怒り顔

TEDの動画

最終更新日: 2019.05.20

怒るのは悪いことではない。怒りを生産的なことに向けよう(TED)

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怒ってばかりいる自分をなんとかしたい、すぐに怒る人がそばにいて迷惑している、怒る人の心理を知りたい、そんな人の参考になるTEDの動画を紹介します。

タイトルは The Upside of Anger(怒りのよいところ)。プレゼンターは怒りの研究者(anger researcher、アンガー・リサーチャー)のライアン・マーティン(Ryan Martin)さんです。

怒りはごく自然にわきあがってくる感情なので、無理に怒らないようにするのではなく、その感情を有意義な方向に活かしましょう、という内容です。



怒りのメリット:TEDの説明

Dr. Ryan Martin is the chair of the Psychology Department at the University of Wisconsin-Green Bay and a nationally known anger researcher. His work focuses on healthy and unhealthy expressions of anger, including how we express anger online. He teaches courses on mental illness, emotion, and anger and violence.

ライアン・マーティン博士は、ウイスコンシン大学グリーンベイ校の心理学部の教授で国中に知られたアンガー・リサーチャーです。

彼は、健全に、または不健全に表現される怒りを研究しています。人はインターネット上でどんなふうに怒りを表すか、といったことも含めて。

彼は、こころの病気、感情、怒り、暴力について教えています。

動画の長さは13分。英語字幕があります。日本語字幕はありませんが、抄訳を書きますので参考にしてください。

怒りの研究が私の仕事

友達からテキストメッセージをもらったと想像してください。

「信じられないことがあったよ。いま、すっごく頭に来ている」と書かれています。

何が起こったのか聞くと、相手はジム/職場/ゆうべのデートで起こったことを詳しく話します。

あなたは友達がどうしてそんなに怒っているのか理解しようとします。ひそかに、「そんなことで怒ることないのに」と友人をジャッジするかもしれません。何かアドバイスをするかもしれません。

こういうことを、私は毎日やっています。アンガー・リサーチャーですから。仕事でも、プライベートでも、なぜ人は怒るのか研究しているのです。

人が怒ったとき、何を考えているのか、何をするのか。ケンカするのか、物をこわすのか、インターネットで、すべて大文字でメッセージを書いて怒鳴るのか。





怒りは誰もが感じる感情

怒りの研究者だというと、たいていの人が、怒ったときの体験を話そうとします。べつにセラピストが必要だからではありません、まあそういう時もありますが、怒りは誰にでもある感情だからです。

生まれて数ヶ月もすれば、みな、怒りを感じます。欲しいものを手に入れられないと、叫んで抗議します。

「ガラガラを拾ってくれないって、どういうことなんだよ、パパ? それが欲しいんだ~~!」

10代でもそれは続き、死ぬまで変わりません。

怒りは、人生の最悪のときについてまわります。嘆き悲しんでいるときに自然に起こる感情です。

人生の最良のときにも怒りを感じるものです。結婚式や休暇中にも、悪天候やスケジュールの遅れなど、日常よくある問題に対して。その瞬間は怒っていますが、状況が好転すれば忘れます。

怒ることは力になる

多くの人は、怒りを問題だと感じています。

怒りは人生の邪魔をするもの、人間関係をこわすもの、恐ろしいもの。

そう思うのも当然ですが、私は、怒りについて別の見方をしています。

きょうは怒りについて、とても重要な話をします。すなわち

怒りは、人生における強力で健全な力である(Anger is a powerful and healthy force in your life)

これです。

怒りを感じるのはいいことであり、怒りを感じる必要があるのです。

なぜ人は怒るのか?

この点を理解するために、まず、なぜ人は怒りを感じるのか、お話しします。

1996年に、ジェリー・ディッフェンバッカー博士というアンガー・リサーチャーが発表した本に多く書かれています。

「問題のある怒りとの付き合い方」という章です。

ほとんどの人は、怒らせるもの(provocation)があるから怒ります。

「こんなのろのろ運転するなんて、すごく頭にくる」「また牛乳を出しっぱなしにしているから、頭に来た」

怒らせるものの正体を知るために、いろいろな人に、友人、同僚、家族も含めて、次の質問をしました。

「どんなことがあると、頭に来ますか?」

その答えは実にいろいろです。

自分のひいきのチームが負けた、誰かが、チューインガムをくちゃくちゃうるさくかんでいる

人がゆっくり歩きすぎている、ロータリーにいるとき。

ごくささいなことが原因のときもあれば、人種差別、性差別、いじめ、環境破壊など、社会的な問題が原因のときもあります。

ものすごく具体的な状況のせいで怒る人もいます。公衆トイレのカウンターに、うっかり、もたれかかったとき、シャツに濡れた線ができたとき、とか。

USBメモリもそうです。差し込み方は2種類しかないのに、なぜ、いつも、3回試さないと差し込めないんだ、なんて。

理由が小さかろうが、大きかろうが、一般的であろうが、具体的であろうが、共通点を見つけることができます。

こんなときに人は怒る

人はこんなときに怒ります。

- 不快に感じたとき(Unpleasant)

- 不当だと感じたとき(Unfair)

- ゴールに向かう途中で障害が生じたとき(Goals Blocked)

- 避けられるはずだったのに避けられなかったとき (Avoidable)

- 無力感を味合わされたとき (Powerless)

これが怒りのレシピです。

こういうとき、人が感じるのは怒りだけではありません。恐れや悲しみ、その他の感情も感じています。

実は、こういう「怒らせるもの」が人を怒らせているわけではありません。少なくともそれだけが原因で怒るのではないのです。

もしそうなら、誰もが同じことに対して怒るはずですから。しかし実際は違います。

私が怒る理由は、みなさんのそれとは違います。

ほかの要素もあるのです。

怒る前の状態も関係がある

怒らせることが起きたその瞬間、感じていること、やっていることが影響します。

これを、pre-anger state(怒る前の状態)と呼んでいます。

おなかがすいている、疲れている、心配ごとがある、急いでいる。

こういう気持ちでいるとき、「怒らせるもの」に出会うと、より強力に感じられます。

重要なのは起きたことに対する評価

しかし、もっとも重要なのは、「怒らせるもの」でも、「起こる前の状態」でもありません。

その「怒らせるもの」をどう解釈するか(appraisal)、人生においてどう意味づけるかで怒るかどうかが決まります。

何かが起きたとき、人はまず、こんなことを決めます。

それはいいことか悪いことか、公平なことか、不公平なことか、非難に値することか、罰するべきことか。

最初に、これは自分の人生において、どんな意味があるのか、評価するのです。

その後、それがどのぐらいひどいのか、判断します。これは2番めにおこなわれる評価です。

これまでに起きた最悪のできごとか、それとも、なんとかできるのか?

最初の評価

例をあげましょう。

車を運転しているとします。人は運転中に、とてもよく怒ります。

運転中、あらゆることに遭遇します。交通状況、ほかのドライバー、道路工事。目的地に向かうのを邪魔されている気がします。

道路には、ルールブックに書かれているルールと書かれていないルールがあります。自分の目の前で、そうしたルールがしょっちゅう破られています。たいてい、重大なことは起きずに。

ルールを破っている人たちは誰でしょうか?

不特定多数の人たちです。もう2度と会うことはない人たち。そういう人たちは、ごく簡単に、あなたの怒りのターゲットになります。

怒るたねには困らない運転中に、目の前のドライバーが、制限速度よりずいぶん遅く運転しています。

イライラします。なぜなら、その人たちが、そんなにゆっくり運転している理由がわからないからです。

これが最初の評価です。

「これはひどい、非難するに値する」と思うのです。

その後、「とくに問題ではない」と判断するかもしれません。別に急いでないし、めくじらたてるほどのことはない、と。

これが2番めにする評価です。

すると怒りは感じません。

怒りを引き起こす認知のゆがみ

こんどは、仕事の面接に行く途中だと想像してください。目の前のドライバーがやっていることは何も変わりません。

だから最初の評価は変わりません。「ひどい、非難に値する」のままです。

しかし、この状況を処理するみなさんの能力は変わっています。

破局化(catastrophizing)

面接に遅れるかもしれません。夢見ていた仕事につけないのです。がっぽりお金を稼げるはずの仕事に。

誰か別の人がこの仕事につき、自分はお金がなくなります。貧乏すぎて、実家に戻るはめになります。

なぜ?

目の前のドライバーが、いや、こいつは人ではない、怪物だ。この怪物が、ここで私の人生を破滅させようとしているんだ。

こうした思考は、破局化(catastrophizing)と呼ばれます。最悪の事態になると思い込むことです。

慢性的に怒りを感じている人の典型的な思考の1つです。

ほかの思い込みもあります。

原因を誤解すること(misattributing causation)

怒っている人は、その原因に関係ないものに怒りをぶつけます。人間だけではありません。物に怒ることもあります。

ばかばかしく聞こえるかもしれませんが、車のキーが見つからなかったときのことを考えればわかります。

「車のキーは、どこに行ったんだ?」と言うでしょう。車のキーが自分でどこかに逃げていったと思っているから。

極端な一般化(overgeneralizing)

「いつも」「決して」「毎回」という言葉を使って、極端な一般化をします。

「いつもこうなんだ」「絶対自分の欲しいものは手に入らない」「きょう出会う信号、すべてが赤信号だ」。

わがまま(demandingness)

他人のニーズより、自分のニーズを優先させることもします。

「こいつらが、こんなにゆっくり運転する理由なんて知ったことじゃない。もっとスピードをあげろ。そうすれば、仕事の面接に間に合うから」。

「道をあけろ、そうすれば、面接に間に合うから」。

扇動的なラベリング(inflammatory labeling)

人を馬鹿、愚か者、モンスターと呼びます。ほかにも、TEDトークでは言えない数々のひどい言葉を聞いてきました。

長い間、心理学者は、こうした認知のゆがみ(cognitive distortions)や、理にかなっていない信念をあげてきました。

怒るのが正しいときもある

怒るのが、理にかなっているときもあります。

この世界は不公平にできていますから。残酷で、自分勝手な人々がいます。

誰かに悪く扱われたとき、怒っても問題ない、というよりも、そういうときは怒るのが正しいのです。

このトークで、1つだけ覚えていてほしいことがあります。

つまり、

怒りは、感情の1つとして存在しています。それは、自分の先祖たちに、人間も人間でないものもふくめて、進化上、自分を優位にさせてくれるもの(evolutional advantage)として、与えられたからです。

恐怖が危険を知らせてくれるように、怒りは、不当なことがあると教えてくれます。

怒りは、脳が自分に、「もうたくさんだ」と知らせる1つの方法なのです。さらに、怒りは、不当なことに立ち向かう力も与えてくれます。

怒ったときの身体的な反応

最後に怒ったときのことを思い出してください。心拍数があがり、呼吸は荒くなり、汗が出たでしょう。

これは交感神経の反応です。戦うか逃げるか反応とも呼ばれます。立ち向かうのに必要なエネルギーを与えてくれます。

同時に、消化はゆっくりになり、エネルギーをセーブします。だから口の中が乾きます。血管は広がり、手足の先まで血が流れ、顔が赤くなります。

こうした、生理上の複雑な反応パターンが、今も残っているのは、これが、きびしい自然と戦わざるを得なかった先祖を助けてきたからです。

昔の人は、怒りを処理するとき、肉体的に戦いましたが、今はそんなことはできません。怒るたびにゴルフスイングを振り回すべきではないですね。

人は感情を制御できる

ですが、いいニュースもあります。私たちは、まだ人間ではなかった先祖ができなかったことができます。

感情をうまく制御できるのです(regulate)。

相手を攻撃したいと思っても、自分を止めることができます。その怒りをもっと生産的なことに向けることができます。

怒りについて語るとき、怒らない方法がよく取り沙汰されます。

気持ちを落ち着けたり、リラックスしたりする方法。怒らないで流しなさい、とか。

怒りは悪いもので、感じるのはよくない、という考え方です。

怒りを生産的なことに向ける

しかし、私は、怒りをモチベーターと考えたいのです。

のどが乾いたら、水を取りに行くように、おなかがすいたら、何かを食べるように、怒りを感じたら、不当なことに反応するのです。

怒る対象はいくらでもあります。怒る価値のないことも多いのですが、人種差別、性差別、いじめ、環境破壊は、実際にあり、ひどい状況です。

こうした問題を修復する唯一の方法は、まずそれに怒りを感じること、そして、その怒りをベースに戦うことです。

攻撃や敵対心、暴力を使って戦う必要はありません。怒りを表す方法はほかにもあります。

抗議したり、編集者に手紙を書いたり、寄付したり、ボランティアしたり。芸術作品や文学、詩、音楽を作り出すこともできます。

コミュニティをつくって、お互いをいたわりあい、残酷な状況が起きないようにすることもできます。

今度怒りを感じたら、抑え込むのではなく、その怒りが自分に何を教えているのか、耳を傾けてください。そして、その怒りを何か前向きで生産的なことに向けてください。

//// 抄訳ここまで ////

単語の意味

mar   損なう、台無しにする

roundabouts  環状交差点、ロータリー

flash drive  USBメモリ

appraisal  評価

wrath   激怒

teed up - tee up  準備をする、手配する

destitute  極貧の
 
evolutionary advantage ほかの人(動物)よりも、自分を有利にさせてくれるもの

extremities  先端、手足

lash out  暴力/言葉で攻撃する

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物を捨てない夫に怒りを感じたら

ものごとが自分の思い通りにいかないせいで、悩んでいる人からよくメールをもらいます。

よくあるのは、

◯夫が物をたくさん買う、散らかす、ためこむ

◯友達/家族がいらない物を押し付ける

◯職場/近所にこういう人がいて迷惑だ、ストレスだ

◯職場/近所でこういうことがあっていやだ、ストレスだ

こんな感じです。

メールをもらうたびに、返事を書いています。

しかし、1本のメールだけでは状況がよくわからないし、本人が見落としていることもあるだろうし(客観的に書かれていない、それこそ認知のゆがみそのもののメールである可能性あり)、あまり有益なアドバイスはできないなあ、と思っていました。

どのみち、本人にしか解決できませんし。

最近は、ものの見方や、感情との付き合い方を変えるとうまくいくかもしれない、と考えています。

その人の現実はその人の頭が作り上げていることですから。

「夫が物をためこむ、散らかす、きーーーーっ!」と怒りにかられたときは、マーティンさんの言っている、二段階の評価を思い出してください。

評価を変えることで、怒らなくてすむようになるかもしれないし、しっかり怒るべきことであるなら、その怒りを健全な形で表し、建設的なことをすればいいのです。

まあ、そんなに簡単にはできないでしょうが、こういうことを意識するのは、結局は自分のためです。

お金も時間もかからないので、お試しください。

****

私の娘も、運転中、前の車が遅いとよく怒っています。

無理に割り込まれたときも怒っているし、パーキングで、自分が入れようと思っていたところを取られそうになると、「ちょっと、何? 私、先に待ってたんだからね。絶対入れさせん!」と怒っています。

相手は2度と会うことのない人だから(自分は匿名だから)、怒っているんですね。知っている人が相手だったら、ここまで怒らないでしょう。

人間っておもしろいですね。





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