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汚部屋を前に途方にくれている人の参考になるTEDのプレゼンを紹介します。
心理学者のキャロル・ドゥエックの The Power of Believing That You Can Improve (自分は成長できると信じることのパワー)です。
邦題は『必ずできる!― 未来を信じる「脳の力」―』です。
『必ずできる!― 未来を信じる「脳の力」―』TEDの説明
Carol Dweck researches “growth mindset” — the idea that we can grow our brain’s capacity to learn and to solve problems.
In this talk, she describes two ways to think about a problem that’s slightly too hard for you to solve.
Are you not smart enough to solve it … or have you just not solved it yet? A great introduction to this influential field.
キャロル・ドゥエックは「グロース・マインドセット(成長型マインドセット)」を研究しています。これは、人は学ぶことや、問題を解決する脳のキャパシティを引き上げることができるという心理状態です。
このプレゼンでは、自分にとって少しむずかしい問題に向かうときの2つの方法が語られます。あなたはその問題を解くほど頭がよくないのか、それとも、まだ解けないだけなのでしょうか。
この分野の入門編として最適な動画です。
グロース・マインドセットは、「自分はだんだん成長できるんだ」と考えることです。こうした心構えを持つことは、現時点での自分の能力そのものを信じることより有効です。
能力は向上しうるからです。きょうできなくても、1ヶ月後のきょうはできるかもしれないのです。
この動画では子供の学力の話をしていますが、大人でも充分使える考え方です。
収録は2014年秋、長さは10分18秒。日本語字幕です。
☆トランスクリプトはこちら⇒Carol Dweck: The power of believing that you can improve | TED Talk | TED.com
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
「まだ合格じゃない」という成績の素晴らしさ
シカゴの高校では、卒業に必要な学科でパスしなかったとき、「Not Yet まだ合格じゃない」という成績をつけると聞きました。
素晴らしい考え方だと思います。ふつう試験に落ちたら、「私って何をやってもだめ」と思ってしまいますから。
けれども、「まだ合格じゃない」という成績なら、合格に向かって進んでいると思えるから、未来につづいています。
困難に出会ったときの2つのマインドセット
Not Yetという考え方は、私が仕事をはじめたころ体験したできごとを、決定的なものにすることにもなりました。
子供たちがチャレンジや困難にどんなふうに向かうか調べていました。10歳の子供たちに、彼らにとってちょっとだけ難しい問題を出してみたんです。
すると2つの反応がありました。
ある子供たちは、ものすごく前向きでした。「チャレンジって大好き」とか「勉強になるといいな」と言いました。この子たちには、自分たちの能力はどんどん伸びることがわかっていたのです。
こうした考え方を私はグロース・マインドセットと呼んでいます。
しかし別の生徒たちは悲壮な気持ちでいました。この子たちはフィックスドマインドセット(fixed mindset 固定したマインドセット)をもっています。
知能はいつも評価の対象で、自分は失敗作だと思っていました。まだこれからなのに、今できないことにとらわれていたのです。
固定型マインドセットを持つ子供の発想
固定したマインドセットを持っている子達は、次にどうするのでしょうか?
ある研究によると、こうした子供たちはもしテストで失敗したら、次はもっと勉強するかわりに、カンニングをすると答えています。あるいは、自分よりできなかった子供たちを見つけて、自己評価をあげます。
たくさんの研究から、こういう子供たちは困難から逃げ続けるとわかっています。
固定型の子供たちがミスをしたとき、脳にはなんの活動も見られません。脳を使っていないのです。
グロース・マインドセットの子供たちの脳は活発に動いています。失敗から学び、修正しようとしています。
私たちは子供たちを、「まだこれから」という代わりに、「今できないことが問題だ」と言いながら育てているのではないでしょうか?
よい成績をとることばかり考えている子供たちや大きな夢を描けない子供たちを育てているのでは?
いつもよい成績をとることばかり考えながら大きくなったら、いったいどんな未来になるのでしょう。
雇用主が私のところにきてこんなふうに言うでしょう。「ご褒美がないと1日だって職場で持たない若者を育てている」と。
子供に成長型マインドセットを持たせるには?
ではどうしたら「まだこれから」という気持ちになれるのでしょうか?
いくつかできることがあります。
まず、子供たちを賢くほめることです。知能や才能をほめちゃだめです。
かわりにプロセスをほめるのです。どのぐらい努力したか、どんな工夫をしたか、どんなことにフォーカスしたか、どのぐらいがんばったか、どのぐらい向上したか。
プロセスをほめると、心の折れにくい子供になります。
私たちはワシントン大学の研究者といっしょに、「まだできていないだけ」ということを強調する算数のオンラインゲームを開発しました。
このゲームでは、子供たちの努力、戦略、進歩の度合いに報酬を与えます。ふつうのゲームでは、いま正解を出したことにごほうびを出しますが、このゲームではプロセスを評価するのです。
成長型マインドセットを持つと脳が活性化する
Yet あるいは Not Yet という言葉をかけるだけで、子供たちは大きな自信をもちます。実際、子供たちのマインドセットを変えることは可能です。
ある研究から、子供たちが何か新しいことや難しいことを学ぶ過程でコンフォートゾーンを出るたびに、脳のニューロンが新しい、よりしっかりとした回路を作ることがわかっています。これを繰り返しているうちに、次第に頭がよくなるのです。
別のリサーチによれば、グロース・マインドセットという考え方を教わっていない子供たちは、学校で困難なことに出会うたびに成績がさがっていきます。しかし、このマインドセットを学んだ子供は成績が一気に伸びました。
大勢の子供たちに同じことが起きるのを見ました。とくに、勉強ができなくて苦労していた子供たちに。
勉強のできない子供たちがすごくできるようになる秘密
「平等」についてお話しましょう。この国では、恒常的に勉強のできない子供たちがいます。たとえば、スラム街や先住民の居留区の子供たちです。
長年、こういう場所の子供たちの成績はずっと悪かったので、人は「仕方ない」と考えています。
ところが、教育する側が、グロース・マインドセットをうながす授業をしたら、「平等」が生まれたのです。
ほんの少し例をあげると、ニューヨークのハーレムにある幼稚園(から始まる小学校)の子供たちは1年で全国の学力テストで95番目の成績をおさめました。
多くの子供たちが、学校にあがったときは鉛筆を持つこともできなかったのに。
また学力の低かったサウス・ブロンクスの4年生のクラスは、1年でニューヨーク州で算数のテストで第1位のクラスになりました。
1年から1年半で、先住民居留区にある学校の子供たちが、その学区の最下位からトップになりました。その地区には、裕福なシアトルの子供たちもいたのですが。
努力したり難しいことに挑戦することが頭をよくする
いずれも努力や困難が意味するものが、変わったから起きたことです。
以前は、努力をしいられたり、難しいことに出会うたびに、子供たちは「自分はバカなんだ」と思っていました。そしてあきらめていたのです。
いまは、努力すべき局面や困難なことに向かっているときこそが、ニューロンが新しい回路を作ったり、回路を強化している時間だとわかっています。こうして子供たちはより賢くなります。
13歳の男の子から手紙をもらったことがあります。
「ドゥエック先生、科学的なリサーチに基づいて本を書いてくださってありがとうございます。だから僕も実際にやってみようと思いました。
学校の勉強や家族や友だちとコミュニケーションをとるとき、前より努力するようにしてみました。そうしたらすべてのことがとてもよくなりました。これまで自分の人生、本当に無駄にしたなあ、と思っています」。
これ以上人生を棒に振るのはやめましょう。人の能力は伸びるのだと知れば、それは子供たちの基本的人権となります。
すべての子供たちが成長できる場所、「まだできていないだけ」という考え方に満ちた場所で生きられる権利です。
//// 抄訳ここまで ////
単語の注釈
Yet 「まだ」イエットをどういうふうに訳そうか、ちょっと考えましたが、今はまだできていないだけ、というニュアンスです。
そのうち合格するけど、今はまだその時期じゃないのです。しかし続けていけば合格します。
Growth Mindset グロース・マインドセット 自分の能力はどんどん開発されていくと考えること。反対語は Fixed Mindset フィックスド・マインドセットで、自分の能力は固定されていて、これ以上何も変わらないと考えます。
comfort zone コンフォートゾーン 居心地のいいラクな場所。自分にまったく負荷のかからない場所。ぬるま湯。
newron ニューロン、神経細胞。シナプス(神経細胞間にある筋繊維)を通して神経細胞と連結し、情報を伝達します。
inner cities 貧困層の多い都心部の人口が密集した地域。スラム街のこと。
キャロル・ドゥエックさんの著書です。
脳はだんだんよくなるという別のTEDのプレゼンもごらんください⇒頭をよくするシンプルな5つの方法。脳を活性化して最大限に使うには?(TED)
知らず知らずのうちに固定型マインドセットに陥る
多少難しいことに出会っても、時間をかけて努力をすればクリアできるし、乗り越えるたびに自分は成長する、という意見に賛成する人は多いと思います。
「なせばなる」なんて言いますよね。
ところが、いざ自分が学校、家庭、職場でちょっとむずかしいこと出あうと、「自分にはムリ」と何もやらない前からさじを投げる人がたくさんいます。
このような人たちは「固定型マインドセット」を持っているのですね。または、その時だけ固定型マインドセットを採用しています。
自分の子供には、「やればできるわよ」なんて言っているかもしれません。
汚部屋相談のメールには、「私にはどうしてもできません。片付けられません」と断言している文章が多く見られます。
こういうふうに考えているからできないのです。
いきなりすべてを片付けようとはせず、ちょっとだけ負荷のかかる程度の片付けプロジェクトを自分に貸して、チャレンジしてください。
具体的なやり方⇒何から片付けたらいいのかわからず、動き出せないときはこうしてみる(汚部屋改善)
「できない」で思考停止になってはいけない、とよくブログに書いていますが、ドゥエック先生のプレゼン(2分47秒)に出てきたように、このとき実際に脳の中で何も起きてないのです。
脳は使わないとどんどん衰えるので、なんでもかんでも「できない、できない」と言わないほうがいいです。
ちょっとむずかしいことに遭遇したら、「これは脳を活性化するチャンスなんだ」とむしろ喜んで「できない(ようにみえる)こと」に取り組むといいですね。
もちろん、人にはできることとできないことがありますが、最初ぐらいは「もしかしたらできるかも」とチャレンジしてください。
そして、プレゼンに出てきたように、結果ではなくプロセスや、実際に自分がやってみたことを自分で評価するクセをつけると、だんだん片付けられる人になります。
グロース・マインドセットはお金を貯めるのにも役立ちます⇒お金を貯めるのを助ける3つのマインドセット。節約の小技をがんばっても貯まらない。
もっと詳しく知りたい方はドゥエックの著書を読んでください。
本では「しなやかマインドセット」「硬直マインドセット」と訳されています。
「しなやか」という言葉もいいですね。思い込みをはずせそうです。
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今の学校では結果(テストの点とか卒業した学校とか)しか評価しないので、みんな固定型マインドセットになりがちですね。
固定型マインドセットの人は、ちょっと思い通りにいかない場面に出会うとポキっと心が折れるので、せめて自分自身や自分の子供を評価するときは、グロース・マインドセットを採用したいです。