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実のある議論をする方法を教えてくれるTEDの動画を紹介します。
タイトルは、How to disagree productively and find common ground(いかに、生産的に異議をとなえ、共通点を見つけるか)
プレゼンターはビジネス・ストラテジスト(ビジネスの戦略を考える人)で、ディベートのチャンピオンである Julia Dhar(ジュリア・ダール)さんです。
邦題は、『生産的に議論し合意点を見いだす方法』
生産的に異議を唱える:TEDの説明
Some days, it feels like the only thing we can agree on is that we can’t agree — on anything. Drawing on her background as a world debate champion, Julia Dhar offers three techniques to reshape the way we talk to each other so we can start disagreeing productively and finding common ground — over family dinners, during work meetings and in our national conversations.
何についても互いに合意できないことだけが、合意できる唯一のことだと感じるときがあります。
世界ディベートチャンピオンになった経験を活かし、ジュリア・ダールが、建設的に異議を唱え、共通点を見つけ出す話し方を伝えます。
家庭での食卓での会話、仕事の会議中、国に関する話題をするときにも使える方法です。
ディベートは、ある問題について、賛成と反対のチームにわかれて、公開で討論する競技です。
収録は2018年の10月。動画の長さは15分。日本語字幕もあります。
ジュリアさんは、ディベートのチャンピオンだけあって、話すのがうまいし、自信に満ちあふれていますね。
話し合いの場は侮辱の場に変わった
互いに合意できることは、何も合意できないことだけだ、と思うときがあります。
公の議論は崩壊しています。
どこでもそうです。テレビのパネリストはののりしりあっているし、ネットで、コミュニティやつながりを求めようとしても、怒りや疎外感を感じるだけです。
たぶん、みなが、怒鳴り合っているせいで、私たちは、議論に巻き込まれたくないと思っています。
対話の場は、侮辱する場に変わりました。
私の人生のミッションは、人々が生産的に意見をたたかわすお手伝いをすることです。
真実や新しいアイデアを導きだすために。
私は建設的な対話のモデルがあることを信じ、そうであってほしいと願っています。お互いに敬意を払い、純粋に説得し、説得されることを願う対話です。
そんな対話を見つけるために、少し私の過去をお話しします。
議論することが大好きだった
10歳のころ、私は議論することが大好きでした。
言葉のちからだけで、誰かに自分の考え方を納得させる可能性に魅せられていたのです。
こんな私を、両親や親は、あまり歓迎していませんでしたが。
「ジュリアのエネルギーを発散させるために、体操をさせるのがいいだろう」なんて考えるのと同じのりで、親は私をディベートチームに参加させました。
自分たちのいないところで議論してほしかったのでしょう。
正式なディベートのやり方はごく簡単です。
ある命題があります。市民の不服従や、自由貿易など。その命題について、一方のグループが支持し、もう片方が反対して、討議をします。
ディベートのスキルを磨いた
女子小学校ではじめて行ったディベートで、私は最悪な間違いをたくさんしました。ニュース番組でよくやっているようなミスです。
相手の意見について議論するより、相手そのものを攻撃するほうが簡単に思えたのです。
その相手が、私の考えに異議を唱えたとき、私は屈辱と恥ずかしさを感じました。
うまく言い返すには、できるだけ極端な意見を言うべきだと思いました。
そんなふうにディベートの世界に入ったのですが、結局私は、ディベートを大好きになりました。
可能性を感じたのです。そして、何年も熱心に取り組むうちに、ディベートの高度なスキルを身に着けました。
高校のディベートの世界大会で、3回優勝しました。
大事なのは合意点を見つけること
でも、私がディベートの本質を理解したのは、ディベートが得意な人たちのコーチを始めてからです。
相手を動かすためには、まず合意点を見つけなければなりません。
そのために、その人の意見とその人自身を分けて考え、相手の説得に対して心を開きます。
ディベートは、この世界がどうあるべきか、どうあり得るべきかを、秩序をもって対話することです。
家庭での政治論議、職場での議論にも使える、私の経験から導き出した、実証済みのやり方をお教えしますね。
基本は反論すること
ディベートでは、直接、面と向かって、敬意をもって、相反する意見に向かいます。
基本は反論することです。
相手の意見に反論し、また相手がその意見に反論する。
反論しないのであれば、それは、ディベートではなく、ただ、横柄に話しているだけです。
昔の私は、すぐれた討論者は、説得することが得意で、極論に持ち込むのがうまいのだと思っていました。
極端な意見を魅力的にみせる魔法のような力があるのだと。
本当はその逆なのだと気づくまでに、長い時間がかかりました。
合意できるポイントを見つける
建設的に反論を言える人は、合意点を見つけることから始めます。たとえどんなにささいなことでも。
誰もが同意できることを見つけ、そこから議論を進めます。教育を受ける権利、人々が平等であるべきこと、安全な社会の重要性など。
これは、心理学用語で言う、『共有された現実(shared reality)』にみなを導くことです。
共有された現実は、もう1つの現実の解毒剤です。
対立は以前としてあります。対立があるから議論するのですから。
ですが、共有された現実は、議論を始めるための土台となります。
面と向かって話す
討論の肝は、テーブルをはさんで面と向かってするところです。この重要性はリサーチで証明されています。
カリフォルニア大学のシュローダー教授のグループの研究によれば、反対意見を述べる人の声を聞くと、討論が人間味をおびます。
相手の主張することに反応しやすくなるのです。
だから、キーボードを使わず、実際に会話をしましょう。
この考え方にしたがって、次々と基調講演をすることや、礼儀正しすぎるパネルディスカッションをやめ、規律のあるディベートをするといいと思います。
カンファレンスでは、もっとも意見が分かれるアイデアについて、議論をするのもいいでしょう。
毎週行うミーティングで、10分使って、チームの働き方を変える案についてディベートをするのもおすすめです。
どれも革新的なアイデアですが、簡単だし無料でできます。すぐに始められますよ。
意見と話している人を切り離す
ディベートでは、話している人の意見と、その人自身を切り離して考えなければなりません。
正式なディベートでは、意見の分かれるトピックしか扱いません。投票年齢の引き上げや、ギャンブルの違法化など。
討論する人は、どちら側に立つかは選びません。
だから、10歳のジュリアのやったことは、意味がなかったのです。
発言した人を攻撃するのは無意味です。その人が、どちら側になるか、自分で選んでいないのですから。
討論で勝つ唯一の戦略は、最良で、明確で、もっとも個人的ではない意見を使うことです。
このような討論を、高校の講堂の外でやろうとするのは、無理だし、世間知らずだと思うかもしれません。
ですが、私たちは、民主党員だから、共和党員だからと、その意見を言った人が誰であるかをもとに、その考えを否定することに時間を使いすぎています。
本社から来た案だから、自分たちとは違う場所から来た案だからという理由で、却下しています。
匿名でアイデアを出してもらう
難しい問題を解決するための案を考えているチームと作業するときは、全員に匿名でアイデアをだしてもらっています。
2年前に、複数の政府機関と、長期的な失業者を減らす方法を考えました。
とても厄介で、よく研究されている公共政策の問題です。
最初に、あらゆるところから、可能性のありそうな解決策を集めました。
共通のフォーマットに書いてもらったので、皆同じように見えます。
その後、議論して、検討し、最終的に20以上の案を、担当大臣に提出しました。
実は、半分以上の案は、政府顧問に話を聞いてもらうのが難しそうな人たちが考えたものです。
聞いてもらえたとしても、社会的な立場のせいで、真剣には受け取ってもらえなかったでしょう。
電話番、予定を管理しているアシスタント、あまり信頼されていない部門の外交員など。
メディアで同じことをしたらどうなると思いますか?
政策に関する重要な提案を議論するニュース番組で、保守やリベラルといった分け方をしないとしたら。
ある大きな問題について賛否を論じるコラムで、書き手の仕事や立場が明かされないとしたら。
公の対話や、個人的な議論でも、誰が言っているかではなく、考えそのものについて討論したら、ずいぶん変わると思います。
謙虚になる
ディベートのおかげで、私たちは、自分が間違っているかもしれない可能性を考えるようになります。
「なにごとも確信はできない」という謙虚さを得られるのです。
建設的に反論するのが難しい理由の1つは、自分の考えに執着するからです。
それが自分のものだと信じ込み、結果的にその考えに囚われてしまいます。
でも、ディベートを長くやっていると、立場を変えることになります。福祉国家の拡大や、投票の義務化などについて、賛成する側と反対する側の両方になって議論します。
この練習をすると、認知のスイッチが切り替わります。
相手の立場にたって考えることができるから、自分とは違う考えをもっている人に対する疑いの気持ちが消えていきます。
相手の立場になれば、自分が間違っているかもしれないと思えるようになります。
この謙虚さが、人をよりすぐれた意思決定者にするのです。
神経学者で心理学者のマーク・リアリーのグループは、この謙虚さを、「知的謙虚さ(intellectual humility)」と呼んでいます。
謙虚になることはスキルですが、リアリーの研究から、このスキルがある人は、より広範囲にわたる証拠を、より客観的に検討し、その証拠に反する証拠に対して、防御的になることが少ないと明らかにしました。
自分だけでなく、誰でも、この謙虚さを身につければ、メリットがあります。
自分は間違っているかもしれないという謙虚さをもつために、自問しなければなりません。
「自分が変えた考えとは、何であり、どうして変えたのか?」
「謙虚な気持ちのもとになる、確信できないことは、何なのか?」
謙虚な対話がうまく行った例
実際、謙虚になると、公の生活や対話が変わります。例をあげますね。
1969年、アメリカの子供番組の司会者である、ロジャース氏が、気難しそうなジョン・パストーレが議長をつとめる、通信に関する委員会に出席しました。
ロジャース氏は、公共放送への予算を増やす提案をしました。
パストーレ議員は、最初は、この意見を却下しました。
しかし、ロジャース氏は、ふつうの家庭でもちあがることを話題にする質のいい子供番組の重要性を、辛抱強く、説得力をもって話しました。
彼は、共有された現実に、皆を引き入れたのです。
パストーレ議員は、この意見を注意深く聞き、心を開きました。そしてこう言ったのです。
「私はとても手強い相手だと思われていますが、はじめて感動を覚えました。どうやら、あなたは、2千万ドルを手にしましたね」と。
もっとロジャース氏のような人が必要です。
ディベートと説得の技術を持つ人たちが。
同時に、パストーレ議員のような人も必要です。
ディベートのすごいところは、ロジャース氏とパストーレ議員に同時になれることです。
先ほどお話したチームに私は、あらかじめ、間違っている可能性があることを認めるように話しました。
自分の考えを変えるために、どんなことが必要か私に説明してもらったのです。
練習というより、心構えの問題です。
自分の考えを変えるために必要なことを考え始めると、そもそも、なぜ自分はその考えについて、そこまで確信しているのか、不思議に思えてきます。
ディベートの原則を使って実のある対話をしよう
建設的に議論するために、ディベートの練習をするのは、本当に役に立ちます。職場でも、会議でも、市議会でもやるべきでしょう。
ディベートの原則を使ってください。
退けるのではなく、説得をする。
話すのをやめて、聞き始める。
閉じるのではなく、心を開く。
そうすれば、私たちの対話が変わります。
//// 抄訳ここまで ////
単語の意味など
pontificate ~について横柄に言う
aggregate 集める
op-ed オプエドページ、特別ページ。社説面の反対ページの署名いり論評や囲み記事。社説では、新聞社が見解を展開するが、オプエドでは、社外を含む、いろいろな委員の見解がのる。
by extension 延長として、さらに言うと
espouse (主義などを)支持する
curmudgeonly 怒りっぽい
コミュニケーションに関するほかのプレゼン
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
自分は正しいと思っているとき、実は間違っている理由(TED)
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
共有できる現実を考える
先週につづいて、コミュニケーションに関するプレゼンを紹介しました。
というのも、断捨離とは全く関係ないのにもかかわらず、仕事や職場の悩みに関する相談をよくいただくからです。
この方も、ある意味そうです⇒モーニングページを書き始めるコツ~朝、そんなもの書いてる時間がないというあなたへ。
過去に、残業ばかりするパートの方に対する不満に答えたし、職場で人にどう見られるかがすごく気になる人の相談にも答えたし、
職場で全く片付けない人の相談にも答えたし、ほかにもいろいろメールで答えてきました。
私たちは、1日の大半を仕事をするのに費やしているので、職場や仕事の悩みは、人生を左右する最重要課題になるのでしょう。
職場の悩みは、人間関係に関する悩みであり、結局、コミュニケーションスキルにかかわるものだと思います。
日本人は議論するのが苦手で、「言わなくてもいいことは言わずにおくのが美徳」と考える傾向があります。
空気を読んだりして。
ですが、職場では、ある程度はっきり意見を言ったほうがいいと思います。
相談のメールを読んでいると、自己主張をしない人がたくさんいます。「自分さえがまんすればいいのだ」と、無理やりがまんして、ある時耐えきれなくなって、極端な意見を言って、相手との関係が悪くなります。
こんな人は、コミュニケーションスキルを磨いておくと、いろいろと役立ちます。
とりあえず、お互いが共有できる現実(同意できるポイント)を考えてみるといいでしょう。
職場の同僚なら、すぐに見つかります。同じゴールに向かって働いているのですから。
さらに、相手の言っていることと、相手そのものを切り離す練習もしてください。
自分が非難された(と感じたとき)も、人間性を非難されたのではなく、意見が食い違っただけだと思いましょう。
実際そうですから。
余裕のある人は、家族でディベートの練習をするといいかもしれませんね。