ショパンの彫像

TEDの動画

最終更新日: 2017.09.10

ベンジャミン・ザンダーのショパンに学ぶ、音楽、情熱、そして人生の意味(TED)

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豊かな人生を生きる参考になるTED動画を紹介しています。

今回は、音楽がトピックのプレゼンです。指揮者のベンジャミン・ザンダーさんの、「The transformative power of classical music (クラシック音楽の持つ、人を変える力)」です。

邦題は「音楽と情熱」。

transformative は transform トランスフォーム、「変形させる、変換させる」という意味の動詞の、形容詞の形です。trans は「別の状態へ」、form は「形作る」。

ポップスやロックに比べると、愛好者の少ないクラシック音楽ですが、実はとてつもないパワーを秘めているんだよ、とザンダーさんは熱く語ります。

数あるTEDのプレゼンの中でも、名演として有名なものの1つです。



「音楽と情熱」TEDの説明

Benjamin Zander has two infectious passions: classical music, and helping us all realize our untapped love for it — and by extension, our untapped love for all new possibilities, new experiences, new connections.

ベンジャミン・ザンダーは2つのことに、人に伝染する情熱を傾けています。クラシック音楽そのものと、自分では気づいていないクラシック音楽への愛を人に気づかせることに。

クラシック音楽への愛に気づくことは、新しい可能性、新しい経験、新しいつながりへの愛へに気づくことにつながっています。

プレゼンは20分。ピアノの演奏を交えたプレゼンなので、できれば動画を見ることをおすすめします。日本語字幕を貼りますので、英語や字幕なし希望の方はプレーヤーを調節してください。

動画のあとに抄訳をつけます。

トランスクリプトはこちら⇒Benjamin Zander: The transformative power of classical music | TED Talk | TED.com
TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

2人のセールスマンの全く違う見解

1900年代にアフリカに行った2人の靴のセールスマンの話をご存知だと思います。アフリカで靴が売れるかどうかリサーチに行ったのです。

2人はマンチェスターの事務所に電報を送りました。

1人は、Situation hopeless. Stop. They don’t wear shoes. 「絶望的な状況。やめろ。 誰も靴を履いていない」。

もう1人は、Glorious opportunity. They don’t wear any shoes yet. 「願ってもないチャンス。まだ誰も靴をはいていない」。こんな電報を送りました。

クラシック音楽の世界も同様の状況にあります。「クラシック音楽は死につつある」という人たちがいて、私を含めた別の人たちは、「まだ何も始まっていないじゃないか」と思っています。

オーケストラの経営状態やレコード会社のセールスの統計は横に置き、今夜は、1つの実験をします。

厳密に言うと「実験」とは言えません。私には結果がわかっていますから。

実験の前に、7才の子供がどんなふうにピアノを弾くか、思い出してください。

音楽は、ひとつながり

[7才の子が弾くようなとつとつとしたピアノの演奏から始まり、8才、9才、10才の演奏のデモンストレーション。少しずつ上手になっています。最後にピアノの演奏らしい演奏のデモ]。

11才になって突然演奏がうまくなったのは、リズムの取り方(impurses)が減ったからです。

音楽を奏でようとすると、こんなふうに、ひとつながりの音になります。私はこれを「おしり1つ奏法 one-buttok playing」と呼んでいます。

1つずつの音にアクセントを置くのではなく、おしり1つ動かして一気に奏でます。





クラシック音楽が大好きな人、どうでもいい人、関係のない人

この会場にいる1600人の聴衆のうち45人はクラシック音楽が大好きな人だと思います。クラシック音楽なしの人生なんてありえない人たち。少数派です。

別の人たちは、クラシック音楽のことなんて特に気にかけていません。たまに流すのは悪くないと思っている人たち。

3つ目のグループはクラシック音楽を聞いたことがない人。まるで接点がないのです。空港での間接喫煙みたいに、どこかで聞くことはあるかもしれません。たぶん大多数がこういう人たちでしょう。

もう1つ、小さなグループがあります。自分のことを音痴 tone- deaf だと思っている人たちです。こう思っている人は、多いのですが、音痴なんてありえませんよ。

音痴だったら、マニュアル車のギアチェンジもできないし、テキサスの人とローマの人の区別もできません。

みんな、お母さんから電話がかかってきたら、声を聞いただけで、それがお母さんだとわかるし、お母さんの機嫌もわかるのです。皆さんの耳は素晴らしい機能を持っています。

音痴の人はいません。

音痴の人はいないのに、クラシック音楽に対する情熱で分けると3つのグループができています。これは大きなギャップです。

これをほっておくわけにはいきませんね。

私はここにいる皆さん全員に、クラシック音楽を愛して、理解してもらえるようにしたいです。

それをこれからやります。うまくいく自信もありますよ。

ショパンの前奏曲はこんなふうになっている

[ピアノでショパンの前奏曲を弾き始めます]

私がこうやって演奏を始めると、みんな、「おお、きれいな曲だ」と思います。でもそのうち、来年の休暇のことや、関係ないことを考え始め、曲が長ければ居眠りする人もいます。

クラシック音楽を聞くと眠くなるのは、自分のせいではなく、演奏家のせいかもしれません。リズムの取り方とか。

この曲ではどんなことが起きているのか、見てみましょう。

まずシの音、次にド。ドの役割は、シを悲しげに響かせること。悲しい曲にしたかったら、シの次はド。基本はシ。シは哀しみのため。次にラ、ソ、ファ。

シ、ラ、ソ、ファ、シ、ラ、ソ、ファ。。。次はミが来るって誰にでもわかっています。

でも、ショパンはミに行きません。ミに行くと、曲が終わってしまうから。そこでもう1度、戻ります。

ここでエキサイトします。ファのシャープに行って、ミに行きますが、実はこれは、ニセの終止音(deceptive cadence)。この流れは違うので、こういって、ああいって、ついにミに来ます。

おかえりなさい。この曲は遠くから帰ってくる曲です。そして、「おしり1つ奏法」で演奏します。ひとつながりです。

シから始まってミに行く途中に、1つ1つの音を考えるのではなく、シからミへの流れとして捉えます。長い線なのです。

もう2度と会えない人を思い浮かべながらショパンを聞くと

では今からシからミへのつながり、つまり通して弾いてみます。

ここでお願いがあります。あなたが大好きな人、だけどもうこの世にはいない人のことを思い浮かべながら聞いてください。

大好きだったおばあちゃん、恋人、心から愛していたけれど、もうここにはいない人のことを。

その人のことを思いながら、シからミへのつながりを追えば、ショパンの語りたかったことすべてを聞くことできます。

[ショパンの前奏曲の演奏、聴衆の拍手、ザンダーさんも拍手します]

クラシック音楽は人の心を動かす

なぜ私が拍手しているのか、不思議に思っているかもしれませんね。私はボストンの学校で、同じことをしました。70人の12才の子供たちの前で。

曲が終わってみんな喜んで拍手してくれました。私も拍手しました。私は、「なぜ私も拍手しているんだろう?」と聞きました。

小さな子がこう答えました。「だって、僕達がちゃんと聴いていたから」と。

考えてみてください。この会場にいる忙しい1600人の皆さんが、ショパンの曲を聴き、理解して、心を動かされたのです。素晴らしいことですね。全員がそうだったかはわかりませんが。

でも、こんなことがあったんです。

10年前、アイルランドで紛争が過熱していたときのことです。カソリックとプロテスタントの子供たちの対立を解消するためにこのプレゼンをしたことがあります。相手はストリートキッズだったので、危険もあったのですが。

翌朝、1人の少年がやってきてこう言いました。

「これまでクラシック音楽なんて一度も聴いたことなかったけど、あんたがショッピングの曲を演奏したとき…」

「去年、弟が撃ち殺されたとき、俺は泣かなかった。きのうピアノを弾いてくれたとき、弟のことを考えていた。涙が流れてきた。弟のために泣くのは本当にいいもんだと思ったよ」。

この話を聞いたとき、私は、クラシック音楽は、みんなのための音楽だと確信しました。でも、どうやったらみんなにわかってもらえるのか。

クラシック音楽にかかわっている人たちは、そういうふうには考えません。人口の3%の人だけが、クラシック音楽好きだと言ってます。3%が4%になれば問題は解決するのだと。

でも、みんなクラシック音楽が好きなんだ、だけどそれに気づいていないだけなんだ、と考えてみてはどうでしょうか?

指揮者の本当の真価とは?

45才のとき驚くような体験をしました。指揮者になって20年たち、突然あることに気づいたのです。

「オーケストラの指揮者は音を出していない」ということに。CDには私の写真がのっていますが、音は出してません。

ほかの人をパワフルにすればするほど、その指揮者には力があるのです。この気づきを得たら、人生が180度変わりました。

私の仕事は、他人の可能性を目覚めさせることだと気づきました。自分の仕事がうまくいってるどうかは、まわりの人の目を見ればわかります。

みんなの目が輝いていたら、うまくできている、と。みんなの目が輝いていなかったら、自問自答します。

演奏家の目が輝いていないなら、私はいったい誰なのだ?

これ、子供が相手でも同じです。自分の子供たちの目が輝いていなかったら、自分はいったい誰なのだ?

こう考えると世界の見方は大きく変わります。

可能性を信じること

私は「成功」の定義を知っています。とてもシンプルです。成功は、富や名声、権力なんて関係ありません。どれだけ自分の周囲に輝いている目があるか、です。

最後にもう1つお話します。アウシュビッツで生き残った女性から聞いた話です。

その人は15才のとき、アウシュビッツに強制収容されることになりました。弟さんは8才、両親は亡くなっていました。

彼女はこう言いました。

「アウシュビッツに向かっている電車の中で、ふと見ると弟は靴をはいていませんでした。『なんであんたそんなにバカなの。自分のことも、ちゃんとできないわけ?』私は弟にこう言いました」。

お姉さんは弟にこういうこと言いますよね。

残念ながら、彼女が弟さんにかけた言葉はこれが最後になってしまいました。彼女は弟さんには2度と会わなかったから。弟さんは生き残ることができなかったのです。

この女性はアウシュビッツを出た時、こんなふうに誓いました。

「それがその人への最後の言葉になってしまったら、耐えられないようなことは誰にも言うまい」と。

私たちにこんなことができるでしょうか?みんな自分も他人も悪く言ってしまいます。でもこんなふうに生きることができる可能性はあります。

—– 抄訳ここまで —–
このプレゼンに込められたメッセージは複数あります。長くなりますので私が受け取ったメッセージを2つだけ取り上げます。

1.長い1つのつながりにフォーカスすること

子供のピアノがヘタな理由は、1つ1つの音に注視しすぎて、流れを奏でていないからです。逆にショパンのプレリュードが素晴らしいのは、1つの大きな流れがあるから。

これは人生にも言えることです。

日々、起きる1つ1つのことに一喜一憂せず、人生をもっと長い線として捉えると、私たちはより豊かな日々を送ることができるのではないでしょうか?

「人生を俯瞰で見る」ということです。これは、点と点をつなげる話でスティーブ・ジョブズも語っていました⇒スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式のスピーチからミニマリストが学んだこと

自分なりのビジョンを持ち、目標に向かって、積み重ねて行く態度を持てば、刹那的な楽しみにふけったり、衝動買いをすることも減っていくと思います。

2.可能性にチャレンジすることの大切さ

ザンダーさんが言うように、ショパンのこの曲、ミに行きそうで、なかなか終わりません。

ショパンはふつうの終わり方ではなく、ちょっと違った終わり方を模索していたのかな、と思います。

まあ、ショパンの考えていたことなんてわかりませんが、彼はふつうに終わってしまう曲じゃなく、それでいて美しい曲を書きたかったのではないでしょうか?

つまり、ふつうじゃない、別の可能性に挑戦していたのです。

このプレゼン全体で、「可能性」が、重要なキーワードになっていると思います。

アフリカでの靴のセールスマンもそうなら、クラシック音楽に関する業界の考え方と、ザンダーさんの考え方もそうです。

靴を売りたい気持ちが強ければ、裸足のアフリカ人はチャンスに見えます。

クラシック音楽の力を信じているザンダーさんにとっては、こうした音楽を聞いたことがない人に、聞かせてあげることはこのうえもない喜びだし大きなチャンスなのです。

それは、相手がTEDの聴衆だろうが、12才の子供だろうが、アイルランドのストリートキッズだろうが変わりません。

私たちが強いパッション(情熱)を持ち続ければ、いろいろな可能性が見えてくるのです。

情熱が大切な話は先週紹介した動画でも語られていました⇒言い訳を作り出してしまう私たち:あなたに夢の仕事ができない理由(TED)
* * * * *
「子供の目が輝いていなかったら、自分は何なの?」という話、親にとっては耳が痛いですね。

アウシュヴィッツの女性のエピソードも胸を打ちます。いつもは無理でも、せめて、人と別れるときには、やさしい言葉をかけてあげたいと思いました。

たとえ家族でも、必ずまた明日会えるとは限りません。





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