積み上げられた本

TEDの動画

最終更新日: 2020.06.29

いかに物が私たちの時間を奪っているか?(TED)

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長年、捨てたいと思っているが、どうしても捨てられない。

そんな物を手放す気にさせてくれるTEDトークを紹介します。

タイトルは、How Stuff Robs Our Time(いかに物が私たちの時間を奪うか)。

プレゼンターは、プロのオーガーナイザー(片付けをサポートする人)のアンドリュー・メラン(Andrew Mellen)さんです。



物が時間を奪う

動画の長さは14分。字幕はありませんが、彼はゆっくりしゃべっているのでわかりやすい英語です。

ふだんこのブログを読んでいる人には、耳タコの内容なので、コンセプトも理解しやすいでしょう。





みんな、物が大好き

誰でも物が大好きです。

この世で一番好きな物を思い浮かべてください。お気に入りのセーター、おばあさんのくれた食器、パソコン。

なんでもいいです。

さて、その物のために、1年間を棒に振ることができますか?

私たちは、家や職場で物を探すことに、生涯のうち、平均1年費やしています。

何もかも手放し、自分の価値観に従い、大事なものにフォーカスして、情熱的に生きる方法をお伝えすることもできますが、きょうはその話はしません。

物の話をします。物私たちの時間を奪ていて、前に進もうとするのを何度も何度も邪魔している、という話です。

ずっと持っていた紙のお皿

11歳のとき、親友のキャリー・アドラーが、私の野球カードのコレクションをほしいと言いました。

私はそれはもうたくさんのカードを持っていました。誕生日や、成績がよかったときなど、ありとあらゆる機会を利用して、野球カードをもらって集めたです。

そのコレクションをキャリーは欲しがったのです。

代わりに、私は、キャリーに、ペーパープレート(紙皿)に、「僕は一生きみの親友だ」という約束を書いてくれるよう頼みました。

彼は紙皿にサインをしてくれ、私は彼に野球カードをあげました。

1年後、私の両親が離婚したので、引っ越すことになり、私はキャリーに、その後30年間、会うことがありませんでした。

ずっと紙皿を持っていました。母の家から父の家に引っ越すときも持っていき、何年も持っていました。

紙皿が象徴していたもの

自分にとってその紙皿は、喪失と痛みでしかなかったにもかかわらず。

その紙皿はこんなことを表していました。

-物は永遠にもつわけではない

-人々は、変わりやすい

-物語は事実ではない

私は紙皿を持ち続け、物が永遠にもたず、人々は変わり、物語が事実でないこの世界は、間違っている、と思っていました。

世界に対する私の誤解

後日、紙皿を手放したとき、こうしたことが、私を自由にしてくれると気づきました。

物は永遠にもたないし、人々は変わるし、物語は事実ではないとわかったのです。

以前の私が信じていたことは、本当ではなかったのだ、と知りました。

私は180度間違っていたのです。

私が物にこだわっていたのは、物語のせいだったのです。

人を物に執着させるストーリー

誰でも、私の紙皿にあたるものを持っていると思います。守られなかった約束を表す物、喪失と痛み、失望の象徴である物を。

とうの昔に役目を終え、明らかに障害になっているものを人は持ち続けます。

理性的に考えたら、持っている意味がないとわかっていても。

物語があるからです。

偉大な教育者、ビジネスリーダー、戦略家たちは、「よい」と「最良」の違いは物語にある、と言います。

人間がお互いにつながり、親しみを感じあうのは物語があるからです。

物語が、すべての人間関係の支えです。

物語が人を動かす

すばらしい物語は、人にどんなことでもさせます。

自分の意思とは反対のものに投票し、隣人に背を向け、人を殺すことすらあります。

その物語に強い説得力があれば。

私たちは、ラブストーリーも好きです。人が思いがけず出会い、恋をする話です。

私の82歳のいとこは、4年前に、63年会っていなかった、最愛の人と結婚しました。

彼女は、それまでに2度結婚して、離婚、そして夫と死別をしています。

いとこは相手の男性を覚えてすらいませんでした。

たまたまピザ屋で再会したのです。彼は、63年間、毎日、いとこのことを考えなかった日はなかった、と言いました。

その3週間後に2人は結婚しました。物語のなせる技です。

真実じゃないのに信じてしまう

人は、よい物語を見つけたら、その終わり方がどうであれ、気にしません。

何度も何度もその話をします。

携帯電話で大声で話している人は、物語を話しています。

たいてい、なにか衝撃的なこと、驚くようなこと、ぞっとするようなことがあり、すぐに電話で誰かに伝えずにはいられないのです。

話さずにはいられないから、人の迷惑はかまわず、話します。一方、ほかの人も、自分の物語を誰かに語ろうと必死です。

人との関係を作るとき、それほど大事な物語が、物を手放すとき、どうして、ここまで有害になるのでしょう?

私たちが、自分に語っている物語を信じているからです。それが本当であろうとなかろうと。

探しものに時間を使う人

平均的な人は、毎日30分~60分使って、探しもの物をしています。

生涯で考えると、この30~60分は、1年になります。

だから、物がどれほど大事か考えてみるべきです。

1回の探しものだけを考えれば、たいした時間ではないでしょう。テレビのリアリティショーを見て、もっと時間を失っているでしょうから。

あるいは、あなたは、「彼は大げさだ。探しものする時間なんてたいしたことはない」と思うかもしれません。

または、「私は例外だ」と思うかもしれません。

たしかに、いま、ここにいらっしゃるのだから、例外かもしれません。

しかし、物に関することでは、あなたは例外ではありません。

もういない大好きだった人のことを考えてみてください。

その人が、もう1年、まだ生きていて、元気でここにいて、庭いじりをしたり、パイを焼いたり、闘病したり、誰かの宿題を手伝ったりしているところを。

いつか、時間のあるとき、の嘘

物語は人のこころにたくみに入り込み、私たちを、いまという時間から、遠ざけ、「いつか」や「あとで」が実際に存在すると思わせます。

「いつか」や「あとで」は言葉にすぎません。

「いつか」というその時を、実際に過ごしたことがありますか?

「いま、この瞬間」以外の時間があると信じると、いま、この瞬間は、失われます。

する価値のあることは、いま、すべきことです。

いま、もしする価値がないなら、「あとになればやる価値があるだろう」と言う物語を作って、後回しにしますか?

「あとで」が「いま」になったとき、その「いま」は、その時、果たさなければならない責任や、タスクとともにやってきます。

何もやることがない魔法のような時間は、未来にはありません。

それは死です。

自分のためにならない物語の捨て方

では、自分のためにならない物語をどうやって手放せばいいのでしょうか?

2つの選択肢があります。

選択1:新しい物語を自分に語る

人と別れるときよくすることです。

最初は、この人は、永遠に私を愛してくれる、決して置いていったりしない。いつもいっしょに食事をして、決してうらぎらないという物語を語っていました。

この物語を、別の物語に変えます。

あなたは、はじめから嫌なヤツで、いつも口を開けながら食べものをかむし、友達はこうだし、靴はああだし、といった物語です。

古い物語を新しい物語に変えれば、「こっちから別れてやるわ」と、言いやすくなります。

選択2:ただ単に手放す

もしある物語が、ほかの別の物語と同じくらいいい話なら、ある物語が、ほか話と同じように本当なら、その物体は、私にどんな意味があるのでしょうか?

もし、物語がなかったとしたら?

この品物がどうやって自分の人生にやってきたか、知らなかったとしたら?

誰がくれたか知らなかったとしたら、あなたはその物が、自分の人生で大事かどうか、どうやって決めますか?

役に立っているかどうか。

実用的か?

きれいか?

利便性や、快適さを与えてくれているか?

こうしたメリットが何もなく、物語もなかったとしたら、それでもあなたはそれをキープしますか?

物語は人をつなげる一方で、人を物に執着させます。

役に立っていて、エネルギーを与えてくれ、いい気分にさせてくれる物なら、それはすばらしいツールで、パワーをあたえてくれて、前に進ませてくれる、という物語を使えばいいでしょう。

しかし、もう関係が終わった物、もう役に立っていない物、気を散らす物、しっかり邪魔になっている物に関する物語は、あなたを牢獄にとどまらせます。

ホーランド=ドジャー=ホーランドが、1966年にこんなふうに書いています。

私を自由にしてよ
私の人生から出ていってよ
あなた、本当は私のことを愛していない
ただ、そばに置いておきたいだけなのよ

自分で許可を与える

物に物語がしっかり結びつけていると、論理や常識は通用しません。

その結びつきをとくものはなんでしょうか?

それは自分で、自分に許可を与えることです。

先日、ある女性と話をしました。

ブルックリン在住で、離婚しており、ユダヤ人の女性です。別れたご主人は、彫刻家です。

結婚式のために、ご主人は、キッドューシュカップを作りました。

キッドューシュは、神聖化という意味で、キッドューシュカップは、ユダヤ教の特別な行事をするとき ワインやグレープジュースを飲むのに使います。

この女性は、ご主人が作ったキッドューシュカップが大嫌いでした。

はじめて見たその瞬間から、その後、結婚していた22年間、別れたあとの5年間も、持っていてずっと嫌いでした。

別れたとき、ご主人は、「このカップはいらない」とはっきり言ったし、2人の息子さんも、「いらない」と言いました。

だから大嫌いなカップだけど、彼女は27年間ずっと持っていたのです。

彼女に、仕事や物、物語の話など、これまでこのスピーチで話したようなことを話しました。

その1週間後に、彼女は、「話があるの」と切り出しました。

あなたと電話で話し終わってから、階下に行き、キッドューシュカップに、「free (無料です)」と書いたメモをつけ、玄関口に置いておいたら、1時間もしないうちに、誰かがカップを持っていったというのです。

27年間持っていて、私と話したあと、15分もしないうちにカップを手放すことができたのです。

それは私のせいではありません。私は、ちょっと背中を押したにすぎません。

私との会話の前とあとで違うことは、彼女が自分に許可を出したことです。

私が許可をしたのではありません。

彼女が心の中で、特定の物語をするのをやめる許可をだしたのです。

自分は、悪妻だった、わがままで思いやりのない母親だった、よくないユダヤ教徒だったという物語です。

自分はそうではなかった、という新しい物語を語るようにしました。

自分は、本当は好きじゃなかったことをした誰かにすぎない、という物語です。

そうすることが、カップを捨てる許可を与えました。

捨てて自由になれ

あなたの紙皿はどこにありますか? あなたのキッドューシュカップはなんですか?

物語のせいで、あなたを牢獄に入れているのは何ですか?

情熱的でパワフルな人生を生きたいですか?

それなら新しい物語を作るか、物語を削除して手放す許可を与えてください。

それが自由になる鍵です。

単語の意味など

in a vacuum  真空中に、ほかと関わりをもたないで

insidious  狡猾な

in tow  後ろに従えて

from the get-go  最初から

Holland-Dozier-Holland  ホーランド=ドジャー=ホーランド、モータウンの黄金期を支えた、ソングライター兼プロデューサーチーム。

動画に出てくるのは、You Keep Me Hangin’ Onの歌詞の一節。
 
grasp 握ること

kiddush  キッドゥーシュ。ユダヤ教の安息日や祝祭日の食前に行う祈りの言葉、祈りのあとの祝宴

sanctification  神聖化

stoop  玄関口、ポーチ

catalyst  触媒、促進する働きをするもの、大変化などを引き起こす人

アンドリュー・メランさんの著書です。

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今回紹介したプレゼンの内容を一言で表すと、自分が物について作った物語のせいで、不要なのに、それに執着している、だから、その物語を書き換えるか、きれいさっぱり削除すれば捨てられる、となります。

「これを捨てると、いつか必要になったとき、困るかもしれない」

「これを捨てると、必要なときに、買い直すお金がもったいない」

「いまは使っていないけど、いつか使うときがくる」

「とても高かったので、物を捨てると(かつて支払って、もうすでにないのに)お金もいっしょに捨てることになる」

こうした筋書きの書かれたメールを読者の方から何度も受け取りました。

問題は、本人がこう思っている以上、私が、あれこれ言っても、たいして効果がない、ということです。

なんとかして自分でその物語を変えなければなりません。

私の場合、合理的に考えることで、背後霊のようにまつわりついている物語を消すことができます。

これができないときは、「この物語はフィクションにすぎない」と思うといいのではないでしょうか?

絶対的な真実でも、法律でも、掟でも何でもないのです。

たまたま、自分が頭の中で作り上げたフィクションです。

パラレルワールド(ある時空・世界と同時に存在する別の時空・世界)を描いた映画では、「もしあのときこうだったらこっちになっていた物語」を見せます。

どちらの世界が本物なのかというと、自分が「こっちが本物だ」と思った世界が本物になります。

それ以外に決めようがありません。

ですから、たとえ、強力な物語がついていたとしても、「捨てても大丈夫だ」と思えば大丈夫なのです。

実際、大丈夫です。

自分自身さえちゃんと残っていれば。

******

日々のできごとに関する解釈も、すべて物語となり、「私はこういう人で、私の人生はこんな感じで、この先はこんなふうになる」という物語を語りながら人は生きています。

だから、新型コロナウイルスのような、思ってもいなかったものが出てくると、大いにうろたえます。

しかし、そのうち慣れて、新型コロナウイルス込みの物語にバージョンアップして、生活するようになります。

このように人間はなじみの物語を語りながら毎日暮らしているので、自分でそのシナリオを変えれば、人生は変わるはずです。





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