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脳の働きをよくしたい人におすすめのTEDトークを紹介します。
タイトルは、You can grow new brain cells. Here’s how(新しい脳細胞を増やすことができます。やり方はこうです)。
神経科学者(Neural stem cell researcher)のSandrine Thuret(サンドリーヌ・チュレ)さんのプレゼンです。
邦題は、新しい脳細胞を増やす方法。
脳細胞の増やし方:TEDの説明
Can we, as adults, grow new neurons? Neuroscientist Sandrine Thuret says that we can, and she offers research and practical advice on how we can help our brains better perform neurogenesis—improving mood, increasing memory formation and preventing the decline associated with aging along the way.
大人でも、新しいニューロン(神経細胞)を作ることができるのでしょうか?
神経科学者のサンドリーヌ・チュレは、できるといいます。そして、リサーチの結果や、脳神経の発生をうながし、記憶を向上させ、加齢のせいでおきる脳細胞の低下を防ぐためにできる実践的なアドバイスを伝えます。
収録は2015年の6月、長さは11分、日本語字幕あり。
☆トランスクリプトはこちら⇒Sandrine Thuret: You can grow new brain cells. Here's how | TED Talk
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
これを見たら、「もう私は年だから…」いう言い訳は通用しませんね。
新しい神経細胞
大人にも新しい神経細胞ができるか?
これは新しいリサーチ分野の話なので、この点について、よくわかっていない人もいます。たとえば、先日、同僚のロバートとこんな話をしました。彼はがん専門医です。
R「サンドリーヌ、不思議なんだけど、患者の何人かはがんが治ったあとも、うつの症状があるんだよ」。
S「べつに不思議じゃないわ。がん細胞をこわす薬は、脳にできる新しい神経細胞の成長も止めてしまうもの」
R「でも、みんな大人の患者だよ。大人には新しい神経細胞なんてできないよね」。
S「実は、できるのよ」。
この現象は、神経発生(neurogenesis)と呼ばれます。
ロバートは神経科学者ではないし、彼がメディカルスクールに通っていたときは、現在わかっていることは習いませんでした。
つまり、ロバートは、大人の脳に新しい神経細胞が生まれることは習わなかったのです。
彼ははいい医者なので、このトピックについてさらに知るため、私の実験室にやってきました。
そして、私は彼にこんな説明をしました。
海馬の中で新しいニューロンが生まれる
これは海馬で、脳の中心にある灰色の部分です。ずいぶん前から、海馬は、学び、記憶、気分、感情に大きく関係があることがわかっていました。
しかし、最近になって、海馬は、大人でも新しい神経細胞ができるユニークな脳の部分の1つだとわかったのです。
この写真は、海馬を切ってアップにしたもので、青い部分は、大人のネズミの海馬にできた新しい神経細胞です。
私の同僚のフリーゼンは、海馬の中で1日700の新しい神経細胞が生まれると推定しています。
脳細胞は何十億とあるわけですから、700は大したことがないように思えます。でも、50歳になるまでに、生まれもった神経細胞は、大人になってから生まれた神経細胞とそっくり入れ替わるのです。
新しい神経細胞の働き
なぜ、新しい神経細胞は重要なのでしょうか? そしてどんな機能があるのでしょうか?
まず、新しい神経細胞は、学習と記憶に重要な役割を果たします。
実験の結果では、新しい神経細胞ができないようにすると、記憶能力が抑えられてしまうとわかっています。特に、空間認識にかかわる記憶です。どんなふうに街を移動するか、といったことです。
まだ、リサーチしている最中ですが、新しい神経細胞は、記憶能力だけでなく、記憶の質にもかかわります。記憶していられる時間を増やし、よく似ている記憶を区別する手助けをします。
たとえば、毎朝、駐輪場に停めた自分の自転車を見つけるのに使う記憶です。駐輪場は同じでも、停めた場所は少しずつ違いますから。
神経発生とうつ病の関係
ロバートがもっと興味を持ったのは、神経発生とうつ病の関係です。
動物を使った実験では、うつ病の動物は神経発生レベルも低いのですが、抗うつ剤を与えると、新しい神経細胞が増え、うつの症状もやわらぎます。つまり、神経発生とうつ病には明らかに関係があるのです。
しかも、神経発生を抑えてしまうと、抗うつ剤の効きも悪くなります。
ここまで説明したら、ロバートは自分の患者が、がんが治ったのに、うつの症状がある理由を理解しました。抗がん剤が、新しい神経細胞が生まれるのを止めてしまい、脳の機能がもとに戻るまで時間がかかるのです。
もし、記憶や気分を向上させたいなら、たとえ、それが加齢やストレスのせいで、衰えたとしても、神経発生を目指せばいいのです。
すると次の質問は、神経発生をコントロールできるか? となります。
答えは、イエスです。
新しいニューロンを増やす行動
ここで、ちょっとしたクイズを出します。これからいろいろな行動をあげますので、それが、神経発生を増やすか、減らすか答えてください。いきますよ。
学習はどうでしょう? 増やす? はい、そうです。学ぶことは、新しい神経細胞の発生を増やします。
では、ストレスは? ええ、ストレスは海馬での神経細胞の発生を減らします。
睡眠不足は? もちろん、発生を減らします。
セックスはどうでしょう? ええ、発生を増やします。でも、バランスが重要です。睡眠不足になるほするべきではありません。
年を取ることは? はい、年を取ると、発生の数は減ります。でも、新しい神経細胞は生まれ続けますよ。
では、最後に、ランニングは? これについては今から、ご自身で判断してください。
これは、私のメンターである、ソーク研究所のフレッド・ゲージが示した、新しい神経細胞の生成に影響を与える環境です。
こちらは、ケージの中で、全く走らない(回し車に乗らない)マウスの海馬で、小さな黒い点が、これから神経細胞となろうとしているものです。
こちらは回し車の上で走っていたマウスの海馬ですが、新しい神経細胞のもとである黒い点がものすごく増えていますね。
食事と神経発生の関係
運動は、神経発生に影響がありますが、食べるものも影響を与えます。
摂取カロリーを20~30%減らすと、神経発生が増えます。
断続的断食(Intermittent fasting)、つまり食事と食事の時間をあけることも、神経発生を増やします。
ダークチョコレートやブルーベリーに含まれているフラボノイドの摂取も、増やします。
サーモンなどに豊富に含まれているオメガ3脂肪酸も、新しいニューロンを増やします。
逆に、飽和脂肪酸の多い食事は、発生を減らします。エタノール、つまりアルコールの摂取も減らします。
でも、赤ワインに含まれるレスベラトールは、神経細胞の発生を促します。
最後に、日本の研究者たちが、柔らかい食べ物は、神経細胞の発生を損なうと示しています。咀嚼(そしゃく)が必要な歯ごたえのある食べ物は、発生を増やすのです。
これまで紹介したデータで、細胞レベルで見る必要のあるものは、すべて動物のモデルで作成されました。
しかし、実験に使った食事は、人間の被験者にも食べてもらっています。
そおから、記憶や気分を向上させる食事は、神経細胞の発生も増やすと考えられます。たとえばカロリーを制限した食事は、記憶力を向上させます。逆に、高脂肪の食事は、うつの症状をひどくします。
その逆は、オメガ3脂肪酸の摂取で、こちらは神経発生を促し、うつの症状をやわらげます。
つまり、食事はメンタルヘルスや記憶、気分に影響を与えますが、それは、海馬の中で生まれる新しい神経細胞のせいだと考えられるのです。
食べるものだけでなく、食感や、いつ食べるのか、どれだけ食べのるかも関係があります。
私たち神経科学者は、神経発生の仕組みを研究し、その発生をコントロールする方法や、ロバートの患者の神経発生をうながす方法を見つけようとしています。
みなさんは、ご自身の神経発生を担当してください。
//// 抄訳ここまで ////
脳に関するほかのプレゼン
睡眠はあなたのスーパーパワー~すべてのパフォーマンスが上がります(TED)
脳の健康は人生を変える – 脳画像が教えてくれること:ダニエル・エイメン(TED)
腸はどのように脳をコントロールしているのか? 腸の状態が脳の病気を予防する(TED)
自分の行動をコントロールできるという幻想:人の行動とドーナツ(TED)
健康的な生活が脳のためにいい
チュレさんが、プレゼンの中で紹介している、新しいニューロンの発生を促す行動は、人間として健康に暮らすための活動ですね。
まあ、考えてみれば、脳は臓器の1つだから、体にいいことをすれば、脳の機能にもよく、新しいニューロンがたくさんできるのだと思います。
しかも、年を取ってからも、それは続きます。
今、うつで悩んでいる、ものすごいネガティブ思考である、毎日、心配や不安でいっぱい、大きな罪悪感にさいなまれている人も、脳の状態を変えることはできます。
脳の構成が変われば、もっと前向きに暮らせます。
先日書いたように⇒お金がもったいない、と思ってしまって不用品を捨てることができない状態を変える方法、何を捨てようとするときにも、いちいち強烈な「もったいなさ」や「失う恐怖」を感じている人も、思考(神経回路の結びつきや、脳内物質の構成など)を変えれば、恐怖に引きずられません。
自分は変わることができると信じて、地道に努力してください。