ドーナツとコーヒー

TEDの動画

自分の行動をコントロールできるという幻想:人の行動とドーナツ(TED)

意志が弱いから、何かしようと思ってもすぐに挫折する。そんな悩みのある人に参考になるTEDトークを紹介します。

タイトルは The Illusion of Control- Human Behavior and Donuts(コントロールの幻想:人の行動とドーナツ。)

精神医学者の Elissa Epel(エリッサ・エペル)博士の講演です。

自分の意志をコントロールできるというのは幻想にすぎない、という内容。



コントロールできない

収録は2012年の11月、動画の長さは12分28秒。自動生成される英語の字幕のみ。動画のあとに抄訳を書きます。

ストレスが脂肪細胞に影響を与えるんですね。





思ったように行動できない

先週、運動できなかった、睡眠をとらなかった、食べ過ぎたと思っている人は、手をあげてください。

ほとんどの人が、そう思ってますね。私もそうです。

今日は、私たちが、自分の行動をコントロールできる能力を、ずいぶん過大評価していることを説明します。

食事と肥満について話しますが、他の行動にも言えることです。

誰もが、コントロールできなくて苦労している行動がありますから。

パーソナルコントロールは幻想

私たちの文化には、パーソナルコントロール(行動を自分でコントロールできること)に関して強力な観念があります。

その結果、社会のあり方が決まります。

食品産業は、私たちの周囲を不健康な食べ物やジャンクフードで埋め尽くしています。もちろん、端っこの方には、健康的な食べ物もありますが。

この社会では、誰もが自由に選択できると思っています。

健康的な食品を選択できる、満腹になったら食べるのをやめることが選べる、と。

すべては自分にかかっている、と私たちは考えます。

でも実際はひどい惨状です。ほとんどの人が、太り過ぎが肥満。望んでそうなった人なんていません。

肥満は、自己管理ができないからだ、その人の失敗だ、道徳的な欠陥だ、と考えられています。

太りすぎの人や、肥満の人は、罪悪感や恥の気持ちをもっているでしょう。なぜなら、私たちは、自分の行動をコントロールできると信じているからです。

この考え方は間違っています。

人の行動を理解するには、科学を参考にしなければなりません。

部屋には大きなゾウ(見て見ぬふりをしているもの、タブーの話題)がいます。

すべてを意識的にコントロールできるわけではない、というゾウです。

この事実を受け入れれば、よりコントロールできる環境を整えるための、クリエイティブで、もっと効果的な解決法を考え出すことができます。

コントロールできる力は有限

コントロールについてわかっていることを見てみましょう。

コントロールについて、ロイ・バウマイスターやほかの心理学者がいい研究をしています。

脳

コントロールできる力は限られています。

セルフコントロールする力や、意志の力は有限のリソースなのです。

このリソースは、1日をとおして、いろいろなものに抵抗しているうちに減っていきます。

こっちの仕事をしなければならないから、今、メールチェックするのはやめよう、

キッチンへ行くのはやめよう、

怒りを抑えよう、こんなことを言うのはやめよう。

こんなふうに意志の力を使っているうちに、使い果たしてしまい、1日の最後には、やるべきはでないと思っていることをやってしまうのです。

だから、私たちは環境に対して、無防備です。

コントロールを失わせる大きな要因はストレスです。

締め切り間際の仕事をかかえ、ストレスでいっぱいのときに帰宅すること。

睡眠不足や、朝食を抜いたため、脳に充分グルコースがないこと、マルチタスキングも影響があります。

しっかり集中できないと、コントロールを発揮できません。

こうした要因のすべてが影響して、自分の意図する行動や、したいことをできないのです。

私たちは自分でハンドルを握って運転している気でいますが、実際は自動運転(autopilot)をしているわけです。

今、皆さんは何を考えていますか? 

多くの人は、過去のことか、未来のことを考えているでしょう。今、この瞬間にいる人はあまりいません。

しっかりコントロールしているのではなく、環境に反応しています。

幸せだったキャロラインを変えたもの

ストレスとコントロールの関係を表す例として、それがどんなふうに肥満を引き起こすかお話しします。

キャロラインという女の子がいました。

5歳で健康で、怖いものなし。人生でやりたいこともあり、自信もありました。

でも両親が言い争いをするのを見て、キャロラインは、自分を責めるようになります。両親が離婚後、キャロラインは悲しく、孤独でした。

パートで働く母親と住むようになり、経済状況も変わりました。

10歳になったキャロラインは、5歳のときからずいぶん変わり、自信を失い、気落ちし、孤独で社会的に孤立していました。

ストレスが肥満を引き起こす

ストレスのかかった脳は、おなかをすかせている脳です。

感情的な飢餓状態にあったキャロラインは、食べすぎて、肥満になりました。

これはよくあることです。

人は食べたものと、頭を悩ませるものからできています(We are what we eat…PLUS what is eating us.)

ストレスは脂肪細胞を形作ります。

脂肪細胞をふくらませるのは、カロリーだけではありません。インシュリンやコルチゾールも一役買っています。

脂肪細胞は、健康によくない化学物質を放出します。たとえば、炎症を起こしますが、これが代謝性疾患を引き起こします。

腹部に脂肪がたくさんついたキャロラインは、なんとかしたいと思い、あらゆるダイエットを試みましたが、すべてうまくいかず、彼女は、ますますうつうつとしました。

自分の体をコントロールできないなんて人間失格だと感じたのです。

食べ物について考えるのをやめようとすると、その考えはもっと大きくなって自分に返ってきます。

ダイエット神話をご存知ですか?

ダイエット業界は、セルフコントロールできるという幻想を売り込み、大きく稼いでいます。世界中合わせて年に600億ドルも。

胎児プログラミングのリスク

キャロラインは25歳で妊娠し、健康な赤ん坊を産みたいと思いました。でも彼女は、妊娠中に、自分の体の状態が赤ん坊にうつるリスクをほとんど知りませんでした。

彼女の、コントロールできない肥満が、赤ん坊の脳に影響を与え、後成遺伝を引き起こします。どの遺伝子が働くかどうかに影響を及ぼすのです。

赤ん坊は、病気のリスクをたくさんかかえて生まれました。まっさらな状態では生まれなかったのです。

この現象は、世代間の伝染(intergenerational transmission)または、胎児プログラミング(fetal programming)と呼ばれます。

この伝染を止める方法を突き止めるために、我々はたくさんのリサーチが行っています。妊娠中に、ストレスを減らすことから、体重をコンロールすることなど。

ストレスやうつも、胎児に伝染します。

このように、ストレスは脂肪細胞に影響を与え、それが、胎児の成長にも影響を及ぼすのです。

コントロールを担う脳

ここから脳がどんなふうに働くか見ていきましょう。

青い部分が脳のコントロールセンターです。

なぜ、私たちは、薬物依存と同じように、食べることをやめられないのでしょうか? 

やるべきでないと思っている行動を止めるボタンが、この前頭葉皮質の部分にありますが、ストレスをかかえていると、前頭葉皮質の機能が止まってしまうのです。

前頭葉皮質の神経細胞にある樹上突起の機能がそこなわれます。

ストレスがあると、うまく思考できず、問題解決もできません。本当です。分子レベルでわかっていることです。

キャロラインの脳はストレスの支配が強かったのです。

感情的なストレスの多い脳では、ストレスと報酬(快楽)が強く結びついています。

ストレスが多いと報酬系が刺激され、即座の救済を求めます。

コンフォートフードと呼ばれる、脂肪分が多く、甘くて塩気の多い食べ物は、脳にとってはドラッグです。こうした食べ物が、脳を落ち着かせ、コルチゾールを減らします。

かつて私たちには、RNR (rest and relaxation、休養)がありました。自然の中でのんびりしたり、人々と交流したり、何かに集中したり。

過剰な刺激の中で、ストレスにさらされている現在の私たちは、新しいタイプのRNRを求めています。ストレスに反応して(reactovity)、その状態から逃れるために報酬(reward)を得ようとするのです。

この現象は、ドーナツへの反応に影響を与えます。

ストレスがあるとワーキングメモリが働かない

仕事のストレスがあるキャロラインは、自分をコントロールしにくい状態です。前頭葉皮質の働きが鈍り、大脳辺縁系が活性化されています。

休憩ルームにあるドーナツを見ると、とてもおいしそうだから、思わず食べてしまうのです。

たぶん、最初の一口を食べたとき、キャロラインは自己嫌悪を感じます。

もし、キャロラインが、そんなにストレスを感じていなかったら、つまり前頭葉皮質をもっと使うことができたなら、もっと強力なワーキングメモリを発揮し、こんなことを考えるでしょう。

「すごくおいしそうだけど、食べると自己嫌悪を感じるだろう、糖尿病にもよくないし、私は子供や孫たちのために健康でいたい」。

そして、衝動的に食べるという行動を避ける余裕が生まれます。

ストレスがあると、ワーキングメモリが切断され、こんな思考はできません。

衝動的に食べない工夫

どうやったら、抵抗できないことに抵抗できるようになるか?

1つの方法として、私たちは、人々にマインドフルイーティング(意識的な食事)を教えています。

ふだん私たちは無意識に食べているので、もっと意識的に食べる練習をします。

意識を向ければ、体験も、コントロールする力も、自分の意図した行動をする能力も変わります。

「無性に食べたい気持ち(craving)」がおさまり、脳の活動も変わります。

深呼吸するとストレスレベルが下がります。

自分をジャッジする思考や、脅威になる思考も変わっていきます。

本当に食べたいのかどうかに意識が向きます。

意識的になることが、本当はしたくない行動を止めるブレーキとなるのです。

今こそ変わるとき

この20年で、肥満の症例が1100万件あり、生産性だけで、5800億ドル失われました。今後もこの道を行くことができますが、今、私たちは岐路に立っています。

新しい世界へ行くために変わるべきです。食文化を変え、食べ方や食にまつわる環境を変えるのです。

みなで取り組めば文化を変えられます。

心の働きについて理解しなければなりません。新しい世界は、私たちの中にあります。

前頭葉皮質は、進化においては、まだ新しく、完成されてはいません。欠陥もあります。

もっと意識的になれるよう、環境を変え、お互いに協力して、ストレスを減らしていきましょう。

//// 抄訳ここまで ////

言葉の説明

epigenetic 後成的遺伝、後天的に獲得された形質が、次の世代へ遺伝すること。

limbic system  大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)。情動、本能、喜怒哀楽などを司ります。

working memory ワーキングメモリ。作業・動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力。日常のあらゆる判断、行動に関係があります。

関連⇒ワーキングメモリ(作業記憶)をうまく使って目の前のゴールを達成する(TED)

エリッサ・エペルさんの本。

共著。

こちらは2022年の12月発売です。

ロイ・バウマイスターの本です。

食事やセルフコントロールが話題のほかのプレゼン

結果的に太っている。なぜダイエットは成功しないのか?(TED)

ダイエットしないで健康になる方法(TED)~生活習慣を変えよう。

何でも変えられる。意志のちからより、スキルを使おう(TED)

脳の実行機能を高める方法(TED)~衝動買いを抑制したいあなたに。

なぜ運動するのを面倒に感じるのか?あるいは断捨離を始められないのか?(TED)

どうやったら、行動を変えることができるか? 警告や脅しは効かない(TED)

行動を変えたいときに使える3つの効果的な方法(TED)

ほかにもいろいろあります。

ストレスマネジメントの重要性

自分の意志の力に頼っているだけでは行動を変えることはできない、という話はすでに何度も書いているので、耳タコかもしれません。

飲み過ぎ、食べ過ぎ、買い物のしすぎ、SNSのやりすぎ、夜更かしのしすぎなど、「やるべきではない」と思っていることを、やめることができないときは、まじめにストレスマネジメントをしてください。

多くの人は、思ったように行動できないのは、私の意志が弱いから、私がだらしないからよ、とあっさり結論づけます。

違います。

ストレスが多すぎるんです。

今の世の中、ふつうに暮らしているだけで、よくないストレスをいっぱいかかえてしまいます。

そこで、変えたい行動がある人は、

モーニングページ⇒ネガティブ思考改善にモーニングページがいい~今月の30日間チャレンジ

ブレインダンプ⇒頭の中のガラクタを断捨離するブレインダンプのやり方

睡眠の改善⇒睡眠の質を改善する簡単な方法。より長く、ぐっすり眠る6つのコツ。

意識的な食事⇒意識的に食事するマインドフルイーティングの始め方:脂肪の断捨離(5)

定期的な運動⇒ウォーキングを開始して楽しく歩く4つの工夫:メリットとコツを知り継続する

部屋の片付け⇒このブログ全体にあふれています。

こうしたストレスマネジメントに1つずつ取り組んでください。もっと意志の力を発揮できるようになります。

お金がかかることや、特殊なことはしなくてもいいんです。生活を少しずつ整えるだけです。





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