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おもちゃにおけるジェンダーマーケティングの問題を指摘するTEDの動画を紹介します。
ジェンダーマーケティングとは、女性向け、男性向けと銘打って商品を売り出すことです。
アメリカのおもちゃ売り場は、女の子はピンク、男の子はブルーとかなり明確に分けられているようです。
おもちゃの色をピンクと青に分けるのはなぜ?
プレゼンターは社会学者のエリザベス・スイートさん。タイトルは、Beyond the Blue and Pink Toy Divide(おもちゃをピンクとブルーにわけるのを超越するために)
収録は2015年の10月。プレゼンの長さは16分49秒。日本語字幕はありませんので詳しめに抄訳をつけます。
※TEDの説明はこちらをどうぞ⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ピンクの棚とブルーの棚
最近のおもちゃ売り場の多くは、リアル店舗もネットショップも性別によってしっかり分けられています。
違う棚で売られていたり、「女の子向け」「男の向け」という表示があります。
一番多いのは色を使った分け方です。ピンクの棚とブルーの棚です。
スライドの写真は私が地元のターゲット(店の名前)で4月に撮影したものです。
ターゲットはこの8月に、棚をピンクとブルーに分けることをやめ、性別の違いを強調しない陳列をする、と発表しました。
私のような人たちは、この発表を聞いて喜びましたが、ターゲットのフェイスブックページは多くの反対意見であふれました。
「性別の違いがなくなってしまう」と言う人もいれば、「子供たちがどのおもちゃがいいのか選べなくなる」なんて意見があったのです。
4月にとった写真と、陳列の仕方が変わったあとの写真を見比べてください。
確かにピンクの棚のピンク度は下がりましたが、相変わらずピンクです。
というのも、陳列の仕方だけでなく、おもちゃそのものに、性別の違いを意識させるものがあるからです。
女の子向けのおもちゃは、美しさ(beauty)、育てること(nurturing)、家庭的であること(domesticity)にフォーカスしています。
男の子向けのおもちゃは、活動的なこと(action)、攻撃的なこと(aggressopm)、エキサイティングなこと(excitement)が大事にされています。
おもちゃ売り場が変わってしまった
おもちゃがピンクとブルーに分けられていると気づいたのは、2002年に娘が生まれて、クリスマスの買い物をしていたときです。
自分が子供ときのおもちゃ売り場とずいぶん違うと感じたのです。
私は1970年代前半の生まれです。
子供のときはリンカーンログやティンカートイ、レゴ(すべて組み立てるおもちゃ)で遊んでいました。こうしたおもちゃが「男の子のおもちゃだ」なんて考えたことはありません。
単に子供のおもちゃだと思っていました。
特にフィッシャープライスのリトル・ピープルが好きでお城のセットを持っていました。
やはりこのおもちゃが性別に関係あるなんて考えませんでした。
実際、当時の広告を見ると、子供たち全員にマーケティングされています。
ただこれは私の個人的な体験なので、もっとしっかりリサーチすることにしました。
今のおもちゃは男の子向け、女の子向けをしっかり強調
20世紀のシアーズのカタログから7000以上のおもちゃの広告を集め、時代ごとに分析。子供相手のジェンダーマーケティングがどんなふうに変わってきたのか、なぜ変わったのか調べました。
リサーチからわかったことは、今のおもちゃは、20世紀のどの時代よりも、男の子向け、女の子向けとしっかり分けられている、ということです。
こんなに性別の違いを強調していた時代はなかったのです。
もちろん、昔のおもちゃにも、男の子向け、女の子向けという考え方はありました。
1922年のエレクターセット(組み立てるおもちゃ)の広告には、Boys Today — Men Tomorrow!(きょうは男の子、明日は大人の男)というコピーがあります。
1964年の雑誌の広告には、おままごとのおもちゃに囲まれた女の子が写っています。
それでも20世紀のおもちゃの半分は、対象とする性別関係なく作られ、売られていました。
1915年の人形の広告は、「小さな子供向け」とあります。
以前はこうだったのに、今は、女の子はピンクのおもちゃ、と分けられています。これは子供たちにどんな影響を及ぼしているのでしょうか?
自分の好きなおもちゃを選べない子供たち
子供たちに与える影響の例として、娘の話をします。
おもちゃの話ではありません。ランチボックス(弁当箱)です。
娘が幼稚園に入る1週間前、いっしょに備品の買い物に出かけ、ランチボックス売り場に行きました。
娘はピンクが好きじゃないのでキラキラしたプリンセスのお弁当箱は却下。とはいえスーパーヒーローがついた赤、黒、ブルー系の弁当箱も嫌です。
するともうあまり選択肢がないのですが、娘はうすい緑色のランチボックスを見つけました。
怪獣がモチーフのランチボックスでしっぽにベルクロがついていて開け閉めできます。開くと怪獣の形になりいい感じです。
娘はこの弁当箱をひと目で気に入り、「これ、これにする」と手にとりました。娘はすでに文字が読めました。
だから、弁当箱についているタグに「男の子のランチボックス」とあるのに気づいたのです。
娘の目に疑いの色が見え、「やっぱりいらない」と言い出しました。
私は娘に説明しました。
男の子だけが怪獣のついたランチボックスを使っていいなんて、馬鹿げた考えだ、と。
男の子じゃないと怪獣のおもちゃで遊べないの?怪獣の半分は雌でしょう?
誰かが勝手に怪獣のついたランチボックスは男の子向けだと決めただけ。それに従うなんてナンセンスよ、と話しました。
娘は納得しこのランチボックスを買いましたが、疑いの気持ちは消えていませんでした。
娘はこれを幼稚園に持っていきました。
ですが、その後も、娘が怪獣のランチボックスを好きでいてもいいのだと、何度も言わなければなりませんでした。
弁当箱の件はその後の経験を象徴するできごとでした。
おもちゃ、靴、服、何を選ぶときも「男の子向け」と書いてあると、本当に好きなものを選べないのです。
他の子にからかわれるかもしれない、と思うからです。実際、「男の子向け」の商品を好んだことが原因でからかわれることが増えていきました。
自分らしさを貫くと社会的に制裁される
私の娘に限ったことではありません。
子供たちはみんな、ピンクとブルーの色分けのせいで、自分自身であることを、部分的にせよ、あきらめなければなりません。
そうしない子供たちは、社会的な代償を払うのです。
2014年、11歳のマイケル・モロネスは「女の子向けのおもちゃ」、マイリトルポニーが大好きだったので、ほかの子供たちにいじめられていました。
そのいじめに耐えられず、マイケルは自殺を図りました。
マイケルだけじゃありません。
毎日たくさんの子供たちが、いじめられたり、からかわれたり、ときには暴力を受けています。
「自分の性別向けのものではない物」を気に入ったから、というだけの理由で。
こんなことは起きるべきではないし、愚かなことです。
おもちゃのジェンダーマーケティングの罪
子供むけのジェンダーマーケティングは、子供たちに無用の痛みをもたらすだけでなく、社会的に大きな影響があります。
おもちゃに植え付けられた性別に関する固定観念が、社会の不平等につながっています。
職種の選択や、給与の違いなど。
性別に対してレッテルを貼られると、その人のパフォーマンスが落ちることがわかっています。
自信や行動、熱意にも影響を及ぼします。
たとえ、本人がそうした固定観念を信じていなくても、周囲がそう考えているとわかれば、影響を受けてしまうのです。
子供のおもちゃで行われているジェンダーマーケティングは大きな問題をはらんでいます。
その問題を説明するために、オリビアという架空の女の子について考えてみましょう。
オリビアは4歳の女の子。ママと公園に行って虫を見たり集めるのが好きです。
きらきらした服が好きです。電車を見るのも好きです。ぬいぐるみのために、ご飯を作ってあげるのも好きです。
オリビアがピンクとブルーに分けられたおもちゃ売り場に行ったらどう思うでしょうか?
これは好きでもいいけど、これはやめといたほうがいい、と感じるのではないでしょうか?
もちろんオリビアは虫取りセットや電車のおもちゃを探しにブルーの棚に行くこともできます。私の娘がそうしたように。
ですが、私の娘の弁当箱の件でお話したように、別の性別向けの棚に行くと、疑いの気持ちが生まれるのです。
ほとんどの科学の実験のおもちゃや組み立てるおもちゃは、ブルーの棚や男の子用の棚にあります。科学や技術、数学の分野に進む女性が少ないのも無理はないでしょう。
まだ幼いときに、そうしたものは男の子のものなんだ、と教えられるのですから。
保育や人を世話する仕事をする男性が少ないのもわかります。それは女の子のすることで、男の子のすることではない、と教えられますから。
女の子向け、男の子向けと決めつけるのをやめるために
1990年代に、おもちゃ産業が、売上を伸ばすために、ピンクやブルーの棚や、女の子向け、男の子向けの棚を考えました。
もしオリビアが、もっとバランスの取れたおもちゃ売り場に行ったらどう思うでしょうか?
性別に対する固定観念を強化するのではなく、単に性別の違いがあるだけだと知らせる売り場です。
私の娘やマイケル・モローネスはどう感じるでしょう?
自分自身を無理にピンクかブルーにはめ込もうとするのではなく、もっと自由に自分の興味を満たすものを探すことができます。
子供たちはみんな、いろいろなことに興味を持っています。
女の子向け、男の子向けのおもちゃをなくしたら、おもちゃはみんなベージュ色で、似たようなおもちゃになってしまうという意見があります。
実は、ここまで性別の差が強調されていなかった1970年代やほかの時代の広告を見ると、おもちゃはとてもカラフルで、今より、さまざまな色が使われていました。
性別でおもちゃを分けないと、女の子はもうピンクの人形で遊べないとか、男の子はブルーのトラックで遊べない、あるいは、女の子もブルーのトラックで遊ばないといけない、男の子もピンクの人形で遊ばなきゃいけないんだ、と考える人がいます。
これも違います。
私が子供のころ、バービーも好きだったし、ローン・レンジャーのフィギアも好きで、一緒におもちゃの車に乗せて遊んでいました。
私は、英国のLet Toys Be Toys(レット・トイズ・ビー・トイズ おもちゃをおもちゃのままにしよう)という団体のこのポスターを気に入ってます。
画像はこちらから拝借しました⇒Losing the pink/blue divide doesn’t equal beige… | Let Toys Be Toys
ピンクとブルーの区別をなくすことは、ベージュになることではないし、みんな同じにすることでもないのです。
それは色もテーマも含めた、あらゆる可能性を子供たちにもたらすことです。
それが私たちの望んでいることではないでしょうか?
Let Toys Be Toysやほかの類似の団体は、ソーシャルメディアを使って、子供たちに対するジェンダーマーケティングをやめるように企業に働きかけ、効果をあげています。
きょう、私は皆さんに、ピンクとブルーの棚を超越するために、男女の平等について、じっくり考えることを提案します。1970年代に私たちがそうしたように。
子供たちの暮らしに対する消費文化の役割とは何か?子供たちの興味を守るために、企業は規制されるべきか、どうやって規制したらいいのか?
1970年代はこういうことが考えられていたのに、今は、企業のニーズや企業が利益をあげること、それぞれの親の責任が強調されています。
ピンクとブルーの区別を超えるためには、以前考えたことを、また考えなければならないのです。
子供たちの興味は、市場や企業のニーズに左右されるべきではありません。
それは子供たち自身の興味であるべきです。
////抄訳ここまで////
広告に関するTEDの記事
企業の巧妙な戦略がよくわかります⇒ジャンクフードの宣伝から子供たちを守るには?(TED)
広告の影響を受けて買ってしまう仕組み⇒我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)
自分で選択肢を減らすのはあり⇒選択をしやすくするには~シーナ・アイエンガー(TED)。選択肢の海の中で生きる技術。
女の子の色はピンクと決めた人は誰?
おもちゃにおけるジェンダーマーケティングは、子供に大きな影響を与えるので、やりすぎるべきではないと思います。
しかし、今回このプレゼンを選んだのは、おもちゃの話をしたかったからではありません。
私が指摘したいのは、誰が女の子はピンクで男の子はブルーと決めたのか、という点です。
もちろん、売り手の誰かです。つまり企業です。
世界中の女の子が、「私はピンクが好きだから、もっとピンクの物を作ってよ」、と企業にお願いしたわけではありません。
今は、「女の子はピンク」という思い込みがあるので、「私はピンクが好き」という女子が多いかもしれませんが。
一説によると、19世紀の半ばより前のアメリカの子供たちは男女とも6歳ぐらいまでは白い服を着ていたそうです。
白い服はブリーチしやすいからです。
しかし、19世紀の半ば以降、子供たちの服がカラフルになりました。これは技術や商業の発達によるものと思われます。
このときは、ピンクは女の子、ブルーは男の子という区別はありませんでした。
20世紀の初めの20年ぐらいの間、ピンクは男の子用、ブルーは女の子用、と言われていた時期があります。
ピンクのほうが強い色だから、とある企業がいったのです。
1927年に、タイム(雑誌)が、男の子、女の子それぞれの服に向いた色のチャートを発表しており、男の子にはピンクを推奨していました。
戦後、この色分けが逆転しました。
いずれにしても、売り手側が色を決めたのです。
今は女子はピンク、男子はブルーですが、別に反対でもよかったのです。
フェミニズムが盛んだった1970年代は、女の子はこれ、というふうに決めつける風潮が下火になりましたが、その後反動が来ました。
動画で言っているように、1990年代以降、おもちゃメーカーが、女の子向けのおもちゃ、男の子向けのおもちゃを強く意識して販売するようになりました。
企業がジェンダーマーケティングをする理由
女の子はピンク、男の子はブルー、女の子にはこの商品、男の子にはあの商品と分けて売り出すと企業がもうかる仕組みになっています。
性別で使う商品が変わるなら、性別の違う子供がいると、お下がりを使わせることができず、それぞれの子供ごとに買うことになります。
おもちゃや服だけでなく、雑貨や家具も性別ごとに用意されています。
使い回しもシェアもできません。
消費財の値段が下がり、クレジットカードが流通したから、人々は好きなものを好きなだけ買うことができるようになりました。その結果、家単位で見れば、だぶっている物を子供ごとに買い与えたのです。
ジェンダーマーケティングは大人用の製品でも行われています。
一般にどんな物も女性用の物は値段が高いです。たとえ原価が同じでも。
セーターやトレーナーのような男女兼用で使えるアイテムを比べてみればわかります。シャンプーなどもそうです。
髪を切る値段もそうです。労力はそんなにかわらないはずなのに、床屋より美容院のほうが値段が高いです。
これはカットだけの話です。
美容院ではブロー(髪を乾かすこと)やカラリングなどオプションサービスがあり、ますます値段がかさみます。
さらに、女性は余計な物をたくさん使うことになっています。
男性なら下着のミニマムアイテムはパンツ1枚です。ところが女性はこれにブラがつきます。
おまけにショーツとブラはおそろいにしろと言われます。
ミニマルにこだわっていない人だと、ガードルやスリップなど、どんどんアイテムが増えます。しかも、レギュラー用だけでなく勝負下着を買えと言われます。
みんな企業が開発し、使うことを促したのです。
この調子で、化粧品、衣類、靴、バッグ、すべてのカテゴリーでどんどんアイテムが増えていきます。
バレンタインのチョコレートだって、女性が買って男性にプレゼントすることになっています。
女性は生理用品も買わねばなりません。
一般に、女性のほうが男性より生涯賃金が低いのは、別に統計を見なくてもわかることです。
女性は稼ぐお金が少ないのに、使うお金が多いのです。
「らしさ」の呪縛から解き放たれよ
稼ぐお金の改善は難しいかもしれません。しかし使うお金を減らすことはできます。
「~らしさ」「こうあるべき」という呪縛を解いてください。そんなのはみんな、人が決めたことです。
私たちはもう必要な物はすべて持っています。
だから企業は、市場を細分化し、本来は必要ではないものを売りつけようとがんばります。
年齢にこだわる人が多い日本では、エイジマーケティングが盛んです。
20代女性のおしゃれはこれ、30代はこれ、40代はこれ、50代はこれ、と年代ごとに区切り、服を買い換えさせる仕組みです。
しかし、老化の記事でも書いているように、人の老化のスピードは個人差があるし、大人の着るものは、年齢よりも、生活環境に左右されます。
「差別化」とか「~らしさ」を強調するマーケティングにのって、いらない物を買っているから、家の中に物があふれ、貯金ができないのです。
子供は「らしくない物」を持っているといじめられるかもしれません。しかし、大人は大丈夫です。
大人まで一緒に「らしさ」にこだわっていたら、ますます子供が生きづらくなります。
いい加減にやめませんか?
周りに合わせて買い物するのは。