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人を説得するスキルを身につけたい人におすすめのTEDトークを紹介します。
タイトルは、The counterintuitive way to be more persuasive (より説得力を増すための直感に反する方法)。
プレゼンターは組織心理学者の Niro Sivanathan(ニロ・シヴァナサン)さんです。
説得力をもたせる:TEDの説明
What’s the best way to make a good point? Organizational psychologist Niro Sivanathan offers a fascinating lesson on the “dilution effect,” a cognitive quirk that weakens our strongest cases — and reveals why brevity is the true soul of persuasion.
説得力のある主張をする最良の方法はなんでしょうか?
組織心理学者のニロ・シヴァナサンは、「希釈効果」に関するすばらしいレッスンを提供します。希釈効果は説得力のある主張を弱めてしまう認知のくせです。
彼は、簡潔であることが、説得の一番大事なポイントであると明かします。
収録は2019年の5月3日、動画の長さは10分51秒。日本語の字幕はありません。動画のあとに、抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ところどころジョークが入っていますが、そこは訳しません。
食器セットにいくらお金を出すか?
買い物に行ったとしましょう。
デパートのセールであなたは高級な食器セットを探しています。
ディナー皿が8枚、スープボールが8個、デザート皿が8枚、すべていい状態の24点セットを見つけました。
このセットにいくら支払うか考えてみてください。
別のシナリオもあります。
24点セットを見る前に、セールで40点セットを見つけたとします。そのセットは、ディナー皿が8枚、スープボールが8個、デザート皿が8枚、すべていい状態のものが入っています。
さらにカップが8個、しかし、そのうちの2つは割れています。受け皿が8枚、そのうち7枚が割れています。
ここで考えてください。この40点セットにいくらお金を出すか?
これはシカゴ大学のクリストファー・シーの実験の前提条件です。
これまで私が、教室で何百人もの学生にたずねた質問でもあります。
その結果はどうだったか?
希釈効果とは?
24点セットには、平均で、390ポンド(約63000円)払うと出ました。
40点セットのほうは、192ポンド(約31000円)出すという結果です。
これは非合理な数字です。
40点セットには、24点セットで揃うものがすべて入っています。さらにカップ6つと受け皿が1つ、ついています。
あなたは、40点セットにある24点を買う気になれないだけでなく、40点セットには、24点セットの半分のお金しか出したくないのです。
これは希釈効果(dilution effect)と呼ばれる現象です。
こわれた物がそのセット全体の価値を薄めてしまうのです。
この認知の気まぐれは、発言したことを聞いてもらう能力に、重要な意味をもたらします。
よくない戦略に対して発言しているとき、友人たちの意見に反対するとき、権力に対して、真実を語るときに。
たいてい、その指摘は正当なものであり、ほかの多くの人もそう感じています。
しかし、残念ながら、意見を言っても、期待したように説得できないことがよくあります。
正しいメッセージを伝えているのに、伝え方が間違っているのです。
この認知バイアスを理解することができれば、意見を伝えるさい、思ったような結果を得られますよ。
メッセージにインパクトをもたせられるのです。
人の能力を判断するとき
次に、私たちが毎日やっていることを例にあげましょう。他人をジャッジすることです。
ここに2人の人がいます。
ティムは、授業以外に週に31時間勉強しています。
トムも、ティムと同じように、授業以外に週に31時間勉強しています。彼には、兄と妹が2人います。トムは、祖父母を訪ねています。1度ブラインド・デートをしたことがあります。2ヶ月に1回、ビリヤードをします。
参加者に、ティムとトムのどちらが学生として優秀か聞くと、平均すると、人々は、ティムのほうがトムよりずっと高いGPA(成績)を獲得していると判断します。
なぜでしょうか?
2人とも、授業以外に週31時間勉強しているのは全く同じです。
診断的情報と非診断的情報
情報を与えられるとき、人々は、2つのカテゴリーの情報から判断します。
診断的情報(diagnostic)と、非診断的情報(nondiagnostic)です。
診断的情報は、いま、評価していることに直接関係のある情報です。非診断的情報は、その評価には関係のない取るに足らない情報です。
診断的情報と非診断的情報が混在していると、希釈が起こります。
トムに弟や妹がいることや、ビリヤードに行くといった情報は、診断情報を薄めるのです。
もっと重要なことに、診断情報の価値と重みを薄めてしまうのです。
つまり、授業以外に週31時間勉強しているという情報をが弱まります。
情報の平均化とは?
この現象を心理学的にしっかり説明できるのは、ある平均化のモデルです。
人が取り込んだ情報に、重みを表す得点を与えて調べるモデルです。
私たちの心は、情報を足し算するのではなく、平均化するのです。
だから、関係のない、弱い論証を持ち込むと、全体の主張の重みが減ってしまいます。
薬のコマーシャルでの希釈効果
数年前の8月のある晩、私は会議のためにフィラデルフィアに行きました。
大西洋を横断する便を降りてすぐにホテルにチェックインし、時差ボケを解消しようと、くつろぎながら、テレビを見ていました。
するとある広告に目が止まったのです。
薬の広告です。
よくある広告で、幸せそうなカップルが庭ではねまわり、睡眠薬のおかげでひと晩中ぐっすり眠れた喜びをあらわしていました。
FDA(食品医薬局)の規制のため、1分間の広告の最後の数秒に、その薬の副作用を伝えなければなりません。
早口で、ぼんやりとしたナレーションが次のように続きました。
「副作用として、心臓発作、脳卒中、◯◯、◯◯、・・・」と続き、最後に「足がかゆくなる」という言葉で締めくくられます。
心臓発作や脳卒中のリスクを判断するとき、足がかゆくなることを付け加えると、そのリスクが希釈されるのです。
別のCMを想像してください。
「この薬は、あなたの睡眠の問題を治します。不作用は、心臓発作と脳卒中です(おわり)」。
こう聞くと、あなたは「ひと晩中起きていてもかまわない」と考えるのです。
広告に関するプロジェクト
この広告を見たのがきっかけで、私は2年間、博士課程の学生と、ある研究プロジェクトを行いました。
そのうちの1つを紹介します。
実際に雑誌に掲載されていた睡眠薬の広告を参加者に見せました。
最後の行に、この薬の副作用が書かれています。
参加者の半分には、重大な副作用だけでなく、さほど重大でない副作用を含めた広告の全文を見せました。
残りの参加者には、同じ広告に少し手を加えたものを見せました。全文から4つの単語を取り去りました。重大でない副作用を削除たのです。
その後両方の参加者に、その薬を評価してもらいました。
大きな副作用もささいな副作用も両方見た人は、その薬の重大さ(severity)を、もう半分の人たちより、ずっと低めに評価しました。
しかも、この薬を使用することに、より魅力を感じていました。
さらに、大きな副作用だけを見た人より、多くのお金を払って買う気になっていました。
つまり医薬品の広告に、重大な副作用とさほど重大でない副作用の両方を記載すると、その広告を見た人や、潜在的な消費者の薬に対するリスクの評価を希釈するのです。
量より質
この研究結果がは、影響力を与えるためにするコミュニケーションの世界では、量より質が勝ると教えてくれます。
論拠の数を増やすことが、説得力を増すわけではなく、むしろ、一番したい主張を弱めます。
別の言い方をすれば、論拠の量を増やすだけでは、主張している内容の質を高めることができません。
会議で発言するとき、強く賛同している政府の法案に賛成するとき、友人が別の見方をするのを助けたいとき、メッセージの伝え方は、その内容と同じぐらい重要なのです。
一番したい主張だけを貫いてください。なぜなら、論拠をいろいろ詰め込んでも、受け手の頭の中では足し算ではなく、平均化が行われるからです。
//// 抄訳ここまで
コミュニケーションに関するほかのプレゼン
5つの椅子と5つの選択、もっと上手にコミュニケーションをとる方法(TED)
他人とうまく会話する10の方法:セレステ・ヘッドリー(TED)
聞き上手になる。よく聞くための5つの方法・ジュリアン・トレジャー(TED)
黙っていたら何も伝わらない。沈黙のもたらす危険を知れ(TED)
人に話を聞いてもらいたいなら必見。人を惹きつける話し方(TED)
レス・イズ・モア
何か主張したいことがあるとき、論点をしぼって話したほうが、説得力が増す。余計な論拠をあれこれ盛り込むと、説得力がなくなる、という内容のプレゼンを紹介しました。
家族(妻、夫、父、母、義理父、義理母、子供、兄弟姉妹など)に、物を減らしてもらうにはどうしたらいいか、という相談をよくいただきます。
その場合、交渉や説得をする必要がありますが⇒人を説得する方法はあるか?断捨離を邪魔する家族との対話の進め方。
誰かを説得するときは、情報の平均化のことを思い出してください。
希釈化が起こるのは、議論をするときだけではありません。
所有品も、あれこれ持ちすぎると、生活全体の質が落ちます。
洋服、バッグ、靴、本、思い出の品。
どれも、そんなにたくさんなくてもいいのです。
特に、ふだん使わない思い出の品は、ありすぎると、そのままガラクタになってしまうので、できるだけ、絞り込むべきです。
タスクも、一番やりたいことや、一番重要なことをやれば、あとの細かいことまでやらなくても、満足できる暮らしになります。
生活のあらゆる面に、いろいろと盛り込むクセがある人は、この記事を時々読み直すといいでしょう。