何かを思い出している女性

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脳はいつも正しいとは限らない:記憶と知覚のゆがみ(TED)

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感情に振り回されず、ものごとに冷静に対処したい人におすすめのトークを紹介します。

タイトルは、Can you trust what your brain is telling you? (脳があなたに言うことを信じられるか?)

スピーカーは、名門私立女子校で脳の仕組みを学ぶ高校生、Tara Cameron(タラ・キャメロン)さん。

記憶や現実のとらえ方が、意外とあてにならないことを教えてくれます。

記憶はあてになるのか?

収録は2025年7月、動画の長さは7分47秒。動画のあとに抄訳を書きます。

◆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

キャメロンさんは、ちょっと緊張しているみたいで早口ですが、有益な情報を伝えてくれています。





記憶は事実の記録ではない

これまでの人生で、「あの場面をはっきり覚えている」と思う出来事はありますか?

誰がいて、どんな状況だったか、時間まで思い出せる。そんな記憶です。

ところが調べてみると、その出来事は実際には起きていなかったり、まったく違う形で起きていたりします。

実は、脳はしょっちゅう私たちにウソをついています。

このトークでは、見たものや感じたものと、脳が覚えていることがずれること、そして、他人や環境、自分自身によって記憶がどのようにゆがめられてしまうのかお話します。

外的な影響:言葉が記憶を変える

まず、外部の影響から見てみましょう。

心理学者エリザベス・ロフタスとジョン・パーマーが行った有名な実験があります。

被験者全員に、同じ交通事故の映像を見せたあと質問をしました。

ただし質問の仕方が少しずつ違います。

ある人には、「車がぶつかった(hit)ときの速度は?」とたずね、別の人には「車が激突した(smashed)ときの速度は?」と聞きました。

そのほかにも「接触した(contacted)」「衝突した(collided)」など、動詞を変えました。

結果は驚くべきものでした。

質問の中にあるたった1語が、記憶の内容を変えてしまったのです。

「smashed(激突)」という言葉で聞かれた人の多くは、実際には映像には存在しなかったガラスの破片を見たと報告しました。

つまり、記憶は記録ではなく、再構成されるもの。外からの刺激でいくらでも変わります。

日常で起こる記憶の書き換え

この現象は普段の生活でもよく起こります。

たとえば会議に出席し、その内容をよく覚えていると思っていたとします。

ところが翌朝、同僚から「昨日こんなことを言っていたよね」と言われると、自分の記憶に自信がなくなり、同僚の話を信じてしまいます。

その後、別の人から「会議で何が話されたの?」と聞かれたとき、知らず知らずのうちに、他人から聞いた誤った記憶を自分のものとして語ってしまうのです。

時間が経てば経つほど自分の記憶が信頼できなくなり、他人の情報に上書きされやすくなります。

誰かが何度も自信たっぷりに話すと、脳はそれを事実だと思ってしまうのです。

集団の思い込み:マンデラ効果

マンデラ効果は、記憶の再構成が大規模に起こる現象のことです。つまり、たくさんの人が、誤った記憶を共有します。

たとえば、「ネルソン・マンデラは1980年代に獄中で亡くなった」と信じていた人が世界中にいました。

しかし実際には、彼は2013年に南アフリカで亡くなっています。

また、ポケモンのピカチュウのしっぽに黒い模様があると記憶している人もたくさんいますが、実際にはありません。

モノポリーのイラストのおじさんが片眼鏡をしていると思い込む人もいますが、それも存在しません。

さらに「泥棒の絵文字(黒白ボーダー服、マスク、袋を持つ男)」を見たことがあると感じる人がいますが、そんな絵文字はAppleにも存在しません。

脳が映画や本などのイメージを組み合わせて架空の記憶を作り出すのです。

脳は理屈で補う

脳は論理的な整合性を保つために、足りない部分を補います。

おサルのジョージ(Curious George)にはしっぽがありません。しかし「サルにはしっぽがあるはず」と脳が判断し、勝手にあると思い込みます。

このように、すでにある知識やパターンの認識が記憶を書き換えます。

多くの人が同じ間違った記憶をもつと、それが真実のように感じられます。

脳にとって、多数派の記憶は、事実よりも信頼できる情報だからです。

現実をゆがんで見る

誤って記憶するだけでなく、今見ている現実もゆがめて解釈します。

誰でも一度は見たことがある錯視(optical illusion)がそのいい例です。

たとえばニーノの格子と呼ばれる図では、白い格子が交差する場所に黒い点が見えますが、実際には存在しません。

脳が複雑なパターンを理解しやすくするため、そこにあるはずのものを補って見せるのです。

これは網膜の側抑制(そくよくせい lateral inhibition)によって起こります。

光を受けた視細胞が周囲の細胞の活動を抑制するため、脳が全体像を文脈から再構築するのです。

人によって色が違うドレス

2015年に話題になった「青と黒、白と金のドレス」も、同じ現象です。

同じ画像を見ても、明るい環境に慣れた目は白と金に、屋内の光に慣れた目は青と黒に感じる傾向があります。

脳は一瞬で、それが影の中か、明るい場所かを判断し、不要な色を無意識に補正します。

つまり、見ている色は客観的な事実ではなく、脳が生成した解釈なのです。

脳の内側で起きる現実の再構成

ここまで外的な要因を説明しましたが、ゆがみは脳の内部でも起こります。

神経科学者ロジャー・スペリーの実験によれば、てんかん患者の治療のために脳梁(のうりょう、左右の脳をつなぐ部分)を切断すると、右脳と左脳が情報を共有できなくなります。

右目(左脳)に映像を見せると、それを言葉で説明できますが、絵としては描けません。左目(右脳)に見せると、絵は描けますが、言葉で説明できません。

それぞれの脳半球が異なる現実を見ているのです。

通常は両半球の情報が統合されるので、私たちは一つの現実を見ているように感じます。

しかし実際には、脳が複数の断片をつなぎ合わせて一貫した物語を作っているにすぎません。

私たちは世界を作っている

つまり、私たちの脳は世界をそのまま記録する機械ではなく、意味を生成する装置なのです。

神経科学者アニル・セスはこう語っています。

「私たちは世界を受け身で知覚しているのではない。能動的につくり出しているのだ。」

次に何かを思い出したとき、それが本当に起きたことなのか、それとも脳がつくり出した物語なのか、立ち止まって考えてみてください。

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脳が作る物語をうまく利用する

「あの時の失敗」「子どもの頃の楽しい思い出」。私たちは、自分の過去の記憶を、動かぬ事実だと信じているかもしれません。

でも、今回のトークで語られていたように、記憶は事実をそのまま保存したデータではなく、脳が過去の情報や後から得た知識、そのとき考えたことをもとに再構築している物語です。

具体的にはこんなことが起こっています。

・美化と整合性: 辛かった過去を、今の自分に合わせて「あれは私を成長させた試練だった」と、自動的にポジティブな物語に書き換えます。

・情報の穴埋め: 思い出せない部分があっても、脳は「普通ならこうするだろう」という常識で隙間を埋めて、自分なりに筋のとおったストーリーにします。

・周囲の影響による上書き: 過去のできごとについて友人や家族と話をしているうちに、人から聞いたエピソードが、まるで自分が体験したことのように記憶に上書きされてしまうことがあります。

つまり、私たちが事実だと信じている記憶の多くは、今の自分にとって都合のいい物語と言えるのではないでしょうか?

そう考えると、「思い出の品」にこだわらなくてもいいような気がします。

ものがあってもなくても、人はそのときの自分の都合のいいように、頭の中で記憶を再構成するからです。

記憶があてにならないことは、ポジティブに働くこともあります。

たとえば、辛い記憶や過去の失敗を「変えられない事実」として抱え込まなくてもよくなります。

自分が、「その記憶をこんなふうに編集したい」と決めれば、少しずつ変えていけます。

対人関係のストレスをやわらげることにも役立ちます。

同じできごとについて、話が食い違ったとき、「お互いの脳が違う物語を作っているだけだ」と冷静に受け止められます。

相手を嘘つきだと思わなくてすむし、自分の記憶力に問題があると卑下する必要もありません。

記憶があてにならないと知っていれば、何事にも謙虚に向き合えます。

自分の見方を絶対視せず、ものごとをより冷静に、柔軟に受け止められるようになるでしょう。





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