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なぜ人間は、ここまで物に執着してしまうのか? ということを近頃、よく考えています。
思い出の品物を捨てられない、あきらめきれない、とせつせつと訴えるメールをよくもらうからです。
今回は、単なる物にここまで執着する理由と、どうやったら、もう少し物と健全な関係を持てるか、考えてみました。
人がこれほどまでに物に執着する理由
人間が自分の物に執着する理由を、科学的に説明しているTED-EDの動画を紹介します。
あとで、抄訳を書きますが、4分足らずですし、日本語の字幕もあるのでよろしければごらんください。
■なぜ人は、こんなに物に執着するのか? クリスチャン・ジャレット(Why are we so attached to our things? – Christian Jarrett)
以下、抄訳です。
所有意識の芽生えはとても早い
児童心理学者の父、ジャン・ピアジェは、物を所有している感覚(所有意識)は、ずいぶん幼いときに生まれることを発見しました。
なぜ、私たちは、こんなに物に執着するのでしょう?
授かり効果
心理学では、授かり効果(endowment effect)という理論がよく知られています。
何かを所有すると、その瞬間から、その物に、より価値がある、と考えるのです。
この理論の裏付けとして、マグカップとチョコレートの実験が有名です。リサーチに協力したお礼として、学生はマグかチョコをもらいます。
チョコかマグか選べるグループ
このグループの学生は、マグカップかチョコレートのどちらかを選ぶことができました。
半分はマグを選び、もう半分はチョコレートを選びました。
つまり、彼らは、それぞれを同じぐらいの価値があるものと捉えていたことになります。
マグを先にもらったグループ
別の学生は、先にマグをもらい、チョコレートと交換するかと聞かれました。チョコレートに交換したいと言ったのは11%のみでした。
チョコレートを先にもらったグループ
べつのグループは、まず、チョコレートをもらいました。ほとんどの学生が、マグと交換するより、チョコレートをキープすることを望みました。
マグをもらった学生も、チョコをもらった学生も、自分が最初にもらった物に、より価値を見出していたのです。
人間は所有した物とつながりを持つ
この現象は、人間がずいぶん早い段階から、自分と、自分の物だと感じたものとのあいだにつながりを形成することに関係があります。
脳神経の反応でも、同様の現象がおきます。
脳神経学者は、被験者に、いろいろな物を、「私のもの」と書いたバスケットか、「アレックス」(他人の名前)が書かれたバスケットに入れるところを見せ、脳の反応を調べました。
自分の名前の書かれたバスケットに、物が入るたびに、被験者の脳は活性化しました。
自分自身について考えるときに反応する部分が活性化したのです。
所有した物は、独自の本質的要素を持つ
私たちは、小さなころから、所有した物には、ユニークな本質(unique essence)があると信じています。これが、物を所有するのが大好きなもう1つの理由です。
心理学者は、3才~6才の子供を使った実験でこれを証明しました。
子どもたちに、物をコピーできる機械があると信じ込ませます。次に、そのコピー機を使って、子供の好きなおもちゃをコピーして、瓜二つの物を作ります。
どちらがいいか聞いたところ、ほとんどの子供は、オリジナルの方を選びました。
コピーを家に持ち帰ることに恐怖を感じる子供もたくさんいました。
大人になっても変わらない
物に対するこうした気持ちは大人になっても変わりません。より複雑になるだけです。
たとえば、人は有名人が所有していたものに、とても大きな価値を見い出します。もとの持ち主のエッセンスが、その物にある、と感じてしまうのです。
同じ理由から、多くの人は、形見の品を手放そうとしません。こうした物は、いまは亡き愛する人たちとのつながりを感じさせるのです。
こう思うことは、現実の見方を変え、運動能力にまで影響を与えます。
「ベン・カーティス(有名なプロゴルファー)が持っていたゴルフクラブだよ」と、クラブを渡された被験者は、そう言われていない被験者に比べて、ホールを1センチ大きく感じ、そのホールに、よりボールを入れることができたのです。
所有意識に対する文化の影響
授かり効果がない人々
所有意識は、ずいぶん早く生まれますが、文化的な違いがあります。
近代的な文化から孤立している、北部タンザニアのハッザ族には、授かり効果が見られません。平等な社会に生きていて、ほとんどの物は共有されているからでしょう。
強迫的にためこむ人々
逆に、極端なまでに物に執着してしまう例もあります。
強迫的ホーディング(hoarding disorder)は、自分が所有している物に対する、強い責任と保護意識の表れです。
その結果、どんな物を捨てるのも、ひじょうに困難です。
人と物の関係は変わるか?
今後、人と所有物の関係の本質が、デジタルテクノロジーの到来で変わるかもしれません。
物理的な本や音楽はなくなる、と多くの人は予測しましたが、まだその時期は来ていません。
実際に、物を自分の手に持って、それを「自分の物」だと呼ぶことには、何事にも変えられない満足感があるのでしょう。
/// 抄訳ここまで ////
授かり効果については、以前、記事を書いています。
⇒物を捨てられないのは恐怖のせい~損失回避と、授かり効果の心理をさぐる
⇒授かり効果のせいで捨てられない物を捨てられるようになる考え方
強迫的ホーディングの説明はこちらです。
⇒物をためこむ母親にスッキリ断捨離してもらう方法。実録・親の家を片付ける番外編
所有した物は自分の一部になる
動画で言われていることを一言で書くと、
物を所有してしまうと、それは、あたかも自分の一部になり、自分のアイデンティティを表すものになる。それは自分なのだから、そう簡単には手放さない、
こうなると思います。
その所有意識は、ごく幼いときに芽生えます。
幼い子どもはまだ社会構造がわかっていないし、社会的なプレッシャーもいっさい感じていません。
人にかっこよく思われたいから、または仲間だと思われたいから、最新のガジェットを買う、これは僕の物だよ、という気持ちはないのです。
それなのに、「自分の物」に強い執着を示します。
しかも、その気持は、実際にお金を払って、物を購入し、自分の物にしなくても、「あ、これは自分の物だ」と思っただけで、生まれるのです。
マグとチョコレートの実験で興味深いのは、この2つとも、たまたまもらった物であるということです。
どうしてもほしいから、3年間必死に働いて貯金してようやく買った、という物ではありません。たまたまラッキーでもらった、値段も高くないちょっとした物です。
おまけみたいなものです。
それなのに、もらったその瞬間につながりを感じます。
人は本能的に、所有した物(所有したと思った物)と特別なつがりを感じるため、現代のように、やたらと物を所有する機会が多い社会では、所有してしまった物がどんどん家の中にたまっていくのです。
それを捨てるのは自分の一部を捨てるようなものなのですから。たとえ、それが、無料のサンプルでも、おまけでもらった物でも。
物と健全な関係を持つには?
物と気持ちのつながりを持ち、なかなか捨てない人間たちが、積極的に物を捨てる時があります。
たとえば、引越し、中学から高校にあがる春休み、仕事を変わったとき、など。
いずれも、新しい環境に向かうときです。
引越しに関しては、物理的に大変だから、物を捨てる、という面もあるかもしれません。けれども、新生活を始めるから、という気持ちがあるからこそ、捨てる手に加速がつきます。
つまり、新しい生活をしよう、前に進もう、という気持ちがあれば、捨てられるのです。
過去の遺物に強い執着を示し、「あれもこれも、捨てたいけど、捨てられない」と苦しむ人は、前に進む気持ちがないか、前に進むことをあまり重要視していないのではないでしょうか?
私は、どちらかというと物に執着しないほうです。
以前も何回か紹介していますが、ガンジーのこの言葉が好きです。
毎晩眠るとき、私は死ぬ。そして翌朝、目覚めるとき生まれ変わる。
毎日変わっていく、という考え方が好きなのです。
だから、さほど物に執着しないのだと思います。
たくさん物があるのに、捨てられない人は、前に進むことに意識を向けてはどうでしょうか?