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意思決定をするとき活用できる行動経済学の知識を教えてくれるTEDトークを紹介します。
タイトルは、Applying behavioral economics to real-world challenges(実生活のチャレンジに行動経済学を応用すること)。
BEworksという行動経済学をベースにしたビジネスコンサルティングの会社の創設者、Kelly Peters(ケイティ・ピータース)さんです。
行動経済学を使う:TEDの説明
Overcome your fear of making a mistake. Take a bold stance, an active role in big life situations. Calculate the risk, and take control!
間違いをすることを恐れないで。思い切った決断をして、人生の重要な局面で積極的な役割を果たしてください。リスクを計算してコントロールしましょう。
収録は2014年、長さは13分。自動生成される英語の字幕あり。動画のあとに抄訳を書きます。
☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に
ピータースさんは、いろいろな実験や自分の体験を例にして話しているので、親しみやすいと思います。
12歳のときの決断
皆さんは、サメが怖いですか? 襲われる可能性があると考えたことがありますか?
私はありません。
家族で深海に釣りに行き、高い波にボートが押し流されたことがあります。どんどん沖に流されていったので、12歳だった私は、海に飛び込んで、近くにあった小屋まで行って助けを求めることにしたんです。
そして飛び込みました。
このときサメに襲われるとか、ほかのリスクについてまったく考えませんでした。
女の子でも勇気があるというところを見せたかったんです。
皆さんは飛び込みますか?
何を求めて飛び込みますか?
幸せ? 愛? 大金持ちになるために? それとも世界に違いを生み出すために?
チャンスは毎日巡ってくるが
私たちは毎日、チャンスに遭遇します。でも、社会全体として、海に落ちたままになってしまうのです。
では、私たちはどうやったらうまくやれるのでしょう?
日々の意思決定に影響を与えている認知に対して、どう対処すればいいのでしょう?
リスクとそれに対する自分の反応について、理解を深めるのはどうでしょうか?
そうすれば、機会を失わないし、脅威に流されません。
私たちの思考に影響を与えるものをいくつか見てみましょう。
性格の影響
最初は性格(personality)です。
魚をつかったとても興味深い研究があります。
池の中に光るものを置いて、魚の反応を調べたら、数匹の魚だけが興味を示し、それををもっと知ろう近づきました。他の魚は、近寄りませんでした。
大胆な魚たちの取ったリスクはなんでしょうか?
それに食われてしまうかもしれない、光る物体は捕食者かもしれないけど、とにかく近寄ってみたわけですね。
その後、研究者は、その場にいたすべての魚を別の環境に移し、また観察しました。
すると、大胆な魚たちが、新しい食べ物を取り、一番いい安全な場所に行き、生殖相手を見つけたのです。
一方、そうじゃない魚たちは、食べ物も、場所も、相手も取り損ないました。
実際、消極的な魚の大半が、新しい環境で恐怖におびえて動けなくなり、食べられてしまったのです。
この話の教訓は何か?
私たちは魚ではありませんが、経験的に見て、大胆な魚になるほうが、性格の選択としてはいいように思われます。
ただ、人間はたとえ内気でも、その性格にしばられる必要はありません。
コンフォートゾーンから出て、さまざまな挑戦をすることができますから。
環境の影響
環境の影響もあります。環境が人にどんな影響を与えるか、実験したことがあります。
日々のお金の管理や定年退職後の生活について、うまくリスク管理していると私たちは思っています。
でも、実際はそれほどでもありません。
投資をしている人たちに、4つの投資モデルを提示し、どれを選ぶか調べました。その後、ものすごくリスクが低くて、ものすごくリターンの少ないポートフォリオを提示したんです。
すると、多くの人が、そのローリスク・ローリターンのプランに乗り換えました。
その後、今度は逆に、ものすごくハイリスクで、ハイリターンのポートフォリオを提示したら、また、多くの人が、こちらのポートフォーリオに乗り換えました。リスクの高いほうを選んだのです。
この実験から何がわかるか?
私たちは、考えが浅かったことに対して後ろめたさを感じるのです。
お金の管理のように、気分が圧倒されがちなことで起こります。
私たちは、間違った選択をしてしまうことを恐れるので、思い切った決断をせず、環境に影響を受けてしまうのです。
「ハイリスクハイリターンの投資をしろ」という話ではありません。私が言いたいのは、間違いをおかすことを恐れずに、思い切った決断をして、人生のいろいろな分野で、アクティブな役割を果たしてほしいのです。
意思決定に影響を与える、べつの認知バイアスも見てみましょう。これらのバイアスを理解しておくと、もっと自分でコントロールできますから。
リスクを回避する心理
行動経済学からわかっていることですが、人は、リスクを回避しようとします(risk-averse)。もっといいものを得るために何かに挑戦するより、確かな状態にいることを好むんです。
しかし、皮肉なことに、損失を回避するために、大きなリスクを取ってしまいます。
人は、何かを得る喜びより、何かを失う痛みのほうを2倍強く感じるからです。
年齢の影響
年齢が、リスク・テーキング(危ないとわかっているのに、危険な行動を取ること)に影響を与えることもあります。
今、この場にいる人で、25歳未満の方たちは、リスクが何であるのか理解するための脳が、まだ成熟しきっていません。
リスクを予測できず、リスクに対して、まずい行動をとってしまうのです。
これが、若いドライバーが起こす事故の一番の理由です。
若いドライバーが安全でいられるよう、社会はいろいろなことをしています。
事故でめちゃめちゃになった車の写真を見せたり、生き残った人たちの話を聞かせたりしていますが、彼らのリスクに対する認識は変わりません。
技術が進歩し、より安全な車の製造が可能になっていますが、それでも、ドライバーは、安全にならないのです。
損失回避の心理を利用したプログラム
BEworksでは、いいことを考えつきました。損失を回避する心理を利用して、ドライバーの行動を助けています。
若いドライバーは、従来どおり、高い自動車保険料を払いますが、その一部を特別な口座にためておきます。
一定期間、交通法規の違反がなければ、その期間が終わったあとに、ためておいたお金をほうびとして受け取ることができます。
でも、交通違反をすれば、たとえば、スピード違反や、信号無視をしたらその権利を失うし、これ以上このプログラムに参加できなくなります。
だからこのプログラムの名前は「ワンチャンス(One Chance 1回のチャンス)」です。
リスクに対する認識を変えよるのは難しいのですが、このような損失を嫌う心理を使った「後押し(nudge ナッジ)」をすれば、行動が変わって命が助かるのです。
ここまで聞いて、皆さんは、自分の問題を理解したと思います。
リスクを避けようとしたら
もともと人は、リスクとチャンスを理解して、予想通りに使いこなせる計算機は持っていません。
ではどうしたらいいのか?
直感の逆を行くべきなのです。
リスクを回避しようとしているとき、自問してください。それは、自分の性格のせいなのか? それなら、コンフォートゾーンからちょっと出てみてください。
環境のせいでチャンスに賭けようとしていないのか? そのときは、どうやったら乗り越えられるか考えましょう。
年齢のせいで、適切な決断ができず、危険な行動をしようとしているのか? 何も考えていないのか? こんなときも、自分で使えるツールがあります。自問して内省的になりましょう。
私がとったリスク
2年前に私がした思い切った決断についてお話しします。
BEworksという、行動経済学の会社を創設するチャンスが巡ってきました。
ただ、そのとき、そうするのはあまりいい決断には思えなかったのです。海に飛び込んだ少女からずいぶん年を取っていました。
年をとって、住宅ローンの支払いなど、たくさんの責任をかかえていました。スタートアップのために、長いキャリアを捨てるのも、大きなリスクでした。
しかも、その時の状態がとても居心地よかったんです。仕事はおもしろいし、同僚も楽しくて尊敬できるすばらしい人ばかりでした。
全く新しいことを始めるために、手にしていたものを捨てるなんてどうしてできるでしょうか?
でも、頭からノーと言うのではなく、よく考えたいと思いました。
自分に何ができるか?
皆にフィードバックをもらった
意思決定を助ける方法を使いました。みな知っていることです。スプレッドシートにメリットとデメリットをまとめました。
すごく長いスプレッドシートを、友人、家族、メンターに見せて、フィードバックをもらいました。
よく知らない人にも見てもらいました。そのうちの何人かは実はあまり好きでない人たちなのですが、皆、適切で客観的なフィードバックをくれたんです。
でも、そうしているうちに、これは、内省を助けるツールにすぎないと気づきました。
自分の性格について考えるのを忘れていました。これまでずっと私は思い切った決断をしていました。
しかも、仕事で、皆が思い切った決断をするのを助けていたんです。それなのに、自分が誰であるのか忘れていました。
リスクを回避しようとしていた自分に気づく
私は、自分がバイアスのために、リスクを回避しようとしていることに気づきました。
スプレッドシートにのっていることすべてに答えは出せず、そのプロセスに疲れました。
でも最終的に、バイアスが、自分の意思決定に影響を与えていたことに気づくことができました。
そして、船から飛び降りる時だと思いました。だからこそ、今、私はこうして、勇気をだして、皆さんの前に立って、こんな話ができているんです。
一番の脅威は心理的なバイアス
私の夢は、皆さんに、一番の脅威はサメではなく、心理的なバイアスだと気づいてもらうことです。
バイアスがあるから、海に飛び込めないし、欲しいものを手に入れることができません。
最後に皆さんに、ちょっとしたナッジを送りますね。
毎年、誕生日が来たら、自分や家族に聞いてみてください。その1年で、どんな思い切った決断をしたのか? と。
///// 抄訳ここまで ////
行動経済学に関するほかのプレゼン
我々は本当に自分で決めているのか?ダン・アリエリーに学ぶ、選択のミス(TED)
仕事にやりがいをもたらすものとは? ダン・アリエリー(TED)
貯金できない人がうまくお金を貯める秘訣は、行動経済学にあり(TED)
実際の体験とその体験の記憶の幸福度は違う:ダニエル・カーネマン(TED)
思い込みに気をつける
行動経済学は、私たちが経済的な意思決定を行う際に、合理的ではない行動や感情、心理的な要因がどのように影響するか研究する学問です。
従来の経済学では、人間は常に経済的に合理的で最適な選択をすると仮定をしていました。
認知バイアス(思い込みや偏見)は、経済的な意思決定をするとき、私たちに影響を与えるものの1つです。
特に、プレゼンに出てきた損失を回避する気持ちは強力に働きかけます。
この心理は、物を捨てるときにも、影響を与えます。
物を捨てられないのは恐怖のせい~損失回避と、授かり効果の心理をさぐる
何かを捨てるとき、私たちは、なかなか客観的になれず、そこにあるリスクを過大評価したり、過小評価したりします。
これを知っておくと、「あとでいるかもしれない」というあまり現実的でない考えを採用して、不用品をキープすることは少なくなると思います。
何度も書いていますが、不用品をキープすることは、経済的には決して賢いやり方ではありません。
お金に関する認知バイアスで、もう1つ大きなものがあります。それは時間に関するもので、通常人は、遠い将来の利益より、今すぐ手に入れられる利益を取ります。
不思議ですよね。
物を捨てるときは、「将来いるかもしれないから」と思っているのに、貯金をするときは、将来のお金の必要性を過小評価するのです。
要するに、直感では、なかなか合理的な思考ができないので、バイアスがあるんだ、ということを覚えておいてください。
きっと役立ちます。
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ここ数回、意思決定に関するTEDトークを紹介しています。
ケイティさんが言っているように、実は、チャンスは毎日のように巡ってきています。
ただ、私たちが、失敗を恐れてそのチャンスを逃してしまうのです。
思い切った決断をするのは怖いですが、たいてい自分のためになります。