恐怖

TEDの動画

最終更新日: 2017.10.4

「恐怖」が教えてくれること:カレン・トンプソン・ウォーカー(TED)

ページに広告が含まれる場合があります。

 

恐怖心のせいで、いろいろなことを決断できない人の参考になるTEDの動画を紹介します。アメリカの作家、カレン・トンプソン・ウォーカー(Karen Thompson Walker)さんの、What fear can teach us(恐怖が私たちに教えてくれること)です。

恐怖心を無理に抑えるのではなく、それを物語だと考え、適切に読み解けば、恐怖から学べることがある、という主旨のプレゼンです。



「恐怖」が教えてくれること、TEDの説明

Imagine you’re a shipwrecked sailor adrift in the enormous Pacific.

You can choose one of three directions and save yourself and your shipmates — but each choice comes with a fearful consequence too.

How do you choose?

In telling the story of the whaleship Essex, novelist Karen Thompson Walker shows how fear propels imagination, as it forces us to imagine the possible futures and how to cope with them.

広大な太平洋の真っ只中で、遭難しているところを想像してみてください。

あなたには、船員ともども助かるかもしれない3つの選択がありますが、どれを選んでも、うまくいかなければ恐ろしい結末がまっています。

どうやって選びますか?

小説家のカレン・トンプソン・ウォーカーは、捕鯨船エッセクス号の話をしながら、恐怖がどんなふうにイマジネーションを刺激するのか語ります。恐怖のおかげで、私たちは起こりうる未来を想像できるし、その未来にどうやって対応したらいいのかわかるのです。

2012年の6月収録。動画の長さは11分30秒です。日本語字幕の動画です。動画のあとに抄訳を書きます。

☆「TEDって何?」という方はこちらへどうぞ⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

☆動画のトランスクリプトはこちらから⇒Karen Thompson Walker: What fear can teach us | TED Talk | TED.com

恐怖は克服すべきものだと考えられているが

1819年、チリから3000マイル(約1830キロ)にある太平洋沖で、20人のアメリカ人水兵が、沈んでいく捕鯨船を見ていました。

クジラに襲われ船に穴があいてしまったのです。

彼らは、3つの小さな捕鯨用ボートに集まっていました。計器の装備も充分でなく、食べ物と水も残り少ない状況です。

捕鯨船エッセクス号に起こったこの事件は後に、「白鯨」の一部として小説になっています。

陸地にいる人たちはこの遭難を知るよしもなく、救助は期待できません。

私たちの多くはここまで恐ろしい状況には遭わないでしょうが、誰でも恐怖という感情は知っています。ただ、恐怖が何を意味するのかという点については、あまり考えていませんね。

大人になるにつれ、恐怖を感じるのは弱虫のしるし、と言われます。脳科学者によれば、人間は全般的に楽観的ですから、恐怖はときに危険なものである、と考えるのかもしれません。

「大丈夫だよ」「パニックになっちゃだめ」こんなふうにお互いに励まし合います。恐怖は、克服すべきものである、と考えられているのです。

ですが、恐怖に対して、別の見方をしてはどうでしょうか? 恐怖を感じることは、イマジネーションの翼を広げることであり、そこには物語のように、豊かで示唆にとんだ何かがある、と考えてみるのです。

恐怖はイマジネーションの源(みなもと)

子供は、恐怖からありありとした想像をします。

子供のころ、私はカリフォルニアに住んでいました。とても住みやすいところでしたが、ちょっと怖いところでもありました。

小さな地震が起こるたびに、ダイニングテーブルの上にかかっているシャンデリアがゆれるのを見て、とても怖かったことを覚えています。

時には、夜眠れませんでした。寝ているあいだにすごく大きな地震が来る気がしたのです。

成長するにつれて、私たちは、恐怖から、極端なことを想像するのはやめます。ベッドの下にモンスターはいないし、地震のたびにビルが倒れるわけはない、と学ぶのです。

とてもクリエイティブな人たちは、こうしたイマジネーションを持ち続け、「種の起源」「ジェーン・エア」「失われた時を求めて」といった作品を生みました。

エセックス号の3つの選択

捕鯨船、エセックス号の話に戻りましょう。

船員には3つの選択がありました。

1.もっとも近い島マルキーズ諸島(マルケサス諸島、タヒチ島から北東に1500キロのあたり)までボートで行く。1900キロメートル先だが、この島には食人種が住んでいるという噂がある。

2.ハワイに行く。ストームに遭うかもしれない。

3.2400キロメートル南下して、南アメリカ沿岸に行く。もっとも遠いし、風も有利に働かないので、食料と水が足りなくなる怖れがある。

3つのそれぞれに、

●食べられてしまう
●ストームにまかれる
●餓死する

という恐怖があります。

恐怖は物語である

恐ろしいと思う気持ちを恐怖とは呼ばす、物語と読んではどうでしょうか?

実際その通りです。

恐怖には物語のように、登場人物(私たち自身)とプロット(物語の始まり、中盤、終わり)があります。

恐怖を感じれば、視覚的なシーンも思い浮かびます。人食い種に食われる様子をありありと想像できます。恐怖にはサスペンスもあります。

偉大な物語と同じように、恐怖を感じれば、人生で大事なことに目を向けることになります。次に何が起こるのか、というように。

つまり、恐怖があるから、未来について考えることになるのです。人間は未来のことを考えることができる唯一の種です。

作家だからいえますが、フィクションを書くとき大事なのは、物語の中のあるできごとが、どんなふうにほかのできごとに作用するか考えることです。恐怖も同じですね。1つのできごとが、つぎつぎとほかのできごとを引き起こします。





恐怖をうまく読み解くには?

恐怖を単に恐怖と考えるのではなく、物語として捉えるなら、私たちは、その物語の作り手ですが、同時に私たちはその物語の読者でもあります。私たちが、どんなふうに恐怖を読み解くかで、その先の人生が大きくかわります。

人によっては、ごく自然に恐怖を上手に読み解きます。

成功した起業家たちは、「プロダクティブパラノイア(productive paranoia 生産性の高い偏執狂)」の習慣があるそうです。

彼らは恐怖を無視するのではなく、注意深く分析し、適切な準備や行動を起こします。だから最悪のケースになっても、ビジネス上の準備はできているのです。

時には、最悪のケースが起きます。これは恐怖のすごいところですね。ごくまれに、恐怖が未来を予言します。

けれども、私たちの想像力が生み出すすべての結果の準備はできません。では、どうやって、しっかり考えるべき恐怖と、流してしまっていい恐怖を見分けたらいいのでしょうか?

捕鯨船エセックス号の結末が参考になると思います。悲しい結末ですが。

考えた末、船員たちは決断しました。人食い種が恐ろしかったので、もっとも近い島に行くのはやめ、もっとも遠くて、行くのが困難な南米へのルートをとりました。

2ヶ月以上、海の上にいたので、やはり食料が尽きました。それでも、まだまだ南米から遠かったのです。

通りがかった船に救助されたとき、船員のうち半分は亡くなっていました。船員の中には、人肉を食べていた人もいたのです。

「白鯨」を書いたハーマン・メルヴィルは、「一番近いタヒチに行っていれば、その後のみじめなできごとはなかっただろう。しかし彼らは人食い種をとても怖れたのだ」と語っています。

なぜ船員たちは、高い確率で飢餓になる状況よりも、人食い種を怖れたのでしょうか? なぜ、ある物語をほかの物語より重要視したのでしょう?

よき読者に求められる2つの資質

小説家のウラジミール・ナボコフは、「最良の読者は、2つの全く異なった資質を合わせもっている。芸術的な資質と科学者の資質だ」と言っています。

物語の中に没入する気持ちと同時に、科学者のように客観的にストーリーを判断する目が必要なのです。科学者の資質は、ストーリー展開に直感的に反応し、振り回されるのを抑えてくれます。

エセックス号の船員たちは、芸術的な資質はしっかりありました。残された手記からわかるのですが、彼らは、もっとも簡単に想像できる、人食い種に襲われる様子をありありとイメージしたのです。

もし、科学者として、自分たちの恐怖をもっと冷静に判断していたら、人食い種ほど暴力的ではないにせ、それよりずっと起こる可能性の高い飢える物語に注意をむけ、タヒチに向かっていたでしょう。

センセーショナルな恐怖に惑わされない

私たちも、自分の恐怖の物語を読み解くとき、もっとも扇情的なストーリーで頭がいっぱいになりがちです。これに気づけば、連続殺人犯人や飛行機事故よりも、派手ではないけれど、もっと恐ろしい、動脈に脂肪やコレステロールが蓄積することや、気候が少しずつ変動していることを心配するでしょう。

文学では、もっとも繊細な物語がもっとも豊かであることが多いです。それと同様に、もっとも目立たない恐怖のシナリオが、もっとも起こる可能性があるといえます。

もし恐怖を正しく読み解くことができたなら、恐怖は想像力のすばらしい贈り物です。未来がどんなふうになるのか予想し、それに対して準備をすることを可能にしてくれます。

適切に読めば、恐怖は文芸作品と同じように、小さな知恵や真実を授けてくれるのです。

//// 抄訳ここまで ////

補足説明

paranoia

パラノイア 偏執病(へんしゅうびょう)。

偏執とは、偏った考えにかたくなに執着することです。精神医学におけるパラノイアは、精神疾患の一種で、偏執的になり妄想があります。しかし、患者の論理は一貫していて、思考・行動にその人なりの秩序があります。

日常生活では、被害妄想が強い人や状態を、「あの人はパラノイアだ」と言ったりします。

The Age of Miracles 

訳出しませんでしたが、カレンさんが動画の中で語っている、The Age of Miracles は「奇跡の時代」というタイトルで翻訳されています。これが彼女のデビュー作です。突然地球の自転が遅くなったため、世界が少しずつ変容していく話です。

地球の自転が遅くなったらどうなるんだろう、なんてことを思いつくあたり、カレンさん自身もとても想像力が豊かだと思われます。

恐怖に関するほかの記事

心配性は自分で克服できる。恐怖と向き合うことを学ぶ(TED)

恐怖に打ち勝つ方法。3つの質問を投げかければいい(TED)

不安や恐怖のせいで物が捨てられない。恐れる心とうまくつきあう方法

老後貧乏の恐怖に怯えるあなたへ。今すぐできる節約は物を捨てることです

科学者の目で自分の恐怖を読み解くすすめ

エセックス号の船員たちが遭難したのは、19世紀のはじめなので、人食い種なんているはずない、なんてふうには考えられなかったのでしょうね。それと、ものすごい極限状態での決断だったことも考慮しなければならないでしょう。

とても科学者みたいに客観的になっていられない状況だったのかもしれません。

私が当ブログの読者からもらうメールに書かれている恐怖は命にかかわるものはまずありません。

●これを捨てたらあとで困るかもしれない。

●あとでいる時、買うお金がないかもしれない⇒あとで必要になったときに買うお金がもったいなくて捨てられない、という質問の回答。

●なんとなく捨てると後悔しそう。

●こんな格好で職場に行くと、センスがない人と思われる。

●この贈り物にノーというと、可愛げのない嫁だと思われる。

●歯医者の恐怖⇒2つのうち、どちらがいいのかわからない? 迷わず選ぶ方法を教えます。

せいぜいこのぐらいの恐怖です。こうした、命にかかわらない恐怖の物語を、科学者の目で判断する練習を始めると、もっと深刻な恐怖の物語に出会ったとき、最善の選択をできるのではなかろうか、と思います。

人食い鬼の恐怖の物語がそうだったように、もっとも簡単に安易に想像できてしまうシナリオは、意外と実現しないということを覚えておくといいかもしれませんね。

科学者として自分の恐怖を読みとく時には、ちょっとリサーチしてエビデンスを探し、分析する必要なども出てくるでしょう。こうした作業がめんどくさいから、今の自分がすぐに思い浮かぶ恐怖の物語に引っ張られてしまうのだと思います。

エセックス号の船員たちにはろくな計器がなかったそうですが、私たちにはパソコンもインターネットも図書館もあります。

*****

それにしても人食い種を怖れて、別ルートにしたら、自分たちが人食いになってしまったなんて皮肉です。私たちの今の暮らしは、こうした過去の人々の命がけの試行錯誤の上に成り立っているんだなあ、とあらためて思いました。

昔の人に感謝しなければなりませんね。





クローゼットここに物が出ていたら汚部屋予備軍。大ごとにならない前に片付けたい5つの場所。前のページ

片付けたい読者の断捨離決意表明。次のページ捨てる女。

ピックアップ記事

  1. いつか使うかもしれない、と思うものを本当に使う方法、あるいは見切りをつける方法。…
  2. ムック・8割捨てて二度と散らからない部屋を手に入れる、発売しました。
  3. 新刊「50歳からのミニマリスト宣言!」3月14日発売のお知らせ(現在予約受け付け…
  4. 新刊『本当に心地いい部屋』4月14日発売のお知らせ:現在予約受付中。
  5. 筆子の新刊『買わない暮らし。』(6月16日発売)著者による内容紹介。現在予約受付…

関連記事

  1. 小麦畑

    TEDの動画

    マイナス思考の人に見て欲しい、イマジネーションの力で幸せになる方法(TED)

    楽しい毎日を送る参考になるTEDの動画を紹介します。今回は、イ…

  2. 鏡を見る少女

    TEDの動画

    オレンジ対バナナ:人と比べることで生じるダメージとその修復(TED)

    人の生活と自分の生活を比べて、不用な物を買ってしまう人はたくさんいます…

  3. 瞑想

    TEDの動画

    暮らしにマインドフルネスを取り入れてより自由になる(TED)

    ホーム・ニュイエン(Home Nguyen)さんの、 The Powe…

  4. 小さなカップケーキ

    TEDの動画

    砂糖を食べると脳内で起きること(TED)

    甘いものの食べすぎは体によくないとわかっているものの、なんだかんだと理…

  5. ファイティングポーズ

    TEDの動画

    バリアをこわして、限界に屈しない方法(TED)

    今年は壁を超えたい、そんな人の参考になるTEDトークを紹介します。…

  6. 物忘れした人

    TEDの動画

    ワーキングメモリ(作業記憶)をうまく使って目の前のゴールを達成する(TED)

    片付けたい、捨てたいと思っているのに、実際の行動に出られない人、手が止…

文庫本『それって、必要?』発売中。

「50歳からのミニマリスト宣言!」

ムック:8割り捨てて二度と散らからない

ムック・8割捨てればお金が貯まる

書店かセブンイレブンで買ってね。
8割捨てればお金が貯まる・バナー
ムック本・8割捨てればお金が貯まる、発売のお知らせ

「本当に心地いい部屋」

「買わない暮らし。」売れてます(第7刷)

筆子のムック(第5刷)

筆子の本、『書いて、捨てる!』

更新をメールで受け取る

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

1,826人の購読者に加わりましょう

新しく書いた記事を読む

  1. 4人家族
  2. 片付いた机の上
  3. 片付いたリビングルーム
  4. チャレンジする女性
  5. ベッドにスプレーする女性
  6. 目標に向かう旅をする女性
  7. 引っ越しの荷造りをしている女性
  8. 小さなアパート
  9. 引き出しの中の服
  10. パントリーをチェックしている女性

筆子の本・10刷決定です

オーディオブック(Audible版)も出ました♪ 捨てられない人は要チェック
1週間で8割捨てる技術
⇒筆子の本が出ます!「1週間で8割捨てる技術」本日より予約開始

 

実物の写真つき紹介はこちら⇒「1週間で8割捨てる技術」筆子著、本日発売です(写真あり)

大好評・特集記事

小舟バナー

 

お金を貯める・バナー

 

実家の片付けバナー

 

ファッションバナー

 

フライレディバナー

 

湯シャンバナー

 

ブックレビューバナー

 

TEDバナー

 

歯の治療バナー

今日のおすすめ記事

  1. 年を取っていても幸せそうな女性
  2. ノートに書く
  3. お皿を洗う少年
  4. ランプをチェックしている若い女性
  5. アイロンがけに疲れた主婦
  6. 夏の1日
  7. 考えごとをしている若い女性
  8. 白いシーツ
  9. 集中してリスニング
  10. 長時間座る生活。

過去記事、たくさんあります♪

PAGE TOP