絵を描く人

TEDの動画

制限があるからこそ素晴らしい物が生まれる:震えを受け入れる(TED)

今週のTEDはアートに関する話題です。

タイトルは、Embrace the shake (震えを抱きしめる)。プレゼンターはアーティストのフィル・ハンセン(Phil Hansen)。邦題は「震えを受け入れる」。

美術学校に通っていたフィルの手が、ある日震えるようになりました。長年、点描画を極めようとがんばってきたのに、まともに点々を描けなくなったのです。

フィルはこの障害を前にどんな行動をしたのでしょうか?

アートに興味のない人にも、楽しめるプレゼンです。



震えを受け入れる:TEDの説明

In art school, Phil Hansen developed an unruly tremor in his hand that kept him from creating the pointillist drawings he loved.

Hansen was devastated, floating without a sense of purpose. Until a neurologist made a simple suggestion: embrace this limitation … and transcend it.

アートスクール時代、フィル・ハンセンの手が震えるようになり、大好きな点描画を描けなくなりました。

絶望的になった彼は、目的意識を失い、さまよいます。神経科医がごくシンプルなアドバイスをするまで。

「この限界を受け入れなさい」。

そして彼の人生は変わりました。

embrace は 抱きしめる;喜んで応ずる、採用する;~を感受する、といった意味。忌まわしいものとして退けたり、いやいや受け入れるのではなく、「ああ、これがあってよかったよ」と大事にするハグするニュアンスです。

収録は2013年、長さは10分ほど。日本語字幕があります。

フィルの描いたユニークな絵がたくさん出てくるので、時間がありましたら、動画を見てください。動画のあとに抄訳を書きます。

☆トランスクリプトはこちら⇒Phil Hansen: Embrace the shake | TED Talk

☆TEDの説明はこちら⇒TEDの記事のまとめ(1)ミニマリスト的生き方の参考に

突然、手が震えて絵が描けなくなった

アートスクールに通っていたとき、手が震えるようになり、直線を描けなくなりました。

缶やポラロイド写真を振るには便利ですが、当時は、絶望的な気持ちになりました。

アーチストになる夢を断たれた、と思いました。

点描画を描くために、何年も小さな点々を描くことに心血を注いでいたから、手が震えるようになったのです。

うまく点を描けないので、ペンを強く握るようになり、ますます震えがひどくなりました。そこで、もっとペンを強く握りました。

そのうち、関節が痛むようになり、何も持てなくなりました。それまでの人生を、芸術に捧げてきた私ですが、学校をやめ、絵を描くことは完全にやめてしまいました。





震える手を受け入れることにした

数年後、やはり作品を創りたくなり、震えを治すため、神経科医をたずねました。

すると、神経の障害のせいで終生、治らないとわかったのです。

医者は私の描いたくにゃくにゃの線を見て、「震えを受け入れてはどうですか?」と言いました。

そうすることにしました。

帰宅して、鉛筆をもち、震える手で線を描き続けたのです。

これらの絵はそうやってできました。

自分が情熱を捧げていた技法の絵ではなかったのですが、私はいい気分でした。

いったん、震えを受け入れてしまえば、作品を作ることができるとわかったのです。自分の作りたい芸術に対して、違ったアプローチをすればいいだけなのです。

限界を受け入れるとよりクリエイティブになる

今でも点描画のフラグメンテーション(細分化)は好きです。小さな小さな点が集まって、全体としてひとつの絵になるところが。

そこで、ほかのやり方で、かけらを集めて絵を作り上げることにしました。手が震えてもできる方法を使います。

たとえば、足に絵の具をつけて、キャンバスの上を歩き回ったり、角材で作った3次元の物の上に、2次元の絵をバーナーで焼き付けたり。

大きな作品にすれば、手もそんなに痛くないとわかりました。

芸術に対する1つのアプローチから離れたら、全く新しい芸術を生み出す創造性に出会うことができたのです。

限界を受け入れることで、よりクリエイティブになれるとはじめて気づきました。

画材が多すぎて作品が作れない

この頃、美術学校の卒業を控えていました。就職し、新しい画材を手に入れることができると、とてもうれしかったものです。

ろくな道具を持っていなかったので、まともなアーチストが使うような道具を手に入れれば、もっといろいろなことができると思いました。

私は、ふつうのはさみすら持っていなかったのです。

卒業し、仕事につき、給料をもらい、店に行って、画材や道具を買いまくりました。

帰宅し、これまでにない新しいもの(something completely outside of the box 直訳:箱の外にあるもの、つまり斬新なもの)を作り出そうとしました。ですが、何時間たっても、何も思いつきません。

次の日も、そのまた次の日も。スランプに陥り、何も作れなくなったのです。

自分でもわけがわかりませんでした。ようやく作品を作るまともな道具が揃ったのに、創造性がどこかに行ってしまいました。

スランプの暗闇の中をさまよい続け、気づきました。これまでにないほど選択肢があるから、身動きできなくなってしまったのだと。

そして、自分の震える手を思い出しました。

震えを受け入れることを。

わざと制限をかけて作品を作ってみた

クリエイティブになりたかったら、目新しいものを作ろうとやっきになるのではなく、原点に戻るべきなのです。

制限をかけることで、よりクリエイティブになれるんじゃないのか、と考えました。

もし、1ドル分の道具しかなかったとしたら?

当時、よくスターバックスに行っていたので、頼めば余分にカップをくれると知っていました。そこで50個くれるか聞いてみたら、驚いたことに、すぐにくれたんです。

で、手持ちの鉛筆を使ってこんなものを作ってみました。かかった費用は80セントです。

このとき気づきました。限界を超えるには、まず制限のある状況にしなげればならないということに。

手持ちのものを使うアプローチを使って、キャンバスではなく、自分のおなかに絵を描くことを思いつきました。

自分のおなかに30枚の絵を重ねてかいていきました。1枚描いたら塗りつぶし、またその上に描いていきます。自分の人生に影響を与えたものを描いてみました。

絵筆を使わず、空手チョップで絵を描いたこともあります。

絵の具の中に手を突っ込んでから、キャンバスに向かって空手チョップをしながら描きました。強く叩きすぎて、小指にあざができましたが。

ほかの人のアイデアを使って作品を作ったこともあります。

6日間、ウェブカメラの前で暮らし、人々に電話でこれまでに体験した人生が変わるようなできごとを話してもらったのです。

その物語を、回転するキャンバスに書き続けてできたのがこの絵です。

なくなってしまう作品を作ってみた

絵を展示する(display)のではなく、なくしてしまう(destroy)のはどうだろうか、とも考えました。

作品を持たないアーティスト。これこそ究極の限界です。

絵をこわしてしまうアイデアは、「さよならアート(Goodbye Art)」という名前のプロジェクトになりました。

作品を作るたびに、こわすプロジェクトです。

これは7000本のマッチ棒で作ったジミ・ヘンドリックスです。できあがったら燃やしました。

自然になくなってしまう作品も作りました。長持ちしない素材を使ったのです。絵に向かって、口から食べ物を吐き出したり、歩道にチョークで絵を描いたり、凍らせたワインを使ったり。

このプロジェクトで最後に取り組んだのは、そもそも存在しない作品を作ることです。

テーブルにキャンドルをならべ、火を灯しては、吹き消すことをくりかえしてイメージを作り、動画に撮影し、合成して、大きなイメージを作りました。

できあがった作品は最初からなかったことになります。存在するまえに、こわされてしまったのです。

作品をこわし続けて気づいたこと

「さよならアート」のプロジェクトで、手元には残らない23の作品を作りました。

究極の限界の中で作った作品は、究極の自由をもたらしてくれました。作品を作ってこわすたびに、ニュートラルな気持ちになり、リフレッシュでき、次の作品に向かう気持ちになれたのです。

もちろん、いきなりそんな気分になったわけではありません。

ときには、うまく作品が作れなかったり、何時間もかけた作品がろくでもないものになってしまったこともあります。

ですが、このプロジェクトにかけていたので、続けました。

そして、驚くべきことに気づいたのです。

作品を1つこわすたびに、私は手放すことを学びました。失敗を手放し、不完全であることを手放しました。

そのかわり、結果にこだわらず、くりかえし作品を創り続けることができたのです。

つねに作品をクリエイトしつづけ、次の作品のことだけを考えていました。これまでにもまして、さまざまなアイデアが浮かんできました。

限界があることを喜ぼう

アートから離れ、自分の夢から遠ざかっていた3年間を振り返ってみると、私は感情に流されていただけでした。夢を実現するために、別の方法を見つけだそうともせず、あっさるやめてしまったのです。

もし、手の震えを受け入れることができなかったらどうなっていたでしょう?

震える手を大事にすることは、芸術や絵の描き方の話にとどまりません。それは生き方やライフスキルにも言えることです。

というのも、私たちが行うことは、この場で、限られたリソースを使ってなされることだからです。

制限のある状況において、クリエイティブになることは、自分自身、ひいては世界を変えるための最良のやり方なのです。

限界を創造性のみなもとにするようにしたら、私の人生は変わりました。

いまは、障害にあったり、スランプに陥っても、作品を創りつづけ、可能性を見るようにしています。

何百匹ものみみずを使ってイメージを作ったり、バナナに画鋲で入れ墨を入れたり、ハンバーガーの脂で絵を描いたり。

最近試みているのは、自分が学んだクリエイティブになる方法を、ほかの人も真似できるものにすることです。

いろいろな制限がある状況は、創造性とは無縁だと思われがちです。しかし、煮詰まった状況から抜け出し、区分を検討し、決まりきったやり方に疑問を投げかける最良のやり方でしょう。

「今日を生きよう」という代わりに、「限界を生きよう」と肝に銘じるべきなのかもしれません。

単語の説明

pointillism  点描画法
線ではなく、点の集まりで表現する技法。

squiggly  のたくった

two-by-four   ツーバイフォー材木
暑さ2インチ、幅4インチと規格が決まっている板。米国、カナダ、オーストラリアの規格材。

out-of-the-box  創造的な、独創的な、革新的な

iteration   反復

let go  手放す、開放する、自由にする

perpetual  絶え間のない、ひっきりなしの、たびたびの

unencumbered  負担となるものがない、困難がない

seize  つかみとる、機会をとらえる

制限のメリットや創造性に関するほかのプレゼン

私たちが幸せを感じる理由~制限がある方が幸せ?ダン・ギルバート(TED)

選択をしやすくするには~シーナ・アイエンガー(TED)。選択肢の海の中で生きる技術。

バリー・シュワルツに学ぶ『選択のパラドックス』(TED)~所持品をミニマムにすると生きやすくなる理由とは?

物が少ないメリット:足りないからこそクリエイティブになれる(TED)

問題があるからこそ、人はクリエイティブになれる(TED)

誰にでも創造性はある。自分はクリエイティブだと自信を持つ方法(TED)

フィル・ハンセンの体験から学べること

フィルさんのプレゼンは見る人によっていろいろな学びがあると思います。

アーティストにとっては、スランプに陥ったときの考え方。

フィルさんのように、身体の故障のために、好きなことができなくなった人には、新しい生き方の創造の仕方。

先日、故障のために、これまでのように運動できなくなった方のお便りを紹介しました⇒懸賞の応募マークをためこむ無駄な習慣を捨てたらこうなった。

困難なことに出会ったときや、ハンディがあるとき、可能性を見る道もあること(ピンチはチャンス)。

昨日紹介したお便りの方のように、「引っ越しのために、使っているものを手放すのがつらい」と思うときなど⇒断捨離は大変。だけど、捨てれば、確実に前の暮らしよりよくなる。

ないものばかり探さず、すでに持っているものに目をむけたほうがいいことにも気づかされます。

ものごとの枠にとらわれていると、自由になれない、ということも学べます。

どんどん手放すことで、新しいことにチャレンジし続けられる、というのもシンプルライフをめざしている人には納得できる話です。

新しい服を買いにいかず、たんすの中を見たまえ

そのように示唆にとんだプレゼンですが、服をたくさん持っているのに、「着るものがない」「まだ服がほしい」と思っている方に、参考にしてほしいと思って取り上げました。

服を捨てられない、という悩み相談がなかなか途切れないからです。

「着るものがない!」と思っている人は、家の中にあるものを見ていないのではないでしょうか?

フィルさんのプレゼンで言えば、箱の外(out of the box)ばかり探しているのです。じつは着るものはたくさんあるのに、なぜか手持ちの服をしっかり見ていません。

数が多すぎて「選択マヒ」を起こしているのかもしれませんね。

「おしゃれをするためには、いろんな服をたくさん持つべきだ」という考え方を捨てたほうが、朝、着るものに迷わなくなるし、手持ちのもので満足できます。

服がたくさんあるけど捨てられない、と悩んでいる人は、あえて制限をかけてみては?

4月になったばかりなので、333プロジェクトを始める絶好の機会です⇒ミニマリストらしいファッションの選び方。プロジェクト333のすすめ。

物を増やすのではなく、逆に数を減らすことで、より豊かな暮らしを創造する道がある、と気づいてほしいですね。

*****
2月半ばから気晴らしに「大人の塗り絵」を始めました。

はじめは塗り絵の塗り方やサプライを紹介しているユーチューバーをよく見ていました。

みな、けっこうこった塗り方をしています。ですが、私がやりたいのは気晴らしであって、アートの創造ではないのです。最近は参考にしなくなりました。

塗り絵ユーチューバーは、、高い色鉛筆やら何やらをたくさん、店開きできそうなほど持っています。ですが、私の場合、そんなに色鉛筆はいりません。

友達のデザイナーも、色慣れしてない人は、色数をしぼったほうがいい、と言いました。結局のところすべては3原色でできているから、と。

これも箱の中を見る考え方ですね。





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