これは、東京とアメリカのシアトルの赤ちゃんを使って、さきほどの実験をした結果です。

“ra” と “la” という、英語では重要な音であるが、日本語ではそうではない音を聞き分けてもらいました。

生後6ヶ月から8ヶ月の赤ん坊の能力に差はありません。ところが2ヶ月たち10ヶ月になると、アメリカの赤ん坊はよく聞き分けるのに、日本の赤ん坊はだんだんできなくなっていきます。

両者とも、これから学ぶべき言語の準備をしているのです。

この2ヶ月のあいだに、いったい何が起こっているのでしょうか? この2ヶ月は音の習得に関する臨界期です。

この時期、2つのことが起こっています。

まず、赤ちゃんは周囲の人の話す言葉をきいて、統計をとっています。

アメリカのお母さんと日本のお母さんがどんなふうに話すのか例を見てみましょう。[動画が流れます]

赤ちゃんはまわりの人の言葉を聞きながら、聞いた音の統計をとっています。

時間がたつにつれて、分布が大きくなっていきます。赤ん坊はこの統計にとても敏感です。日本語と英語の統計はずいぶん違います。

英語ではRとLの音がたくさんありますが、日本語は違います。RとLの間にある「日本語のR」の音の分布が増えます。

母語の音の分布が増える

赤ちゃんはこの統計を取り込み、それが脳を変えるのです。こうして世界市民から文化に縛られた聞き手に変わります。

大人になると、もうこうした統計は吸収しません。大人は発達の初期段階に形作られた記憶の中にある構成分析を用いています。

年齢とともに、統計の分布が安定してくると、言語の習得能力が衰えるわけです。

未知の言語の統計セットを手に入れる赤ちゃん

では、バイリンガルの脳はどうなっているでしょうか?

バイリンガルは、2つの言語の統計セットをもっていて、話しかけられる言語によって、切り替えていると考えられます。

はたして赤ちゃんは、まったく未知の言語の統計を持つことができるのか? そんな疑問を持ちました。

そこで、第二言語を全く聞いたことのないアメリカの赤ん坊に、臨界期の初期の段階で、中国語(マンダリン)にふれさせる実験をしました。

台北とシアトルで、モノリンガル(1つの言語しかしゃべらない人)の赤ん坊を使ってテストしたところ、同じパターンを示しました。

6ヶ月から8ヶ月のときは、まったく違いがありません。2ヶ月後、台湾の赤ちゃんはマンダリンの音の聞き分け能力があがり、アメリカの赤ちゃんは下がります。

この時期にアメリカの赤ちゃんを中国語(マンダリン)にふれさせました。

マンダリンをしゃべる親戚が、この赤ちゃんの家に一ヶ月滞在するようなものです。赤ちゃんにマンダリンで12セッション、話しかけました。

実験はこんなふうに行いました。

[中国語を話す女性が赤ちゃんに話している動画が映し出されます]

さて、赤ちゃんの脳はどうなったでしょうか?

実験所に来たからマンダリンのスキルがあがったわけではないと実証するために、コントロールグループも設定しました。

ある赤ちゃんたちは実験所で英語を聞きました。

グラフからわかるように、英語を聞いた赤ちゃんのマンダリンの聞き分け能力はあがりませんでしたが、12セッションにわたってマンダリンにふれた赤ちゃんは、マンダリンの音を聞き分ける能力があがりました。

これは、10ヶ月と半月、マンダリンにさらされていた台北の赤ちゃんと同じくらいの能力です。

つまり、赤ん坊は、未知の言語の統計をとる、ということです。何語であろうとも、自分がふれた言語の統計をとるのです。

統計を取るには人間の存在が必要

次に、赤ちゃんが音を習得するプロセスで、人間がどんな役割を果たすのか、調べてみました。

別のグループの赤ちゃんに12セッション分のマンダリンにふれてもらいました。ただし、こちらはテレビを使いました。

もう1つのグループには、モニター上でテディベアを見せながら、音だけでマンダリンにふれさせました。

赤ちゃんの脳はどうなったでしょうか?

これがその結果です。

音だけ聞いていた赤ちゃんは何も学びませんでした。ビデオを見ていた赤ちゃんも同じで、何も学んでいません。

赤ちゃんがその言葉の統計をとるためには、人間が必要なのです。社会的な役割を制御する脳が、赤ちゃんがいつ統計をとるのかコントロールしているのです。

赤ちゃんがテレビの前にいるときと、本物の人間の前にいるときでは、いったい何が違うのか、脳内を見たくなりますね。

ありがたいことに、MEG(磁気を使って脳内や体内の写真をとる機械)という機械を使えばこれができます。この機械を使うと、高い精度で、思考の変化に応じて、磁場がどんなふうに変化するのか見ることができます。

私たちは世界ではじめて、赤ちゃんの脳が学習によってどう変わったかMEGマシーンを使って記録しました。

これは生後6ヶ月のエマちゃんです。いま、ヘッドフォンでさまざまな言語を聞いています。赤ちゃんは自由に動けます。

赤ちゃんが自分の言語の音を聴くと聴覚に関わる部分が光り、次に関連のある部分だと思われている箇所が反応します。

脳のある部分が別の部分とコーディネイトし、ある部分が別の部分の反応をうながしているのです。

いまや、子どもの脳の発達に関する知識の黄金時代に入ろうとしています。

子どもの脳の反応を見ることができるのです。

子どもが何かを感じているとき、話したり読んでいるとき、数学の問題を問いているとき、何かを思いついた時などの反応を。

学習が困難な子どもの脳に対して、何かできるかもしれません。子どもの脳を調べることで、人間であるとはどういうことなのか、わかるかもしれません。

そのプロセスで、私たち大人も、学びに対して、生涯をとおして心を開いていられるかもしれないのです。

///// 抄訳ここまで ////

単語の意味など

Koro  インドの北西部の少数民族が話す言語。今世紀に入ってから発見された言葉で、800人から1200人が話している、と考えられています。

critical period  臨界期
特定の能力を学習できる生後の限られた時期。

control group  コントロールグループ
実験の結果を検証するために、比較対象として設定されたグループ。

薬の効果を調べる実験なら、薬を飲んだ人たちと飲まなかった人たちが必要です。この場合、飲まなかった人たちがコントロールグループです。

この実験でいえば、マンダリンにさらされなかった赤ちゃんたちがコントロールグループです。

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このプレゼンで語られたことをまとめると、以下の5つになります。

1.赤ちゃんは周囲で話されている言葉の統計をとりながら、1つの言葉(母語)を使う脳にチューニングしている。

2.この統計をきっちりとれるのは生後10ヶ月ごろまで。

3.音の統計をとるためには、生身の人間の存在(社会的なかかわり)が必要。ビデオやCDだけでは赤ちゃんは統計をとらない。

4.大人は統計をとれないので、外国語にふれると、母語の体系を使って解釈する。つまり母語にない音は習得しない。

5.最新の機械を使って子どもの脳内の反応を調べることで、子どものさまざまな問題(学習困難など)を助けることができる。

まだ何もしゃべらず、つぶらな瞳で手足をばたつかさせている赤ちゃん。しかしその脳内では、自分が聞いている音のデータをどんどん集め、統計を出している、というわけですね。

生まれたての赤ちゃんの脳は細胞が新しいせいか高度なことをこなしています。

先週、子どもに高額の英語教材を与えるべきかどうかという質問をいただきました。

こちら⇒子どもの英語教材を買おうかどうか迷っています←質問の回答。

同じような悩みをお持ちの方は、今回の動画、参考になるのではないでしょうか?

ただ単にDVDを見せているだけでは、子どもは英語特有の音を学習しないのです。

そのような教材に大枚をはたくときは、それ以外の目的や理由をちゃんと自分で納得しているべきです。

もちろんこれはクールさんの研究所の研究結果であり、別の仮説や異論を持っている研究者もいるでしょう。2010年の動画なので、いまはもっと別のことがわかっているかもしれません。

ですが、子どもが音の統計をとっているとき、生身の人間が必要だ、というのは、当然といえば当然ですね。

人間が言語を話すのは、必ず、ほかの人と何かを一緒にやっていて、伝えたいことがあるというシチュエーションにおいてです。

そういうことをしないのであれば、別に言葉を音として学ぶ必要なんてないわけです。

人は1人では生きていけないので、言葉を使って他人とコミュニケーションを取ることは、生きるための基本的な行動といえます。

そこで、赤ちゃんの脳は、言葉においてもっとも大事な音のデータの統計をとっているのでしょう。

しかも、この統計とりは生後10ヶ月で終わります。

とても興味深いですね。

日本で、子どもを日本語と英語のバイリンガルにしたい、と本当に思うなら、生後10ヶ月になる前に、母親か父親がまともな英語(英語の音をもった英語)で毎日話しかけるか、英語ネイティブのナニー(乳母)に子どもをたくすのが第一歩でしょう。

********

私も英語のLとRの音の聞き分けは苦手です。音として聞き分けているというよりも、文脈から判断しています。

自分が発音するときは、かなり間違えます。

まあ、言語は音以外の要素もたくさんありますので、聞き分けられなくても、発音できなくても何とかなります。

先日の記事にも書きましたが、何とかコミュニケーションする力は、DVDを見せていても身につきません。

母国語でリアルな体験を積み重ねるほうが重要ではないでしょうか?





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